コーチングとは、思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くことである」とICF国際コーチング連盟(http://icfjapan.com/faq)では定義されています。
もっと簡単に言うと、自身の目標達成のために自身の可能性を最大化できるようコーチとパートナー関係を築くコミュニケーション手法です。
コーチングをコンタクトセンター(電話やメールに加え、SNS、チャットなど幅広いコミュニケーションチャネルを利用して、顧客と企業を結ぶ部署を指す。以前は電話コミュニケーションのみだったので、コールセンターと呼ばれており、現在でもコールセンターで表現されている所も多い。)で活用すると、オペレーターのモチベーションアップや自発性の向上に役立ちます。
ただし、コーチングの効果を発揮するためには、基本的な原則やスキルを把握しておく必要があります。
そこでこの記事では、コーチングの基礎知識やコンタクトセンターでコーチングを導入する方法をまとめて解説していきます。
◎コーチングとは
◎ティーチング・カウンセリングとの違い
◎コーチングの3原則
◎コーチングの5つのスキル
◎コーチングをコンタクトセンターで活用する3つのメリット
◎コーチングをコンタクトセンターで活用するデメリット
◎コンタクトセンターでのコーチングの手順
◎コンタクトセンターでコーチングをするときの3つのポイント
この記事を最後まで読めばコーチングの基礎知識やコーチングの導入方法が把握でき、コンタクトセンターで有効活用できるはずです。
オペレーターの成長促進や離職率低下のためにも、ぜひコーチングを取り入れてみましょう。
1.コーチングとは
簡単に言うと目標達成のために必要な知識やスキルを共に考え自発的な行動を促すコミュニケーション方法であり、答えを見つけ出すサポートをすることがコーチングです。指導する立場にある人が一方的に指示をしたり解決策を提示したりするのは、コーチングではありません。
コーチングは「答えはその人自身の内側にある」と考えており、外部が与えた答えは情報でしかないと捉えられます。つまり、知識や経験など指導する立場が持っている経験値を伝えてもそれは情報でしかなく、本人がどうするのか、どう考えているのかが重要となります。
そのため、指導者はコーチングを受ける人とのコミュニケーションで
・新たな気づきを与える
・目標達成に必要となることをともに考える
・行動や考え方の選択肢を増やす
などのサポートを行い、本人が納得できる答えを生み出します。コーチングを受ける人が主体的に考え、本来持っている力を最大限に発揮できるようにすることがコーチングの役割です。
コンタクトセンター(コールセンター)でのコーチングは管理者がオペレーター個人の目標や悩みに合わせたサポートを行い、自発的な行動や現状の改善につながるようにしていきます。
2.ティーチング・カウンセリングとの違い
コーチングと似た言葉に、ティーチングとカウンセリングがあります。
ティーチング | 指導者が自分の持つ知識や経験を伝えることで成長を促す方法 |
カウンセリング | 専門的な知識を持つカウンセラーと対話をすることで、悩みや問題が解決できるようにサポートする方法 |
言葉自体は似ていますが、コーチングとは考え方が大きく異なります。コーチングの意味を正しく捉えるためにも、言葉の違いを把握しておきましょう。
2-1.コーチングとティーチングの違い
ティーチングとは、指導者が自分の持つ知識や経験を伝えることで成長を促す方法です。学校の授業やスポーツやジムでの技能指導は、ティーチングに当てはまります。
ティーチングは受ける人の知識量や技術を増やし、今までできなかったことをできるようにすることが目的です。コーチングとティーチングには、下記のような大きな違いがあります。
①答えの違い
ティーチングは、新たな知識や技術を知ること自体が答えです。今まで知らなかったことを教わることで、指導者から答えを与えてもらいます。
例えば、新しい言語を教わる、新たなボールの投げ方を教わる場合は、今まで知らなかった知識を身につけることになるため、自分の中に答えはありません。指導者から教わったことが答えとなり、答えを知ることで成長につながります。
一方で、コーチングはコーチングを受ける人の内側に答えがあると捉えます。その受ける人の内側にある答えを導きだすのがコーチングです。
