
放棄呼とは、オペレーターに繋がる前に顧客によって切断されたコールのことです。
もう少し詳しく説明すると、コンタクトセンター(コールセンター)に電話をしても、なかなかオペレーターに繋がらない場合やオペレーターに繋がるまでのプッシュ操作が複雑な場合に、顧客がストレスや手間を感じ切断してしまう状態を指します。
コンタクトセンター側のシステムから「大変込み合っているので時間を変えてお掛け直しください」などのアナウンスを流して切断される場合も含みます。
放棄呼を放置すると顧客満足度の低下や機会損失に直結するので、対策する必要があります。
そこでこの記事では、放棄呼の定義やあふれ呼との違い、放棄呼が発生する原因などをまとめて解説していきます。
【この記事で分かること】 ◎放棄呼とは |
この記事を最後まで読めば放棄呼とはどのような状態か把握でき、適切な対策ができるようになります。顧客満足度の高いコンタクトセンター運営をするためにも、ぜひチェックしてみてください。
1.放棄呼とは
「放棄呼」とは、コンタクトセンター(コールセンター)で用いられる専門用語です。
まずはその正しい意味から理解していきましょう。
1-1.「放棄呼」とは?
冒頭でも説明したとおり放棄呼とは、オペレーターに繋がる前に切断されたコールのことです。「呼」には電話のコール数という意味があり、「放棄された呼」というのが放棄呼の由来です。
放棄呼には、以下のようなケースが含まれます。
・オペレーターに繋がる前の操作中に顧客が切電する |
放棄呼は、コンタクトセンターにおいて「繋がりやすさ」の基準となる重要なKPIです。
顧客は「不明な点を解決したい」「商品を購入したい」など何らかの目的があり、コンタクトセンターに架電をします。放棄呼が発生してしまうと顧客はオペレーターと通話できず、目的達成ができていないことになるのです。
「4.放棄呼が引き起こす4つの問題点」でも詳しく解説しますが、放棄呼を放置することで顧客満足度の低下や機会損失に直結します。
そのため、普段からどれくらい放棄呼が発生しているのか把握して、放棄呼を抑えるように取り組む必要があります。
1-2.放棄呼率の算出方法と目安
放棄呼が少なければ少ないほど、そのコンタクトセンターでは顧客を待たせている回数が少ないと言えますが、それを計る際一般的に放棄呼の「数」ではなく「放棄呼の割合」を用います。
放棄呼率とは、総コール数に占める放棄呼の割合を示すものです。総コール数を受けきれるだけの回線が用意されている前提で、放棄呼率は、放棄呼数 ÷ 総コール数 × 100で算出できます。
例えば、1時間のうちに70件の着信があり放棄呼が6件あった場合は、6 ÷ 70 × 100 = 約8.57%で放棄呼率は約8.57%となります。
放棄呼の目安や目標値については、コンタクトセンターの業務内容や扱うサービス、商品の種類などによっても放棄呼の平均は異なるため、一律に決めづらいものです。
放棄呼率「0%」という目標は、実現はなかなか難しいでしょう。対応できるオペレーターが受電できる準備をしていたとしてもユーザーによる切断があれば、放棄呼が発生してしまうからです。
しかし、株式会社リックテレコムの「コールセンター白書 2023」によると、多くのセンターでは5〜20%の間におさまっているようです。
以下のグラフの平均値は「8.6%」とのことなので、ひとまずこの数値を目安にしてもいいでしょう。
出典:株式会社リックテレコム「コールセンター白書 2023」
放棄呼率が高い場合は一定時間内に放棄呼が頻繁に発生していることになるので、放棄呼を抑えるための対策が必要です。逆に放棄呼率が低い場合はその状態を維持できるように、定期的に放棄呼率を測定するといいでしょう。
2.あふれ呼・待ち呼との違い
放棄呼と類似している言葉に、「あふれ呼(あふれこ)」や「待ち呼(まちこ)」があります。
あふれ呼とは、コンタクトセンター(コールセンター)への電話が集中し、電話回線の容量よりも入電数が上回り、オペレーターやガイダンスに繋がらない状態です。あふれ呼時に、顧客側では話し中(ビジー音)やコール音が続いたり、「回線が混み合っています」というガイダンスが流れる状態です。
一方、待ち呼は、電話回線の容量には問題なく、入電が集中してオペレーターに繋がらず、利用者を待たせてしまっている状態のことを指します。
オペレーターの対応できる数よりも入電が多くなった場合、利用者が繋がるまで電話の着信を着信順にキュー(待ち行列)に並べ、先に到着したものから順番に対応することから、「待ち呼」と呼ばれています。
