
「コンタクトセンター(電話やメールに加え、SNS、チャットなど幅広いコミュニケーションチャネルを利用して、顧客と企業を結ぶ部署を指す。以前は電話コミュニケーションのみだったので、コールセンターと呼ばれており、現在でもコールセンターで表現されている所も多い。)のテレワーク化は難しいのでは?」
と感じているかもしれません。
結論からお伝えすると、適切な対策をすれば従来のコンタクトセンター(コールセンター)と同等のセキュリティ環境を実現し、コンタクトセンター業務をテレワーク化することは可能です。
実際に、小規模のコンタクトセンターから数百人規模のコンタクトセンターまで、テレワークをすでに実現している所は多くあります。
しかしながら、導入には注意点があることも事実で、コンタクトセンターのテレワーク化を成功させるためには、メリット・課題の両面を把握し、適切な対策を取ることが不可欠です。
そこで本記事では、「コンタクトセンターのテレワーク化」について、詳しく解説します。
▼ 本記事のポイント ・コンタクトセンターをテレワーク化するための基礎知識が身につく |
「コンタクトセンターのテレワークについて情報収集したい」
「自社のコンタクトセンターのテレワーク導入を成功させたい」
…という方におすすめの内容となっています。
この解説を最後までお読みいただければ、「コンタクトセンターにおけるテレワークの概要」はもちろん、期待できる効果や、注意すべきリスクまで把握できます。
結果として、コンタクトセンターへのテレワーク導入をスムーズに成功できるはずです。
では、さっそく解説を始めましょう。
目次
1.コンタクトセンター(コールセンター)におけるテレワーク化の現状
1-1.コールセンターのテレワーク化を進める企業は増えている
最近では、コールセンター(コンタクトセンター)をテレワーク化する企業が増えてきています。
コンタクトセンターのテレワーク化とは、オフィスに出勤するのではなく、在宅勤務でオペレーター業務を行うことです。
2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大の防止対策として、多くの企業がテレワークを導入するようになりました。
特にコンタクトセンターのオフィスは、感染リスクが高い環境であるセンターが多かったことから、テレワークの重要性が叫ばれています。
・高層ビルのワンフロアにあることが多く、「換気のために窓を開ける」ことができない
・コールセンターでは個人情報を扱う機会が多く、出入り口にセキュリティシステムがあって、部屋の扉を閉め切っていることが多い
・コンタクトセンターの規模が大きい場合は、1部屋に100人以上のオペレーターが在籍し、ソーシャルディスタンスを取るのが難しい
・電話による対応が多いため、飛沫感染のリスクが上昇してしまう
さらには、コンタクトセンターのテレワーク化には「人材不足の解消」「コスト削減」「非常時でのコンタクトセンター運営維持」といったメリットもあるため、コンタクトセンターにテレワークを導入する企業が増えてきているのです。
詳しいメリットは「2.コンタクトセンター(コールセンター)をテレワーク化するメリット・効果」で詳しく記載しています。
ただし、テレワークが推進される中で「コンタクトセンターでのテレワークは難しい・不要である」といった声が多いのも事実です。
1-2.コンタクトセンター(コールセンター)のテレワークが難しいといわれる理由
コンタクトセンター(コールセンター)のテレワークが難しいと言われる理由は何なのでしょうか。
それは「個人情報漏えいリスク」「マネジメントが難しくなる」といった懸念点があるためです。
個人情報漏えいリスクに関しては、具体的には以下のようなリスクがあります。
・自宅から個人情報へアクセスすることになるため、オペレーターが個人情報をメモに控えて保存したとしても管理者は把握できない
・防音壁やセキュリティ設備が整っているコンタクトセンターとは異なり、自宅では隣の部屋に通話内容が漏れてしまったり、セキュリティ対策不足で不正アクセスされてしまうリスクが高まる可能性がある
また、マネジメントが難しくなるという懸念点については、詳しく見てみると、以下のような課題が発生します。
・オペレーターの業務への取り組みぶりが見えないため、どのように評価するべきかわからない
・オペレーターのモチベーションや悩みごとをどのように早期発見するのかわからない
・遠隔から、オペレーターに対してどのように教育を行うべきかわからない
