
ボイスボットとは、顧客等から電話での問い合わせに対し人を介さずAI解析システムで回答することができる仕組みです。別名音声AIや対話型AIと呼ばれています。
コンタクトセンター(電話やメールに加え、SNS、チャットなど幅広いコミュニケーションチャネルを利用して、顧客と企業を結ぶ部署を指す。以前は電話コミュニケーションのみだったので、コールセンターと呼ばれており、現在でもコールセンターで表現されている所も多い。)でボイスボットを導入する場合には、以下のような場面で活用することができます。
【ボイスボットの活用場面】 |
・注文 |
ボイスボットがこのような場面で活用されれば、コンタクトセンターで課題となりがちな電話しても、待たされるといった顧客のストレスも軽減されますし、窓口営業時間外に導入することで顧客利便性も向上します。
企業にとっても顧客にとっても良いメリットがあるボイスボットですが、まだ課題も多く残っておりそれを理解して導入しないと上手く活用できず逆に顧客満足度を低下させしまうことになります。
そこでこの記事では、
・ボイスボットとは何か
・ボイスボットのメリット
・ボイスボットのデメリット・課題
・コンタクトセンターでボイスボットが活用できる場面
・コンタクトセンターでボイスボットを導入するべき理由
・ボイスボットを導入する際のポイント
・ボイスボット導入までのステップ
を解説していきます。この記事を読めば、コンタクトセンターにボイスボットを導入するメリットやデメリットが分かり、導入するべきか判断することができるはずです。
コンタクトセンターの業務効率化だけでなく顧客満足度を高めるためにもボイスボットは有効となり得るので、導入するべきなのか検討してみましょう。
目次
1.ボイスボットとは?
まずはボイスボットとは何なのか、仕組みやIVRとの違いについてお話していきます。
1-1.ボイスボットとは会話内容をAI解析し応答するシステムのこと
ボイスボットは、コンタクトセンター(コールセンター)などにかかってくる電話にオペレーターを介さず自動応答することができるシステムです。
よく使われている自動音声応答システムの一つであるIVRはプッシュボタンを操作することで顧客の問い合わせ情報を得ますが、ボイスボットは普段行う会話をそのまま解析し応答していきます。つまり、人と会話しているかのようにAIが受け答えをしてくれるのです。
詳しい仕組みについては次の項目でお話しますが、顧客からの問い合わせに対して「音声認識」や「自然言語処理解析」「音声合成」などの技術を組み合わせて、AIが応答します。
ただし、人間と同じように判断力や対応力を兼ね備えたAIシステムではなく、活用できる場面とできない場面があるということは理解しておいてください。定型的な応対や簡易的な応対はボイスボットに任せて、苦情や相談など人間にしか対応できないことはオペレーターが行うことで業務が効率化されオペレーターの負担も軽減されます。
さらに今までは、コンタクトセンターに問い合わせてもなかなか繋がらなかったり、たらいまわしにされたというような顧客のストレスが改善されることも期待できます。
1-2.ボイスボットの仕組み
では実際の問い合わせの例でボイスボットの仕組みを解説していきます。
たとえばコンタクトセンター(コールセンター)に「テレビで紹介された商品〇〇を2つ購入したい」という問い合わせをした場合、ボイスボットは以下のように対応します。
顧客の発声をAIが認識し、自動音声認識システムが発声内容をリアルタイムでテキスト化していきます。テキスト化された内容を自然言語処理システムが理解し、内容に合った回答文を自動作成します。
そして、作成された回答文を音声合成技術によって読み上げ顧客に回答します。
このように技術を組み合わせて対応していきますが、全ては対応できないケースがあります。対応できない場合を想定し、オペレーターへの転送や折返し先を伺って対応したり、webへ誘導するなどの対処を用意しておきましょう。
技術は上がってきているものの、AIで回答できないケースが発生した際のスムーズな解決策を提供できないと、結局使われなくなります。導入する際は、回答できないことが発生することを前提としたフローを作るのことがAIサービスが利用されるための第一歩となります。
1-3.ボイスボットとIVRの違い
これまでコンタクトセンター(コールセンター)の対応でよく使われていた自動応答システムとしてIVR(Interactive Voice Response)がありますが、ボイスボットと何が違うのか解説していきます。