放棄呼・あふれ呼・待ち呼も多発すると顧客満足度の低下や機会損失に繋がるため、できる限り発生しないよう適切な対策を取り入れることが大切です。
あふれ呼について対策方法を含め詳しく把握したい場合は、以下の記事も参考にしてみてください。
3.放棄呼が発生する5つの原因
放棄呼とはどのような状態が理解できたところで、放棄呼が発生する原因を詳しく見てみましょう。放棄呼が発生する原因としては、主に以下の5つが考えられます。
・時間帯や時期により入電数が多く混雑する |
それぞれどのように放棄呼発生につながるのか、確認してみましょう。
3-1.時間帯や時期により入電数が多く混雑する
1つ目の原因は、時間帯や時期によってコンタクトセンター(コールセンター)が混み合いオペレーターに繋がらないことです。
なかなかオペレーターにつながらない状態になると顧客にとってはストレスとなり、オペレーターに繋がる前に電話を切ってしまう可能性があります。
顧客は少しでも早く問題解決や商品購入など、目的に応じた行動ができることを望んでいます。思ったようにオペレーターに繋がらないことで諦めやストレスのほうが大きくなり、放棄呼が発生してしまうのです。
オペレーターの稼働率が適切ではないことも!? 放棄呼が発生している背景には、オペレーターの高い稼働率が潜んでいる可能性があります。 放棄呼が発生しているということは、入電に対してオペレーターが不足するほど顧客対応に追われていることになります。稼働率が高すぎるとオペレーターの負担が大きくなり、離職率の増加や質の低下を招くでしょう。 また、放棄呼が慢性的に続いている場合は、入電数の予測に課題がある、適切なオペレーターの配置ができていないなどの可能性もあります。 稼働率の算出方法や概要についてより詳しく知りたい場合は、以下の記事を参考にしてみてください。 |
3-2.IVRの操作が複雑で顧客が利用しにくい
2つ目の原因は、IVRの操作が複雑化していることです。
IVRとは自動音声応答システムのことで顧客のプッシュ操作や音声認識に応じ、あらかじめ録音してある音声を自動再生します。
IVRでは、以下のような対応が可能です。
・有人対応と無人対応の切り替え |
コンタクトセンターに電話をしたときに、プッシュ操作をしてからオペレーターに繋がる場合は、IVRが導入されていることになります。
IVRはオペレーターの負担削減やあふれ呼防止などのメリットがある一方で、顧客の手間が増えるデメリットがあります。
・プッシュ操作を複数回繰り返さなければならない |
などという場合は、顧客がストレスや不満、手間を感じてオペレーターに繋がる前に電話を切ってしまうことがあります。このように、IVRの操作が顧客にとって重荷となる設定だと、放棄呼の発生に繋がる可能性があります。
これを解決する方法は、「5-1.IVRの見直しをする」を参照してください。
3-3.顧客が自己解決できるチャネルが充実していない
3つ目に考えられるのは、顧客が自己解決できるチャネルが充実していないことです。
顧客が何か問題を抱えた際に、まず企業のWebサイトを見るとしましょう。
そこで、FAQページに知りたいことが書かれていれば、顧客は問い合わせすることなく問題を自己解決できます。
あるいはWebサイトからチャットボットで質問をして、そこで十分な回答が得られたならコンタクトセンターに連絡する必要はなく、コンタクトセンターへの入電数は抑えることができます。
反対にこれらの自己解決方法が不十分であれば、コンタクトセンターに電話で問い合わせる顧客が増え、その結果として対応しきれない放棄呼が生じてしまうでしょう。
この問題に関しては、「5-2.自己解決できるチャネルやセルフサービスを充実させる」を参考にしてください。
3-4.業務フローや業務プロセスが非効率である
4つ目に考えられるのは、業務フローや業務プロセスが効率的ではない可能性があります。
例えば、応対中に返答に困ったり、わからないことがあったりした場合、速やかに解決できるフローが用意されていれば問題ないでしょう。
もし、「誰に聞けばいいのかわからなくて顧客を待たせてしまうことがある」「自分で調べなければならず、オペレーターによって調べる能力に差がある」など、スムーズに解決できない場合は、業務フローや業務プロセスを整える必要があります。
あるいは、「システムが連携されていないため、終話後の応対記録を別のシステムに入力しなければならない」といった作業が発生しているなら、効率化のためシステムの変更を検討することも必要かもしれません。
3-5.オペレーターの人数やスキルが不足している
最後に考えられるのは、オペレーターの人員不足、スキル不足です。
