
「出社回帰は、実際にどのような状況なのだろうか。自社も検討すべきだろうか?」
現在、出社回帰は進んでいます。2023年に新型コロナウイルス感染症が感染症法上「5類」へ移行したことを受け、リモートワークを縮小して出社の比重を高める企業が増えています。
その背景には以下の理由があります。

国内外の大手企業が出社回帰へと舵を切っていることから、自社も同様に対応すべきか悩み始めたという方は少なくないでしょう。
しかし、安易に出社回帰の流れに乗る判断は早計です。なぜなら出社回帰は、すべての企業にとって最適な選択肢とは限らず、進め方を誤ると成果創出や人材確保に悪影響を及ぼす可能性があるからです。
そこで本記事では、企業が押さえておきたい以下のポイントを解説します。
・出社回帰の実態 |
本記事を読むことで、「いま出社回帰がどうなっているのか」「出社回帰によって企業に何が起こるのか」が分かるようになります。加えて、自社が出社回帰に適しているのかどうかも把握できます。
自社の状況に照らして出社回帰にどう対応すべきか検討するうえで、有益な判断材料となるため、ぜひ最後までご覧ください。
1.出社回帰の現状|確実に進んでいる

まず、出社回帰の現状を確認しましょう。
出社回帰とは、新型コロナウイルス感染症の流行によって拡大したリモートワークのあり方を見直し、出社の比重を再び高める動きを指します。
リモートワークは、2020年の緊急事態宣言を契機に急速に普及しました。しかし、2023年に新型コロナウイルス感染症が感染症法上「5類」へ移行したことを受け、出社回帰を進める企業が増えています。
下図は、国土交通省による調査結果です。直近1年間にリモートワークを実施したことがある人の割合は、2021年の21.4%から2024年には15.6%まで減少しています。
【リモートワーク(テレワーク)実施率】

また、リモートワークの頻度が低下しているケースも多く、1週間あたりの平均実施日数は、ピーク時の2.4日から2.1日へと減少しています。これは、新型コロナウイルス感染症流行前の水準にほぼ並ぶ値です。
【リモートワーク(テレワーク)実施頻度】

こうしたデータから、出社回帰は公的調査結果にも表れる明確な流れであり、一部の企業に限った話ではないことが分かります。
「出社回帰=全面出社に戻すこと」ではない 出社回帰という言葉から、コロナ禍以前のような全面出社を想像する人もいるかもしれません。しかし多くの企業では、リモートワークを完全に廃止するのではなく、業務内容や役割に応じて出社の比重を調整する形が採られています。 つまり現在の出社回帰は、出社とリモートワークのバランスを再設計する動きと捉えるのが実態に近いでしょう。 |
2.国内外企業の出社回帰事例

前章でお伝えしたように、出社回帰は社会全体の流れとなっています。実際に、国内外の大手企業が相次いで方針を転換し、出社回帰を具体的な制度変更として打ち出しています。
本章では、どの企業がどのような形で出社回帰を進めているのかを確認します。
【主な出社回帰事例一覧】
企業名 | 出社回帰の内容 | 理由 |
Microsoft Corporation | 勤務時間の半分を在宅勤務→週3日以上出社 | 生産性向上につながるため 出典:日本経済新聞 |
Amazon.com Inc | 週3日出社→週5日の完全出社 | 社員同士の学び合い・新たなイノベーション創出のため 出典:日経XTECH |
アクセンチュア株式会社 | 週3日出社→週5日の完全出社 | 人と人との関係を強化することがスキルと能力を向上させ、イノベーションを実現する力を発揮するため 出典:日経XTECH |
ソフトバンク株式会社 | 出社日数の厳密な規定なし→原則週2回の出社 | 新規事業の開発などにつなげるため 出典:日本経済新聞 |
株式会社メルカリ | フルリモート可→週2日以上出社 | イノベーション創出に向けた「偶発的対話」のため |
LINEヤフー株式会社 | フルリモート可→週1回(部門により月1回)出社 | 新しいプロダクトを生み出すため 出典:LINEヤフー |
GMOインターネットグループ株式会社 | 社員の8割がリモートワーク→原則完全出社 | 業務スピードの低下・新入社員教育の難航を問題視したため 出典:NHK ONE |
サントリーホールディングス株式会社 | 在宅勤務手当(1日200円)を廃止 | 対面型のコミュニケーションを重視するため 出典:日本経済新聞 |
日清食品ホールディングス株式会社 | 出社率上限40%→出社率上限60% 出典:日本経済新聞 | |
パナソニックコネクト株式会社 | 出社日数の厳密な規定なし→週3日以上出社 | 意思決定のスピードアップ、イノベーション創出、お客様とのエンゲージメント強化、クリエイティブな発想促進を図るため 出典:パナソニックコネクト |
このように、各社がそれぞれの形で出社回帰を進めています。
3.出社回帰が進む4つの理由

