「リバースロジスティクスってどんなもの? 普通のロジスティクスと何が違う?」
「返品が多いので、無駄をなくすためにもリバースロジスティクスに取り組みたいが、何をすればいい?」
物流や小売などに関わる業務で、そのような疑問、悩みをお持ちの方も多いでしょう。
リバースロジスティクスとは、簡単にいうと「通常の物流とは逆に、商品が消費者から生産者へ向かっていく物流」のことです。
通常のロジスティクスでは生産メーカーから消費者に向けてものが流れていくのに対して、リバースロジスティクスはその反対にものが流れます。
【リバースロジスティクス】
リバースロジスティクス=「返品・回収」+「価値を生み出す」 |
【リバースロジスティクスに含まれる業務活動の例】 |
通常は、商品の返品や回収は無駄なコストが発生するだけですが、リバースロジスティクスを最適に実施することで、無駄をなくし、以下のようなメリットを得ることができるため、近年ではこれに取り組む企業が増えています。
・無駄になる返品商品を減らせる |
そこでこの記事では、リバースロジスティクスについて知っておきたいことをまとめました。
◎リバースロジスティクスとは? |
この記事で、あなたの会社がリバースロジスティクスに取り組み、コスト削減や顧客満足度の向上をはかれるよう願っています。
1.リバースロジスティクスとは
1章では「リバースロジスティクスとは何か」、わかりやすく説明して行きましょう。
1-1.リバースロジスティクスとは?
リバースロジスティクスを簡潔に説明すると、「通常の物流とは逆に、商品が消費者から生産者へ向かっていく物流」のことです。
ロジスティクスとは、物流を効率的に管理、最適化する仕組みのことを指し、通常は生産メーカーから消費者に向けてものが流れていきます。
ロジスティクス業務は、もともと「大量の在庫を効率的に出荷すること」が求められていました。
しかし、少量の受注を受け付けたり、顧客から返品された商品を再加工するといった仕組みやツールが存在せず、顧客から到着した商品を管理するためには多くの作業コストがかかっていました。
しかし、EC(電子商取引)の発展により、システム連携をすることで作業の工数を削減し、スムーズに受注を受け付けることが可能となりました。これにより、コスト的な価値を見出そうとする動きが注目されるようになりました。
一方リバースロジスティクスは、ロジスティクスとは逆向き(=リバース)で、商品の返品、故障した製品を修理するための回収、リコール製品の回収」などの物流を指します。
以下の図は、リバースロジスティクスの大まかなイメージです。
青い矢印は通常のロジスティクス、赤い矢印がリバースロジスティクスの流れを表しています。
もちろんこのすべてを行わなければならないというわけではなく、業種や事業内容により、「消費者からの返品・回収と再販売、リサイクルを行う」「小売店からの回収とリサイクルを行う」など、赤い矢印の一部だけを行うのもリバースロジスティクスです。
企業はそれぞれのケースに適したリバースロジスティクスを、通常のロジスティクスと組み合わせてサプライチェーンを構築します。
【リバースロジスティクス】
リバースロジスティクス=「返品・回収」+「事業価値を生み出す」 |
【リバースロジスティクスで取り扱われる業務例】 |
以前はリバースロジスティクスというと、返品・回収のみにフォーカスされていましたが、近年では意味合いが変化してきています。
返品・回収した製品をリサイクル、再販売したり、そのパーツや原材料も再利用したりすることで、それまで無駄な廃棄物になっていたものを“価値”に変え、循環型社会やSDGsに対応していくのがリバースロジスティクスである、という捉え方です。
そのため現在では、上の図の赤い矢印の流れ全体がリバースロジスティクスとされ、環流物流・環流ロジスティクスとも呼ばれるようになりました。
1-2.リバースロジスティクスの必要性
このリバースロジスティクスに近年注目が集まっているのには理由があります。
それは、前述したように、これまで企業にとって無駄なコストでしかなかった返品・回収・廃棄に、新たな価値を持たせることができるためです。
例えば単純に、返品された商品をそのまま再販したり、パーツや原材料を再利用したりする仕組みを確立すれば、そこから利益が生まれます。
再販・再利用によって廃棄物を減らすことができれば、廃棄コストも削減できるでしょう。
また、リサイクル品の販売やリースなど、ビジネス領域を拡大させることも可能でしょうし、SDGsに貢献することで、企業のブランドイメージ向上も期待できます。
