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【事例あり】カスハラ対策6ステップ|マニュアル作成と進め方を解説

この記事で学べること

企業がカスハラ(カスタマーハラスメント)対策を効果的に進めるための6ステップを詳しく解説します。カスハラの防止は、従業員の安心と業務効率を高めるために必要不可欠です。

  • カスハラ対策マニュアルの内容例:カスハラ対策マニュアルには、方針の明確化、相談体制の整備、対応手順、記録方法、専門家との連携の仕組みが含まれる。

  • カスハラ対策に成功している企業の事例:日本航空やタリーズコーヒーなど、具体的な事例を通じて、カスハラ対策の施策がどのように効果を上げているかを紹介。

  • カスハラ対策を成功に導くポイント:正当なクレームとカスハラを明確に区別すること、ロールプレイングの実施、三変法の活用、記録の重要性、相手の真の要求を理解することが成功の鍵。

  • カスハラ対策に関する各企業の現状:企業に勤めている6,000名超に、所属企業のカスハラ対策についてアンケートを実施した結果、業界や職位によってその意識に差があることが明らかになった。

「最近、カスハラ防止条例が施行されたが、自社ではどのような対策を講じればよいのか?」
「他社のカスハラ対策事例を知りたい」

カスハラ(カスタマーハラスメント)に悩む企業は、このような疑問を抱えていることでしょう。
これからカスハラ対策を始める企業は、以下の6ステップを参考にしてください。

企業のカスタマーハラスメント対策6ステップ

その際に重要なのは、以下の点に留意して進めることです。

・正当なクレームとカスハラを明確に区別する
・ロールプレイングを実施する
・人・場所・時間を変える「三変法」を取り入れる
・常に記録をとる
・相手の本当の主張や希望を汲み取る

特に、正当なクレームをカスハラとして扱わないように注意が必要です。
顧客からの不満や要望は、企業が製品やサービスを市場のニーズに合わせて改善するための貴重な手がかりとなります。企業はこれに真摯に向き合うことが求められます。

一方で、カスハラは、「不当で理不尽な要求」や「非常識で悪質な言動」を指します。
以下の9タイプの顧客はカスハラに該当すると考えられ、企業はマニュアルを作成し、毅然とした対応をとる必要があります。

【カスハラと判断してよい9タイプ】

タイプ

1

時間拘束型

長時間、自分の対応をさせ従業員を拘束する

2

リピート型

頻繁にクレームを伝える

3

暴言型

大声、侮辱的な発言や人格否定など名誉を棄損する発言をする

4

暴力型

殴る、蹴るなど直接的な暴力、物を投げつけるなど間接的な暴力を振るう

5

威嚇・脅迫型

脅すような発言、恐怖を感じさせる言動をとる

6

権威型

優位な立場を利用し、特別扱いや土下座など無理な要求を通そうとする

7

店舗外拘束型

クレームの詳細を伝えずに、顧客の自宅や職場外に呼び出す

8

SNS/インターネット上での誹謗中傷型

インターネット上に、従業員の名誉やプライバシーを侵害する情報を掲載する

9

セクシュアルハラスメント型

従業員に対して性的な行動や発言をする

出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」をもとにCotra編集部が編集・整理

この記事では、カスハラ対策として企業が実施すべき具体的な内容を分かりやすく説明します。

◎カスハラ対策6ステップ
◎カスハラ対策マニュアルの内容例
◎カスハラ対策に成功している企業の事例
◎カスハラ対策を成功に導くポイント
◎カスハラ対策に関する各企業の現状

最後までお読みいただければ、すぐにカスハラ対策に取り掛かることができるでしょう。
この記事が、あなたの会社のカスハラ対策を万全にし、従業員を理不尽な顧客から守る手助けとなることを願っています。

目次 [非表示]

