
商品の機能や価格での差別化が難しくなり、購入前後を含む顧客体験が重視されています。期待を超えるサービスを提供するための要素や必要性、ポイント等をご紹介します。
- 期待を超えるサービスを提供する必要性:リピーターやロイヤルカスタマーの獲得、他社との差別化、売上の拡大につながります。
- 期待を超えるサービスを提供するステップ:現状把握、顧客期待の理解、ギャップの明確化、改善策の検討、継続的な実施・改善の順に進めていくことが成功につながります。
- 期待を超えるサービスを提供するポイント:顧客の声(VOC)の収集、取組内容の決めこみ、複数チャネルの活用、意思統一、継続的した取り組みが重要です。
「顧客満足度を高めるには、『期待を超えるサービス』が必要だと聞いた。これは具体的に何を指すのか?」
「リピーター獲得に悩んでいるが、『期待を超えるサービス』を目指すべきだとの声も。どのように実現できるのか?」
顧客へのサービス提供に課題を抱え、改善策を模索する中で目にする「期待を超えるサービス」という言葉。重要性は理解していても、「具体的に何か」「どのように実現するのか」を把握していない方も多いのではないでしょうか。
期待を超えるサービスとは、顧客が抱く事前の期待を超え、感動や驚きを提供するサービスを指します。
顧客はサービス利用時に何らかの期待を持っており、その期待を上回ることで「感動した」「また利用したい」といったポジティブな反応を引き出せることが、期待を超えるサービスの本質です。 

ただし、期待を超えるサービスは「やってみよう」と気軽に実現できるものではありません。顧客が抱く期待を理解し、それを超えるための構成要素を把握したうえで、戦略的に取り組む必要があります。
この記事では、期待を超えるサービスの概要、必要な要素、提供のポイントなどを解説します。最後までお読みいただくことで、自社がどのように期待を超えるサービスを実現できるかが明らかになるでしょう。
顧客体験が重視される今、期待を超えるサービスの価値はますます高まっています。自社にしか提供できない期待を超えるサービスを目指すために、ぜひご覧ください。
1.期待を超えるサービスとは

期待を超えるサービスとは、顧客が抱く事前期待を超え、感動や驚きを提供するサービスのことです。

たとえば、飲食店を訪れる際のことを考えてみましょう。「ここの料理はおいしいかな」「快適に過ごせるかな」といった期待を持って、その店を選びます。この期待を上回る体験、つまり「想像以上だった」「とても感動した」と感じることが、期待を超えるサービスの本質です。

期待を超えるサービスは、サービスそのものの成果と、その提供過程の2つの要素で構成されています。

たとえ商品が優れていても、提供過程に不安があれば顧客の満足度は低下します。たとえば、価格が安くて美味しい料理を提供していても、接客が不十分であれば、期待を超えるサービスとは言えません(詳しくは「3.期待を超えるサービスを実現する6つの要素」で解説します)。
したがって、サービスの成果と提供過程の両方で顧客の期待を超える努力が求められます。期待を超えるサービスは、ロイヤルカスタマーの獲得、売上の拡大、他社との差別化につながるため、近年では業種を問わず重要視されています。
2.期待を超えるサービスを求める顧客の4つの期待

単に顧客の期待に応えるだけでは、期待を超えるサービスを提供することはできません。顧客の期待を超えるためには、顧客が求める期待の種類を理解し、それに応じたサービスを提供することが重要です。
顧客の期待には以下の4つの種類があります。それぞれを意識することで、期待を超えるサービスを実現しやすくなります。
顧客の期待の種類 | 概要 | |
一般的に満たせる期待 | 一般的に満たされる期待。対価に応じて当たり前に期待されるレベルの対応。 | |
期待を超えるサービスで満たすべき期待 | 顧客の状況に応じた臨機応変な対応。 | |
顧客が特に望んでいないが、提供されると嬉しい対応。 | ||
顧客ごとのニーズや悩みに応じた特別な対応。 | ||
ここでは、顧客が求める4つの期待について詳しく解説します。どの程度実現できているかを確認するための参考にしてください。
2-1.共通的期待
共通的期待とは、一般的に誰もが期待するサービスの対応を指します。具体的には、対価に応じて誰もが当たり前に期待するレベルのサービスです。
【共通的期待の例】 ・注文した商品が誤りなく届く |