・いつでも対面でのディスカッションや情報共有ができるわけではない
しかし、最近ではコンタクトセンターのテレワーク化に向けてさまざまな施策やツールが導入され、課題は大きな懸念点ではなくなり、コンタクトセンターのテレワーク化はどんどん実施しやすくなっています。
たとえば、コンタクトセンターのテレワーク化に向けて、以下のような施策やツールの導入がなされています。
◆セキュリティ面 ◆マネジメント面 |
もちろん、ほかにもコンタクトセンターのテレワーク化に向けた施策やツールがあり、これまで懸念されていた点は、施策やツールを導入すれば、多くの場合、解決できるようになっています。
コンタクトセンターのテレワーク化が進んだきっかけは新型コロナウイルスの感染拡大が大きな理由ですが、今後も、以下の理由でコンタクトセンターにテレワークを導入する需要は伸びていくでしょう。
・「人材不足の解消」「コスト削減」「非常時のコンタクトセンター運営維持」といったメリットの大きさ
・コンタクトセンターをテレワーク化するためのノウハウの蓄積
・コンタクトセンターをテレワーク化へ導くICT技術の発展
2.コンタクトセンター(コールセンター)をテレワーク化するメリット・効果
コンタクトセンター(コールセンター)をテレワーク化すると、どんなメリット・効果があるのでしょうか。
1.非常時にもコンタクトセンター(コールセンター)を継続できる |
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1.非常時にもコンタクトセンター(コールセンター)を継続できる
1つめのメリットは「非常時にもコンタクトセンター(コールセンター)を継続できる」ことです。
コンタクトセンターにテレワークを導入することにより、在宅で顧客からの問い合わせに対応できるようになるため、災害やパンデミックなどの非常時であっても影響を受けず、コンタクトセンターの機能を維持し、運営を継続できます。
日本ではこれまでに、以下のような非常事態が発生し、多くの企業でコンタクトセンターの運営が困難になったり、閉鎖に追い込まれたりしています。
▼東日本大震災下でのコンタクトセンター運営 東日本大震災では、「公共交通機関が止まる」「道路が分断されてしまう」などでオフィスに出勤できなかったり、「コンタクトセンターの設備に損傷が発生する」ことで、復旧作業が優先されてしまったりするなど、コンタクトセンターの運営を継続できない事態が発生しました。 ▼新型コロナウイルスの感染拡大防止によるコンタクトセンターの運営 新型コロナウイルスの感染が拡大したことにより、「出勤者数の削減」を国から要請され、コンタクトセンターの運営が困難になってしまう事態が発生しました。 |
上記のような非常時には、業種によってはコンタクトセンターに対して通常よりも問い合わせが増えます。
そのような状況下で、1日中電話をかけてもつながらなかったり、疑問や不安があるのにコンタクトセンターが閉鎖してしまって解決できなかったりする場合、多くの顧客は大きなストレスを感じ、結果的に顧客満足度は低下してしまいます。
また、コンタクトセンターに受注機能があれば、コンタクトセンター運営ができないということは利益損失に直結します。
そこで、コンタクトセンターにテレワークを導入すれば、各オペレーターが自宅から顧客の対応ができ、たとえ非常時にオペレーターがオフィスに出勤できなくても、サービス提供が可能になります。そのため、顧客満足度の低下や利益損失が発生しにくくなるのです。
したがってコンタクトセンターのテレワーク化は、非常時でもコンタクトセンターの機能を維持し、運営を継続できる大きなメリットといえるでしょう。
ちなみに災害やパンデミックなどの非常時でも、コンタクトセンター業務を中断することなく続けられる仕組みづくりをBCP対策といいます。
コンタクトセンターのBCPの対策について詳しく知りたい方はこちらの記事もあわせてお読みください。
2-2.柔軟な働き方が提供できる
2つめのメリットは、「柔軟な働き方ができる」ことです。
これまでは「子育てのために時短希望」「配偶者の転勤による引っ越し」「介護の必要性」などの事情により、退職せざるを得なかった従業員も、テレワークなら自宅で業務を行えるため、通勤時間分就業することができ、オフィスで働くよりも柔軟な働き方が可能となります。
またテレワークを導入すると、従業員満足度が向上し、従業員が離職しにくくなる傾向もあります。