1.企業を守るためのカスハラ対策6ステップ

カスハラ対策を一から始めようという企業は、以下の6ステップで進めるとよいでしょう。

企業のカスタマーハラスメント対策6ステップ

それぞれのステップについて詳しく説明します。

「すでに実施している項目がある」という場合は、そのステップを飛ばし、以下のリンクから未実施の項目に対応してください。

1-1.方針を決める

最初に企業が行うべきことは、「カスハラにどう対応するか」という方針を明確に打ち出すことです。

この基盤が定まっていないと、カスハラが発生した際に、従業員の対応が場当たり的になってしまう恐れがあります。

例えば店舗の窓口で、顧客が「ここで買った商品がすぐに壊れたせいで、大変な不便を被った。損害を賠償しろ、土下座で謝れ!」といった不当な要求をした場合、会社の方針が示されていなければ、従業員は萎縮して「わかりました」と相手の要求を飲んでしまうこともあります。

一方で「無理です、それ以上騒ぐなら警察を呼びます」と強く出れば、相手の怒りをさらに煽る可能性もあります。

しかし、会社側が「事前に対応方針を決め、正当なクレームには迅速に対応するが、カスハラは認めない」と明確にしていれば、店員は相手の主張をしっかり聞き、カスハラに該当すれば「それはできかねます」と自信を持って断ることができます。

このように、企業全体でカスハラに対応するために、経営陣が「カスハラは絶対に許さない」「従業員を守る」といった行動指針を固める必要があります。

どのような方針を取るのか、特に以下の3点について決めておくことが重要です

【企業として決めておくべきカスハラ対策の方針】

1)カスハラに対する基本方針:「絶対に許さない」「従業員を守る」など
2)カスハラに対する対処範囲:「出入り禁止」「警察に通報も辞さない」など
3)カスハラに対する方針の外部発信:「ポスター掲示」「公式サイト掲載」「特に発信しない」など

企業にとって、カスハラから従業員や会社を守るのは今や重要な責務といえます。
東京都では、2025年4月1日から「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行され、厚生労働省もカスハラ対策を企業に義務付ける法改正を進めています。

これを踏まえて、従業員が安心して働けるような方針を定めましょう。

1-2.社内の相談体制を整える

方針が定まったら、次はカスハラに対応する際の相談体制を整えます。

以下の図は、厚生労働省が作成した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に掲載されている、社内での相談体制の一例です。

「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に記載の相談体制の一例

出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル

この例では、「カスハラかも」と感じる事例が発生した場合、従業員はまず現場にいる上司、またはあらかじめ決められた相談窓口に相談し指示を仰ぎます。

その指示に従って対応し、それでも問題が解決しない場合は、エリアマネージャーや本部、本社にさらに相談を上げ、指示を求める体制です。

このように、「まずどこ(誰)に相談するか」「それで解決しない場合は次にどこに相談するのか」「報告はどこに行うのか」といった、段階的な担当者や部署を決定し、従業員が迷わず相談や報告ができるようにしておきましょう。

また、「対応を相談する」ための窓口とは別に、「対応した従業員のメンタルケア」を行う窓口も必要です。

カスハラに対応することは非常にストレスがかかるため、「顧客対応が怖い」「接客に自信がなくなった」といった精神的なダメージを受ける従業員がいるかもしれません。

「企業がカスハラから従業員を守る」ためには、このようなアフターケアの体制を整えておくことが重要です。この内容については「1-5.専門家と連携する」で詳しく説明します。

1-3.対応方法・手順のマニュアルを作成する

方針と体制が定まったら、いよいよ実際のカスハラ対策を具体化します。
カスハラが発生したら際、従業員はどのように対応すべきかを明確にしたマニュアルを作成しましょう。

厚生労働省のハラスメント対策情報サイト「あかるい職場応援団」では、「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(スーパーマーケット業編)」を公開していますので、参考にしてください。

【マニュアルの目次例】

カスハラ対策マニュアルの目次例

【カスハラへの対応方法の記載例】カスハラへの対応方法の記載例

出典:厚生労働省 あかるい職場応援団業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(スーパーマーケット業編)

マニュアルを作成する際、まず自社で想定されるカスハラの種類や過去の事例を洗い出す必要があります。

カスハラの内容は業種や企業によって異なるため、起こりえるパターンを網羅し、それぞれに対する「対処方法」「上司への相談タイミング」「記録の取り方」などを詳細に決定してください。

その際に、ひとりの担当者だけでマニュアルをつくるのは避け、かならず複数名のチームで作成するようにしましょう。

マニュアルは担当者一人だけで制作するのではなく、必ず複数名のチームで作成するように心掛けましょう。カスハラに対する感じ方には個人差があるためです。一人が「悪質なカスハラ」と判断する事例でも、他の人からは「正当なクレーム」と捉えられる場合があります。