共通的期待は、必要最低限のサービスレベルです。この期待が満たされない場合、クレームやトラブルにつながるリスクがあります。
たとえば、コンタクトセンター(コールセンター)に電話をかける顧客は、必ず「問題が解決できるだろう」という期待を抱きます。
この期待は、コンタクトセンターの基本的な役割を考えると特別なものではなく、誰もが当たり前に持つ期待です。したがって、これは「共通的期待」に該当します。
もし、この期待に反して「なかなかつながらない」「たらい回しにされて問題解決できない」といった状況が生じれば、顧客は不満を持ち、クレームに発展する可能性があります。
このように、共通的期待は目的や対価を考慮すると、当たり前に求められるサービスの範疇です。共通的期待を満たすことは当然ですが、それだけでは期待を超えるサービスにはなりません。
2-2.状況的期待
状況的期待とは、顧客の状況に応じた臨機応変な対応を指します。具体的には、顧客の特定の状況に応じて行うサービスです。
【状況的期待の例】 ・顧客のグラスが空になっていた際に、「お飲み物はいかがですか?」と声をかける |
状況的期待は、顧客に特別感を与えるため、「ここまで理解してくれていたんだ」と感じさせることで、期待以上の価値を提供できます。
たとえば、コンタクトセンターでは全顧客に同じ応対をするのではなく、応対履歴や購入履歴をもとに顧客のニーズに合った応対を行います。
過去にA商品を購入した顧客に対しては、「A商品のご購入ありがとうございました。A商品と相性の良い商品を発売したのでサンプルをご用意しています」といった具合に、A商品に基づいた応対をすることが該当します。
顧客は「自分の状況を理解してくれている」と感じるため、当たり前のサービスを超えた体験を得ることができます。
このように状況的期待に応えるためには、顧客情報を日常的に管理し、情報共有ができる体制を整えておくことが重要です。また、飲食店や小売店などの業界では、顧客の状況に応じたマニュアルを用意し、臨機応変な対応がしやすい環境を整えることも効果的です。
2-3.潜在的期待
潜在的期待とは、顧客がそこまで望んでいないものの、提供されると嬉しいと感じる対応を指します。これは、顧客に付加価値を提供できるサービスです。
【潜在的期待の例】 ・顧客の誕生日月にお誕生日クーポンを送る |
潜在的期待は、顧客が「してもらえたら嬉しい」と感じることを体現しており、顧客の感動や自社に対する独自の価値を生み出します。
たとえば、商品購入窓口のコンタクトセンターでは、顧客情報を事前に確認し、誕生日月の顧客を把握できます。
該当する顧客には、「〇〇様、お誕生日おめでとうございます。今月はささやかですが、10%オフクーポンをご用意しております」と案内することで、顧客の潜在的な期待を満たします。
このような対応により、顧客はサプライズされたような嬉しい気持ちになり、企業への愛着心や信頼感が高まります。
潜在的期待を満たすためには、日々顧客のニーズを収集し、分析することが重要です。顧客が望むことを先回りして満たす施策を検討することで、顧客の期待を超えるサービスを提供できます。
先の例では、お得に購入したいという顧客ニーズを、誕生日という特別なイベントと融合させて満たしています。
このように、顧客の願望に寄り添い、提供できる付加価値を模索することが、期待を超えるサービスにつながるのです。
2-4.個別的期待
個別的期待とは、顧客ごとのニーズや悩みに応じた対応を指します。これは、顧客の抱える課題や望みに基づいて個別に対応するサービスです。
【個別的期待の例】 ・顧客の悩みを聞いた上で、合う商品を提案する |
「2-2.状況的期待」は状況ごとの対応に重点を置きますが、個別的期待では、より個人的な思いや悩みに寄り添った対応を求められます。
コンタクトセンターでは、蓄積した情報や個別のヒアリングを通じて、最適な対応を行うことが重要です。たとえば、「〇〇が故障して使えません」と問い合わせがあった際、単に返品先を伝えるだけでは個別的期待に応えることにはなりません。
顧客の故障状況や購入日などの情報を把握したうえで、「その状態でしたら最適な方法がありますので、ご案内します」と具体的な対応方法を紹介することが求められます。このような丁寧な対応により、「期待を超えるサービスを受けた」と感じるでしょう。
個別的期待に応えるためには、臨機応変に最適な提案ができるよう、個々のスキルを磨くことが重要です。提案の質に差が出る場合には、エスカレーションの仕組みを整えておくことも効果的です。
