「流通DX?具体的に何をするのかがわからない」
「流通DXに取り組むと、どんな課題が解決できる?」
流通DXについて、このような疑問をお持ちではありませんか?
流通DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、流通業界においてデジタル技術を活用しビジネスモデルを変革することです。
流通DXは、購入行動の多様化や価値観の変化といった消費者ニーズに対応し、物価高による収益構造の圧迫や慢性的な人手不足といった企業の課題も解決します。
流通DXの具体的な施策には、主に以下の6つがあります。
販売方法や顧客コミュニケーションをデジタル化してそのバリエーションが増えれば、顧客はそれぞれに好みの方法で買い物ができます。また業務のデジタル化は、コスト削減や効率化につながるからです。
つまり、なかなか売上が伸びない、業務が煩雑で負担が大きいなど、流通業界においてうまくいかない状況があるという企業にとっては、DXが現状打破の一手になる可能性が高いです。
そこでこの記事では、流通DXの基礎知識を網羅的かつわかりやすく解説します。この記事を読むことで、流通DXとは何かがよく理解でき、取り組みを始める原動力になるはずです。
この記事を読んでわかること |
▼流通DXという言葉の意味 |
インターネットを利用する現代において、顧客から選ばれる企業であり続けることに役立ちますので、ぜひ最後までお読みください。
1.流通DXとは
最初に、「流通DXとは何か」ということを確認しましょう。この章では、流通DXを理解するのに必要な以下の内容について解説します。
・流通DXという言葉の意味 |
1-1.流通業界においてデジタル技術を活用しビジネスモデルを変革すること
流通DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、流通業界においてデジタル技術を活用しビジネスモデルを変革することです。
DXは、経済産業省によって“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること”と定義されています。
製造者から消費者へと商品やサービスを橋渡しする「流通」の過程で、データとデジタル技術を活用してビジネスのあり方を変革し、競争上の優位性を確立しようという取り組み(DX)が流通DXなのです。
なお広義の流通とは物流や情報の流れも含む概念ですが、本記事では狭義の流通である「卸売・小売」に焦点をあてて解説します。総務省による業種分類で「卸売・小売」は運輸・情報通信とは分かれており、DXの状況にも違いがあるためです。
また近年は、物価高や消費者の価値観が変化している影響でモノが売れにくくなっており、「卸売・小売」におけるビジネスのあり方が問い直されているということもあります。
1-2.「人手不足」や「不十分な情報活用」の解決につながるとして重要視されている
流通DXが重要視される背景には、ビジネスに必要なリソースの刷新につながるという展望があります。流通DXは、以下の点に寄与すると期待されているのです。
・人的リソースの確保 |
人的リソースの確保
流通業界では人的リソースが不足しがちですが、DXを推進すれば人的リソースを、本来人が行うべき作業に集中させることができます。
流通業界では、人手不足が顕在化しつつあります。国内の他産業と比較して賃金の水準が低いためになり手が少ない、パート・アルバイトといった非正規雇用比率が高く育成や継続的な雇用が難しい、などの理由によります。
そして今後も、流通業界に従事する人は減少の一途を辿ると試算されています。2021年の1,062万人から2040年には836万人まで減少すると予測され、この減少率を1店舗あたりの従業員数に機械的に当てはめた場合、2030年までに約5人減・2040年までには約10人減の見込みだそうです。
【就業者数の将来的な見通し】
出典:経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会最終報告書~よみがえるリアル店舗~」
このように人的リソース不足が深刻化する中でも、流通DXによって業務の効率化や自動化が実現できれば、一定水準の業務を機械やシステムが担ってくれます。
また、AI(人工知能)などの支援を受けることで誰でも一定水準の業務をこなすことが可能になり、多様性に合わせた柔軟な働き方も実現します。
流通DXによって働きやすい環境を整えることで、人的リソースが限られている中でも生産性を確保することにつながります。
情報リソースの活用
流通業界では情報リソースの活用が十分ではないといわれていますが、DXを推進することでデータドリブンなビジネス展開が可能になります。なぜなら、消費者との直接的な接点を有する流通業はリアルデータの宝庫だからです。
以下は、ビッグデータの蓄積量を産業別に表したグラフです。流通業界が属する「商業」は、他の産業に比較して保有するデータの量が圧倒的に多いことがわかります。