入電数に対しオペレーターの人数が足りなければ当然対応できるコールも少なくなり、それと反比例して放棄呼が増えてしまいます。
またオペレーターのスキルが低い場合、1コールあたりにかかる対応時間が長くなりがちです。
例えば商品やサービスの知識不足やトークスキルが低ければ、会話がスムーズに進まず時間がかかります。また、応対中に保留して調べものをしたり、管理者に確認することが増えれば対応時間は長引くでしょう。
タイピングのスピードによっても終話後の後処理時間が長くなり、中々次の電話に出られないというケースも生じます。
これを解決するには、「5-4.オペレーターのスキルと生産性を向上させる」で説明する方法を実施してみてください。
4.放棄呼が引き起こす4つの問題点
放棄呼が発生するとその背景では
・顧客満足度の低下 |
といった問題が起こっている可能性があります。放棄呼を放置するとどのようなことが起こるのか確認していきましょう。
4-1.顧客満足度の低下につながる
放棄呼が多発すると、顧客満足度の低下を招きます。
トランスコスモスが実施した「消費者と企業のコミュニケーション実態調査2020」を見てみると、問合せプロセス全体に手間や負担を感じる理由として「解決に時間がかかったから」が1位となっています。
問合せプロセス全体に手間や負担を感じる理由 | ||
1位 | 解決に時間がかかったから | 62% |
2位 | 欲しい情報や解決方法が見つからなかったから | 31% |
3位 | 最初に選んだ手段で解決できなかったから | 28% |
この調査からも、顧客は問題解決に時間がかかると負担や手間を感じるのが分かるでしょう。まさに、放棄呼が発生する状態は
・IVRの操作が複雑でオペレーターに繋がるまでに時間がかかる |
といったように、問題解決までに時間を要する状態です。顧客がコンタクトセンターに電話をかけるときは問題解決をしたい、商品購入を検討しているなど何らかの目的を抱えています。目的の解決までに時間を要することで手間やストレスを感じ、顧客満足度の低下を招くのです。
4-2.機会損失につながる
放棄呼は、機会損失につながるところも問題点の一つです。商品購入や資料請求など顧客の行動に直結するコンタクトセンター(コールセンター)の場合は、顧客の待ち時間や負担が大きく放棄呼となってしまうと新規顧客獲得の機会を失います。
新規顧客が架電をしても、オペレーターに繋がる前に切ってしまっては意味がありません。「後からもう一度電話をしよう」と再チャレンジしてくれる顧客ばかりではないので、放棄呼が頻繁に発生していると意外と大きな損失となるでしょう。
4-3.企業のブランドイメージ低下につながる
また、放棄呼は企業のイメージやブランドを傷つける恐れもあります。
中でも特に、初めて問い合わせをした顧客の場合はこの可能性が高いでしょう。
第一印象が「電話が繋がらない会社」というネガティブなものになってしまうため、購買意欲が削がれ、企業に対する信用も低下しかねません。
第一印象がよければ、その後長年利用してもらえたり、ファンになってくれる可能性が高まりますが、放棄呼によってそのチャンスが失われるのです。
4-4.オペレーターの業務負荷やストレスが増加する
さらに、放棄呼はオペレーターにも悪影響を及ぼすでしょう。
顧客の中には、電話が繋がったときに対応したオペレーターに対し不満をぶつける人もいます。
「この間電話を架けたとき、一方的に切れた」「電話を架けても架けても繋がらなかった」といったクレームがあると、オペレーターは謝るしかなく、ストレスが溜まっていくのです。そのクレームを聞いている分だけ通話時間が長くなり、更に放棄呼を増やしてしまうという悪循環にも陥ります。
業務負荷が大きくなれば、オペレーターのストレスも増えるため、離職率が高まってしまう恐れもあるでしょう。
5.放棄呼対策ができる4つの方法
ここまで見てきたように、放棄呼が発生すると顧客満足度の低下や機会損失につながる可能性があるので、未然に防ぐことが大切です。ここでは、放棄呼対策として実施したい
・IVRの見直しをする |
という4つをご紹介します。
これらは、「4.放棄呼が引き起こす4つの問題点」に対して以下のように有効です。
放棄呼による4つの問題点 | 有効な対策方法 |
顧客満足度の低下 | 5-1.IVRの見直しをする |
機会損失 | |
企業のブランドイメージ低下 | |
オペレーターの業務負荷や |
どのように放棄呼対策をすればいいのか把握できるので、ぜひ参考にしてみてください。
5-1.IVRの見直しをする