3.期待を超えるサービスを実現する6つの要素

顧客が抱く期待を理解したところで、期待を超えるサービスを実現するために必要な6つの要素をご紹介します。

これらの要素のうち、どれか1つでも欠けてしまうと、顧客の期待を満たすことが難しくなり、期待を超えるサービスから遠ざかってしまいます。
多くの企業では、サービス提供の基本となる「正確性」や「迅速性」は意識できているものの、期待を超えるサービスを提供する過程で重要な「安心感」や「共感性」などが意識されない傾向があります。
これらの要素を理解し、自社でどの程度実践できているかを確認してみましょう。
3-1.正確性:ミスがなく正確な判断ができる
概要 | 正確性とは、ミスがなく正確な判断ができることを指します。これは、顧客が求める最低限のラインであり、提供するサービスや業務を間違えずに行うことを意味します。 |
例 | ・正しい内容、宛先でメールを送信する |
対策ポイント | ・ミスを起こさないフローやマニュアルを検討する |
正確性は当たり前の要素ですが、求める結果に対して想定以下の結果が生じると、期待を超えることはできません。
たとえば、「Aの商品をください」と連絡したにもかかわらず、Bの商品が届くと、顧客はがっかりし、企業への信頼感が失われるでしょう。
正確性を維持するためには、ミスを起こしにくいフローやマニュアルを作成することが重要です。たとえば、コンタクトセンター(コールセンター)でチャットやメールの文書のミスが目立つ場合、ミスが起きないフローを検討する必要があります。
場合によっては、2人でダブルチェックを行うことで、客観的に正確性を判断でき、顧客に安心感を与えることができます。
3-2.迅速性:スピード感を持ち実践できる
概要 | 迅速性とは、顧客が求めることをスピード感を持って実践できる能力を指します。 |
例 | ・顧客の問い合わせにすぐに返信する |
対策ポイント | ・迅速な対応ができるフローを検討する |
迅速性は、顧客の期待を超えるサービスを提供するための重要な要素です。以下のようなスピード感のある行動が該当します。
【迅速性の例】 ・顧客からの問い合わせメールにすぐに返信する |
商品やサービスの質が高くても、提供に時間がかかると顧客満足度は低下します。たとえば、顧客が商品を購入したいと思ってコンタクトセンターに電話をかけた際、なかなかつながらず待機時間が長いと、不満を抱く原因となるでしょう。
迅速性は業種や業務内容によって重視するポイントが異なりますが、基本的には全員が顧客の要望に迅速に対応する意識を持つことが重要です。「明日でも問題ない」と考えるのではなく、目の前の顧客に向き合い、スピード感を持って対応することが求められます。
このような迅速な対応が当たり前の文化を築くことが、顧客満足の向上につながります。
3-3.柔軟性:臨機応変に対応できる
概要 | 柔軟性とは、顧客の要望に応じて臨機応変に対応できる能力を指します。 |
例 | ・顧客の背景を理解した上で納期を変更する |
対策ポイント | ・顧客のニーズや要望を汲み取るための知識を習得する |
柔軟性は、顧客の要望に応じて臨機応変に対応できることです。サービスの平等性を保つことは重要ですが、あまりにも融通が効かないと期待を超えるサービスは提供できません。
顧客の「2-2.状況的期待」や「2-3.潜在的期待」を踏まえた、以下のような臨機応変な対応が求められます。
【柔軟性の例】 ・通常納期は1ヶ月だが、顧客の背景を理解した上で納期を変更する |
たとえば、コンタクトセンターではマニュアル通りの応対にとどまらず、顧客の要望やニーズに応じて踏み込んだ提案を行うことが重要です。仮に顧客の要望に100%応えることが難しくても、臨機応変な姿勢を示すことで顧客満足度を高めることが可能です。
柔軟性を発揮するためには、顧客の要望やニーズを汲み取り、一人ひとりが主体的に考える姿勢が不可欠です。「顧客が求めていることは何か」「どのような提案が喜ばれるか」と考える習慣を身につけることから始めると良いでしょう。
3-4.共感性:顧客の思いに寄り添う
概要 | 共感性とは、顧客の悩みや課題に寄り添った対応ができる能力を指します。 |
例 | ・顧客のビジネスを深くリサーチして共感する |
対策ポイント | ・顧客について深くリサーチし、理解する姿勢を持つ |
共感性は、顧客の思いに寄り添った提案や行動ができることです。誰もが理解されない、または分かってもらえない相手に対して満足感を抱くことはありません。期待を超えるサービスを提供するためには、顧客の期待に応えようとする寄り添う姿勢が求められます。