客観的に最善の対応をマニュアル化するためには、複数部署のメンバーで検討しながら進めることが重要です。

マニュアル作成はカスハラ対策の中でも重要なポイントですので、「2.カスハラ対策マニュアルの内容例」でさらに具体的に解説します。

1-4.応対を記録する仕組みを構築する

マニュアル作成と並行して、カスハラに対応した際の記録を残す仕組みも構築しましょう。
カスハラ対応を記録することには、以下のような意義があります。

・記録することで、顧客側が攻撃を控える可能性がある
・「言った」「言わない」の争いを未然に防げる
・トラブルを上司にエスカレーションする際、内容を正確に伝えられる
・トラブルが深刻化した際の証拠として利用できる
・社内で情報を共有し、再発防止に役立つ

カスハラに該当する事案が発生した際には、必ず「発生日時」「発生場所」「発生状況」「顧客の氏名・連絡先」「対応した従業員」「顧客の主張」「こちらの応対内容」などを詳細に記録にする必要があります。

記録方法としては、「テキスト」「録音」「録画」が代表的です。

記録方法

具体的な記録の残し方

テキスト

・従業員がメモを取り、その場でメモを取る
・記録係を設け、対応中の従業員のそばでメモを取る
・報告書の書式を作成し、対応後に記入する    など

録音

・電話の場合、全通話を録音できるシステムを導入する
・対面の場合、従業員がICレコーダーなどの録音機器を使用し、録音する   など

録画

・顧客対応場所に防犯カメラを設置し、常時録画する    など

ただし、顧客側に無断で録音や録画を行うと、裁判で証拠能力が認められない恐れがあります。また、顧客からプライバシー権や個人情報保護法に抵触すると責められる可能性もあるため、事前に「この通話は録音させていただきます」などのアナウンスを行うと良いでしょう。

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1-5.専門家と連携する

カスハラ対策には、以下のような専門家との連携も必要です。

・弁護士
・警察
・メンタルヘルスケアの専門家(カウンセラー)    など

トラブルが深刻化した際には、法的対応を相談できるよう、カスハラに詳しい弁護士と連携しておきましょう。

顧問弁護士として、トラブル発生時に相談できる体制を整えておくと良いでしょう。マニュアル作成時にも弁護士の助言を受けることで、安心感が増します。

また、カスハラがエスカレートし、暴力や脅迫などの犯罪行為が発生した場合は、警察への連携も必要が必要です。どの警察のどの部署に連絡をすればよいのかを事前に確認し、マニュアル化して周知しておきましょう。

さらに、「1-2.社内の相談体制を整える」で触れた従業員のアフターケアには、メンタルヘルスケアの専門家との連携が欠かせません。産業医や産業カウンセラー、臨床心理士などに相談できる体制を整えましょう。

社内にコンプライアンスやハラスメントに対応する部署がある場合、心理カウンセラーによるアフターケアを受けられるようにするのも良いでしょう。

1-6.対応方法を従業員に教育する

ここまでの準備が整ったら、最後に従業員にカスハラ対策を周知します。
会社の方針や従業員の対応方法、相談先について全員が認識できるように教育してください。

具体的には、以下のようなことを実施することをお勧めします。

マニュアル配布

作成したカスハラ対応マニュアルや相談体制の組織図、相談窓口の連絡先リストを配布する

研修

カスハラの定義や具体例、過去の事例と対応の成功例・失敗例を共有し、マニュアルに沿った対応方法を教育する

ロールプレイング

顧客役と従業員役に分かれ、カスハラ対応を練習を行い、見本を実演する

社内ポータルサイトがあれば、カスハラ対応マニュアルを掲載し、検索可能にしておくと効果的です。

これらの従業員教育は、正規、非正規にかかわらず全社的に行うべきです。パートやアルバイトもカスハラに遭遇する可能性があるため、会社の方針やマニュアルとは異なる対応をしてしまうと、問題が拡大する恐れがあります。