多くの企業で出社回帰が進んでいることが分かりましたが、それはなぜなのでしょうか。背景には、リモートワークを継続する中で、業務や組織運営においてうまく機能しにくい側面が明らかになってきたことがあります。
本章では、出社回帰が進む理由を、4つの観点から解説します。

3-1.意思決定に時間がかかり、新しいアイデアも生まれにくくなった
1つめの理由は、意思決定に時間がかかり、新しいアイデアも生まれにくくなったことです。
リモート環境では、情報共有や合意形成が分断されやすく、関係者間の認識を揃えるまでに時間がかかります。その結果、即断やテンポのよいアイデア交換が難しくなりがちです。
たとえば、オンライン会議やチャットでは課題の背景や前提条件といった周辺情報が十分に共有されず、判断が先送りされるケースがあります。
また、雑談や偶発的な会話に発展しにくく、それを契機として新しい発想が生まれる機会が減ってしまうこともあるでしょう。
実際に、前章でご紹介した企業のほとんどが、業務スピードの向上やイノベーション創出を出社回帰の理由として挙げています。
このように、意思決定や試行錯誤のスピードが落ちることで、組織全体の変化対応力が弱まるという懸念が、出社回帰を強く後押ししています。
3-2.社内外での人のつながりが弱まりやすくなった
2つめの理由は、社内外での人のつながりが弱まりやすくなったことです。
リモート環境では、業務に必要な最低限のやり取りは成立するものの、雑談や非公式なコミュニケーションが生まれにくくなります。その結果、社員同士や顧客との関係性が希薄になりやすい傾向があります。
たとえば、オフィスであれば自然に発生していた声かけやちょっとした相談が、リモート環境では意図的に時間を確保しなければ行われません。そのため、相互理解や一体感の形成が難しくなるケースも見られます。
顧客との関係においても、オンラインでは細かなニュアンスや温度感が伝わりにくく、形式的なやりとりになりがちです。
実際に、アクセンチュア株式会社は、「人と人との関係を強化すること」がスキル向上やイノベーション創出の基盤になるという考えから、出社回帰を進めています。また、パナソニックコネクト株式会社も、出社回帰によって顧客との関係をより深めようとしています。
このように、つながりの脆弱化を食い止める目的から、対面での関係構築を重視する動きが生まれ、出社回帰に舵を切る企業が増えているのです。
3-3.マネジメントの難易度が高まった
3つめの理由は、マネジメントの難易度が高まったことです。
リモート環境では、社員一人ひとりの業務状況や稼働実態が見えにくく、適切なタイミングでの声かけやフォローが難しくなります。それがマネジメントを複雑化させ、管理者の負荷を引き上げるのです。
たとえば、進捗に遅れが生じていてもすぐに気付けなかったり、困りごとを抱えている社員がいても表面化しにくかったりすることが考えられます。
また、成果だけでは測れない貢献度を把握しにくく、評価における不公平感が生じてしまうこともあるでしょう。
リモート環境で現場の状況を正確に掴むのは難しく、従来のマネジメント手法が機能しないと課題視する企業は少なくありません。
こうした課題への対策として、管理しやすい環境と透明性を取り戻そうという考え方が、出社回帰につながっています。
3-4.人材育成の質を担保しにくくなった
4つめの理由は、人材育成の質を担保しにくくなったことです。
リモート環境では、業務上のコツや判断の背景といった暗黙知が伝わりにくく、OJTを通じた育成が十分に機能しないことがあります。とくに、経験の浅い社員に対して、業務を任せながら細やかにフォローする体制を築くのは難しくなります。
たとえば、オフィスであれば自然に行えていた「隣で様子を見る」「つまずいた瞬間に声をかける」といった関わりが、リモート環境では同じように行えません。そうしてフィードバックのタイミングが遅れると、課題を抱えたまま業務を進めてしまうことになります。
また、成長度合いも見えにくくなりがちで、適切な評価やアサインに影響を及ぼし、人材育成のプロセス全体が滞ることもあります。
実際に、GMOインターネットグループ株式会社は、新入社員の教育が円滑に進まなかったことを出社回帰の理由の一つとして挙げています。
新入社員側も、「リモートワークでは、何かトラブルが起きたときに一人で対応できないという不安が大きかった」と話しているそうです(NHK ONE)。
こうした状況を改善し、良質かつ安定的な人材育成を実現するために、出社回帰を進める企業もあります。
4.出社回帰のメリット・デメリット