例えば、電話を受けたときの第一声が上手に言えないという悩みを抱えていた場合、コミュニケーションを取りながら悩みを抱えている本人が納得できる答えを導き出します。このように、コーチングとティーチングでは、どこに答えがあるのかが異なります。
②取り組み方の違い
ティーチングは、指導者から知識や技術を教わります。自分で考えて行動するというよりも、指導者に依存して指導者に言われたとおり実践することが多いです。
コーチングは、自ら考えないと答えや行動に結びつきません。コーチングを受ける側が主体的に考えて行動する必要があるため、自分で創意工夫をする力が身につきます。
このように、ティーチングとコーチングでは目的や答えの導き方が異なるため、明確な使い分けが必要です。
ティーチング | コーチング | |
概要 | 指導者が自分の持つ知識や経験を伝えることで成長を促す | 答えを見つけ出すサポートをする |
答えの導き方 | 新たな知識や技術を伝える | 自分の内側にある答えを引き出す |
取り組み方 | 受動的 | 自発的 |
2-2.コーチングとカウンセリングの違い
カウンセリングとは、専門的な知識を持つカウンセラーと対話をすることで、悩みや問題が解決できるようにサポートする方法です。
人間の心理や発達などの学問に基づく対人援助活動とも定義されています。例えば、仕事に行けない悩みを抱えていた場合、対話をしながら専門的な知識を駆使し原因や改善策をともに考えるのがカウンセリングです。
カウンセリングとコーチングは、どちらも相手の話に耳を傾けるところは同じです。しかし、カウンセリングは興奮している状態を落ち着いた状態に戻すなど気持ちの改善に重きを置いています。相手の気持ちに寄り添って、マイナスの状態を改善していくことが目的です。
一方で、コーチングは相手の気持ちを引き出し、主体的に行動できるようにしていきます。相手の気持ちに寄り添うというよりも気持ちや感情を刺激して、気付きを与えることが目的です。
カウンセリング | コーチング | |
概要 | 専門的な知識を持つカウンセラーと対話をすることで、悩みや問題が解決できるようにサポートする | 答えを見つけ出すサポートをする |
答えの導き方 | 相手の気持ちに寄り添う | 自分の内側にある答えを引き出す |
取り組み方 | 受動的 | 自発的 |
3.コーチングの3原則
コーチングには、インタラクティブ・オンゴーイング・テーラーメイドの3原則があります。
コーチングの3原則 | |
インタラクティブ(双方向) | 双方向のコミュニケーションであること |
オンゴーイング(現在進行形) | 成果が出るまで関わり続けること |
テーラーメイド(個別対応) | 一人一人に合わせた個別対応をすること |
この3原則が守られていないと、コーチングとは言えません。コーチングを明日から実践していくためにも、チェックしておきましょう。
3-1.インタラクティブ(双方向)
1つ目の原則は、双方向であることです。一方的なコミュニケーションはどうしても受動的、支配的な関係になりやすいです。
例えば、ミーティング時に上司が一方的に意見を言っているとしましょう。これでは、オペレーターの意見は伝わらず上司の言われたとおりに動くしかありません。
自分で考えて行動することができないのはもちろんのこと「上司に確認したい」「上司の意見を聞かないといけない」と考えるようになり、支配的な関係が構築されます。
一方的なコミュニケーションでは、コーチングが目指す姿とかけ離れてしまうのが分かるでしょう。そこで、相手の意見を聞く、相手に意見を言わせる双方向が重要です。
双方が自由に意見を出し考え方や選択肢を深めていける関係を構築することで、自発的に考えて行動する力が身につきます。
3-2.オンゴーイング(現在進行形)
2つ目は、成果が出るまで関わり続けることです。コーチングは、一度実施しただけで結果が出ることはまずありません。一度コーチングを受けて答えが明確になっても、行動に移せるかどうかは別問題です。
理解はできていても、いざ仕事で実践しようとすると行動ができないことはよくあります。実際に、コーチングの成果が出るまで数年かかるケースもあるのです。
だからこそ焦らずに、継続してコーチングをしていくことが欠かせません。実践とフィードバックを繰り返し現在進行形で関わり続けることで、少しずつ変化を実感できるようになります。