株式会社リクルートキャリアの「新型コロナウイルス禍における働く個人・企業の意識調査(2021年)」では、「現在のテレワークでの働き方について、満足度を教えてください」という問いに対して、「大変満足」と「満足」と回答した人は51.2%でした。
さらに、満足度が高かった項目を見ると、「働く時間(始業、終業時間や休憩など総合的に)」が70.3%と最も高く、次いで「有給休暇の取得しやすさ」(61.2%)、「働く場所(家やサテライトオフィスの中の環境)」(57.4%)となっています。
つまり、半分以上の人がテレワークに対して満足しており、「働く時間」「有給取得」「働く場所」などにおいて特に満足しているということがわかります。
このように、テレワークを導入することで、従業員の満足度を高め、場所に縛られずに働き続けられる環境を提供できるため、離職率を低下させることが可能なのです。
2-3.人材を確保しやすくなる
3つめのメリットは「人材を確保しやすくなる」ことです。
その理由は、テレワークによって自由度の高い柔軟な働き方を可能にすれば、「働きやすい職場」としての価値が向上し、応募が増えやすくなるからです。
実際に、パーソルキャリア株式会社が運営する転職サービス「doda」が20〜30代を対象に「第3回リモートワーク・テレワーク企業への転職に関する調査」を2021年に行ったところ、「転職を検討する際にリモートワーク・テレワークを実施しているかどうかは応募の意向に影響しますか」という問いに対して、「とても影響する」と回答した人が33%、「やや影響する」と回答した人が22.7%いました。
つまり、およそ6割以上の人が転職の際にテレワーク実施の有無が応募の意向に影響しているということになり、テレワークが導入されている企業に転職したいと感じている求職者が多いということがわかります。
このようにテレワークの導入によって、自社で「働きたい」と応募する人が増えるため、結果的に人材を確保しやすくなるのです。
2-4.コストを削減できる
4つめのメリットは「コストを削減できる」ことです。
コンタクトセンター(コールセンター)にテレワークが導入される場合、以下の費用が不要になるため、コストを削減することができるのです。
▼コンタクトセンターにテレワークが導入された場合に不要になるコスト ・オフィス縮小分の賃料 |
たとえば、100人規模で運営しているコンタクトセンターの80人程度はテレワーク化して、残りの20人はコンタクトセンターオフィスで業務を行うといった場合、20人程度が業務を行えるオフィスに移転することになるため、毎月の賃料は安くなり、水道光熱費や通勤手当も最小限に抑えることができます。
但し、テレワークによる手当が発生する現状運用と併用(現スペースなどをそのまま残す等)する場合は、コスト削減といっても注意が必要です。
このほか、前述の人材確保のしやすさによる採用コストや、離職率低下による育成コストの削減などを加味すれば、テレワークによるコスト削減効果は非常に大きなものとなります。
3.コンタクトセンター(コールセンター)をテレワーク化する課題
大きなメリットのあるコンタクトセンター(コールセンター)のテレワーク化ですが、一方で課題も抱えています。
・セキュリティリスクがある |
事前にマイナス面も把握しておけば対策しやすくなります。順に見ていきましょう。
3-1.セキュリティリスクがある
1つめの課題は「セキュリティリスクがある」ことです。
コンタクトセンター(コールセンター)にテレワークを導入し、在宅勤務でオペレーター業務を行う場合、コンタクトセンターオフィスのように防音壁やセキュリティ設備が整っていたり、スマートフォンなどを含めた私物の持ち込み不可エリアはありません。
そのため、コンタクトセンターをテレワーク化するためのセキュリティ対策を施さなければ、「通話内容を誰かに聞かれる」「通話データや個人情報が漏えいする」といったセキュリティリスクが高まってしまうのです。
こうした課題は、以下のようなセキュリティ対策を施すことで解決することができます。