【共感性の例】 ・「その気持ち分かります」「大変でしたね」など、顧客の思いに寄り添う言葉を使う |
たとえば、自社の商品やサービスを一方的に伝えるだけでは「期待できるな」「自社を理解してくれているな」と感じにくいものです。顧客のビジネスを深くリサーチして共通点を見出し、「このような部分でお手伝いができます」と提案する方が、顧客の満足度が向上するでしょう。
また、コンタクトセンターでは、ただ顧客の話を聞くだけでなく、「大変でしたね」などの寄り添うクッション言葉を使うことで、より親身に感じてもらえます。このように、優れたサービスを提供する過程で顧客に寄り添うことは、満足度を高めるために重要です。
共感性を発揮する方法は業種やサービスによって異なりますが、共通して顧客を深く理解する姿勢が必要です。顧客の状況を理解しなければ寄り添うことは難しいため、顧客の現状や課題をヒアリングし、理解することを心がけましょう。
3-5.安心感:専門性があり信頼できる
概要 | 安心感とは、顧客が安心して依頼できる専門性や雰囲気を持つことを指します。 |
例 | ・顧客が緊張しない雰囲気づくりを心掛ける |
対策ポイント | ・顧客が安心できる雰囲気づくりを検討する |
安心感は、顧客が安心して依頼できる専門性や雰囲気を持つことが重要です。「無愛想で対応が悪い」「専門性が感じられない」といった印象を与えると、顧客はサービスを受ける過程で疑心暗鬼になり、期待を超えることが難しくなります。
以下のように、顧客が安心して任せられる姿勢を示し、信頼を得ることが求められます。
【安心感の例】 ・接客時に資格を保有していることを提示する |
たとえば、商品説明を行う際、緊張感が漂う無音のオフィスでは顧客は不信感や不安を抱くことがあります。逆に、明るい雰囲気で音楽が流れ、観葉植物が置かれているカフェのような環境であれば、顧客はリラックスし、商品に興味を持ちやすくなります。
また、自信のない仕草や無愛想な雰囲気があると「この人には任せられない」と思われる可能性もあります。資格や役職を事前に提示することで、信頼できることを示すと良いでしょう。
安心感を提供するためには、社内で顧客が安心できる雰囲気づくりを検討することが重要です。顧客との接し方や接する場の雰囲気を考慮し、どのようにすれば安心してもらえるかを常に検討するようにしましょう。
3-6.好印象:顧客に不快感を与えない
概要 | 好印象とは、顧客に信頼や安心感を与える対応ができることを指します。 |
例 | ・明るいトーンではきはきと話す |
対策ポイント | ・顧客に好印象を与えるための自社の基準を決め、実行する |
好印象を与えることは、顧客との関係を築くうえで非常に重要です。顧客と接する社員の印象が悪いと、それだけで期待を超えるサービスは提供されないと考えられてしまいます。
以下のように、話し方や服装、声のトーン、対応なども含めて、顧客に良い印象を与えることが求められます。
【好印象の例】 ・明るい声のトーンで、顧客が聞きやすいように話す |
たとえば、コンタクトセンターでは、声のトーンが低く小さな声で話すと、それだけで不信感を与える可能性があります。逆に、明るいトーンではきはきと話すことで、顧客の心を開きやすくなります。
好印象を維持するためには、自社での好印象の基準を設けて実施することが重要です。服装や身だしなみ、話し方、立ち振る舞いなどに基準を設けることで、全員が好印象を意識しながら業務に取り組むことができるでしょう。
4.期待を超えるサービスを提供する必要性

期待を超えるサービスの概要を把握したところで、期待を超えるサービスを提供する必要性について改めてご紹介します。以下のポイントを参考に、期待を超えるサービスの提供がなぜ重要であるかを理解してください。
期待を超えるサービスを提供する必要性 |
1.リピーターやロイヤルカスタマーの獲得につながる |
4-1.リピーターやロイヤルカスタマーの獲得につながる
1つ目のポイントは、リピーターやロイヤルカスタマーの獲得につながることです。
他にない感動的な体験を提供することで、顧客はその企業やブランドに対して愛着や信頼感を抱きやすくなります。単に商品を提供し、共通の期待を満たす企業では、対価に見合ったサービスを提供しているものの、期待を超えることは難しいのです。