3-3.テーラーメイド(個別対応)
3つ目は、一人一人に合わせた個別対応をすることです。人によって考え方や価値観は大きく異なります。それにも関わらず集団で取り組んだり全員に同じ方法を当てはめたりしても、思ったような効果が得られません。
体型や好みに合わせて一人一人に合う服を選ぶように、コーチングも一人一人の価値観やコミュニケーション方法に合わせて変えていく必要があります。
相手に合わせてコミュニケーションの取り方や適切な言葉選びをして、相手の中から答えを引き出します。
コーチングの3原則を実現するには、どのようなスキルが必要になるのか気になるところですよね。続いて、コーチングに必要なスキルについて詳しく見ていきましょう。
4.コーチングに必要な5つのスキル
コーチングには、下記の5つのスキルが必要です。
コーチングに必要な5つのスキル | |
傾聴 | 相手の話を聞くスキル |
質問 | 得た質問ができるスキル |
承認 | 相手の存在を認めるスキル |
要望・提案 | 目的や目標達成のために新しい視点や方法、行動を促すスキル |
フィードバック | 今までの成果や取り組み方を振り返り、軌道修正をするスキル |
このスキルのいずれかが欠けていると、コーチングの成果を最大限に高めることができません。どのようなスキルが必要なのか知っていれば意識することができるので、参考にしてみてください。
4-1.傾聴
傾聴とは、相手の話を聞くスキルです。人は自分の話を聞いてくれる人に心を開くと言われています。コーチングではコーチングを受ける側が8、指導者は2の割合で話をして相手の話に耳を傾けることが重要です。
具体的にどのように話を聞くのかと言うと、傾聴手法のひとつであるアクティブリスニングを行います。アクティブリスニングとは、相手が話していることを相手の立場に立ち理解するあり方のことです。
相手が話していることをただ聞いているのではなく、相手の立場になり話を聞きます。すると、相手が言葉にしていなくても言わんとしていることやどのような価値観や考え方をしているのか見えてきます。
積極的傾聴では、次の2つのコミュニケーションスキルが必要です。
①バーバルコミュニケーション(言語コミュニケーション)
バーバルコミュニケーションとは、言葉や文字にしてコミュニケーションを取る方法です。言葉にすることで相手への共感や興味を示し、より深い理解や気付きにつなげます。コーチングで使えるバーバルコミュニケーションには、以下のようなものがあります。
・オウム返し:相手の話した言葉を繰り返すこと。共感や確認の意味がある。
・相槌を打つ:相手の話している内容に合わせて「うんうん」「なるほど」など共感する。
・質問をする:相手の話した内容に対して質問をする。理解を深めたり気付きを与えたりするきっかけとなる。
②ノンバーバルコミュニケーション(非言語コミュニケーション)
ノンバーバルコミュニケーションは、言葉以外のコミュニケーションを指します。コーチングをしているときの姿勢や表情、声のトーンから「話を聞いてもらえている」という印象を与えます。
例えば、相手が楽しい話をしているときに聞き手が暗い表情だと、これ以上話したいと感じません。相手の話している内容に合わせて表情を変えることで、安心して話せる状態を作ります。
また、声のトーンや話す速度によっても与える印象が異なります。相手のトーンや速度に合わせて、話しやすい状態を作りましょう。
このように、コーチングにおける傾聴は単に話を聞けばいいわけではありません。相手の立場で理解をし、相手が話しやすい状態を作るスキルが必要です。
4-2.質問
コーチングは、目標や目的を達成するための答えを引き出す必要があります。そのためには、的を射た質問ができるスキルが欠かせません。
コーチングでは、下記のような質問をしていきます。
質問の種類 | 概要 |
オープンクエスチョン | 質問を受けた人が自分で考えて答える質問 |
例:「目標達成に必要だと感じることはなんですか?」 | |
掘り下げる質問 | 曖昧な回答や話を具体的にする質問 |
例:「それはどういうことですか?」 | |
広げる質問 | 回答の幅を広げてアイデアを出すための質問 |
例:「他にはありますか?」 | |
過去と未来を確認する質問 | 具体的に課題と理想を確認するための質問 |
例:「1ヶ月後にはどうなりたいですか? |