【産業別ビッグデータの蓄積量】
出典:経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会最終報告書~よみがえるリアル店舗~」
さらには近年のデジタル技術発展に伴って、販売記録や消費者行動など、得られるデータの種類も増えてきています。
その一方で、流通業では老朽化したシステム(レガシーシステム)が残存している割合が高く、情報をデータとして取得する環境や保有するデータを有効活用できる環境が整っていないことが指摘されています。
【産業別レガシーシステムへの依存状況】
出典:経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会最終報告書~よみがえるリアル店舗~」
このような状況を打破するために、流通DXが求められているのです。DXの推進によって大量のデータから効果的なデータ分析ができるようになれば、より詳細な商品や業務内容の評価・顧客ニーズの把握などができるようになります。
例えば、商品を改善・開発する、業務を効率化する、それぞれの顧客に適したプロモーションを行う、といったことに非常に役立つわけです。
流通DXによって情報リソースを最大限活用することは、ビジネスモデルの最適化・差別化につながります。
1-3.現状全社的な取り組みを行っている日本企業は「21.7%」
リソースを刷新して企業が成長するために欠かせない流通DXですが、全社的な取り組みを行っている企業はまだ多くないのが現状です。
以下は流通DXの取り組み状況を日本・アメリカそれぞれに表したグラフですが、全社的にDXに取り組んでいる日本企業の割合は21.7%で、アメリカ企業の半分程度にしか満たないことがわかります。
【日本・アメリカにおける流通DXの取り組み状況】
出典:経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会最終報告書~よみがえるリアル店舗~」
このように、日本の流通DXはまだ発展途上にあるといえます。だから困難だという意味ではなく、素早く適切に取り組み始めることによって、他社に先んじて大きな成果を上げられる可能性があるといえるでしょう。
1-4.オンラインとオフラインの境目をなくすことが差別化につながる
近年注目されている概念に、「OMO(Online Merges with Offline)」というものがあります。
OMO(Online merges with Offline)とは、オンライン(ECサイトやアプリ)とオフライン(実店舗)を融合させることです。
流通DXはOMOの実践に寄与し、それが自社商品・サービスの差別化につながります。
またオンラインとオフラインを融合することで、顧客体験の向上、効率的なデータ活用、オムニチャネル戦略の実現が可能となり、競争力の強化と迅速な市場対応が実現します。
例えば、企業のホームページで商品情報をリサーチし、実店舗で実物を確認して、後日アプリから購入するといった好みの購買行動が可能になれば、顧客の利便性や満足度が向上します。
OMOは顧客から選ばれる企業になるためのキーポイントであり、OMO実践のためにはDXにおけるデジタル活用が欠かせないのです。
2.DXはなぜ必要?流通業が抱える課題
流通DXが重要視されていることはわかったけれど、必ずしも必要なのかどうか判断できないという方もいるかもしれません。そこで、流通DXが必要とされる理由をもう少し丁寧に見てみましょう。
流通業界は以下のような課題を抱えており、DXはそれらを解決することにつながるのです。
それぞれの内容について、解説していきます。
2-1.物価高によって収益が減少している
流通業界の課題としてまず挙げられるのは、物価高による収益の減少です。
2021年以降、国際情勢の悪化などに起因して世界的に物価が上昇しています。日本も例外ではなく、原材料・エネルギー価格の高騰によって、企業物価指数と消費者物価指数の上昇が見られます。
しかし、企業物価指数ほどには消費者物価指数が伸びていず、両者は乖離している状況です。この現象は、物価高騰によるコストの上昇分を最終的な消費者価格にまで十分反映できておらず、流通業がその分の負担を引き受ける形で収益を上げにくくなっていることを意味します。
【消費者物価指数・企業物価指数の国際比較】
出典:経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会最終報告書~よみがえるリアル店舗~」
そこで流通DXを推進すると、収益構造の最適化につながります。例えば、AIによる需要予測やシステムを用いた正確な在庫管理などによって、過剰在庫に伴うロスを回避することができます。
また、業務の効率化や自動化によって人件費を削減したり、効果的なマーケティングや満足度が高い購入体験の提供によって顧客単価の向上・リピーター獲得につなげたりすることが可能なのです。
2-2.購入行動のバリエーションが増えている
