
カスタマージャーニーとは、顧客がブランドや商品・サービスを、認知・購入・再購入するといった顧客体験のプロセスを“旅”に例えた言葉です。
カスタマージャーニーは顧客視点のマーケティングを実行するツールとして活用されています。
カスタマージャーニーでは、旅の主人公に顧客を据え、あらゆる物事を顧客視点で思考・想像するためです。カスタマージャーニーは、顧客視点が重要な現代のビジネスシーンにおいて不可欠な概念といえます。
そこで本記事では、「カスタマージャーニーとは?」について、基礎知識からわかりやすく解説します。
▼本記事のポイント ・カスタマージャーニーの基礎知識が身につく |
「カスタマージャーニーとは何なのか知りたい」
「カスタマージャーニーを活用できるようになりたい」
…という方におすすめの内容となっています。
この解説を最後までお読みいただければ、「カスタマージャーニーとは何か」はもちろん、実務で活用するためのポイントが理解できます。
結果として、カスタマージャーニーを使って顧客視点のマーケティングを実現できるはずです。では、さっそく解説を始めましょう。
目次
1.カスタマージャーニーとは
まずはカスタマージャーニーの基礎知識から見ていきましょう。
1-1.カスタマージャーニーとは顧客体験を旅になぞらえた概念
カスタマージャーニー(Customer Journey)は直訳すれば「顧客の旅」ですが、顧客がブランドや商品・サービスを、認知・購入・再購入するといった顧客体験のプロセスを“旅”に例えた言葉です。
顧客が、ブランドや商品・サービスを認知・購入・再購入していく段階では、多くの顧客接点(タッチポイント)で、さまざまな体験をします。たとえば、SNSで評判をチェックする、店頭で商品を手に取って確認する、カスタマーサポートへ問い合わせるなどの接点が挙げられます。
これら一連の顧客体験(顧客と企業やブランドが接触するあらゆる接点での顧客の体験)プロセスを、カスタマージャーニーと呼びます。
1-2.カスタマージャーニーマップのイメージ
カスタマージャーニーは「カスタマージャーニーマップ」と呼ばれる図表を使い、時系列に沿って可視化します。カスタマージャーニーマップのイメージは、以下の画像をご覧ください。
▼ カスタマージャーニーマップのイメージ
カスタマージャーニーマップでは、主に次の4つのポイントを可視化します。
・ステージ:カスタマージャーニーのスタートからゴールまでの段階 |
具体的な作成方法は後ほど「3.カスタマージャーニーマップの作り方 4ステップ」にて解説します。
1-3.カスタマージャーニーが必要な理由
カスタマージャーニーという概念がなぜ必要なのかといえば、それは「顧客視点」でのマーケティング活動を可能にするためです。
かつては、企業が作りたい製品を作って販売促進する“製品起点”でのマーケティングが一般的でした。しかし、消費者ニーズの多様化や社会のデジタル化による消費者行動の変化、市場競争の激化などにより、製品起点のマーケティングは限界が来ています。
代わって主流となっているのが「顧客視点」でのマーケティングです。製品を起点とするのではなく、“顧客のニーズ”を起点にして顧客が欲しがるものを創造し価値を提供するのが、顧客視点のマーケティングです。
顧客を主役に置き、顧客の目線で旅のプランを設計するカスタマージャーニーは、まさに顧客視点のマーケティングを実現するためのツールなのです。
カスタマージャーニーを作成すると具体的にどんなメリットがあるのかについては、次章で解説しましょう。
2.カスタマージャーニーを作成するメリット
カスタマージャーニーを作成すると、どんなメリットがあるのでしょうか。
・顧客を深く理解できる |
3つのポイントを見ていきましょう。
2-1.顧客を深く理解できる
1つめのメリットは「顧客を深く理解できる」ことです。カスタマージャーニーでは、顧客の視点に立って、さまざまなタッチポイントにおける顧客の行動や感情を明らかにしていきます。