コーチングはイエスやノーで答えられる質問ではなく、自分の言葉で話さなければならないオープンクエスチョンが基本となります。自分で考えて言葉にすることで、イメージが具現化しどのような行動をすべきか明確になります。
オープンクエスチョンを展開する中で、その意図を確認したい場合はyes/no型のクローズクエスチョンを活用することも効果的なので、必要に応じて使い分けてください。
4-3.承認
承認とは、相手の存在を認めることです。承認は現状をありのまま受け入れることなので、他人との比較や評価を含みません。ただ認められることが安心感につながり、前向きな行動を起こせるようになります。
また、承認されることで認めてくれていると感じられるため、良好な関係の形成にもつながります。承認には、下記の4つの種類があります。
承認の種類 | 概要 |
存在承認 | 相手が居てくれること、存在していることを承認すること |
例:「いつも業務をしてくれていて助かっています」 | |
事実承認 | 相手が行った努力や好ましい行動を認めること |
例:「細かな部分に気を遣ってくれてありがとう」 | |
成長承認 | 相手の成長を認めること |
例:「先月が1件だったけれど、今月は5件できているね」 | |
成果承認 | 具体的な成果や結果を認める |
例:「最後までやり遂げたね」 |
このような4つのシーンで承認を心がけると、コーチングを受けている人は前向きに取り組めるになるでしょう。
承認をするときに気を付けたいのは、「褒める」との違いです。承認はありのままの状態を伝えることですが、褒めるには肯定的な評価が含まれるところが大きな違いです。
例えば、承認では「今月も目標達成ができましたね」とありのままの状態を伝えますが、褒めるでは「今月も目標達成ができて、本当に凄いですね」と評価が含まれます。
褒めることは悪いことではないのですが、とって付けたように褒めると警戒心を生み「おだてている」と捉えられる可能性があります。相手を褒めるよりも認めることを意識して、コーチングすることが大切です。
4-4.要望・提案
要望や提案は、目的や目標達成のために新しい視点や方法、行動を促すスキルです。コーチングはあくまでも答えはその人自身の内側にあると考えるものなので、新しい方法や行動を強要しないようにしましょう。命令や指示になってしまっては自発的な行動につながりません。
決定権はコーチングを受けている相手にあることを念頭に置いて、要望や提案をすることが大切です。要望や提案をするときには、相手に気付きを与えられる内容が理想です。
・他にもこのような方法があるがどう思うか
・過去にこのようなことをしたら成功した
など、指導者側の意見を押し付けるのではなく経験談を話す、相手の意見を聞くなどの工夫をしてみるといいでしょう。
4-5.フィードバック
フィードバックは、今までの成果や取り組み方を振り返り、自身の特技や強みを促進する、軌道修正をすることです。先ほども述べたように、コーチングは一度実施しただけでは結果を得られません。
フィードバックを繰り返し行い自発的に行動ができるよう促すことで、結果が見えるようになります。コーチングで行うフィードバックには、下記の2種類があります。
強化型フィードバック | 特技や強みを促進させる方法 |
修正型フィードバック | 目標達成のために必要な行動を促したり軌道修正をしたりする方法 |
強化型フィードバックは相手の良さを伝えることで、モチベーションアップや気付きにつなげる方法です。
一方で修正型フィードバックは、目標を達成するために必要な行動を促します。軌道修正を行う方法ではありますが相手を批判するのではなく、目標達成のためにどうするべきか相手が自分で選択することが大切です。
良質なフィードバックを繰り返すことでコーチングの効果を高めることができるため、コーチングも欠かせないスキルだと言えるでしょう。
5.コンタクトセンター(コールセンター)でコーチングをする3つのメリット
コンタクトセンター(コールセンター)でコーチングを活用することで
・モチベーションを継続できる
・オペレーターの成長や気付きにつながる
・主体性や自主性を身につけられる
という3つのメリットがあります。それぞれどのような部分がメリットとなるのか、チェックしてみましょう。
5-1.モチベーションを継続できる