たとえば、「この悩みにはこの商品をおすすめします」といった具体的な提案や、「少しでも早く利用したいのであれば、対応を早めます」といった顧客の現状に寄り添った付加価値を提供できれば、顧客は再度利用したいと感じるでしょう。
「この企業になら任せられる」という思いが、安心感や信頼に変わり、結果としてリピーターやロイヤルカスタマーの創出につながります。
特にロイヤルカスタマーは、継続的な売上を生み出すだけでなく、良い口コミの拡散や新規顧客の獲得にも大きく貢献してくれる存在です。ロイヤルカスタマーを増やすことに悩む企業は多いですが、期待を超えるサービスを提供することで自然と増えていくでしょう。
▼ロイヤルカスタマーについては、下記の記事で詳しく解説しています。
4-2.売上の拡大が目指せる
2つ目のポイントは、売上の拡大が目指せることです。
前の章で触れたように、期待を超えるサービスを提供できれば、リピーターやロイヤルカスタマーが増えます。リピーターやロイヤルカスタマーは新規顧客とは異なり、定期的に商品やサービスを購入してくれるため、売上の拡大が見込めます。
たとえば、期待を超えるサービスを提供することでロイヤルカスタマーが10人増えたとします。ロイヤルカスタマーが1人あたり年間20万円のサービスを利用する場合、新規顧客を創出しなくても年間200万円の売上を確保できるのです。
さらに、新規顧客の獲得には、既存顧客を維持するための5倍の費用がかかるとされています(1:5の法則)。

リピーターやロイヤルカスタマーが増えれば、新規顧客獲得に割く費用を抑えることができ、より売上が拡大しやすい状態を作ることができます。
4-3.他社との差別化ができる
3つ目のポイントは、他社との差別化ができることです。
昨今、市場が成熟する中で、商品やサービスの機能だけで差別化を図ることは難しくなってきました。そのため、商品やサービスの機能だけでなく、購入プロセスやアフターフォローなどの顧客体験も重要視されるようになっています。
トランスコスモスが実施した「消費者と企業のコミュニケーション実態調査2024-2025」では、顧客の80%以上が購入前サポートやアフターサポートの評判がよい企業を優先的に選んでいることが明らかになっています。

参考:トランスコスモス「消費者と企業のコミュニケーション実態調査2024-2025」
つまり、顧客が商品やサービスを購入・使用するプロセスで期待を超えるサービスを提供できれば、他の企業と差別化できる大きな価値となります。このように、商品やサービスそのものがどれほど優れていても、顧客体験に不満があれば評価されにくくなってきています。
だからこそ、期待を超えるサービスを提供することで他社との差別化が図られ、顧客に選ばれる理由となるのです。
5.期待を超えるサービスを提供している事例

ここでは、実際に期待を超えるサービスを提供している企業の事例をご紹介します。どのような取り組みを行うことで期待を超えるサービスを目指せるのか、参考にしてみてください。
事例企業 | 成功のポイント |
顧客にカードの使い方やそのメリットを丁寧に説明する | |
顧客ロイヤルティを育成するための戦略を実施している | |
顧客の声をサービスに反映し、継続的に改善している |
5-1.ポケットカード様|顧客の言葉に耳を傾けて退会抑止率の目標を達成
トランスコスモスでは、クレジットカードを提供している「ポケットカード様」のコンタクトセンター(コールセンター)運営を支援しています。
現在、退会抑止率と退会後の利用率の向上を目標しています。退会阻止を「新たな入会」と捉え、カードのアクティブなユーザーを増やすことを目指しています。
そのためには、コンタクトセンターでカードの使い方や顧客のメリットを丁寧に説明することが必要です。退会の理由は顧客によって異なりますが、一つ一つの言葉に耳を傾け、丁寧に対話をすることで退会抑止とその後の利用率向上につながると考えています。
また、コンタクトセンターでは以下のような取り組みを通じて、期待を超えるサービスを提供するためにモチベーションを高めています。
【モチベーションを高める取り組み例】 ・数値やデータを共有し、「同じ目標を目指す組織の一員」という意識を醸成する |
退会抑止率や利用率の維持は本来難しい数字ですが、昨年度を上回り、月ごとの目標達成率も向上する成果を上げることができました。顧客の声に耳を傾けて丁寧な対話を重ねる「期待を超えるサービス」を提供することで、成果につながった事例と言えるでしょう。