2.カスハラ対策|マニュアルの内容例

「1-3.対応方法・手順のマニュアルを作成する」で、カスハラ対応マニュアルの作成について説明しました。カスハラ対策において非常に重要なポイントですので、具体的にどのようなマニュアルを作成すればよいのか、ここから詳しく解説します。

まず、マニュアルに含める内容の一例を図示しましたので、以下をご覧ください。

カスハラ対応マニュアルに含める内容の一例

2-1.基本方針・判断基準・相談体制

まずマニュアルでは、1章で説明した企業としてカスハラ対応方針をはっきりを打ち出しましょう。
その上で、「正当なクレーム」と「カスハラ」を分けるための判断基準も明確にしておくことが重要です。自社で実際に起きた過去の事例を挙げると、理解しやすくなります。

また、カスハラが発生した際に、上司や専門の相談窓口にどのように相談をエスカレーションしていくか、流れと体制もわかりやすく示してください。

【相談体制の表事例】

「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に記載の相談体制の一例

出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル

2-2.初期対応

次に、実際のカスハラ対応について詳細に定めます。
カスハラの対応は、基本的には以下の2段階で進めます。

1)初期対応:通常のクレーム対応を行う
2)相手に合わせた対応:初期対応で収まらなかった場合、相手の要求や行動に応じて適切な対応を行う

まずは、初期対応のマニュアルを作成しましょう。通常のクレーム対応は、以下の流れで行います。

対応

トークスクリプト例

1.部分謝罪

「不快な思いや不便をあたえたこと」について謝罪する。全面謝罪をしてしまうと逆に話がこじれるので注意

「ご不便をおかけして申し訳ございません」
など

2.傾聴・共感

顧客の話によく耳を傾け、適度に共感を示す

「詳しくお聞かせください」
「それはお困りでしたね」

3.事実確認

相手の話を整理し、事実関係を客観的に確認する

「それはいつでしたか?」
「どのような不具合がありましたか?」など

4.提案

対応策や解決策を提案する

「申し訳ございませんでした。すぐ新品と交換させていただきます」など

5.謝罪・感謝

対応策・解決策が受け入れられたら、あらためて謝罪をし、お礼を述べて応対を終了する

「このたびはご不便をおかけいたしまして大変申し訳ございませんでした。ご連絡ありがとうございました」など

この流れに沿い、自社で想定されるクレームのパターンごとに、実際の受け答えをトークスクリプトにしておきましょう事前にシミュレーションやロールプレイングを行うことで、実際のクレームにも慌てず対応できるようになります。

2-3.相手に合わせた対応

初期対応で顧客が納得しない場合、本格的なカスハラ対応が必要になります。カスハラにはいくつかのタイプがあるため、相手のタイプに応じて対応を変更しましょう。

厚生労働省が作成した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、カスハラを以下の9タイプに分類しています。

【カスハラ9タイプ】

タイプ

1.時間拘束型

長時間、自分の対応をさせ従業員を拘束する

2.リピート型

頻繁にクレームを伝える

3.暴言型

大声、侮辱的な発言や人格否定など名誉を棄損する発言をする

4.暴力型

殴る、蹴るなど直接的な暴力、物を投げつけるなど間接的な暴力を振るう

5.威嚇・脅迫型

脅すような発言、恐怖を感じさせる言動をとる

6.権威型

優位な立場を利用し、特別扱いや土下座など無理な要求を通そうとする

7.店舗外拘束型

クレームの詳細を伝えずに、顧客の自宅や職場外に呼び出す

8.SNS/インターネット上での誹謗中傷型

インターネット上に、従業員の名誉やプライバシーを侵害する情報を掲載する。

9.セクシュアルハラスメント型

従業員に対して性的な行動や発言をする

出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」をもとにCotra編集部が編集・整理

これらをもとに、自社で起こり得るカスハラのタイプをリストアップし、それぞれに対して以下のことを決めていきます。

・対応の流れと具体的な対応方法:トークスクリプトを用意する
・記録の取り方:どのように記録するか、相手にどのように伝えるかを決める
・段階的な対応基準:「◯回説明してもダメなら上長に引き継ぐ」「◯時間以上居座られたら警備員を呼ぶ」など
・NG対応:事態を悪化させる対応や過去の失敗例を共有する