「3.コーチングの3原則」でも解説したように、コーチングは目標達成や成果が出るまで二人三脚で行います。一人で目標達成に向けて取り組んでいるとモチベーションが下がることがありますが、定期的にコーチングを受けることでモチベーションが維持しやすくなります。
また、コーチングでは否定をすることはありません。どのような考えや意見も承認することから始めるため「自分の対応は悪かった」「自分はレベルが低い」などと、ネガティブな感情を抱かず前向きに業務に取り組めます。
コンタクトセンター(コールセンター)全体のモチベーションが上がると、生産性や顧客満足度向上が見込めます。それだけでなく、オペレーター一人一人がやりがいを持ち勤務できるようになり、離職率の低下にもつながるでしょう。
5-2.オペレーターの成長や気付きにつながる
「1.コーチングとは」でも述べたように、コーチングでは「答えはその人自身の内側にある」と考えます。つまり、今まで気付かなかった自分の長所や思いに気付けるようになるのです。
例えば、苦情対応が苦手だと感じているオペレーターがいるとします。コーチングをして自分の強みや考え方を深掘りしていくと、苦情対応が苦手なのではなく知識が身についていないことに気が付きました。
この気付きを基に苦情対応に必要な知識を養い業務に取り組んだところ、苦情対応が苦手ではないことが分かったのです。その後は自信を持ちオペレーター業務ができるようになり、成長へとつながりました。
このように、コーチングでの気付きが後押しとなり、オペレーターを成長させることがあります。一人一人のオペレーターに合わせた気付きや成長の機会を与えられるのは、コーチングのメリットだと言えるでしょう。
5-3.主体性や自主性を身につけられる
コーチング指導や指示されたことを行うのではなく、自分自身で考えて行動に移します。コーチングを繰り返すことで、自然と主体性や自主性が身につきます。
「4.コーチングに必要な5つのスキル」でも解説しましたが、コーチングを行う側は、傾聴・質問・承認の3つのスキルが必要です。
この3つのスキルが向上すると、コーチングを受ける側の主体性がアップすることが分かっています。
つまり、適切なコーチングは自分で考え行動する力を養うのです。オペレーターの主体性や自主性が向上すると、臨機応変な対応ができるようになります。
それだけでなく上司の指示を待たなくても適切な判断ができるようなスキルも身に付きます。
6.コーチングのデメリット
コーチングのメリットが把握できたところで、気になるのはデメリットです。デメリットとしては、どのようなことが考えられるでしょうか。
コンタクトセンター(コールセンター)でコーチングの導入を検討するときに知っておきたいポイントなので、ぜひチェックしてみてください。
6-1.個別対応が求められるため指導に時間がかかる
コーチングは個別対応が求められるので、管理者の負担が大きいです。一人一人の課題や悩みに合わせて答えを作り出すサポートをしなければならないため、誰一人として同じサポートにはなりません。
「4.コーチングに必要な5つのスキル」で解説したような管理者のスキルにより結果が左右される側面もあるため、コーチングの基本を身につける必要があります。
また、すべてのオペレーターと一対一でコーチングをするので、単純に時間がかかるところも懸念ポイントです。コーチングを導入すると管理者の負担が大きくなることは、事前に把握しておきたいデメリットです。
6-2.すぐに結果が出るわけではない
コーチングは、即効性のある方法ではありません。一度コーチングを受けて自分の内側にある答えに気付けても、実際に行動ができるかは別問題です。
行動できるようになるまでには壁があり、壁を取り除くコーチングが必要な場合もあります。「3-2.オンゴーイング(現在進行形)」でも述べたように、人によっては成果が出るまで数年かかるケースもあるのです。
そのため、すぐに結果に結びつけたいと考える場合には、向かない方法であることを知っておきましょう。
コーチングのメリットとデメリットが把握できたところで、次の章では実際に行う場合の手順を詳しく見ていきましょう。
7.コンタクトセンター(コールセンター)でのコーチングの手順
コンタクトセンター(コールセンター)でコーチングをするときには、下記の手順で実施します。
手順ごとに重要なポイントがあるため、1つずつ確認していきましょう。
7-1.アイスブレイク
目的:日頃の仕事を労い、信頼関係を築く |