▼ポケットカード様の事例については、下記で詳しく解説しています。
5-2.スターバックスコーヒー ジャパン|マニュアルに頼り過ぎない接客を実施
コーヒーショップを展開している「スターバックスコーヒー ジャパン」は、顧客体験の価値向上を目指して以下のような戦略的な取り組みを行っています。
顧客体験の価値向上を目指した取り組み例 | |
リージョナルランマークストア | 日本の各地域の象徴となる建築デザインで、居心地の良い空間を提供しています。 |
マイストアパスポート | 店舗ごとに異なるスタンプを収集でき、店舗に足を運ぶ楽しさを体験できます。 |
スターバックスリワード | 会員ステータスに応じた先行購入やお誕生月特典などを用意していいます。 |
「スターバックスコーヒー ジャパン」では、顧客ロイヤルティを高める仕組み作りを積極的に行っており、会員ステータスに応じた特典を受けられる「スターバックスリワード」などを提供しています。
また、顧客が店舗の個性を形成する重要な要素と考え、マニュアルに頼り過ぎない接客を行っている点も特徴です。
顧客に応じておすすめする商品や話す内容を変えることで、「家に帰ってきた気持ちになる」といった声が上がるなど、信頼や愛着を寄せる顧客が多く、期待を超えるサービスを提供できている例と言えるでしょう。
参考:スターバックスコーヒー ジャパン「お客様とのつながり」
5-3.ANA|顧客に必要な情報をタイムリーに共有できる基盤を構築
大手航空会社の「ANA(全日本空輸株式会社)」は、「ワクワクで満たされる世界を」というグループ経営ビジョンを掲げています。利用前から利用後までの全工程を顧客体験と捉え、「ANAにしてよかった」と感じられるよう以下の取り組みを行っています。
顧客体験向上の取り組み例 | |
Customer Experience基盤の構築 | 顧客情報や運航情報を全社横断で集約し、必要な情報をタイムリーに利用しています。 |
顧客の声をサービスに反映 | 顧客の声をサービスに反映し、継続的な改善を図っています。 |
NPSの活用 | 他者推奨意向を数値化するNPS(Net Promoter Score)を収集し、商品・サービスの改善に役立てています。 |
とくに、Customer Experience基盤では、顧客情報や運航情報を集約し、必要な情報をタイムリーに提供できる点が特徴です。この基盤を活用した係員端末「CXポータル」も開発され、係員と顧客のリアルなタッチポイントにおいて必要な情報を即座に提供できるようになっています。
顧客の声や情報を活用できる基盤を整備することで、期待を超えるサービスの実現を目指している事例と言えるでしょう。
6.期待を超えるサービスを提供する5つのステップ
ステップ | 概要 |
ステップ1: | 顧客に提供しているサービスの現状を把握します。 |
ステップ2: | 自社のサービスに対する顧客の期待を理解します。 |
ステップ3: | 顧客の期待と現状のサービスのギャップを可視化します。 |
ステップ4: | 期待を超えるサービスを実現するための施策を検討します。 |
ステップ5: | 施策を実施し、効果測定を重ねて期待を超えるサービスの実現に近づけます。 |
期待を超えるサービスの重要性が理解できたところで、具体的なステップを把握しておきましょう。
まずは、現状のサービスを把握し、課題がないか分析します。サービス全体を可視化できていない場合は、「3.期待を超えるサービスを実現する6つの要素」を意識しながらチェックシートを作成し、どの要素が不足しているか分析すると良いでしょう。
次に、顧客の期待を明確にします。アンケートやSNSなどで顧客の声を収集し、自社のサービスに対する期待や不満を分析します。
その上で、自社が提出しているサービスと顧客の期待にギャップがないか確認します。たとえば、顧客が自社に迅速なサポートを期待しているにも関わらず、サポートに時間がかかっている場合、迅速性に課題があると言えます。
その後、顧客の期待を超えるためにできることを明確にし、実際に実践します。実践する際は、一時的な取り組みに終わらないように効果測定を行いながら改善を重ねることが大切です。
顧客のリアルな声を収集するサポート「CXリサーチ」 |
期待を超えるサービスを提供するには、顧客のリアルな声を収集し分析することが欠かせません。しかし、「自社では顧客の声を収集するリソースがない」「顧客の声を収集するノウハウがない」という場合もあるでしょう。 トランスコスモスが提供している「CXリサーチ」は、SMSやチャットでWebアンケートを送付し、ユーザーのリアルな声を分析するサービスです。 |
