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SXとは?基礎知識・取り組むべき理由を解説

「SXとは何だろう?」
「SXって取り組む意味があるの?」

と疑問に感じていませんか?

SXとはサステナビリティ・トランスフォーメーションの略称で、「社会のサステナビリティ」と「企業のサステナビリティ」を同期化させ、そのために必要な経営・事業変革を行い、長期的かつ持続的な企業価値向上を図っていくための取り組みのことです。

社会と企業のサステナビリティの概要

SXの取り組みの一つとして、経済産業省は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を掲げています。
その成長戦略に向け「化石燃料から太陽光発電を導入」した場合を例に考えてみましょう。

【例:太陽光発電を導入する場合】

社会のサステナビリティ

企業のサステナビリティ

(1)
太陽光による発電を行うことで、火力発電による電気の使用量を減らすことができる

(2)
火力発電による電気の使用量を減らすことにより温室効果ガスの排出を削減できる(環境負荷の低減)

(3)
気候変動への対応による社会の持続可能性の向上

(1)
太陽光による電力を導入することで、化石燃料の電力を減らすことができ、再生可能エネルギーの使用量が増える

(2)
自社が間接排出する温室効果ガス(Scope2)の削減をアピールできる

(3)
石油の価格変動や供給不安定性からのリスクも軽減できる(事業リスク削減)

(4)
自社の温室効果ガスの排出を削減できる

(5)
自社を調達先とする顧客の原材料仕入れや販売後に排出される温室効果ガス(Scope3)削減、顧客からの選択志向が高まる

カーボンニュートラル達成のためには、今までの環境活動だけでなく、この取り組みを一例とした長期的に事業活動に関係するサプライチェーン全体で温室効果ガス削減に取り組んでいくことが求められています。

その結果、サプライチェーン全体での要求に応えることで市場から選択されやすくなり、市場における企業価値の向上につながるのです。

そこでこの記事では「SXの取り組みが、いかに重要なのか」について理解できるよう、以下の内容を中心に解説していきます。

・【基礎知識】SXとは一体、どういうものなのか
・SXが企業にとって重要な理由
・SXに取り組む効果、課題

この記事を読むことで、SXについて理解できるようになります。
そして自社でSXを実現するために何ができるかを考えられるようになるでしょう。

目次 [非表示]

1.SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは

SX(サステイナビリティ・トランスフォーメーション)とはどのようなものなのでしょうか。
まずはSXに関する基礎知識について、以下3点を解説します。

・SXとは?
・SXへの取り組み例
・SXと「SDGs」「DX」との違い

1-1.SXとは「社会のサステナビリティ」「企業のサステナビリティ」の両立・同期させるための経営・事業の変革のこと

SXとは、「社会のサステナビリティ」と「企業のサステナビリティ」を同期化させ、自社の事業を変えたり、新しくしたりすることです。

社会と企業のサステナビリティの概要

「社会のサステナビリティ」と「企業のサステナビリティ」は、それぞれ以下のような意味を持っています。

社会のサステナビリティ

企業のサステナビリティ

社会のサステナビリティの概要

・気候変動、大気汚染などの環境問題に対処する
・貧困格差、教育格差、人種差別などの社会課題をなくして多様性を認める社会にしていく など、
将来にわたって社会機能が持続していくことを目指す考え方・取り組み(ESG※)を「社会のサステナビリティ」といいます。

企業のサステナビリティの概要

企業が目先の利益を追い求めるのではなく、
・長期的に持続するビジネスモデルを目指す
・長期的に事業の優位性が持続することを目指す
といったように、「企業が長期的に継続して稼ぐ力を向上させる」ことを目指す考え方・取り組みを「企業のサステナビリティ」といいます。

つまりSXは企業が、社会のサステナビリティ(持続可能性)を重視し、社会課題の解決のために、事業を変えたり新しくすることで、「長期的に継続して稼ぐ力の向上させること」を目指すことなのです。

ちなみには経済産業省では、SXを以下のように定義しています。

「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」とは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)を指す。

社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの同期化とは、企業が社会の持続可能性に資する長期的な価値提供を行うことを通じて、社会の持続可能性の向上を図るとともに、自社の長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の向上と更なる価値創出へとつなげていくことを意味する。引用

引用:経済産業省:「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」

1-2.SXの取り組み例

次に、SXに取り組むイメージが描けるよう、取り組み例をご紹介します。

【SXの取り組み例】

環境保護

・太陽光発電などを導入して100%再生可能エネルギーでの運用、温室効果ガス排出量の削減を目指す
・電気自動車を開発・販売して脱炭素化(カーボンニュートラル)を目指す

社会的責任

奨学金制度の設立、図書館の設立、地元の教育支援活動などを行い、地域社会への積極的な貢献をして、教育格差をなくす

イノベーション

スマートファクトリーの導入、製造工程の自動化を行い、製造プロセスを最適化して、効率化と環境負荷の低減を図る

上記のようなSXの取り組みは、一見「社会のサステナビリティ(持続可能性)」に取り組んでいるだけのように見えます。

しかしこうした社会のサステナビリティに取り組むことで、投資家・消費者・労働市場から「評価」を得て、結果として長期的に継続して売り上げを伸ばすことができるようになる、と考えられているのがSXなのです。

1-3.SXと「DX」「SDGs」との違い

SXと類似している言葉として「DX」「SDGs」があります。
以下のように比較してみると、よく似た言葉ではあるものの、異なる概念であることが分かるのではないでしょうか。