アイスブレイクは、オペレーターの緊張をほぐしコーチングしやすい状態を作るために行います。繰り返しとなりますが、コーチングは自分自身の中にある答えを見つけ出すことが目的です。
緊張している状態では気付きや自分の意見、思いが話しにくいため、オペレーターにリラックスしてもらいましょう。
具体的には、オペレーターの日頃の活動を承認します。「4-3.承認」でも解説しましたが、承認はありのままの状態を受け入れることです。承認されると「認めてくれている」「気にかけてもらっている」と感じられるため、良好な関係が築きやすくなります。
【会話例】 「今日は10分ほどコーチングの時間を持ちたいのですが、よろしいですか?」 |
7-2.目的確認
目的:コーチングの目的とゴールを明確にする |
オペレーターの気持ちがリラックスしたところで、コーチングの目的とゴールを共有します。
・何のための時間なのか
・どのようなゴールを目指して話をするのか
把握できていない状態で一方的に話すのは、説教と同じです。相手の気持ちや考えを置き去りにしています。そこで、コーチングを始める前に、目的とゴールを話します。
例えば、「今日は動務状況の確認と、もし改善が必要なら具体策を考えて取り組める内容を明確にしていきましょう」と話すと、今日話す内容と最終的なゴールが分かります。
この一文を話した後にはオペレーターの考えや意見を聞いて、同意が得られたところで本題に進みます。
【会話例】 「今日は動務状況の確認と、もし改善が必要なら具体策を考えて取り組める内容を明確にしていきましょう。」 |
7-3.現状把握
目的:現状がどうなっているのか明確にする |
コーチングの目的に応じて、現状がどうなっているのか把握します。例えば、目標が勤務状態の確認の場合は「今月は遅刻が2回あった」「今月はあまり出勤できていない」という事実を確認するのが現状把握となります。
現状把握のポイントは、今の状態をオペレーター本人が語ることです。現状のデータを目にすることはあっても、オペレーター自身が自分の現状を口にする機会が少ないです。敢えて言葉にすることで、気付きや目標とのギャップの認知につながります。
現状把握をするときは、指導者は傾聴スキルを使いオペレーターの声に耳を傾けることに徹しましょう。「遅刻ばかりでよくない」「どうして遅刻をしたの?」など、責める発言や否定的な発言をしてはいけません。オペレーター自身が現状を認識できるようにサポートをすることが大切です。
【会話例】 「目標と比べると、現状はどうなっていますか?」 |
7-4.課題特定
目的:課題や目標と現状のギャップを把握する |
現状を把握すると、課題や目標と現状の間にギャップがあることに気付きます。なぜギャップがあるのか明確にすることで、取り組むべきことが分かってきます。
課題を特定するときのコーチングには、2つのポイントがあります。1つ目は、オペレーターを責めたり否定したりする質問をしないことです。
コーチングは相手を否定せずに、承認することが基本です。課題や目標と現状の間にギャップがあってもそれを受け入れ、前向きに取り組むことが大切です。例えば、遅刻が多いオペレーターに「どうして遅刻ばかりするのですか?」「持病でもあるのですか?」と問いかけるのは、否定的な質問となります。
「どうすればよかったと思いますか?」「ギャップが生まれる原因に、思い当たることがありますか?」と現在を否定せず、前向きに考えられる質問をしましょう。
2つ目は、対話をすることです。どちらかが一方的に話していては、本質に迫ることができません。「4-2.質問」のスキルを使い、対話をしながらギャップの原因を明確にしていきましょう。
【会話例】 「残りの〇〇点はどうすれば達成できますか?」 |
7-5.改善案立案
目的:課題や目標と達成のためにやるべきことを明確にする |
課題が明確になったら、どのように改善するのか行動レベルで明確にします。管理者が「明日から遅刻しないように10分早く起きられますか?」などの行動を示すと、指示となります。
オペレーター自身が導き出した答えではないため、コーチングの効果が得られません。改善策はオペレーターが提案することが大切です。
そのときにできる限り細かく明確な改善案を作り、なぜそれが必要なのかを紐付けます。例えば、「遅刻をしないように早起きをします」とオペレーターが言った場合、「どのように早起きをしますか?」と質問をして「7時に起きます」「7時に家を出ます」などより具体的な行動を明確にします。