カスタマージャーニーによって、企業サイドの都合の良い解釈や思い込みが排除され、より顧客の実像に迫ることができるのです。
加えて、カスタマージャーニーは、顧客の立場になって考えたり想像したりしながら作ります。カスタマージャーニーを通してチームに培われた思考力・想像力は、より深く顧客を理解するための武器となります。
2-2.タッチポイントごとに最適な打ち手を考えやすくなる
2つめのメリットは「タッチポイントごとに最適な打ち手を考えやすくなる」ことです。
カスタマージャーニーマップは、顧客の行動ごとにタッチポイントを可視化するという特徴を持っています。
よって、どのタッチポイントに問題があるのか・何を改善すれば良いのか、一目瞭然になるのがカスタマージャーニーの優れたポイントです。
たとえば上の図であれば[感情変化]の項目で「登録が面倒…!」と起伏が下がっているタッチポイントが、最初に改善すべき点です。
カスタマージャーニーマップは、具体的な改善アクションに直結させやすいという点で、実務の現場で活用しやすいツールといえます。
2-3.顧客と長期的に良い関係を築くために役立つ
3つめのメリットは「顧客と長期的に良い関係を築くために役立つ」ことです。
カスタマージャーニーは、顧客とブランドとの接点をその場限りの「点」でとらえるのではなく、時系列で継続していく旅のプロセスとして「線」でとらえます。これはすなわち、顧客とブランドとの関係性を時間の経過とともに深めていくプロセスとなり、長期的に良い関係性を維持するために役立ちます。
自社のブランドや商品・サービスと出会ってくださった顧客と、できる限り長く継続して良い関係性を保っていきたいと考えるなら、そのプロセスをカスタマージャーニーとして設計すると良いでしょう。
たとえば、「スタート:初回購入」→「ゴール:ロイヤル顧客化」までのカスタマージャーニーマップを作成すれば、顧客との関係構築を推進するために役立ちます。
3.カスタマージャーニーマップの作り方 4ステップ
では、具体的にカスタマージャーニーマップはどのように作れば良いのでしょうか。
ここでは作り方の流れを簡単に4ステップでご紹介します。
・ステップ1:ペルソナを設定する |
3-1.ステップ1:ペルソナを設定する
1つめのステップは「ペルソナを設定する」です。
ペルソナとは、自社の商品・サービスを最も利用してほしい象徴的な顧客像のことです。カスタマージャーニーでは、まずペルソナを明確に設定してから、設定したペルソナの視点でマップを描いていくことが重要です。
ペルソナの設定の流れは、以下のとおりです。
(1)対象となる顧客のデータ・情報をできるだけ多く集める |
▼ ペルソナの設定例
ペルソナを設定する際には、実在する人物のように名前や顔写真・イラストを添え、行動属性・パーソナリティ・現在抱えている課題(悩み)などを明確に描き出しましょう。
3-2.ステップ2:ペルソナの視点で顧客の行動を洗い出す
2つめのステップは「ペルソナの視点でタッチポイントを洗い出す」です。
ペルソナの設定ができたら、自分自身がペルソナになったつもりで想像力を働かせ、ペルソナがカスタマージャーニーのスタートとゴールの間で取る行動を洗い出していきます。
上の図ではカスタマージャーニーのスタートが「認知」、ゴールが「購入」となっていますが、ゴールとスタートは、カスタマージャーニーを作成したいテーマによって、任意で変更してください。
たとえば、先にも触れた「初回購入からロイヤル顧客への育成」をテーマにカスタマージャーニーを設計するのであれば、旅のスタートは「初回購入」、ゴールは「ロイヤル顧客化」となります。
洗い出した顧客行動は、ステージとして分類して、カスタマージャーニーマップに書き入れていきます。
3-3.ステップ3:洗い出した行動からタッチポイントを明確にする
3つめのステップは「洗い出した行動からタッチポイントを明確にする」です。
ステップ2で明らかになった顧客行動をもとに、顧客とブランドや商品・サービスが接触している点(タッチポイント)を抽出していきます。