リモートワークにおける課題への対策という観点から進む出社回帰は、企業にどのような影響をもたらすのでしょうか。
出社回帰には、意思決定やマネジメントのしやすさといったメリットがある一方で、社員の働き方や採用面でデメリットが生じる場合もあるため、双方を把握したうえで検討することが重要です。
本章では、出社回帰によって企業が得られる主なメリットと、併せて考慮すべきデメリットについて解説します。

4-1.出社回帰のメリット
出社回帰を進めると、企業は以下のようなメリットを得られます。
・コミュニケーションが活性化する |
まず大きな変化として、いつでも気軽に対面でやりとりできるようになることで、情報共有やイノベーション創出の機会が大幅に増加します。認識のずれが生じにくくなり、業務全体の進行もスムーズになるはずです。
また、社員の働きぶりを把握しやすくなるため、適切なタイミングでのフォローや業務調整が可能になります。そうすれば、業務の偏りやつまずきを早期に是正でき、人材活用・育成を計画的に進められます。
こうした積み重ねによって、社員同士の関係性が強化され、組織としての一体感も維持しやすくなります。その延長線上で、意思決定やマネジメントを円滑に行える状態を整えられることが、出社回帰の大きな効果だといえるでしょう。
4-2.出社回帰のデメリット
一方で、出社回帰には以下のようなデメリットも存在します。
・社員の満足度が低下する |
出社頻度が増加すると、通勤負担が生じるほか、働き方の柔軟性が低下しやすくなります。これにより、社員の満足度が低下することが少なくありません。
また、リモートワークを希望する求職者にとっては、エントリーしにくい企業だと受け取られる場合もあり、人材獲得競争において不利になるリスクも想定されます。
さらに、オフィスを再稼働・維持するには、設備投資や光熱費などの運用コスト増も織り込む必要があるでしょう。
出社回帰は、このようなデメリットが自社に及ぼす影響を見極めながら、慎重に進める必要があります。
5.出社回帰を進めるのが向いているケース/慎重に判断すべきケース