▼コンタクトセンターのテレワーク化においてセキュリティを向上させるポイント 「技術」「物理」「人」「ルール」の4つでセキュリティ対策を行いましょう。 ◆【技術】ツールを使って情報漏えいリスクの対策を行う 以下のようなツールを導入して、情報漏えいが発生しないように対策を講じましょう。 ・VPN接続:インターネット上の、特定の人のみが利用できる専用ネットワークのこと。 ・仮想デスクトップ:サーバー上にデスクトップ環境を構築し、その画面を一人ひとりのクライアント端末に転送して、通常のパソコンと同じ感覚で使う技術。クライアント端末側にデータを持たないため、セキュリティ面での安全性が高い。 ・監視ツール:監視対象システム上で、ウイルスや不正アクセスを検知するツール。 ・クラウドコンタクトセンターシステム:インターネットとパソコンさえあれば、場所を選ばずにコンタクトセンターを立ち上げられるツール。電話応答中の顧客情報の表示や、問い合わせ履歴の一元管理などの機能が搭載されている。 ・フィルタリングソフト:不正なサイトへのアクセスをブロックでき、情報漏えいを防げる ◆【人】在宅オペレーターの個人情報に関する知識を深める テレワークを実施するオペレーター自身が、個人情報に関する知識を深めることも重要です。 ・個人情報に関する研修の実施 などを実施すると良いでしょう。 ◆【ルール】機密情報に関する基本方針、対策基準、ルール適用を明文化する 機密情報に関して在宅の状態でどのように扱うのか、などのルールを明文化して徹底するようにしましょう。 総務省「テレワークセキュリティガイドライン 第5版」 |
コンタクトセンターのテレワークにおけるセキュリティ対策について以下コラムでも紹介していますので参考にしてください。
3-2.マネジメントしにくくなるケースがある
2つめの課題は「マネジメントしにくくなるケースがある」ことです。
これはコンタクトセンター(コールセンター)に限ったことではありませんが、テレワークを導入した企業の課題として多く挙げられるのが「従業員のマネジメントの難しさ」です。
オペレーターと顔を合わせてコミュニケーションをとることができないため、管理が行き届きにくく、マネジメントしにくくなってしまうのです。
たとえば、以下の声が多く寄せられています。
・労務管理が難しい |
特にメンタルケアは、コンタクトセンター運営にとって重要な問題です。メンタルケアが出来ていなかったら顧客対応が雑になり、結果的に企業評価を落とすこともあります。
テレワークを導入する際には、テレワークに適した労務管理方法やオペレーターを孤立させないための応対支援の仕組みやコミュニケーションツールの導入など、あらかじめ対策を検討しておく必要があります。
3-3.生産性が落ちる可能性がある
3つめの課題は「生産性が落ちる可能性がある」ことです。
テレワーク移行直後は、センターでの運営時と労働環境が変わるため、対応に戸惑うことが多く、一時的に落ちることが報告されています。
たとえば、コンタクトセンター(コールセンター)のオペレーターはセンターであれば、対応中にわからないことがあれば、管理者に手上げエスカレーションをして回答していましたが、テレワーク直後はチャットなどでのエスカレーションが基本となります。
そのため、普段使い慣れていないツールの利用が生産性低下の原因となりったりします。
テレワーク移行にあたって、どのような形式で運営するのか、不都合となることがなさそうかを一度センター内で検証したうえで徐々に移行していく必要があります。
3-4.新たなシステム/環境整備投資が必要になる
4つめの課題は「新たなシステム投資が必要になる」ことです。
テレワーク移行にあたって、センターで利用しているものを自宅に持ち帰っても、いきなり業務が出来るわけではありません。
在宅でオペレーター業務を行えるようなシステムを導入する必要があるのです。
現状の環境にもよりますが、
・業務ネットワーク環境
・セキュリティ対策
・自宅でのエスカレーション対応の為のチャットツール導入
などで投資が必要になる可能性があります。
加えて、新たなシステム導入のための人的リソースや、オペレーターへの教育コストも発生します。
4.コンタクトセンター(コールセンター)におけるテレワークの導入事例
コンタクトセンター(コールセンター)にテレワークを導入するイメージを持てるよう、4章ではコンタクトセンターにおけるテレワークの導入事例をご紹介します。
4-1.大手製造メーカー様の事例
1つめの事例は、新型コロナウイルス感染拡大に際して「最優先の課題は、従業員・パートナー・家族の安全を守ることである」と掲げ、いち早くコンタクトセンター(コールセンター)の在宅化を進められてきた大手製造メーカーA社様の事例です。
A社様がコンタクトセンターの在宅化において懸念していた課題は以下の3つです。
①サービスレベルの低下 |
それぞれ詳しく見てみましょう。
4-1-1.サービスレベルの低下
A社様では、従業員の安全や新型コロナウイルス感染拡大防止のためには、一度にコンタクトセンター(コールセンター)をテレワーク化することが有効である一方、一斉に全員がテレワークへ移行してしまうとサービスレベルの低下につながるという懸念がありました