タッチポイントはできるだけ具体的にしましょう。たとえば「SNS」ではなく「Twitter」のように曖昧さをなくして具体化しておくことで、改善アクションに結び付けやすくなります。
3-4.ステップ4:タッチポイントごとの顧客の感情を想像する
4つめのステップは「タッチポイントごとの顧客の感情を想像する」です。
それぞれのタッチポイントで、顧客はどのような感情になっているのか、その変化を想像していきましょう。感情がポジティブになるタッチポイント・ネガティブになるタッチポイントがどこなのか、感情の起伏をグラフのように示すとわかりやすいでしょう。
または、絵文字などのイラストを利用して、視覚的にわかりやすくするのもおすすめです。
▼ 絵文字などのイラストの例
顧客の感情がネガティブに振れるポイント=早急に改善すべきポイントの目印になります。このステップでも、ペルソナの視点から、ペルソナになりきって想像することが大切です。
4.カスタマージャーニーマップを作るうえでの注意点
カスタマージャーニーマップを実際に作るうえでは、注意すべき点があります。
・ペルソナ設定をないがしろにしない |
順に解説しましょう。
4-1.ペルソナ設定をないがしろにしない
1つめの注意点は「ペルソナ設定をないがしろにしない」ことです。
ここまでお読みいただいた方であれば、“カスタマージャーニーマップは、ペルソナを起点として作成される”ことにお気付きかと思います。すなわち、最初のペルソナ設定が間違っていれば、間違ったペルソナを起点として作成されたカスタマージャーニーマップもまた間違えてしまうことになります。
ペルソナを設定する際には、実在する対象者のデータ・情報を丁寧に集めたうえで、データ・情報を精査し、共通項を抽出してからペルソナとして描き出すプロセスを、割愛しないようご注意ください。このプロセスを割愛して想像だけでペルソナを設定すれば、誤った結果となります。
4-2.自社で提供しているタッチポイント以外も洗い出す
2つめの注意点は「自社で提供しているタッチポイント以外も洗い出す」ことです。
“タッチポイント”というと、自社の施策として仕掛けている接点(広告、販促など)のみを指すと解釈されているケースが散見されますが、タッチポイントはそれだけではありません。
たとえば、友人同士の口コミや一般消費者によるSNS投稿も、立派なタッチポイントです。
口コミやSNSのような、企業のコントロール外にあるタッチポイントに気付き、可視化することは、有益なカスタマージャーニーマップの作成だけでなく、これからのマーケティングを考えるうえで重要です。
▼ タッチポイントの例
・友人、家族、同僚などを経由したリアルな口コミ |
「近代マーケティングの父」といわれるフィリップ・コトラーは、著書「マーケティング4.0」の中で、“5Aカスタマージャーニー”という概念と方法論を提示しており、「マーケティング目標は、購買を起こすことでは終わらず、顧客を認知から奨励に進ませることである」と述べています。
いま把握できていないタッチポイントを、つぶさに明らかにするつもりで、カスタマージャーニーマップ作成に取り組みましょう。
4-3.企業都合ではなく顧客視点で作成する
3つめの注意点は「企業都合ではなく顧客視点で作成する」ことです。
カスタマージャーニーの主役は「顧客」です。先にも述べたとおり、顧客視点のマーケティングを実現する手段として有効なツールが、カスタマージャーニーといえます。
よって、カスタマージャーニーマップを作成するうえでは、「顧客の行動」をベースに思考する必要があります。顧客の行動をベースにせず、「顧客に、こういう風に行動してほしい」という企業都合での発想でカスタマージャーニーマップを作っても、机上の空論になってしまいます。
顧客は、企業都合で思い描いたようには行動しないからです。繰り返しになりますが、カスタマージャーニーを扱ううえでは、まずペルソナを綿密に描き、そのペルソナの視点(=顧客視点)で作成することが大切です。
5.カスタマージャーニーを活用する成功ポイント