など

マニュアルが複雑になりすぎる場合は、トークスクリプトだけをまとめた実用向けのダイジェスト版を作成するのも良いでしょう。また、コンタクトセンター(コールセンター)の場合、システム内にマニュアルを組み込み、必要なときにすぐに検索、参照できるようにしておくと便利です。

3.カスハラ対策に成功している企業の事例

ここまで、企業がカスハラ対策をどう進めるべきかを説明しましたが、「具体的に、何をすればいいのか知りたい」「どのような対策が成功したのか、事例を知りたい」という方も多いでしょう。

そこでこの章では、実際にカスハラ対策に取り組んで成功した企業の事例をいくつか紹介します。

3-1.日本航空株式会社:既存の顧客対応マニュアルをカスハラマニュアルに拡大し、従業員研修も実施

日本航空株式会社

課題

カスハラに該当する言動や要求を繰り返す顧客によって、従業員が疲弊し、生産性が低下するケースがあった

対策

・社内に分科会を設立し、カスハラの判断基準を作成
・既存の顧客対応マニュアルにカスハラ対策を追記し、社内規程を策定
・月1回、カスハラ事案を共有し対応を検討する場を設ける
・実際に発生したカスハラ事例をもとに教材を作成し、従業員にカスハラ研修を実施

成果

顧客に対して適切に対応できるようになり、職場の安心感や働きやすさが向上

日本航空株式会社は、サービス品質世界一を目指して顧客対応に取り組んでいますが、カスハラによって従業員が疲弊する課題がありました。

2020年に厚生労働省からの「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」という指針を受け、本格的なカスハラ対策に乗り出しました。

実施した主な対策は、具体的には以下のようなものです。

・社内に分科会を立ち上げ、厚生労働省が発表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を参考にして、独自にカスハラの判断基準を作成
・既存の顧客対応マニュアルやガイドラインの内容に、カスハラ対策を追記した社内規程を策定
・月1回、カスハラ事案を共有して対応を検討する場を設ける
・実際にあったカスハラ事例を参考に教材を作成し、従業員に対してカスハラ研修を実施

これらの規定やマニュアルなどを作成するにあたっては、サービスの企画部門と対応部門はもちろん、法務部などの複数の部署が横断的にチームに参加し、さらに外部の弁護士からも意見をもらったそうです。

また、従業員に対しては「顧客の過度な言動によって『怖い』『つらい』と感じたら、その気持ちを表現してもよい」と伝え、会社が従業員を守る姿勢を明確に打ち出しました。

その結果、顧客が怒鳴っている場合でも、従業員がガイドラインに沿って対応することで相手が冷静になり、怒りを収めるケースも出てきたといいます。
適切なカスハラ対策によって、職場の安心感や働きやすさが向上した事例といえるでしょう。

参照:厚生労働省 あかるい職場応援団カスタマーハラスメント対策企業事例

3-2.A病院:患者によるハラスメントのマニュアルを策定、対応方針も積極的に発信

A病院

課題

患者やその家族による「ペイシェント(患者)・ハラスメント=ペイハラ」があった

対策

・相談窓口の開設
・担当者が週1回程度現場を巡回し、主体的にペイハラ情報を収集
・月に1回、相談があった事案の検討会を開催、対応を協議
・ペイハラへの対応方針を病院のWebサイトで公開
・来院者の目につきやすい場所に対応方針を掲示
・クレーム対応研修や、看護師向けの接遇教育を実施
・患者とのトラブルは、患者相談シートで記録

成果

患者トラブルの状況を把握でき、管理者間での情報共有も進んだ
今後は集まったペイハラ事例をマニュアルに組み込み、対策を強化する予定

A病院では、患者からの迷惑行為に悩んでいましたが、2017年に「患者やその家族による迷惑行為に関する対応方針」を策定し、従来あった患者のための相談室を、2023年から「患者と従業員の相談窓口」に進化させ、ペイハラへの対策に本格的に取り組み始めたのです。