そこで初期ステップとして業務習熟度が高いベテランオペレーター数名を先行して在宅勤務に移行しました。
並行して、以下の3つの状況に着目して本格的な在宅移行ができるかを判断しました。
①サービスレベルの維持 サービスレベルの維持ができるのかどうか、「在宅移行後の生産性・応対品質」を移行前から設定しているKPI達成状況と比較し評価しました。 ②音声品質 オペレーターの自宅から管理者と通話チェックを事前に行い、各オペレーターのインターネット環境でも音声品質を保てるか確認。 ③管理者オペレーション チャット上でオペレーターが管理者へ質問したり、管理者がその回答をテキストで伝えるという状況になれるため、少人数から在宅に移行し、管理者も在宅勤務でのオペレーションに徐々に慣れていくことで、本格的な在宅移行に備えました。 |
そして、上記3つが問題ないと判断できた際に、その次の週から数名を追加で在宅化していくということを繰り返し、まずはオペレーターを100%移行、次に管理者を在宅移行し、在宅率100%を達成しています。
4-1-2.コミュニケーションの希薄化
在宅勤務では、コンタクトセンター(コールセンター)のように、従業員同士が顔を合わせて話す機会が減ってしまうため、相手の表情がわからないチャットでの、テキストベースのコミュニケーションが中心になります。
その結果どうしても、コミュニケーションが希薄になってしまうのではないかという懸念がありました。
組織にとってコミュニケーション不足は、業務の連携が取りにくくなるといった問題があるため、避けなければならない問題です。
そこでA社様では、ビデオチャットを積極的に活用するようにしました。
具体的には、社内の朝礼や面談、管理者からオペレーターに対するフィードバックは必ずビデオチャットを使うようにし、お互いの顔を見ながら話をするようにしました。
その結果、管理者からオペレーターに対して必要事項を伝えるだけでなく、オペレーターの理解度や反応を確認できるようになったため、センターにおける対面でのコミュニケーションレベルと同じレベルが保てるようになりました。
さらには、管理者・オペレーター間のコミュニケーションだけでなく、オペレーター同士のコミュニケーション活性化への意識改革となり、在宅移行前と比べてオペレーター発信でのビデオチャットを使ったランチ会を実施するなど、コミュニケーションが活発化しています。
4-1-3.セキュリティリスク
在宅勤務におけるセキュリティリスクの中でも、とくに遠隔からのアクセスをどこまで許可するのかが問題となっていました。
コンタクトセンター(コールセンター)オフィスのように、社内ネットワークでなければ必要なサポート資料やお客様情報を参照するのは簡単ではありません。
そこで、アクセス権に関しては在宅シミュレーションで何度も協議を重ね、どこまでの範囲を許可するのかを決定していきました。
また、在宅勤務におけるルールの設計も課題となっており、A社様では、携帯電話やメモ帳などの作業現場への持ち込みを禁止しました。
業務パソコンにもグループポリシーを設定し、USBや光学ドライブも会社側で制御することで、ダウンロードができないようにしました。
こうした結果、コンタクトセンター勤務時と同レベルの就業意識、セキュリティ意識を持って働ける環境の整備に成功しています。
4-2.動画配信プラットフォーム事業者様の事例
2つめの事例は、動画配信プラットフォームを運営されているB社様です。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、コンタクトセンター(コールセンター)の在宅化を優先課題とし、原則在宅勤務に態勢を変更した結果、センター稼働の際には勤怠率が90%を切る状況から、在宅化で勤怠率を98%まで引き上げることに成功した事例をご紹介します。
B社様では、コンタクトセンターの在宅化を行う上で、以下のような課題がありました。
①勤怠率の低下 |
それぞれ詳しく見てみましょう。
4-2-1.勤怠率の低下
B社様の業務では、勤怠率が90%を切っていることが課題となっていました。そのため、在宅移行と同時に勤怠率改善を同時に進める必要がありました。
そこで在宅勤務を進めるにあたって、新たに勤怠と連動させたルールを策定し、あわせて評価制度にも反映させました。
勤怠と連動させたルール作りは以下のような内容となっています。