このように、リバースロジスティクスに取り組むことで、これまではマイナスであった返品や廃棄から、さまざまなプラスを生み出すことができるというわけです。
2.リバースロジスティクスに含まれる業務活動の種類
ここまで、リバースロジスティクスの概念について説明しましたが、もっと具体的に「どのようなことが含まれるのか、何をするのか」が知りたい人も多いでしょう。
そこで、リバースロジスティクスに含まれる具体的な業務活動を表にまとめましたので、以下を見てください。
【リバースロジスティクスに含まれる主な業務活動】
種類 | 概要 | 備考 | |
リ | 返品・回収管理 | 消費者から企業へ商品を戻してもらい、交換、返金など必要な対応を行う | コンタクトセンター(コールセンター)など専用窓口を設け、消費者からの連絡を適切に処理する仕組み作りが必要 →「6-2.外部サービスを利用する」参照 |
リコール管理 | 製品の設計や製造自体に問題があったり、法令に違反していたりすることがわかった際に、企業がそれを公表して該当製品の回収、修理、交換、返金などの対応を無償で行う | ||
修理・保証 | 返品・回収された製品を修理する | ||
廃棄物処理 | 修理や再製造、リサイクルができなかった製品やその材料を、法令や環境を守って廃棄処理する | 適切な返品管理やリサイクルで廃棄物を最小限にする | |
付 | 再製造 | 返品・回収された製品からパーツや原材料を取り出し、新たに同じ製品を作る | 循環型のサプライチェーンを構築する、あるいは従来のサプライチェーンを循環型に修正することが必要 |
再販売 | 返品・回収された製品をもう一度販売する | ||
部品や原材料のリサイクル | 返品・回収された製品からパーツや原材料を取り出し、別の製品製造に再利用する |
リバースロジスティクスを実現するには、このようなさまざまな業務体制を整える必要があります。
その構築方法については、のちほど「6.リバースロジスティクスの構築方法」で説明しますので、そちらもよく読んでください。
3.リバースロジスティクスの取り組み事例
では、実際に企業はどのようにリバースロジスティクスに取り組んでいるのでしょうか?
その事例をいくつか紹介しておきましょう。
3-1.大手流通小売企業A社:食品残渣を豚の飼料に、豚フンを大根の堆肥に循環型リサイクル
スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどを幅広く展開しているA社では、取り扱う商品の「循環型リサイクル」をネットワーク化しています。
まず、食品加工の過程で出た残渣を、腐敗しにくい方法で冷蔵保存し、それを飼料として豚を育てます。
そして、その肉などは製品に加工、フンを堆肥にして大根を生産、店舗で販売するおでんの具材に使用しているそうです。
廃棄物を飼料や堆肥として有効活用することで、廃棄コストや生産コストを抑えることができます。
ちなみにA社の場合、1日あたり15tの食品残渣から3tの資料が生産できたそうです。
※出典:環境省 中央環境審議会循環型社会計画部会 中央環境審議会循環型社会計画部会 (第47回) (社)日本ロジスティックスシステム協会発表資料「持続可能社会を実現するためのリバースロジスティクスのあり方について【食品業界を例にして 食品業界を例にして】」
3-2.総合小売業B社:自社内でも、外部業者と協力しても食品のリバースロジスティクスシステムを構築
スーパーやショッピングセンターを運営するB社は、「地域循環型」の食品リバースロジスティクスに取り組んでいます。
具体的に行っているのは、以下の3つのリサイクルシステムです。
・自社で取り組むリサイクル →店舗で余った刺身のつまを肥料工場で真空乾燥して肥料に加工、大根を生産し、その大根を刺身のつまに加工する ・登録再生利用事業者と取り組む循環型作物栽培 →店舗で出た生ゴミを登録再生利用事業者が堆肥として熟成させ、その堆肥で野菜を栽培、店舗で販売する ・食品の飼料化 →店舗で出た未利用食品の余剰を食品リサイクルセンターで豚の飼料に加工、それを用いて養豚生産者が豚肉を生産、店舗で販売する |
ほかにも店頭にリサイクルボックスを配置し、食品トレイや空き缶、牛乳パックなどを資源として再利用、リサイクル工場でトレイはベンチや植木鉢などに、牛乳パックはトイレットペーパーや包装紙などに再生され、また店舗で活用されているそうです。