最後に、カスタマージャーニーを活用するうえでの成功ポイントについて、3つお伝えします。
・カスタマージャーニーから改善点を発見して行動する |
5-1.カスタマージャーニーから改善点を発見して行動する
1つめのポイントは「カスタマージャーニーから改善点を発見して行動する」ことです。カスタマージャーニーマップを作っても、作りっぱなしでは、何の成果も期待できません。
作ったカスタマージャーニーマップから改善点を発見し、具体的な施策に結び付けて、スピーディにアクションを起こしていくことが、成功のコツです。
カスタマージャーニーの中で、顧客の感情がネガティブに触れているタッチポイントを探し出し、そのタッチポイントに対して必要な改善策を打ちましょう。顧客の旅が常に快適なものであるようアテンドするために、カスタマージャーニーマップを役立てるのです。
5-2.カスタマージャーニーを社内の共通言語として活用する
2つめのポイントは「カスタマージャーニーを社内の共通言語として活用する」ことです。カスタマージャーニーマップは、マーケティングや商品開発の担当者によって作成されることが多いでしょう。
しかし、カスタマージャーニーは一部の部署のみならず、全社員の共通言語として活用すると、その効果を最大限に発揮できます。なぜなら、カスタマージャーニーという全体像の中で、自分が担当しているタッチポイントがどんな役割を担うのか理解しやすくなり、結果としてあらゆるタッチポイントでの顧客体験の質を高められるからです。
作成したカスタマージャーニーマップは社内で共有し、全社員が同じベクトルに向かうための道しるべとして活用していきましょう。
5-3.カスタマージャーニーは定期的に見直す
3つめのポイントは「カスタマージャーニーは定期的に見直す」ことです。
一度作ったカスタマージャーニーが、ずっと機能し続けるかといえば、そうとはいえません。顧客が変化すれば、カスタマージャーニーも変化するからです。カスタマージャーニーマップは、定期的に見直して、変化が起きていないか確認することを忘れないようにしましょう。
具体的には、3カ月に1回程度、ブラッシュアップも兼ねて見直しを行うことをおすすめします。常にカスタマージャーニーを進化させ続けることが、顧客に最高の体験を提供することにつながります。
トランスコスモスではこれまでのコンタクトセンター事業や、デジタルマーケティング事業の経験を活かし、複数の顧客接点をまたがるカスタマージャーニーを分析するために、プロセスマイニングツール「Celonis」を活用しています。ウェブを見てチャットで尋ね、最終的に電話相談する、などといった複数チャネルを横断する顧客の動きを分析し、チャネルをまたいで新規申し込みや継続購入につながる最も効率的なゴールデンルートの可視化や問題点発見に役立てています。
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まとめ
カスタマージャーニーとは、顧客がブランドや商品・サービスを、認知・購入・再購入するといった顧客体験のプロセスを“旅”に例えた言葉です。顧客視点のマーケティングを実現する手法として、有効なツールがカスタマージャーニーといえます。
カスタマージャーニーを作成するメリットは以下のとおりです。
・顧客を深く理解できる |
カスタマージャーニーマップの作り方を4ステップでご紹介しました。
・ステップ1:ペルソナを設定する |
カスタマージャーニーマップを作るうえでの注意点は以下のとおりです。
・ペルソナ設定をないがしろにしない |
カスタマージャーニーを活用する成功ポイントとして次の3つが挙げられます。
・カスタマージャーニーから改善点を発見して行動する |
顧客視点でのマーケティングに取り組みたい方は、まず自社のカスタマージャーニーマップを作ってみるところから始めましょう。なお、カスタマージャーニーは顧客体験を可視化するツールといえますが、顧客体験について詳しくは以下の記事で解説しています。ぜひ続けてご覧ください。