・勤怠不良の場合は在宅解除 ・在宅運用に関するハンドブックを作成し、「勤怠不良、ルール未順守、重大なミスを犯してしまうなど指導が必要な場合には在宅勤務が解除になる」「出社指示に従わない場合は在宅業務不適切とし在宅解除する」「在宅勤務/解除は個人要望で行えるものではなく会社都合であること」を明記 |
また評価制度では、勤怠率の評価項目とは別に適用する「皆勤賞」を設け、皆勤賞の場合は評価ポイントが加算され、時給査定にも影響するようにしています。
このような施策の結果、勤怠率90%台だった従業員が勤怠率98%になっているなど、勤怠率向上やオペレーターの自律性を高めることに成功しています。
4-2-2.稼働管理ができていない
B社様では、コンタクトセンター(コールセンター)を在宅化するとオペレーターが適切に業務を行えているのかを把握できない点を課題と感じていました。
そこで稼働管理ツールを導入し、作業が止まっていたり、休憩時間が超過していると管理者が感知できるようにしました。
また、業務中は常にオペレーターを映すカメラをオンにすることで、すぐにリスクやトラブルを感知できるようにしました。
その結果、迷っている際にはすぐフォローしたり、「エスカレーション以外で誰かと話している様子が伺える」といったトラブル時にも対応ができたりするなど、在宅であってもオペレーターが適切な業務を行えるような環境づくりをすることに成功しています。
5.コンタクトセンター(コールセンター)にテレワークを導入する流れ 4ステップ
ここで、コンタクトセンター(コールセンター)にテレワークを導入する流れを押さえておきましょう。
・ステップ1:テレワーク環境を構築する |
5-1.ステップ1:テレワーク環境を構築する
1つめのステップは「テレワーク環境を構築する」です。
まずは、オペレーターや管理者が自宅で業務を滞りなく進められるような環境を構築しなければ、コンタクトセンター(コールセンター)のテレワーク化の実現はできません。
企業側がテレワーク環境を構築するにあたって用意が必要なものは、以下のとおりです。
・システム環境
・パソコン、ヘッドセット
・VPN
それぞれ詳しく解説します。
5-1-1.システム環境
コンタクトセンター(コールセンター)のテレワーク化にシステム環境の構築は必須です。
在宅でも発着信や顧客管理が可能なシステム環境を整える必要があります。
在宅でコンタクトセンターを行うためのシステムには、主に以下3つを用意することで、在宅コンタクトセンターの基本的なシステム環境が整います。
クラウドPBX | 従来コンタクトセンターに設置されていた機内交換機がインターネット上で利用できるサービスのこと。 |
CTI | コンタクトセンターに必要な電話をパソコンと連携できるシステムのことです。 |
CRM | 顧客情報や履歴をデータとして蓄積し、対応時に活用することで、サービスレベルの向上や業務効率化を図るためのシステムのことです。 |
5-1-2.パソコン、ヘッドセット
オペレーターがコンタクトセンター(コールセンター)のシステムを利用するためのパソコン、発着信を行うためのヘッドセットも必要です。
パソコンは仮想デスクトップ化されていると、オペレーターが在宅でいながら、業務上発生するすべての情報のやり取りをオンライン上で行うことが可能になり、堅牢なセキュリティ対策となるため、おすすめです。
5-1-3.VPN
VPNとは、仮想のプライベートネットワークのことです。
送受信するデータを暗号化して外部への情報漏えいを防いでくれます。
在宅オペレーターの利用する端末から社内情報へのアクセスを安全に行うためには、VPN環境の構築も必須であるといえます。
ただし、環境準備には様々な手段があり、自社の現状環境に合わせて検討する必要があります。
トランスコスモスでは、テレワーク環境準備にあたり、在宅コンタクトセンターサービスを提供し、お客様企業に合わせた構築・運用を行っています。興味があれば下記よりご相談ください。
5-2.ステップ2:テレワーク環境下でのマニュアルやルールを作成する
2つめのステップは「テレワーク環境下でのマニュアルやルールを作成する」です。
テレワーク化では業務で不明な点があったとしてもすぐに管理者に相談できるとは限りません。
疑問が出てきたときに、すぐに参照できるマニュアルがあれば、オペレーターは安心して業務に取り組めるだけでなく、スピーディな対応が可能になります。
また、これまでとは異なる勤務形態であり、ルールを定めないと以下のような状況になる可能性があるため、ルールの再作成が必要になります。