その後に「早起きをすることで何が変わりますか?」と質問をして、改善策を実施する必然性を確認しましょう。
【会話例】 「どのように行動を変えると良くなりますか?」 |
7-6.目標設定
目的:具体的な行動計画を設定して、目標達成プロセスをより明確にする |
改善案立案で決めた改善策を、どのように達成するのか具体的な計画を立てます。目標設定時も、管理者側が一方的に提案するのは避けましょう。
とくに「1ヶ月以内にできますか?」「〇回ならできそうですか?」など、管理者側がスケジュールや計画を決めてはいけません。コーチングはオペレーターの自発的な行動をサポートするものなので、オペレーターが実行可能なスケジュールを自分で決めてもらいます。
とは言え、コーチングを始めたばかりの頃は、自分の意思でスケジュールを決められないオペレーターもいるでしょう。そのときには二択や三択を用意して、オペレーター自身に選択してもらいます。自分で選択して自分で決めることが、コーチングの成果へとつながります。
【会話例】 「具体的な計画を教えてもらえますか?」 |
7-7.振り返り
目的:目的達成ができたかコーチングを振り返る |
最後に、コーチングのスタート時に確認をしたゴールや目的が達成できたか確認をします。「面談のゴールは達成できましたか?」などと質問をしてフィードバックをもらうことで、次回のコーチングに活かせます。
また、コーチングは継続して行うことが大切です。終了前に時間のコーチングの時間を決める、困りごとがあったらサポートをするなどを伝えて、今後も継続的にサポートをしていくことを伝えましょう。
【会話例】 「この時間を通じてどのような成果がありましたか?」 |
8.コンタクトセンター(コールセンター)でコーチングをするときの3つのポイント
最後に、コンタクトセンター(コールセンター)でコーチングをするときに知っておきたい3つのポイントをご紹介します。
コーチングをするときに知っておきたい3つのポイント |
・オペレーターごとの目標を明確にする |
このポイントを把握するとコーチングの質が向上するので、ぜひ参考にしてみてください。
8-1.オペレーターごとの目標を明確にする
コーチングは、個人対応が基本です。スキルや勤続年数の異なるオペレーターが、同じ課題を抱えているとは捉えません。一人一人の現状に合う目標が設定できるようにサポートをしましょう。
「7.コンタクトセンター(コールセンター)でのコーチングの手順」でも解説しましたが、目標を設定するのはオペレーター自身です。コーチングでは、自分自身の中に答えがあると考えるからです。管理者が目標を設定するのは指示となり、コーチングからかけ離れてしまいます。
管理者は傾聴や質問、承認のスキルを駆使し、オペレーターが目標を見つけて達成するための計画を立てられるようにサポートしましょう。
8-2.オペレーターの発言を否定しない
コーチングの基本は承認です。「4.コーチングに必要な5つのスキル」でも述べたように、存在や現状をそのまま受け入れることが大切です。
例えば、遅刻の多いオペレーターに対して「遅刻はよくないことだと感じていますか?」「どうして遅刻ばかりするのですか?」など否定的な質問をすることは、コーチングの基本に反します。否定したり責めたりすることで、オペレーターは萎縮し自分の中の本音や真意を発見しにくくなります。
現状が良くない状態だったとしてもありのままを受け入れて、これから先どうしていくのか考えることが大切です。
「なぜ」「どうして」という否定的な質問はしないようにして「何をすると遅刻が減りますか?」「何があると現状を変えられますか?」など、ポジティブに捉えられる質問を選びましょう。
8-3.目標や課題は行動に移せるようにサポートする
コーチングをして課題や目標を見つけても、具体的な行動に移せないことがあります。頭では分かっていても行動に移せないと、現実は変わりません。
そこで、目標や課題はできるだけ具体的にして行動に移せるようにサポートしましょう。行動の期限や日時、具体的な回数など数値化できる部分は数値化すると、分かりやすくなります。
ただし、あくまでも行動に至るプロセスはオペレーター自身が決めることが大切です。プロセスが見つからない場合はじっくりと考えて、オペレーターが主体的に考えた方法で実行できるようにしましょう。
まとめ
いかがでしたか?