消費者の購入行動のバリエーションが増えていることも、流通業界のあり方に大きく関わる課題です。
これまでもオンラインショッピングの利用は増加傾向にありましたが、2020年から始まった新型コロナウイルス感染症の流行によって人との接触を避けたいという需要が高まり、ネットスーパーやセルフレジ・キャッシュレス決済などが浸透しました。
また、価格比較サイトやSNSを用いた情報検索が容易になったことによって、事前に詳細なリサーチを行ってから購入する消費者が増えていたり、サブスクリプションの需要が高まったりなど、消費者がそれぞれに好みの方法で商品を購入するという流れが強まっています。
このような購入行動の多様化に対応しなければ業績を上げていくことは困難なため、流通DXが必要不可欠なのです。
「1-4.オンラインとオフラインの境目をなくすことが差別化につながる」でも解説したように、デジタル技術を活用して販売やコミュニケーション方法のバリエーションを増やすと、顧客がオンラインオフラインに関わらず好きな方法で商品を購入できるようになるのです。
2-3.消費者の価値観が変化している
近年は消費者の価値観が変化してきており、それに対応することも流通業界の課題のひとつです。
物価高のために消費マインドが低迷している反面、特に若い世代で自分が価値を感じる商品や体験には相応の対価を支払うという消費スタイルが広がっています。
【世代による消費者価値観の差異】
出典:経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会最終報告書~よみがえるリアル店舗~」
また、倫理的消費(エシカル消費)と呼ばれる社会課題解決を志向した消費活動も登場しており、「サステナビリティ」や「フェアトレード」といった言葉を耳にする機会が増えてきているはずです。
このような価値観の変化に対応するためには、消費者のニーズや社会・市場の動向を把握することが欠かせません。
流通DXのデータ分析やAI技術を活用することで、商品の供給チェーンの透明性を高め、環境負荷の低減を実現します。これにより、消費者はよりエシカルな選択を行いやすくなり、企業は持続可能な生産と流通を推進することができます。
流通DXを通じて、エシカル消費とサステナビリティの実現が一層加速されるのです。
顧客の行動や嗜好に関するデータからどのような商品・サービスが求められているのかを予測して提供し、販売状況や顧客からのフィードバックを分析して商品・プロモーションの最適化を図ることができるからです。
2-4.慢性的な人手不足の状況にある
慢性的な人手不足への対応も、流通業の重要な課題です。
「人的リソースの確保」で解説したように、流通業界に従事する人は今後減少の一途を辿るといわれています。そのような状況の中で雇用を確保するとともに、少ない人数でも生産性を維持していくためには、流通DXの推進が有効です。
スーパーマーケットで考えてみましょう。セルフレジや在庫管理システムなどによって業務の自動化を行えば、従業員の負担が軽減します。業務が簡素化されることで従業員の交代がスムーズになるため、より自由度の高いシフトが組めるはずです。
また、顧客や従業員に関するデータを収集・分析すれば、効果的な商品管理や人員配置が可能になり、人的リソースを無駄なく活用できるでしょう。
このように流通DXは、人手不足の影響を最小限に抑えるための重要な一手になるのです。
3.【事例】課題解決につながる流通DXの施策6つ
DXが流通業の課題を解決するということがわかったところで気になるのは、具体的に何を行えばよいのかということではないでしょうか。
流通DXの施策には、主に以下の6つがあります。
それぞれの内容について、実際の事例を用いながら解説していきます。
3-1.購入ルート・顧客コミュニケーションのデジタル化(事例:株式会社協和)
流通DXの施策1つとして、購入ルート・顧客コミュニケーションのデジタル化に成功した事例を紹介します。
実店舗に加えてECサイトやアプリからも商品を購入できるようにする、電話だけではなくチャットやSNSでもカスタマーサポートを行うなど、顧客がニーズに合わせて選べる方法を複数準備することが求められます。
エイジングケアブランド「fracora(フラコラ)」を展開する株式会社協和は、問い合わせ窓口にビジュアルIVR(スマートフォン画面にメニューを表示して案内を行うシステム)やチャットボットを導入しました。
同時に顧客をデジタルチャネルへ誘導する施策も講じた結果、当初は6%だったデジタルチャネルでの問い合わせ比率が40%まで拡大し、顧客ニーズに即した問い合わせシステムを実現したのです(出典:トランスコスモス「導入事例 株式会社協和」)。
デジタル化によって購入方法のバリエーションが増えることは、「購入行動の多様化」という課題の解決につながります。また、顧客コミュニケーションのデジタル化によって企業と顧客とのやりとりが活性化すれば、「消費者価値観の変化」に対応しやすくなるでしょう。