▼コンタクトセンター(コールセンター)のテレワーク化でルールを定めなかった場合のトラブル例 ◆業務開始・終了の通知方法を定めなかった場合 →オペレーターによっては業務開始に遅れてしまったり、残業しすぎてしまったり、人によって勤務時間に大きな差が出てしまう。 ◆管理者とオペレーターとのコミュニケーションのとり方(朝礼や面談はWEB会議システムで行う、エスカレーションがあればチャットで連絡するなど)を決めなかった場合 →たとえばオペレーターAさんはWEB会議システムで管理者へエスカレーションするのに、Bさんはチャットでエスカレーションを行うといった状況になり、管理者側が人によってツールを使い分けなければならず、効率が悪くなるだけでなく、伝えるべきことが相手に伝わらず、業務に支障が出る可能性がある。 ◆セキュリティに関するルールを定めなかった場合 →「スマホやメモ帳はオペレーター業務を行う場所には持ち込まない」などのセキュリティに関するルールを定めなかった場合、オペレーターの悪意の有無にかかわらず、顧客の個人情報や、業務上のデータが情報漏えいする可能性がある。 |
このような状況に陥らないためにも、以下を参考にしてテレワーク環境下ではマニュアルやルールを再作成しましょう。
▼コンタクトセンターをテレワーク化する際のマニュアル再作成のポイント ・これまで利用していたマニュアルを見返し、すぐに上司がフォローに入れない状況を想定して、トークスクリプトを一部変更するなどの対応を行う。 ・事前に在宅オペレーターとロールプレイングを行ってシミュレーションをしておくことで、具体的な場面が想起でき、テレワーク用に改善するべき点が見えるようになる。 |
▼コンタクトセンターをテレワーク化する際のルール再作成のポイント ・業務開始・終了の通知方法を決めておく(アラームが鳴ったら終了するなど)。 ・管理者とオペレーターとのコミュニケーションの取り方を決めておく。朝礼や面談はWEB会議システムを利用、エスカレーションはチャットで連絡する、緊急フォローが必要な場合は管理者側の判断でフォローに入るなど、細かく決めておくとコミュニケーションに混乱が生じるリスクを避けられる ・セキュリティに関するルールを定めておく。たとえば、 コンタクトセンターによって、状況は違うため、自社に合うルール設定を以下のガイドラインを参考にして作成しましょう。 「総務省 テレワークセキュリティガイドライン 第5版」 |
5-3.ステップ3:研修を実施する
3つめのステップは「研修を実施する」です。
セキュリティの意識を高める研修や、機材やツールの詳しい使い方研修を実施しましょう。
オペレーターや管理者に対して研修を実施することで、
・セキュリティの意識を高められる
・テレワーク環境下で利用するツールの利用方法を理解してもらい、スムーズにテレワークを行えるようにする
といったことが可能になるのです。
具体的には、以下のような研修の内容を実施しましょう。
▼コンタクトセンター(コールセンター)をテレワーク化する際に実施したほうが良い研修 ◆セキュリティの意識を高める研修 ・テレワーク環境におけるセキュリティリスクやその対策について ◆機材やツールの使い方研修 ・機材のセットアップ方法 |
5-4.ステップ4:テレワーク運用検証後、小規模でスタートする
4つめのステップは「テレワーク運用検証後、小規模でスタートする」です。
テレワークを実施するにあたって、いきなりスタートするのではなく、テレワーク運用の検証をするのが良いでしょう。
まずは、システムおよびリモート環境でのオペレーションに問題がないかの確認、オンラインツールを利用した、エスカレーションやリモート研修に慣れることが重要です。
「3-3.生産性が落ちる可能性がある」で述べたように在宅移行直後はパフォーマンスなどに影響を及ぼします。
そのため、在宅にあわせた運用にシフトするためにまずはセンター内でも離れた場所で疑似在宅のような環境を作って運用を行ってみてもよいでしょう。
運用変更を考えないでテレワークを行っても、オペレーションは成功しません。
在宅にシフトチェンジする前提でオペレーションを組み替えて、センター以上のパフォーマンスが出せるためにはどうしていくかを検討していくことが成功の近道となります。
なお、テレワークを導入後は、以下の項目に対して効果測定を行います。参考にしてみてください。
▼ 評価項目例 ・応対品質 |
いきなり大規模での導入は難しいので、上記項目を小規模スタートの中から評価し、拡大範囲を決めていきましょう。