実施した施策は以下です。

・相談窓口の担当者が週1回程度現場を巡回し、ヒアリングや情報交換で主体的にペイハラ情報を収集
・患者側、従業員側の双方からの事実確認を徹底
・月に1回、相談があった事案の検討会を開催、各部の所属長や院長とも連携して対応を協議
・ペイハラへの対応方針を病院のWEBサイトで公開、院内の目につきやすい場所にも掲示
・ペイハラ対応マニュアルを他の医療機関にも提供、情報を交換
・各部の所属長向けのクレーム対応研修や、看護師向けの接遇教育を実施
・患者とのトラブルは、通常利用している患者相談シートへ記載、記録を残す

取り組み当初は、トラブルがあっても相談窓口に持ち込まれず、現場の上長が個別に対応したり、別の窓口に相談されたりと、なかなか情報や対応が一元化できませんでしたが、担当者が積極的に現場を回って情報収集することで、徐々に状況を把握していったそうです。

これらの取り組みの結果、院内での患者トラブルの状況を相談窓口で把握でき、現場の管理者からの相談が増え、情報共有が進みました。今後は窓口に集まったトラブル事例の情報をマニュアルに反映するなど、ペイハラ対策の強化に活かしていくそうです。

参照:厚生労働省 あかるい職場応援団カスタマーハラスメント対策企業事例

3-3.タリーズコーヒージャパン株式会社:店舗スタッフのネームプレート表記を名前からイニシャルに変更し、SNSでのつきまとい行為を解消

タリーズコーヒージャパン株式会社

課題

店舗スタッフのネームプレートから顧客がSNSを特定し、つきまとい被害が発生

対策

・店舗スタッフのネームプレートを、名前からイニシャル表記に変更
・レシートに掲載するレジ担当者の表記を、名前から社員番号に変更
・トラブル発生時には迅速に連携できるよう、相談体制や対応フローを整備

成果

つきまとい被害はほぼゼロになり、安心して働ける職場環境が実現

タリーズコーヒージャパン株式会社は接客業において発生したトラブルを受けてカスハラ対策を強化しました。ネームプレートに書かれた名前を見た顧客によってSNSで検索され、つきまとわれるというカスハラ事案が発生したためです。

実施したのは以下のような対策です。

・店舗スタッフのネームプレートを、名前からイニシャル表記に変更
・レシートに掲載するレジ担当者の表記を、名前から社員番号に変更
・トラブル発生時には迅速に連携できるよう、相談体制や対応フローを整備

その結果、スタッフへのつきまとい行為はほぼゼロとなり、スタッフやその家族からも、「子どもを安心して働かせられる」という声が寄せられているそうです。

参照:厚生労働省 あかるい職場応援団カスタマーハラスメント対策企業事例

4.カスハラ対策を成功に導くポイント

ここまで企業のカスハラ対策について、具体的な方法や事例を紹介してきました。「自社でも早速対策に取り組もう」と決意した企業の方も多いでしょう。そこで最後に、カスハラ対策を成功に導くための、重要なポイントを5つ挙げておきます。

・正当なクレームとカスハラを区別する
・ロールプレイングを実施する
・人・場所・時間を変える「三変法」を取り入れる
・常に記録をとる
・相手の本当の主張や希望を汲み取る

それでは、各ポイントについて詳しく説明します。

4-1.正当なクレームとカスハラを区別する

カスハラ対策で最初に注意すべきことは、「全てのクレームをカスハラと決めつけず、正当なクレームとカスハラを区別する」ことです。

顧客からの正当なクレームは、企業が真摯に向き合うべきものであり、企業の成長や改善のための貴重な「顧客の声=VOC」です。

この区別ができていないと、顧客からの信頼を失い、成長の機会を逃すことにつながります。以下の基準に従って、正当なクレームとカスハラの違いを明確に区別してください。

分類

定義

正当なクレーム

・商品やサービスに関する具体的な不満や不具合を伝え、妥当性な範囲での改善や対応を求める

・商品が不良品だったので、交換してほしい
・接客した店員の態度が失礼だったので、改善してほしい

カスハラ

・要求内容が妥当性を欠く、または従業員の就業環境を害する行為

・商品が不良品だったので、お詫びに◯◯円(法外な金額)を支払え
・店員が失礼だ、土下座しろ!(怒鳴ったり威嚇したりする)

ただ、正当か不当かの判断を個人に委ねると、同じ顧客の言動でも異なる判断がされることがあるため、以下の対策を講じて一貫性を持たせましょう。

・正当なクレームとカスハラの具体的な事例を共有する
・クレーム発生時に、複数人で対応する体制を整える
・判断に迷った際の相談先を決定する(上司、弁護士など)