購入ルート・顧客コミュニケーションのデジタル化に取り組むのがおすすめな企業 ・商品を販売する場所が実店舗しかない |
3-2.AIの活用による需要予測(事例:株式会社三陽商会)
2つめの流通DX施策は、AIの活用による需要予測です。以下のようなデータから自社の製品がどのくらい売れるか、どれくらい必要になるかを未来予測することで、在庫を最適化することができるのです。
・販売データ |
アパレルメーカーの株式会社三陽商会は、画像AIエンジンを用いたファッショントレンド解析による需要予測を行っています。
世界中のファッションメディアから24時間自動収集した大量のファッションデータ画像を解析し、カラーやアイテムに関する市場トレンドを明確化して、需要予測の精度を上げているのです(出典:株式会社三陽商会「三陽商会とファッションポケット、業務提携に関するお知らせ」)。
AIによる需要予測をもとに在庫が最適化できれば売上が最大化するため、「物価高による収益構造の圧迫」という課題が解決できます。また、消費者のニーズを正確に把握することにつながるため、「消費者価値観の多様化」への対応にもなります。
そして、従来は経験や勘に頼っていた需要予測が簡便になるため、自動的に一定レベルの分析を行う事で「慢性的な人手不足」の解消にも寄与するでしょう。
AIの活用による需要予測に取り組むのがおすすめな企業 ・需要の変動が大きい商品を扱っている |
3-3.電子棚札を用いたダイナミックプライシング(事例:株式会社ビックカメラ)
3つめの流通DX施策は、電子棚札を用いたダイナミックプライシングです。
電子棚札とは店頭の商品価格をデジタル表示することで、ダイナミックプライシングとは需要に応じて商品の価格を調整する仕組みです。
電子棚札を用いたダイナミックプライシングでは、遠隔操作で一括した価格変更を行うことができます。
例えば家電量販店の株式会社ビックカメラでは、全商品に電子棚札を設置し、本部で店頭価格を頻繁に調整しています。
これによって、競合店の値下げに素早く対抗できるようになった、従業員の手作業による価格変更が不要になり接客に集中できるようになった、などの成果が得られました(日本経済新聞「家電の価格、随時上げ下げ ビックカメラが電子棚札」)。
ダイナミックプライシングで需要が高いときには価格を引き上げ、需要が低いときには価格を引き下げることで、売上を伸ばすことができます。また、競合店とリアルタイムで対抗できれば販売機会の損失を防ぐことも可能になり、「物価高による収益構造の圧迫」が緩和されるはずです。
電子棚札を用いたダイナミックプライシングに取り組むのがおすすめな企業 ・需要の変動が大きい商品を扱っている |
3-4.システム利用による在庫管理の自動化(事例:株式会社 イトーヨーカ堂)
4つめの流通DX施策は、システムを利用して在庫管理を自動化することです。
在庫管理システムとは、バーコードやICチップ・カメラなどを用いて商品の在庫状況をモニタリングし、受発注や棚卸などを自動化できるものです。先にご紹介したAIによる需要予測に従って作業を行うシステムもあります。
在庫の状況を一元管理できるため、現状や課題の把握がスムーズになり、簡単に在庫を最適化することに役立ちます。
総合スーパー「イトーヨーカドー」を運営する株式会社イトーヨーカ堂は、在庫や価格・気象情報・曜日特性などのデータをAIで分析し、発注を自動化するシステムを活用しています。
この取り組みによって、営業時間中に商品の在庫がなくなる事例を減らす効果も明確に確認でき、さらには店舗の担当者が発注作業にかける時間が平均約3割短縮したそうです(出典:株式会社イトーヨーカ堂「AI(人工知能)発注の仕組みを全店に導入」)。
在庫管理システムを活用して在庫を最適化することは、ロスをなくして売上を最大化することにつながり、「物価高による収益構造の圧迫」という課題の解決に寄与します。
システム利用による在庫管理の自動化に取り組むのがおすすめな企業 ・過剰在庫や欠品が生じやすい |
3-5.店舗における決済の自動化(事例:株式会社ローソン)
5つめの流通DX施策は、店舗における決済の自動化です。
近年普及が進んでいるセルフレジは、買い物後に顧客自身が決済するというだけではなく、商品をピックアップしながら決済できる形に進化しています。また、キャッシュレス決済ができない店舗は珍しくなってきているはずです。
コンビニエンスストアチェーンの株式会社ローソンでは、「Lawson Go」というウォークスルー決済を一部の店舗に導入し、その効果を検証しています。
「Lawson Go」は、専用アプリのQRコードをかざして入店し、商品を手に持って店外に出ると、事前に設定した手段でレジを通さずに自動的に決済できる技術です。手間なくスピーディーに買い物したい顧客のニーズを満たし、従業員の業務負担も軽減することを狙っています(出典:株式会社ローソン「ウォークスルー決済導入店舗 「Lawson Go」10月11日(火)から、新たに展開開始」)。