IVRも自動音声応答システムの一つですが、プッシュ操作を通じて録音してある音声を自動再生するものです。それぞれの違いは以下のようになります。
ボイスボット | 従来型IVR | |
入力 | 音声 | プッシュボタン |
やり取りできる情報 | 文字情報・数字情報 | 数字情報のみ |
応答できる情報 | 作成されたテキストを音声合成 | 録音された音声 |
確実性 | 聞き返し等により高まる | 高い |
IVRは、プッシュボタンによる操作のため誤認識することがなく、確実性が高いというメリットがあります。しかし、操作を依頼するため音声ガイダンスが長くなりやすいことやボタンの入力作業が面倒だというように顧客にとってデメリットとなる部分もあります。
その点ボイスボットは、顧客の発話にて問い合わせが可能になり、ボタン操作の手間をなくします。また、地名や人名といった数字に置き換えにくいものを認識できるメリットがあります。
事前に設定していた質問にはすぐに問い合わせに応じた処理を行うことができるので、顧客のストレスは軽減されます。ただ、想定外の対応は認識できず回答できないケースがあることがデメリットとして挙げられます。どちらもメリット・デメリットがあるので理解してから導入を検討しましょう。
IVRについては、「コールセンターで導入できるIVRとは?メリットや注意点を解説」で詳しく解説しているので、IVRの導入についても検討している方は参考にしてみてください。
2.ボイスボットの2つのメリット
IVRシステムから大きな進化を遂げたボイスボットには、メリットが2つあります。
それぞれのメリットを詳しくみていきましょう。
2-1.IVRと比較してサポートできる範囲が広い
数字のみの認識が前提だったIVRよりも、音声を使うことによって対応できる範囲が広がります。
例えば「東京都中央区中央」という情報をIVRで取得するためには「郵便番号」などの別の数字を活用する必要がありました。顧客にキーパッドやボタンで情報を入力してもらう必要がありました。ボイスボットであれば、この作業が発生しないため顧客の手間を減らせます。
このように「発話」に対してアクションが行えることで、簡単な問い合わせをボイスボットで対応し、オペレーターに着信する呼量を減らす事が可能になります。呼量の削減が難しい電話対応についても自動応答ができることで入電数の削減が期待できます。
2-2.営業時間を延ばすことが容易
ボイスボットの対応は、人と違い24時間対応が容易です。人ではコストや勤務時間などで配置が難しかった深夜や早朝といった時間帯も比較的低コストで顧客接点を持ち、顧客満足度の向上を図ることが可能と言えます。
電話がつながりにくい時間帯に自動応答へ誘導することにより、お客様の待ち時間を削減することが可能です。それにより待ち時間の削減にもつながり、顧客満足度の向上を図れます。また電話の掛けなおしを減らすことでそう入電数の削減にも効果があります。
3.ボイスボットの2つのデメリット・課題
ボイスボットもまだまだ完璧なものではなくデメリット・課題もあります。
紹介する問題点を頭に入れたうえでボイスボットの活用を考えてみましょう。
3-1.問い合わせを正しく把握できないこともある
ボイスボットの課題1つ目は、問い合わせを正しく把握できないことがある点です。正確さでみると、IVRよりボイスボットは劣ります。
なぜならボイスボットは、以下のような要因に左右されるからです。
・音声認識の精度
・顧客の電話環境
・通信環境
IVRは番号入力をするので間違いといっても顧客側の番号の押し間違いだけですが、ボイスボットでは声が明瞭でなかったり電波の悪いところでは誤認識をしてしまう可能性があります。そこで、誤認識を防ぐために認識精度を高めることが必要です。チューニングと言い、高い認識精度を維持するためのメンテナンスをいれることです。
ただし、容易にチューニングができないシステムもあり、実施するにしてもコストがかかったりと課題はありますが、顧客満足度をあげるためには認識精度を高めたほうが良いため導入する際にはチューニングができるかどうかも検討にいれましょう。
また、最近では導入後も認識精度の低い箇所を修正したり、よりお客様が話しやすいようにフローの文言・順番・スピードを調整することにより、継続的に制度を上げる作業を繰返すことが大事だと言われています。
トランスコスモスでは、上記のチューニング・調整を専門部隊のサポートのもとで対応しています。ボイスボットの運用にご興味のある方は是非お問い合わせください。
3-2.複雑な回答が求められることには不向き