コーチングの基本やコンタクトセンター(コールセンター)での実践方法が把握でき、コンタクトセンター運営に活用できるようになったかと思います。
コンタクトセンターは、今や企業と顧客のコミュニケーションの中心になってきており、カスタマーサービスの質が企業成功を決定するといっても過言ではありません。
カスタマーサービスの質を上げる=多様化に合わせたチャネルを準備していくだけでなく、サービス提供する人を育成するということに再度重きを置いたコンタクトセンター運営を心がけましょう。
トランスコスモスでは、人を育てるためにコーチングを取り入れたコンタクトセンターを運営しています。自社運営では対応が必要なことが多く、なかなか手が回らない場合はトランスコスモスへのアウトソーシングも検討してみてください。
興味がある方は一度こちらからご相談ください。
最後にこの記事の内容をまとめてみると
〇コーチングとは、目標達成のために必要な知識やスキルを共に考え自発的な行動を促すコミュニケーションのこと
〇ティーチングやカウンセリングとの違いは下記のとおり
・ティーチング:指導者が自分の持つ知識や経験を伝えることで成長を促す方法
・カウンセリング:専門的な知識を持つカウンセラーと対話をすることで、悩みや問題が解決できるようにサポートする方法
〇コーチングの3原則は以下の3つ
1)インタラクティブ(双方向):指導者の一方的な指示ではなく双方向のコミュニケーションであること
2)オンゴーイング(現在進行形):成果が出るまで関わり続けること
3)テーラーメイド(個別対応):一人一人に合わせた個別対応をすること
〇コーチングに必要な5つのスキルは下記のとおり
1)傾聴:相手の話を聞き積極的傾聴をするスキル
2)質問:相手の話に合わせて的を射た質問をするスキル
3)承認:相手を否定せず存在を認めるスキル
4)要望・提案:目的や目標達成のために新しい視点や方法、行動を促すスキル
5)フィードバック:今までの成果や取り組み方を振り返り、軌道修正をするスキル
〇コンタクトセンターでコーチングをするメリットは次の3つ
1)業務のモチベーションを継続できる
2)オペレーターの成長や気付きにつながる
3)主体性や自主性を身につけられる
〇コンタクトセンターでコーチングをするデメリットは次の2つ
1)スキルアップや時間管理など管理者の負担が大きくなる
2)コーチングはすぐに成果が現れるものではない
〇コンタクトセンターでコーチングを導入する手順は下記のとおり
1)アイスブレイク:日頃の仕事を労い、信頼関係を築く
2)目的確認:コーチングの目的とゴールを明確にする
3)現状把握:現状がどうなっているのか明確にする
4)課題特定:課題や目標と現状のギャップを把握する
5)改善案立案:課題や目標達成のためにやるべきことを明確にする
6)目標設定:具体的な行動計画を設定して、目標達成プロセスをより明確にする
7)振り返り:目的達成ができたかコーチングを振り返る
〇コンタクトセンターでコーチングを導入するときのポイントは次の3つ
1)個別対応を基本としてオペレーターごとの目標を明確にする
2)オペレーターの発言を否定しない
3)目標や課題は行動に移し実践できるようにサポートする
この記事をもとにコーチングを最大限に活用し、オペレーターがいきいきと働けるコンタクトセンター運営ができることを願っています。