このような決済の自動化は、顧客が待ち時間なく自分のペースで買い物ができることにつながるため、「購入行動の多様化」への対策になります。
店舗における決済の自動化に取り組むのがおすすめな企業 ・レジ待ちをする顧客の人数が多い |
3-6.データ活用に基づいたマーケティング(事例:株式会社ファンケル)
6つめの流通DX施策は、データ活用に基づいたマーケティングです。
DXによってアナログデータをデジタル化すると、それらの一元管理・分析が容易になります。以下のようなデータを活用することで、客観的な根拠に基づいた効果的なマーケティングが実践できるのです。
・顧客データ( 顧客の属性・購買履歴など) |
化粧品・健康食品メーカーの株式会社ファンケルではCRM戦略を強化しています。顧客の属性や購買履歴などのデータから一人ひとりに合わせた情報や提案を見出し、その顧客が活動する時間帯に合わせて自動的に配信できるシステムを開発しました。
このシステムによって、顧客に寄り添ったパーソナルなコミュニケーションが実現し、購入率の向上につながっているそうです(出典:株式会社ファンケル「ファンケルのビジネスモデル」。
データ活用に基づいたマーケティングによって購入率やリピート率が向上すれば、売上が伸びて「物価高による収益構造の圧迫」を緩和することが期待できます。
またデータ活用の質が高いほど顧客のニーズが正確に把握できるため、「消費者価値観の変化」への対応もしやすくなるはずです。
データ活用に基づいたマーケティングに取り組むのがおすすめな企業 ・豊富なデータを保有している |
4.流通DXを推進する4つのメリット
流通DXについて、具体的なイメージが湧いたでしょうか?
次に、流通DXを推進することにはどんなメリットがあるのかを見てみましょう。自社でも取り組みを始めようというモチベーションが向上するはずです。
それぞれの内容について、解説していきます。
4-1.業務効率と生産性が向上する
流通DXを推進する1つめのメリットは、業務効率と生産性が向上することです。
DXによって業務が省力化・自動化すると、その業務に費やしていた時間や人手が削減でき、削減した工数で他のコア業務に取り組むなど、全体的な業務を効率よく回すことが可能になります。それが量・質ともに優良な成果につながって、生産性が向上するのです。
実際に、情報通信白書(総務省)によると、DXに取り組んだことによる効果として「業務効率化・コスト削減」を挙げる企業が最多となっています。
【DXに取り組んだことによる効果】
出典:総務省「令和3年版 情報通信白書」
また、クラウドサービスの利用やリモートワークの導入などのDX施策を講じている企業は、そうではない企業に比較して生産性が高いというデータも出ています。
【DX施策と生産性の関係】
出典:総務省「令和3年版 情報通信白書」
業務の効率化や生産性の向上を目指したいという企業にとっては、流通DXが非常に効果的だということがわかります。
4-2.コスト削減につながる
流通DXを推進する2つめのメリットは、コスト削減につながることです。
流通DXによって情報や業務がデジタル化すれば、以下のようなコストが減ったり不要になったりするからです。
・紙書類の印刷・郵送費 |
実際に前述の調査結果では、DXに取り組んだことによる効果として「業務効率化・コスト削減」を挙げる企業が最多となっています。
【DXに取り組んだことによる効果】
出典:総務省「令和3年版 情報通信白書」
流通DXの導入には一定のコストがかかりますが、長期的には全体的なコスト削減につながる可能性が高いといえるでしょう。
4-3.機会損失を防げる
流通DXを推進する3つめのメリットは、機会損失を防げることです。
流通DXによって、顧客ニーズに即した商品を過不足なく準備することができ、顧客にとって購入しやすい環境を作ることができるからです。
例えば、データやAIを活用して需要を正確に把握することで、「売れやすい」商品を企画することができます。さらに、それを適正な在庫数で準備し、需要に応じて価格調整することで、「売り切る」可能性を上げられるのです。
また、オンラインやキャッシュレスといった顧客にとって便利な購入方法を整備しておくことは、機会損失の防止につながります。
このように、商品や購入方法を最適化するという点で、流通DXは顧客の購入行動を後押しするのです。
4-4.顧客満足度が向上する
流通DXを推進する4つめのメリットは、顧客満足度が向上することです。流通DXによって、顧客ニーズに即した対応が可能になるからです。
試しに、顧客目線で流通DXを考えてみましょう。データ活用によってパーソナライズされ、「まさに今自分が求めていたものだ」と感じる商品のプロモーションを受けたら、強く興味を引かれるはずです。
企業のホームページやSNSで商品情報が丁寧に説明されており、実店舗ではキャンペーンが実施されているとわかれば、行ってみたいと思いませんか?