ボイスボットは複雑な回答が求められることには向いていません。AIは、計算などの機械的なものを得意とし、前後の文章から文意を組んで意味を理解することが苦手です。
そのためフリートークのように決まりがない会話の理解は難しくなります。「4-2.ボイスボットが活用できない場面」でも紹介しますが、ボイスボットは苦情や相談など会話に決まりがないものには不向きです。
しかし、一問一答式のようにある程度回答が予測できるものには、対応することができます。たとえば、名前や住所、日にちの予約などの簡単なものは予測の精度も高くなります。そこで、答えが認識できるようにするためにもフローの設計が重要です。問いかけの方法として「数字のみお答えください」等のアナウンスにするなど工夫することで、精度も上がります。
ボイスボットは今後さらに開発が進むことで複雑な対話も可能になることも期待できるでしょう。
4.コンタクトセンター(コールセンター)でボイスボットが活用できる場面
ボイスボットのメリット・デメリットを踏まえて考えると、コンタクトセンター(コールセンター)ではボイスボットが活用できる場面と活用できない場面があります。
どんなときに活用でき、どんなときに活用できないのか、それぞれみていきましょう。
4-1.ボイスボットの活用事例
ボイスボットは、以下のような場面で活用できます。
たとえば、注文の受付をする場合は以下のように対応することができます。
このように簡単な情報をヒアリングするのであれば、AIでも十分に対応が可能です。
ただ、このような場合でも顧客が答えやすいように質問を作成することが重要です。一気にいくつもの質問を入れると顧客も質問を忘れてしまったり、AIも対応できなくなってしまうので、ボイスボットを最大限に活用するためにも分かりやすく答えやすい質問を作成しましょう。
4-2.ボイスボット活用が向いてない場面
ボイスボットは、以下のような場面では活用することが難しいです。
ボイスボットは、何日・何時・何名・何泊・〇〇コースといったようなポイントを押さえた発声なら対応できるのですが、細かなニュアンスを読み取ったり、長文をヒアリングしなければならないときには対応するのが困難です。
また人間とAIの大きな違いは、顧客のニーズや態度によって対応を変えられるかにあります。たとえばコンタクトセンター(コールセンター)に苦情の電話が入った場合、人間であれば申し訳ない気持ちを声のトーンや話すスピードによってコントロールできるでしょう。
しかしAIには難しいため、カウンセリングや苦情対応業務などは向いていないといえます。
5.コンタクトセンター(コールセンター)でボイスボットを導入するべき2つの理由
2章で紹介したメリットをよりコンタクトセンター(コールセンター)の視点でみて、導入した方が良い理由が以下2つありますので紹介します。
1.コンタクトセンターの業務効率化
2.顧客満足度の向上
それぞれの理由を詳しくみていきましょう。
5-1.コンタクトセンター(コールセンター)の業務効率化
ボイスボットを導入すれば、コンタクトセンター(コールセンター)の業務効率化が期待できます。注文の受付や顧客情報のヒヤリングなど対応の一部をボイスボットに対応させることでトークタイムを短縮させることが可能です。
例えば本人確認のためのユーザーIDを事前にヒアリングしておき、顧客を特定しておいた状態でオペレーター対応が始められるようにすることや、配達状況の確認のための伝票番号を読み上げていただき、オペレーターは配送結果部分だけをお伝えするなどといった対応が可能になります。
IVRでも業務の効率化はできますが、IDにアルファベットが入っていたり、よくある質問などには答えることはできません。
しかし、ボイスボットではフローが設計されている質問には答えることができ、オペレーターにつなぐ必要がなくなるためさらに業務の効率化が見込まれます。対応可能な内容をボイスボットに任せることで、人でなければできない対応のみに専念できます。
完全にボイスボット任せにすべて切り替えることは難しいですが、作業を分担することで業務の効率化は図れるようになるでしょう。
5-2.顧客満足度の向上
これまでIVRを利用していたコンタクトセンター(コールセンター)も、ボイスボットを取り入れることで顧客満足度を上げられるようになります。IVRのデメリットとして前述のとおり、ボタンの入力作業が面倒な点を解消できます。
また、繁忙時などでOPにつながりにくいタイミングに自動応答に転送する(選択する)という方法で、待ち呼の削減・かけなおし削減(呼量削減)を図るといった使い方や営業時間外への対応も可能です。