7.期待を超えるサービスを提供するための5つのポイント

最後に、期待を超えるサービスを提供するために知っておきたい5つのポイントをご紹介します。これらのポイントは、期待を超えるサービスを実現するためにまず意識したい内容ですので、ぜひ参考にしてください。
期待を超えるサービスを提供するための5つのポイント |
1.顧客の声を収集、分析して顧客の期待を把握する |
7-1.顧客の声を収集・分析して顧客の期待を把握する
まずは、顧客の声を収集し、分析して顧客の期待を把握しましょう。これは、「2.期待を超えるサービスを求める顧客の4つの期待」で述べたように、顧客が事前に抱く期待を超えるために必要です。
顧客が自社に抱く期待を理解できていないと、的確な施策を検討することが難しくなります。以下の方法で顧客の声を収集・分析しましょう。
【顧客の声を収集・分析する方法】 |
たとえば、電話やメールの問い合わせで「現状に応じて最適な商品を提案してほしい」という声が多く寄せられている場合、これが顧客の期待を示しています。この声をしっかりと拾い、期待に応えられるよう体制を整える必要があります。
顧客の声を収集・分析する際には、「こうすれば期待を超えられるだろう」といった机上の空論で顧客の期待を決めつけないように注意しましょう。顧客側と企業側の思いが乖離しているケースは少なくありません。
したがって、顧客の期待を決めつけず、客観的なデータに基づいて判断することが重要です。
▼VOCについては下記の記事で詳しく解説しています。
7-2.期待を超えるための取り組みを決めておく
期待を超えるサービスを提供するためには、具体的な取り組み内容を事前に決めておくことが重要です。期待を超えるサービスの基準や内容を個人に委ねると、足並みが揃わず、自社の考える期待を超えるサービスを体現できなくなります。
期待を超えるサービスの取り組み内容は、サービスの成果と提供過程の2つに分けて考えると良いでしょう。課題が多い場合は、「3.期待を超えるサービスを実現する6つの要素」に基づいて整理すると具現化しやすくなります。
6つの要素 | コンタクトセンターの例 | |
サービスの成果 | 正確性 | 顧客に正確な案内を行う(不安な場合はスーパーバイザーに確認する)。 |
迅速性 | 待機時間を減少させるためにマルチチャネル対応を目指す。 | |
サービスの提供過程 | 柔軟性 | 顧客情報を提示し、問い合わせ内容や購入履歴に応じたサポートを行う。 |
共感性 | 傾聴力を高め、顧客の話をしっかりと聞き寄り添う姿勢を示す。 | |
安心感 | Webサイトでコンタクトセンターの品質についてまとめたページを作成し、一定の品質管理をしていることをアピールする。 | |
好印象 | 定期的に品質チェックを行い、声のトーンや話し方の確認をする。 | |
たとえば、コンタクトセンターの場合、各要素に対してどのような取り組みを行うのかを決めてオペレーターに共有することで、応対品質を均一に保つことができます。
また、「期待を超えるサービスをするにはどうすればいいのか」といった話し合いの機会を定期的に設け、現場からのリアルな声を反映させてサービス品質を高めることも検討できるでしょう。
このように「期待を超えるサービスをする」と決めるだけでなく、具体的に何をするのかを落とし込み、全員が実践できるようにすることが大切です。
コンタクトセンターの音声認識ソリューション「transpeech」で期待を超えるサービスを実現 |
コンタクトセンターで期待を超えるサービスを提供するには、応対品質を管理し、高めていくことが重要です。音声認識ソリューション「transpeech」には、応対品質管理をサポートする以下の機能が揃っています。 <transpeechの機能例> ○リアルタイムテキスト化・音声データをリアルタイムでテキスト化 ○必須案内チェックリスト ○AI Agent
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7-3.複数のチャネルを活用してコミュニケーションを取る
コンタクトセンター運営においては、複数のチャネルを活用して顧客とのコミュニケーションを図ることが重要です。
【マルチチャネルの例】 ・電話 |