※出典:ユニー株式会社「環境レポート2007年度版」
4.リバースロジスティクスのメリット
前章の事例のように、リバースロジスティクスに取り組むことは企業にとってメリットをもたらします。
例えば以下のような点です。
・無駄になる返品商品を減らせる |
4-1.無駄になる返品商品を減らせる
これまで、顧客から返品された商品は、廃棄されるものも多かったかと思います。
それが、リバースロジスティクスによって修理して顧客のもとへ戻されたり、再販売、リサイクルされたりする仕組みができれば、無駄になる返品商品を減らすことができるでしょう。
商品の無駄を減らし、返品業務自体を縮小することも可能です。
4-2.顧客満足度が向上する
返品にかかわる仕組みを整えることで、顧客満足度や顧客ロイヤルティも向上します。
商品に不具合や故障があった場合、一般的に顧客は不満や不安を抱きます。
ただ、それに対して迅速に返品、修理、交換をしてもらえれば、多くの不満・不安は解消されるでしょう。
さらに、「何かあればちゃんと返品・交換に応じてくれる」「誠意ある対応をしてもらえる」と顧客に知られることで、次回以降もまた利用してくれる可能性が高まるはずです。
逆に、リバースロジスティクスが実現できておらず、顧客が返品・交換を希望しても適切な対応がとれなければ、顧客の満足度は下がり、次回以降のリピート利用はあまり期待できないかもしれません。
4-3.コストを削減できる
リバースロジスティクスによって、さまざまなコストを削減できるのも大きなメリットです。
まず、商品の返品に関しては、返品送料や廃棄費用が個別に発生しますが、リバースロジスティクスのしくみを整えることで、返品にかかわるコストが最適化されます。
また、利用できる商品をそのまま再販したり、使える部品や原材料、梱包資材をリサイクルしたりすれば、製造コストや廃棄コストも抑えることができるでしょう。
4-4.商品・サービスの改善に役立つ
また、返送された商品は、そのまま廃棄してしまえばただの無駄ですが、リバースロジスティクスではこれを分析するしくみを整えることで、今後の商品・サービスの改善に役立てることも可能です。
例えば、不具合があって戻された商品の場合、何が問題だったのか、どのような商品に返品が多いのかなどを分析し、その部分を改良すればよりよい商品を作れるようになるでしょう。
あるいは、不具合はないけれども「サイズが合わなかった」「期待していたものと違った」などの理由で返品された商品については、その理由を分析することが消費者ニーズの把握につながります。
4-5.SDGsに貢献できる
近年は民間企業にも、経済的利益の追求だけでなく社会的貢献が求められるようになってきました。
その点リバースロジスティクスは、まさにSDGsや循環型社会を実現する取り組みだと言えます。
返品された商品を再販売したり、材料としてリサイクルしたりすることで、資源の有効活用を促進し、廃棄物による環境汚染を抑えることができるでしょう。
また、このような社会貢献に取り組めば、顧客からの信用も高まり、企業イメージの向上が期待できます。
競合他社と比較されたときに、「より信頼できそう」と選ばれることも増えるはずです。
4-6.企業コンプライアンスが向上する
リバースロジスティクスは、企業のコンプライアンスにもつながります。
たとえば、製品に何らかの欠陥が見つかりリコールが必要になった場合、返品・回収の体制が整っていれば、短期間で回収できトラブルの拡大を防ぐことができるはずです。
反対に、リバースロジスティクスが整っていなければ、回収に時間がかかったり、回収漏れが生じたりと、事態をなかなか収束させられずに、最悪の場合は大きな被害を出し、法的責任を問われかねません。
そのようなリスクを未然に防ぐためにも、リバースロジスティクスは有効なのです。
5.リバースロジスティクスの問題点
メリットが多々ある一方で、リバースロジスティクスを実現するには問題や課題もあります。
例えば以下の3点です。
・返品数の予測が難しい |
5-1.返品数の予測が難しい
1つ目の課題は「返品数の予測が難しい」ことです。
通常のロジスティクスでは、企業側が商品を消費者に届けるので、いつ・どれくらいの数の商品を・どのような流れで流通させるのか計画して進めることができます。
それに対してリバースロジスティクスは、顧客の意志によって返品が生じたり、不測のトラブルで製品を回収しなければならなくなったりするため、いつ・どれくらいの数の商品を・どのような流れで処理するのかを予測するのが困難です。