実店舗で商品をチェックした後、好きなタイミングでアプリから購入し、スピーディーな配送で手元に届けば、満足度の高い体験ができたという気持ちになるのではないでしょうか。
このように、それぞれの顧客が好みの商品を、好みの方法で検索・購入できる環境を整えることで、満足度が高い体験を提供できるのです。
5.流通DXを推進する上での注意点
流通DXには多くのメリットがある一方で、注意点も存在します。適切に取り組み確実に成果を上げるために、押さえておきましょう。
それぞれの内容について、解説していきます。
5-1.一定の手間とコストがかかる
流通DXには、一定の手間とコストがかかります。
デジタル化に必要なシステムやツールの導入には選定作業やベンダーへ支払う費用が発生し、運営やメンテナンスに割くリソースも必要だからです。
使用するシステムの規模にもよりますが、数万円から数千万円の出費と導入・運営にかかる作業は避けられないと認識しておくことをおすすめします。
流通DXに取り組む目的と目指す成果を明確にし、それに必要なリソースを洗い出して、事前にしっかりと計画を立てましょう。
5-2.すぐには成果が得られない場合もある
流通に限らずDXでは、すぐに成果が得られない場合もあります。むしろ、企業のあり方を変革するという大掛かりな取り組みなので、一朝一夕に結果が出ないのは当然と考えておいた方がよいでしょう。取り組み内容や準備状況にもよりますが、年単位での展望が必要です。
DXは単なるデジタル技術の導入ではなく、従来の業務プロセスや組織の文化を根本から見直すものです。その実現のためには緻密な計画立案や従業員の教育など、数多くのステップをクリアしなければなりません。
また短期間で成果を求めてしまうと、施策の可否を正確に判断することが難しくなります。一般的なビジネスにおける取り組みと同様に、DXでも施策の効果を評価しながら継続的に改善を繰り返すことが必要なのです。
そのため流通DXは、長期的・包括的な視点をもって推進することをおすすめします。
6.流通DXに取り組むならまずは「戦略策定」をすべき
ここまで読んで「自社でも流通DXに取り組みたい」という気持ちになった方へ向けて、まずは何から始めるべきかということをお伝えします。
流通DXに取り組むのであれば、まずはDX戦略を策定しましょう。
DX戦略とは、DXを推進するにあたり、どんなビジョンに向かってどのような施策を講じていくかを定めたものであり、DXを成功させるためには必須となる指針です。
ビジネスモデルを変革するDXでは、予測が難しい状況の中でも道筋を見失わずに、長期的な取り組みを継続することが求められます。その中でロードマップとなるDX戦略が不適切であれば、組織が混乱する、リソースを浪費してしまう、などの弊害が生じて、DXの目的が達成できない可能性があるのです。
DX戦略の策定は、自社を取り巻く外部環境の影響を分析するところから始まり、DXによって達成すべきビジョンを決め、ビジョンと現状のギャップを確認し、そのギャップを埋めるための施策を検討して、いつどのように実行するかを計画するという流れで行います。
流通DXの成果は戦略の質に左右されるため、慎重に策定しましょう。
DX戦略の詳しい策定方法については、以下の記事で解説していますので、ご確認ください。
7.流通DXを成功させるための3つのポイント
最後に、流通DXを成功させるためにはどうすべきかということをお伝えしておきます。せっかく大掛かりな取り組みを行うのですから、期待する成果を上げられるようにチェックしておきましょう。
流通DXを成功させるためのポイントには、以下のようなものがあります。
それぞれの内容について、解説していきます。
7-1.経営層をはじめ全社員の共通認識を形成する
流通DXを成功させる上で重要なのは、経営層をはじめ全社員の共通認識を形成することです。
全社員の共通認識が形成されていると、組織が一丸となってDXを推進することができるため、スムーズな取り組みと最短距離での目的達成が実現しやすくなるからです。
たとえば、コストや人材を大きく動かすことが必要なのに経営層の理解が得られなければ、DXは頓挫してしまうでしょう。また、DXの必要性を理解していない従業員がいれば、せっかくのデジタル技術も活用されないかもしれません。