これらの問題を解決できるボイスボットは、お客様にとってわずらわしさを回避し、利便性を高めることが可能で、顧客満足度アップにもつながります。
6.ボイスボットをコンタクトセンター(コールセンター)に導入する際の3つのポイント
ではボイスボットを導入する際、頭に入れておきたい3つのポイントを整理しておきましょう。
事前にポイントをおさえておくことで、導入後もスムーズに対処できるようになります。
6-1.運用ニーズに合った機能があるボイスボットを選ぶ
ボイスボットは、運用ニーズに合った機能があるか見極めてから選ぶことが大切です。音声認識AIサービスはいくつかの会社が提供していて、それぞれに特徴があるのでニーズに合ったものを選ぶ必要があります。
ニーズのよくある種類としては以下が挙げられますので、自社のコンタクトセンターの運用ニーズを踏まえてご検討ください。
<ボイスボットを選ぶ代表的なニーズ> ・認識率(使用する音声エンジン) |
6-2.オペレーターと直接会話する導線を用意しておく
ボイスボットを導入することで顧客対応をすべて網羅できると考える事は危険です。
ボイスボットは、長文や複雑な回答への対応などまだまだ課題もあります。ボイスボットに頼りきりになるとなかなかオペレーターに繋がらなかったり、ボイスボットから欲しい回答が得られないのに時間ばかりかかってしまい、顧客満足度が下がってしまうこともあります。
そこで、オペレーターへの導線を用意できるシステムを選ぶことをお勧めします。適正数のオペレーターの配置を行い、ボイスボットでの対応が難しい場合はオペレーターに通話が回るように設定しておきましょう。
6-3.チューニングの工数やコストも確認しておく
ボイスボットの認識精度を維持するためにも定期的にメンテナンス(チューニング)を行う必要があります。そのためチューニングの工数やコストを確認してからどのボイスボットを利用しようか考えるのも1つの目安です。
チューニングとは音声認識エンジンが自動学習をして、テキスト化の精度を上げていくものです。データを読み込ませてチューニングをするものや自動的にチューニングをしてくれるものもあります。
自動的にチューニングをしてくれるものが便利ですが、その分コストも月額費用も高くつく場合があるため、継続して使い続けることができるのか検討してみましょう。
6-4.シナリオ作成の容易さ
ボイスボットは、有人で運用しているコンタクトセンター(特に電話窓口)では有効性の高いものとなります。例えば、新サービスの開始や変更などに伴い、入電数の増加が予想されますが、応対要員を増員するには、労働人口減少の影響で採用がしにくい、採用できても教育コストや時間がかかるという課題があります。
その際に、ボイスボットが対応できる領域を都度シナリオ作成して対応していくことで、従来よりは応対要員を増員することなく対応することや、内容によっては増員しないで対応することも可能です。そのため、シナリオ作成が簡単に出来るか、UIが優れているのかなどは検討項目にいれておきましょう。
7.ボイスボット導入までのステップ
ボイスボットの導入が決まったら以下のようなステップで、稼働していきます。
このようなステップでボイスボットを稼働まで進めていきます。稼働しても何度か修正と確認を繰り返す必要があるので、いつまでにリリースしたいという目標は余裕を持って設定しておくようにしましょう。
またこちらはあくまでも参考程度でありどのようなボイスボットを実装するかによって変動します。ボイスボット(音声AI)を活用したサービスについては、以下の動画を参考にしてください。
トランスコスモスのボイスボット(音声AI)について詳しい資料は以下のリンクからご確認いただけます。是非ご参照ください。
まとめ
ボイスボットは、コンタクトセンター(コールセンター)などにかかってくる電話にオペレーターを介さず自動応答することができるシステムです。
そしてボイスボットには、以下のようにメリットがあります。
・IVRと比較してサポートできる範囲が広い
・営業時間を延ばすことが容易
さらにコンタクトセンターにボイスボットを導入するべき理由として以下の2つがあげられます。
1.コンタクトセンターの業務効率化 |
これらのことを考慮して、ボイスボットを導入するべきか判断する必要があります。
また、導入する際には以下の3つの点に注意して導入するようにしましょう。
1.運用ニーズに合った機能があるボイスボットを選ぶ |
ボイスボットを上手く活用して、業務の効率化や顧客満足度の向上を目指しましょう。