ちなみに、トランスコスモスではコンタクトセンターのテレワーク化をサポートする「在宅コンタクトセンターサービス」をご提供しており、以下のようなスケジュールでテレワーク化のご支援を行っております。
※実際の実行スケジュールについては、貴社と事前討議のうえ、確定とさせていただきます。
6.コンタクトセンター(コールセンター)にテレワークを導入する際の注意点
最後に、コンタクトセンター(コールセンター)にテレワークを導入する際の注意点をお伝えします。
・無理のない範囲からスモールスタートする |
順に見ていきましょう。
6-1.無理のない範囲からスモールスタートする
1つめの注意点は「無理のない範囲からスモールスタートする」ことです。
スモールスタートとは文字どおり“小さく始める”ことですが、コンタクトセンター(コールセンター)のテレワーク化を成功させるうえでは重要なポイントとなります。
最初は「チャット業務の一部のみ」「数名のオペレーターのみ」など限定してチャレンジすることで、導入の障壁が低くなると同時に重大なトラブルを回避できます。
前述のテレワーク運用検証後、小規模でスタートするプロセスとも重複しますが、最初は運用検証の上、小さく始めて、成果検証ができた部分から広げていくようにスケジュールを設計しましょう。
6-2.情報漏洩リスクに対処する
2つめの注意点は「情報漏洩リスクに対処する」ことです。
コンタクトセンター(コールセンター)のリモートワーク化に二の足を踏んでいる企業の多くが、その理由として「情報セキュリティの確保が難しい」ことを挙げています。
確かにセキュリティの確保は重要な課題ではありますが、適切に対策すれば、従来のコンタクトセンターと同等のセキュリティレベルを、テレワークで実現することは可能です。
具体的な対策としては「ルール」「人」「技術」の3本柱で考えると良いでしょう。
▼ 3つの情報セキュリティ対策
ルール | 「このように仕事をすれば安全を確保できる」という仕事のやり方をルールとして定める |
人 | テレワーク勤務者への教育や自己啓発、情報セキュリティに関する知識習得などを通じてルールが遵守されるように導く |
技術 | ルールや人では対応できない部分をデジタル技術や適切なシステム導入によって保管する |
参考:総務省「テレワークセキュリティガイドライン 第5版」
6-3.テレワーク用のオペレーションを確立する
3つめの注意点は「テレワーク用のオペレーションを確立する」ことです。
どんなにセンターでオペレーションが確立されていたコンタクトセンター(コールセンター)でもテレワークを開始した際は、様々な問題が生じるものです。
テレワークではこれまでの集合環境とは異なり、自宅で様子が分かりづらいため、オペレーターが孤立しがちです。
コミュニケーションも疎かになりがちなので、孤立させないようなオペレーションを検討し、マインドのケアも同時に実施していく必要があります。
またオペレーターが安心して業務が行えるよう育成・研修・成長プログラムもテレワークに併せてカスタマイズし、帰属意識づくりや離職防止、モチベーション維持のためのレクリエーションやイベント、在宅勤務者へのES調査などにも取り組む必要があります。
テレワークは、企業のBCP対策にもなるので、今後コンタクトセンターにとって無くてはならない手段になりますが、しっかり準備をしたうえで進めていってください。
トランスコスモスは在宅コンタクトセンターのオペレーションを2年で約3,000席まで拡大しており、センター同等のインフラ、セキュリティ環境の準備も可能です。
また在宅コンタクトセンターにおいても、国内最大規模の運営ノウハウを基にセンター同等のパフォーマンスを出すための手法も確立しておりますので、アウトソーシングを検討される際は一度ご相談ください。
まとめ
コンタクトセンター(コールセンター)のテレワーク化とは、オペレーターの自宅をはじめとするオフィス以外の場所で、インターネットやデジタルツールを活用してコンタクトセンター業務を行うことです。
コンタクトセンターをテレワーク化するメリット・効果は以下のとおりです。
・非常時にもコンタクトセンターを継続できる |
コンタクトセンターをテレワーク化する課題は以下のとおりです。
・セキュリティリスクがある |
コンタクトセンターにテレワークを導入する流れを4ステップでご紹介しました。
・ステップ1:テレワーク環境を構築する |
コンタクトセンターにテレワークを導入する際の注意点として次のポイントが挙げられます。
1.無理のない範囲からスモールスタートする |