IVRを導入している場合は、IVRの見直しから始めてみましょう。IVRは顧客目線とコンタクトセンター(コールセンター)目線の双方の立場から、使いやすい設定にする必要があります。
オペレーターの負担軽減などを重視し過ぎてしまうと、顧客にとっては使いにくく手間のかかる設定となっている可能性があります。
特に
・階層を深くしないで、3~4回のやり取りでオペレーターに繋がるようにする |
といったポイントを見直して、オペレーターにつながるまでに時間や手間がかからないか確認してみましょう。以下の記事を参考にしてみてください。
5-2.自己解決できるチャネルやセルフサービスを充実させる
問い合わせ窓口が電話しかない場合、どうしても入電が集中しやすくなります。そこで、メールやチャットなど他のチャネルと組み合わせつつ、ボットなどのセルフサービスを活用し、入電集中を回避するのも一つの改善策です。
チャットやチャットボットなど他のチャネルを用意することで
・電話窓口への入電集中が避けられる |
というメリットがあります。トランスコスモスの『DEC support』は、コンタクトセンターの課題に応じて導入できるチャット/チャットボットソリューションです。
チャットとチャットボットの切り替えができるのはもちろんのこと、顧客の情報を収集しながら分析を行い利用者が増えるツールへと成長させることができます。
『DEC support』について詳しくは以下のリンクからご確認ください。
チャットとはどのようなものなのか詳しく知りたい人、チャットボットの導入を検討している人は以下の記事も参考にしてみてください。
5-3.オペレーターの配置を最適化する
放棄呼を減らすには、オペレーターが不足しないよう適切な配置が欠かせません。オペレーターのシフトを見直すために過去の入電数をチェックして、入電が集中する曜日や時間帯、タイミングを確認してみてください。
入電予測は精度を上げていくことも大切です。作成した入電予測をベースにオペレーター配置をしてみて、現状とのズレを確認しながら少しずつ軌道修正をしていきます。
ここで注意したいのは、オペレーターの人員や労働時間を増やしてしまうとその分コストがかかることです。コンタクトセンター(コールセンター)運営費とのバランスを取ることも忘れないようにしましょう。
入電に繁閑がある場合や、入電数に対してオペレーター数を配置しきれない場合には予約型コンタクトセンターがおすすめです。
対応できるオペレーターがいない時は折り返し予約受付 or Web誘導で、お待たせしない予約対応型とすることで時間帯繁閑を最小化します。
予約型コンタクトセンターの詳しい機能はこちらからご確認ください。
5-4.オペレーターのスキルと生産性を向上させる
オペレーターの人員増加ができればオペレーター不足を解消できますが、コンタクトセンター(コールセンター)の規模やコスト面から難しいこともあるでしょう。
そのような場合はオペレーターの生産性を向上させて、放棄呼が発生しにくい状態を作ることができます。生産性の向上には
・マニュアルの見直し |
などが欠かせません。短い時間でも応対品質を落とすことなく、顧客対応ができる基盤を作りましょう。
とは言え、オペレーターの教育やマニュアルの見直しには一定の時間がかかります。少しでも早く、生産性を向上させたいときには応対応援ツールの導入がおすすめです。
オペレーターへの指示や適切な言葉遣いの提案などをできる限り自動化することで、コンタクトセンター運営に負担をかけることなく生産性を向上していけるでしょう。
トランスコスモスの『transpeech(トランスピーチ)』は、音声認識でキーワードを検知し、トークスクリプトやFAQを自動表示させます。
リアルタイムでオペレーターをサポートすることで、応対時間の短縮が実現できます。詳しくは以下のリンクからご確認ください。
まとめ
いかがでしたか?放棄呼とはどのような状態か把握でき、放棄呼を発生させないよう対策が取れるようになったかと思います。
最後にこの記事の内容をまとめてみると
◎放棄呼とはオペレーターに繋がる前に顧客によって切断されたコールのこと
放棄呼率の算出方法=放棄呼数 ÷ 総コール数 × 100
◎放棄呼が発生する原因は下記の5つ
・時間帯や時期により入電数が多く混雑する |
◎放棄呼が引き起こす問題は次の4つ
1)顧客に手間やストレスがかかる原因となり顧客満足度が低下する |
◎放棄呼対策をする方法は次の4つ
1)IVRの見直しをする |
この記事をもとに放棄呼対策ができ、最適なコンタクトセンター運営ができるようになることを願っています。