トランスコスモスが実施した「消費者と企業のコミュニケーション実態調査2024-2025」によれば、顧客は電話だけでなく、メールやチャットにも利用意向を示しています。
とくにチャットは電話よりも利用意向が高く、マルチチャネルに対応することで顧客が望む柔軟性を提供できることが分かります。

※チャットには、チャットボットと有人対応の両方を含むハイブリッド対応が含まれます。
参考:トランスコスモス「消費者と企業のコミュニケーション実態調査2024-2025」
また、マルチチャネルに対応していることで、架電が集中した際に他の方法を案内し、できるだけ顧客を待たせず迅速に問題解決できる提案が可能になります。
ただし、マルチチャネルに対応するには、チャネルごとに顧客に安心感を与える丁寧な対応が求められます。あらかじめスクリプトやルールを設定した上で、導入を開始することが推奨されます。
▼マルチチャネルの種類やメリットについては、下記の記事で詳しく解説しています。
7-4.期待を超えるサービスの必要性を共有する
期待を超えるサービスは、社員の熱意や前向きな姿勢なしには生み出せません。「期待を超えるサービスに必要性はあるのか」といった疑念があり、モチベーションが低く、足並みが揃っていない状態では実現が難しくなります。
そのため、全社員に期待を超えるサービスの必要性や取り組む意義を共有し、納得してもらうことが重要です。以下のような情報を共有することが効果的です。
【期待を超えるサービスの重要性を伝えるときの情報例】 ・期待を超えるサービスの必要性 |
たとえば、期待を超えるサービスが求められている背景を説明するだけでなく、自社の考え方やビジョンを併せて伝えることで、社員が納得しやすくなります。
また、取り組みを開始した後は、顧客の声を共有し続けることで、社員のモチベーションを維持できるようにすることも大切です。
7-5.短期間で辞めずに継続して取り組む
期待を超えるサービスは、一時的な取り組みではなく、継続して実施することが重要です。言い換えれば、期待を超えるサービスを標準化し、「期待を超えるサービスが当たり前にできる企業」を目指す必要があります。
そのためには、短期間で辞めずに継続して取り組むために、効果測定を実施し、振り返りの機会を設けましょう。たとえば、定期的に顧客アンケートを実施し、喜びの声が増えている場合は、期待を超えるサービスに近づいていることを示しています。
一方で、不満の声や改善を求める声があれば、それを共有し、改善方法を検討することが重要です。このように、一度の取り組みで終わらせず、改善を重ねて自社が実現したい期待を超えるサービスに近づけていくことが不可欠です。
まとめ
本記事では、期待を超えるサービスの概要や実現方法について解説しました。最後に、この記事の内容を簡単に振り返りましょう。
〇期待を超えるサービスとは
顧客が抱く事前期待を超えて感動や驚きを与えられるサービスのことです。
〇顧客が抱く期待の種類は以下の4つです
顧客の期待の種類 | 概要 | |
一般的に満たせる期待 | 共通的期待 | 対価に応じて当たり前に期待するレベルの対応 |
期待を超えるサービスで満たすべき期待 | 状況的期待 | 顧客の状況に応じた臨機応変な対応 |
潜在的期待 | 顧客がそこまでは望んでいないが、提供されると嬉しい対応 | |
個別的期待 | 顧客ごとのニーズや悩みに応じた対応 | |
〇期待を超えるサービスを実現する6つの要素
期待を超えるサービスを実現する要素 | ||
サービス自体の成果 | 正確性 | ミスがなく正確な判断ができる |
迅速性 | 顧客が求めることをスピード感を持って実践できる | |
サービスの提供過程 | 柔軟性 | 顧客の要望に応じて臨機応変に対応できる |
共感性 | 顧客の悩みや課題に寄り添った対応ができる | |
安心感 | 顧客が安心して依頼できる専門性や雰囲気がある | |
好印象 | 顧客に信頼や安心感を与える対応ができる | |
〇期待を超えるサービスを提供する必要性は以下の3つです
1. リピーターやロイヤルカスタマーの獲得につながる |
〇期待を超えるサービスを提供するステップ
1. 顧客に提供しているサービスの現状を把握する |
〇期待を超えるサービスを提供するためのポイント
1. 顧客の声を収集し、分析して期待を把握する |
企業が顧客から信頼を得てリピーターやロイヤルカスタマーを獲得するには、期待を超えるサービスを目指すことが不可欠です。
この記事を参考に、期待を超えるサービスを提供するための第一歩を踏み出してみましょう。