4-2.ロールプレイングを実施する

カスハラ対策のマニュアルを作成しても、必ずしも全員がうまく対応できるとは限りません。
実際のカスハラに遭遇すると、従業員は顧客の執拗な要求に戸惑ったり、威圧的な言動に萎縮してしまったりすることがあります。

そのため、マニュアルの内容をロールプレイングで練習しておく必要があります。

上司や先輩が顧客役となり、想定されるカスハラの言動を演じ、窓口担当者がマニュアルに従って対応するのが効果的です。また、研修サービスを提供している会社に委託する方法や、最近ではAIアバターを使ったトレーニングサービスなどもあります。

実践的な練習を繰り返すことで、いざというときに適切に対応できるようになります。

4-3.人・場所・時間を変える「三変法」を取り入れる

カスハラ対策として「三変法」を取り入れるのもおすすめです。
この手法は、顧客がヒートアップした際に、「人・場所・時間」を変えことでクールダウンを促す方法です。

【クレーム対応の三変法】

変えるもの

具体的な対応例

期待される効果

人を変える

「一般職員→責任者」に変更

顧客が特別扱いされていると感じ、落ち着く可能性がある

場所を変える

「店頭→個室」に移動

顧客の気持ちがリセットされ、冷静になりやすい

時間を変える

改めて折り返すことを約束する

顧客の感情が落ち着き、企業側も適切な対応ができる

カスハラ対応は、顧客が感情的になっていると解決が難しいため、上記の方法で気持ちを切り替えることが重要です。

4-4.常に記録をとる

「1-4.応対を記録する仕組みをつくる」でも触れましたが、カスハラ対策では記録をとることが非常に重要です。

記録がなければ「言った」「言わない」のトラブルが発生し、問題が深刻化した際にカスハラを証明できなくなる恐れがあります。どのようなやりとりでも、必ず記録に残すように徹底しましょう。

特に、顧客が急に激昂した場合、対応する従業員は慌ててしまい、記録が難しくなることがあります。
そのため、事前にメモをとったり録音したりできる体制を整えておくことが有効です。

また、カスハラの発生原因を分析し、トラブルを未然に防ぐためには、詳細な記録と分析が求められます。

4-5.相手の本当の主張・希望を汲み取る

最後のポイントは、顧客が本当に求めていることを汲み取ることです。

正当なクレームは要求内容が明確ですが、カスハラの場合は、最初の要求から話が逸れたり、複数の不満が混在したりすることが多いです。

このため、対応する従業員は相手の話を整理し、「この顧客が本当は何を求めているのか」を把握する必要があります。

もし顧客が、「商品が不良品だったので返金してほしい」といった合理的な要求をしている場合は、不具合箇所をしっかりと確認し、顧客の声として真摯に対応しましょう。

一方で、相手の要求が理不尽な場合は、企業として毅然とした対応をする必要があります。このように、相手の真意を汲み取ることで、適切な対応を選択できるようになります。

5.カスハラ対策・各企業の現状

これまで、「1-1.方針を決める」で、カスハラ対策を企業に義務付ける法整備が進んでいることを説明しました。
実際に、3章のようにカスハラ対策に積極的に取り組む企業も増えています。

しかし、「うちの会社では、カスハラは目立っていないから、まだ対策は必要ないのでは?」「中小企業だから、カスハラ対策に人手やコストをかけられない」という企業もあるでしょう。

では実際に多くの日本企業はカスハラ対策にどのように取り組んでいるのでしょうか?