ここまでにも繰り返しお伝えしてきたように、流通DXとは企業のあり方を変革することです。一部の社員だけが努力しても実現が難しいため、全社員が自分事として認識できるように働きかけることをおすすめします。
7-2.組織横断的な体制を構築する
全社員の共通認識形成とともに、組織横断的な体制を構築することも重要です。
流通DXでは、商品やサービスの内容やそれを消費者に届けるフローなどが変わります。その変化に対応するには、複数の部署やパートナー企業との協力・調整が欠かせません。
組織横断的な体制が構築できていれば、情報やリソースの共有が円滑に行われ、適切に意思決定しながらDXを進めることが可能になるのです。
流通DXの推進にあたっては、各部門に担当者をおくほか、社内外の関係者と緊密にコミュニケーションをとりましょう。
7-3.DXを牽引できる人材を確保する
流通DXを成功させるためには、DXを牽引できる人材を確保することが必須です。
DXは長期的かつ複雑な取り組みなので、その全体像を把握しリーダーシップをとれる人材がいなければ、混乱や停滞が生じて目的の達成が難しくなる可能性があるからです。
しかし実際には、DXの課題として「人材不足」を挙げる企業が半数以上を占めるという状況にあります。
【DXを進める際の課題】
出典:総務省「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究」
流通DXを牽引する人材には、デジタル技術やDXへの深い知識に加えて、マネジメント能力やチームビルディング能力など多くのスキルが求められます。
このような人材は多くの企業で需要があるため、新規採用がなかなか難しいといえるでしょう。だからといって社内で育成しようとしても、リソースが足りないことは珍しくありません。
そこで検討したいのが、外部サポートの活用です。DXのノウハウを持ち導入や運営をサポートしてくれるサービスを利用すれば、人材不足に悩むことなくベストプラクティスを実践できます。
流通DXに取り組んでみようと考えたら、まずは気になる会社をいくつかピックアップしてみてはいかがでしょうか。
顧客接点のデジタル化ならトランスコスモスにお問い合わせください |
流通DXにおいて、顧客接点をデジタル化したいとお考えの場合は、ぜひトランスコスモスにご相談ください。 トランスコスモスでは、問い合わせ窓口へのデジタルチャネル導入やデータの管理・分析など、コンタクトセンター(コールセンター)におけるデジタル化をサポートいたします。 お客様企業の課題やご要望に応じてご用意できる多種多様なソリューションと、企業様のデジタル化を数多くお手伝いしてきたノウハウをもとに、成果を最大化するためのパートナーとして伴走させていただきます。 何から始めればよいのかわからない、施策の具体化に不安があるなど、どんなことでもお気軽にお問い合わせください。 |
まとめ
この記事では、流通DXについての基礎知識を詳しく解説しました。以下に要点をまとめます。
流通DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、流通業においてデジタル技術を活用しビジネスモデルを変革することです。近年厳しさを増す流通業経営において、顧客から選ばれる企業になるためのカギとして注目されています。
流通DXが求められる理由は、流通業が抱える以下の課題解決につながるからです。
・物価高によって収益が減少している |
流通DXの具体的な施策には、主に以下の6つがあります。
・購入ルート・顧客コミュニケーションのデジタル化 |
流通DXを推進すると、以下のようなメリットが得られます。
・業務効率と生産性が向上する |
一方、流通DXを推進する上では、一定の手間とコストがかかり、すぐには成果を得られない場合があることを認識しておくことが必要です。
流通DXを成功させるためには、以下のポイントを押さえましょう。
・経営層をはじめ全社員の共通認識を形成する |
流通DXは、物価高や消費者価値観の変化によってモノが売れにくくなっている現状の中で事業を維持するためには欠かせない取り組みです。この記事の内容を参考に、自社への導入を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。