最後に、出社回帰を進めるのが向いているケースと、慎重に判断すべきケースを整理します。自社にとって最適な方針を見極めるうえでの判断材料として、ご活用ください。
5-1.出社回帰を進めるのが向いているケース
以下のようなケースでは、出社回帰の効果をより強く感じられるでしょう。
・生産性が下がった |
リモート環境で生産性が下がったというケースでは、確認や合意形成に時間がかかるほか、分業の進み具合が見えにくくなり、業務全体の流れが滞ることがあります。
そのため、出社によって情報共有・調整がその場で行えるようになれば、意思決定や作業の迅速化が期待できます。
また、マネジメントや評価が難しくなった場合、出社すれば進捗や働きぶりを直接確認でき、現状を正確に把握したうえでの判断・介入が可能になるはずです。
若手がなかなか育たないというケースでも、出社回帰が有効です。タイムリーなフォロー・フィードバックや暗黙知の継承が求められる業務においては、学習効率やスキルの定着度が高まりやすくなります。
さらに、チームの連携が弱まっている場合には、対面でのコミュニケーションが関係性を立て直すきっかけになる可能性があります。気軽にやりとりできることで相互理解が深まり、学び合いや助け合いが生まれやすくなるからです。
5-2.出社回帰を慎重に判断すべきケース
一方、以下のようなケースでは、出社回帰を進めるかどうかを慎重に判断すべきだといえます。
・出社によって「何がどう改善されるのか」を説明できない |
まず、出社によって「何がどう改善されるのか」を説明できない場合、出社回帰は形骸化しやすく、成果にもつながりにくくなります。
目的が不明確であれば、社員の理解を得にくいうえに、業務の進め方や期待されるアウトプットも曖昧になり、パフォーマンス向上を実感するのが困難だからです。
また、通勤や生活への影響を十分に考慮した運用ができないケースでは、社員の負担が増加し、集中力や生産性が低下する恐れがあります。結果として、出社回帰が組織全体の活性を引き下げてしまう可能性も否定できません。
出社回帰をきっかけに離職や採用難のリスクが高まる場合には、人材の安定的な確保が難しくなり、中長期的な組織力の低下につながることもあるでしょう。
さらに、出社していること自体が評価や印象に影響しやすい組織風土があるのであれば、注意が必要です。出社とリモートのハイブリッドワークを導入しても、出社している社員が有利になりやすく、不公平感やマネジメントの難しさを生む要因になります。
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まとめ
本記事では、出社回帰の実態を整理し、企業が自社にとって適切な働き方を検討するうえで押さえておきたい視点を解説しました。以下に要点をまとめます。
出社回帰とは、リモートワークのあり方を見直し、出社の比重を再び高める動きのことです。2023年に新型コロナウイルス感染症が感染症法上「5類」へ移行したことを受け、出社回帰を進める企業が増えています。
実際に、以下のような国内外の大手企業が、出社回帰を具体的な制度変更として打ち出しています。
【主な出社回帰事例一覧】
企業名 | 出社回帰の内容 |
Microsoft Corporation | 勤務時間の半分を在宅勤務→週3日以上出社 |
Amazon.com Inc | 週3日出社→週5日の完全出社 |
アクセンチュア株式会社 | 週3日出社→週5日の完全出社 |
ソフトバンク株式会社 | 出社日数の厳密な規定なし→原則週2回の出社 |
株式会社メルカリ | フルリモート可→週2日以上出社 |
LINEヤフー株式会社 | フルリモート可→週1回(部門により月1回)出社 |
GMOインターネットグループ株式会社 | 社員の8割がリモートワーク→原則完全出社 |
サントリーホールディングス株式会社 | 在宅勤務手当(1日200円)を廃止 |
日清食品ホールディングス株式会社 | 出社率上限40%→出社率上限60% |
パナソニックコネクト株式会社 | 出社日数の厳密な規定なし→週3日以上出社 |
出社回帰が進む理由には、以下の4つがあります。
1 意思決定に時間がかかり、新しいアイデアも生まれにくくなった |
企業が出社回帰を進めるメリット・デメリットは、以下のとおりです。
出社回帰のメリット | 出社回帰のデメリット |
・コミュニケーションが活性化する | ・社員の満足度が低下する |
出社回帰をスムーズに進め、成果につなげるためには、向き不向きを把握したうえで検討することが重要です。
【出社回帰を進めるのが向いているケース】
・生産性が下がった |
【出社回帰を慎重に判断すべきケース】
・出社によって「何がどう改善されるのか」を説明できない |
出社回帰は目的ではなく、事業成長を支えるための手段の一つです。自社の業務特性や人材戦略を踏まえたうえで、最適な働き方を検討するための材料として、本記事をご活用ください。