トランスコスモスでは、企業に勤めている全国20代~60代以上の男女6,373名を対象に、所属している企業のカスハラ対策についてアンケートを実施し、カスハラ 企業の意識・対策調査2024というレポートにまとめました。

このデータを基に、日本の各企業のカスハラ対策の現状を見ていきましょう。

5-1.【職位別】「カスハラ対策が進んでいると思うか?」— 役職者の意識が高く、一般社員は低い結果に

まず、「あなたが所属している企業では、カスハラ対策が進んでいると思いますか?」という質問に対する職位別の回答を見てみましょう。

あなたの企業でのカスハラ対策の進捗度合いについてのアンケート結果

経営層を除くと、役職が上になるほど「進んでいる」という意識が高く、部長クラスでは約5割が自社の取り組みを前向きに捉えています。

反対に、一般社員や契約社員・派遣社員、アルバイト・パートなど、顧客対応の現場にいる立場の人ほど、「進んでいる」と感じる割合は減少します。

この認識の違いにはさまざまな要因が考えられます。
役職者が現場の実態を把握していない可能性や、管理職が策定した方針やマニュアルが現場で機能していないケースもあるでしょう。

いずれにしても管理職は「カスハラ対策をした」という実績だけで満足せず、現場での運用状況や従業員の声を受け取り、常に改善に努める必要があります。

5-2.【業界別】「カスハラ対策が進んでいると思うか?」— 進んでいるのは「メーカー」、進んでいないのは「医療・福祉」

同じ質問に対する回答を業界別に集計した結果が、以下のグラフです。

あなたの企業でのカスハラ対策の進捗度合いについてのアンケート結果(業界別)

「カスハラ対策が進んでいる」と答えた人の割合は、「メーカー」「情報通信」「金融」などの業界に多く見られます。一方、「進んでいない」と感じる人が多いのは、「医療・福祉」「教育・学校支援」「サービス(対面接客)」などです。

業界によって取り組みの進度は異なるようで、特にサービス業では、「サービス(電話・オンライン接客)」では「進んでいる」と感じる人のほうが多いのに対し、「サービス(対面接客)」では「進んでいない」との回答が多い傾向があります。

メーカーにおいても、「メーカー(直販)」より「メーカー(サポート・修理)」のほうが「進んでいる」との回答が24%ほど多いです。

これは、電話対応のカスハラ対策は比較的進んでいて、対面での対策は遅れている可能性が示唆されています。対面接客がある企業は、自社の取り組みを見直す必要があるでしょう。

5-3.「どんなカスハラ対策をしているか?」— 「マニュアル整備」は3割以上が実施

では、カスハラ対策をしている企業では具体的にどのような対策を行っているのでしょうか?
「あなたが所属している企業ではカスハラ対策として、どのような対策を行っていますか」という質問に対する回答は、以下の通りです。

あなたの企業で行っているカスハラ対策についてのアンケート結果

最も多かったのは「マニュアルの整備」で、3割以上の回答がありました。次いで「顧客対応者の研修・教育」「専門部署の設置」「弁護士など専門家の相談窓口設置」と続きます。

やはり取り組みやすいのは、マニュアルを作成して従業員に対応方法等を周知することです。これからカスハラ対策を始める企業も、これらを準備するとよいでしょう。

カスハラ 企業の意識・対策調査2024」では、他にも「社員がカスハラを受けた場合、所属している企業は対応をしてくれるか」「どのような対策がカスハラ防止・削減に有効か」などについて調査しています。

更に詳しく知りたい方にはアンケート結果を提供していますので、以下からお申し込みください。

まとめ

いかがでしたでしょうか?カスハラ対策として企業が何をすべきか、具体的な指針が見えてきたのではないでしょうか。改めて、この記事の要点をまとめます。

◎カスハラ対策6ステップ

STEP 1)方針を決める
STEP 2)社内の相談体制を整える
STEP 3)対応のしかた・手順のマニュアルをつくる
STEP 4)応対を記録する仕組みをつくる
STEP 5)専門家と連携する
STEP 6)対応方法を従業員に教育する

◎マニュアルは、「初期対応」と「カスハラのタイプ別対応」について具体的に決める

◎カスハラ対策を成功に導くポイントは、以下の5つ

・正当なクレームとカスハラを区別する
・ロールプレイングを実施する
・人・場所・時間を変える「三変法」を取り入れる
・常に記録をとる
・相手の本当の主張・希望を汲み取る

以上を踏まえ、あなたの会社が適切なカスハラ対策を講じられるよう願っています。

トランスコスモスは3,000社を超えるお客様企業のオペレーションを支援してきた実績と、顧客コミュニケーションの
ノウハウを活かして、CX向上や売上拡大・コスト最適化を支援します。お気軽にお問い合わせください。
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