そのため、臨機応変に対応できるしくみを整える、あるいは案件が発生したときに対応してもらえるよう外部業者に委託するなどの対策が必要になるでしょう。
5-2.初期投資が大きい
また、リバースロジスティクスでは従来のサプライチェーンの見直し・修正・再構築が求められるため、ある程度の初期投資が必要です。
例えば、顧客からの返品・交換・修理などの連絡を受けるために、コンタクトセンター(コールセンター)などの窓口を設けて業務フローを整えなければなりません。
回収した製品を修理したり、再販・再利用・リサイクルしたりするにも、新たな部署を設けて専門人材を雇用したり、外部業者と提携したりする必要もあります。
これらすべてを自社で用意するのは、特に中小の企業にとってはコスト面で厳しいものがあるでしょう。
その場合は、リバースロジスティクスサービスを提供している物流企業などに多くの業務を委託するという方法もあります。
それについては、「6-2.外部サービスを利用する」で説明しますので、ぜひそちらを参照してください。
5-3.返品コストがかさむ
さらに、実際にリバースロジスティクスを運用するとなると、返品コストがかさむことを覚悟しておかなければなりません。
通常のロジスティクスでは、B to Bで契約した物流会社が大量の製品をまとめて配送してくれるため、配送料などの物流コストもまとめて割安にしてもらうことが可能です。
一方リバースロジスティクスの場合、B to Cで顧客一人ひとりから個別に商品を回収し、必要があれば交換品や修理済み品などを配送します。
配送料が1件1件個別に発生するとなると、通常のロジスティクスと比較して割高になるでしょう。
リバースロジスティクスがうまく運用されるようになればなるほど、取り扱う返品・回収件数は増えるはずで、必然的に返品コストも増大します。
そのため、再販・再利用・リサイクルなど、コストに見合ったベネフィットが得られるようなしくみを整える必要があるでしょう。
6.リバースロジスティクスの構築方法
ここまで、リバースロジスティクスとはどんなものか、わかりやすく説明してきました。
そこで、「わが社でもぜひリバースロジスティクスに取り組みたい」という企業も多いでしょう。
では、実際にリバースロジスティクスの流れを構築するにはどうすればいいのでしょうか?
その方法は、大きくわけて以下のふたつです。
・自社で構築する |
6-1.自社で構築する
1つ目の方法は、自社でリバースロジスティクスの流れを構築することです。
「2.リバースロジスティクスに含まれる業務活動の種類」で挙げたような業務を行う部署をそれぞれ用意します。
大企業の中には、自社に不足している業務部門について新たに子会社を設立したり、企業買収をしたりして、リバースロジスティクスを含むサプライチェーンを自前で整えるケースもあります。
ただ、それにはもちろん莫大なコストが必要になるため、資金力のある企業向けの方法と言えそうです。
6-2.外部サービスを利用する
日本の多くの企業にとって、社内でリバースロジスティクスのすべてを実現するのは難しいでしょう。
そのためもうひとつの方法として、外部サービスを活用するのをおすすめします。
物流関連などさまざまな企業が、以下のようなサービスを提供しています。
・コンタクトセンター(コールセンター):返品受付、修理受付など |
例えばトランスコスモスにも、EC事業者向けの「リバースロジ」というサービスがあります。
「トランスコスモスコールセンター」(コンタクトセンター)が返品受付や問い合わせ対応などを担当し、返品商品の荷受け、外観検品、仕分け、レポーティングは「ECワンストップセンター北柏」で実施、ほかにも交換品発送、モール対応などを代行することが可能です。
リバースロジについてご興味がある方は |
まとめ
いかがでしたか?
リバースロジスティクスについて、知りたいことがわかったかと思います。
ではあらためて、記事の要点をまとめましょう。
◎リバースロジスティクスとは「通常の物流とは逆に、商品が消費者から生産者へ向かっていく物流」のこと
◎リバースロジスティクスに含まれる主な業務活動は以下
リバースロジスティクス=「返品・回収」+「事業価値を生み出す」 |
【リバースロジスティクスに含まれる業務活動の例】 |
◎リバースロジスティクスのメリットは、
・無駄になる返品商品を減らせる |
これらを踏まえて、あなたの会社がリバースロジスティクスに取り組み、コスト削減や顧客満足度の向上、SDGsへの貢献などさまざまな成果を上げられるよう願っています。