【SXとDXとSDGsの意味】

SX

DX

SDGs

「社会」「企業」双方のサステナビリティ(持続可能性)の実現を目指し、事業を変えていくこと
・日本の経済産業省が定めた経済戦略

デジタル技術(AI、IoT、ビッグデータ解析など)を活用して、
・業務プロセス
・商品、サービス、ビジネスモデル
・組織、企業文化
を変えていくこと

持続可能な世界を目指す国際目標のこと
国連サミットで定められた2030年までの世界全体の目標

SXとDXの違い

SXとDXは、以下の違いがあります。

【SXとDXの違い一覧表】

SX

DX

言葉の意味

「社会」「企業」双方のサステナビリティ(持続可能性)の実現を目指し、事業を変えていくこと
日本の経済産業省が定めた経済戦略

デジタル技術(AI、IoT、ビッグデータ解析など)を活用して、
・業務プロセス
・商品、サービス、ビジネスモデル
・組織、企業文化
を変えていくこと

事業変革

実施する

実施する

社会の
サステナビリティ

必須

必ずしも必要ではない

企業の
サステナビリティ

必須

必ずしも必要ではない

デジタルツールの
活用

取り入れたほうが
迅速かつ効果的

必須

このように比較してみると、いずれも「事業変革をする」という点は共通しています。

一方で、異なるのは、「サステナビリティを推進するかどうか」という点です。
SXは「サステナビリティの推進」が必須であるのに対し、DXは必ずしも必要ではないのです。

ちなみに、SXを効果的かつ迅速に推進していくためには、DXと一体となって取り組むことが重要になります。

SXとSDGsの違い

SXとSDGsは、以下のように「目的」「提唱している組織」に違いがあります。

【SXとSDGsの違い一覧表】

SX

SDGs

言葉の意味

「企業」「社会」双方のサステナビリティ(持続可能性)の実現を目指し、事業を変えていくこと

持続可能な世界を目指す国際目標のこと
国連サミットで定められた2030年までの世界全体の目標

目的

企業の持続可能なビジネスモデルへの変革の推進
・企業の長期的な価値向上と競争力の強化を目指す
・持続可能な社会をも目指す

地球規模での持続可能な社会の実現
・貧困、教育、気候変動などの広範な社会問題解決を目指す

提唱している組織

経済産業省

国際連合(UNIC)

上記を見ると分かるように、両者とも「持続可能性」を目指している点は共通しています。
しかし、以下のポイントは異なります。

・持続可能な企業(売り上げを伸ばす力のある企業)と社会の両立を目指すのか
・地球規模で持続可能な社会(広範な社会問題の解決)を目指すのか

このように「企業が社会の持続可能性に貢献し、社会の持続可能性を向上させると同時に、自社の成長と価値創造を促進していく」ことを目指すのがSX、「2030年までに(地球規模で)持続的な環境・社会になる」ことを目指すのがSDGsなのです。 

2.企業を持続的に経営するには「SX」へ取り組むことが重要

これからの企業が長期的に継続して経営を行うためには、「SX」へ取り組むことが重要になってきています。

長期にわたって持続的に経営するためにSXが必要不可欠な理由

・企業としての評価を得られなくなり、事業活動の継続が難しくなる
・「不確実性」の時代に突入しており、予想外のタイミングで事業活動が苦境に立たされる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

2-1.【理由1】企業としての評価を得られなくなり、事業活動の継続が難しくなる

1つめの理由は、企業としての評価を得られなくなり、事業活動の継続が難しくなるからです。
経済産業省の「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」では、以下のように語られています。

気候変動や人権問題を含むサステナビリティ課題は、社会はもちろんのこと、企業活動の持続性にも多大な影響を及ぼしている。これらの課題に対応しない企業は、投資家、消費者や労働市場から評価を得ることが難しくなり、その結果、事業活動を継続することが難しくなる。

引用:経済産業省:「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」

つまり、サステナビリティ課題に対応しない企業は評価されなくなり、事業活動を継続することが困難になってしまうのです。

経済産業省の「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」に記載されたESG投資額(※)の推移を見てみると、以下のように年々投資額が拡大しています。

これは「サステナビリティへ対応する企業が世間から評価されること」が窺える一方、対応しない企業は評価されないことを暗に示しています。

世界のESG投資額の推移

出典:経済産業省:「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」

従って投資家、消費者、労働市場から評価され、事業を長く持続させるためにも、企業はSXへ取り組んだほうが良いといえるでしょう。

【用語解説】
※ESG投資額:ESGに配慮した企業に対して行う投資の金額のこと
※ESG投資:ESGに配慮した経営を行っている企業を優先的に投資対象とする手法

ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のこと。
企業が成長するためには、
・「地球温暖化」「生物多様性」などの環境問題(E)
・「人口問題」「貧困問題」などの社会問題(S)
・不健全な経営が横行するガバナンス問題(G)
へ配慮し、持続可能で豊かな社会を実現する(サステナビリティを実現する)ために動くべきである、という考え方が世界で広まっている。

2-2.【理由2】「不確実性」の時代に突入しており、予想外のタイミングで事業活動が苦境に立たされる恐れがある

2つめの理由は「不確実性」の時代に突入しており、予想外のタイミングで事業活動が苦境に立たされる恐れがあるからです。

日常生活にも影響を及ぼしたり、頻繁にニュースが流れてきたりする、以下の不確実な状況は身に覚えのある人も多いのではないでしょうか。

・新型コロナウイルス感染症
・国際秩序の変化(米中対立、ウクライナ戦争など)
・原油、物価の高騰によるコスト上昇

またそのほかにも、以下のように予測できない状況が起こる可能性があります。

・国際物流の分断や原材料などの供給が一時的に追いつかない(供給懸念)
・自社が万全にセキュリティ体制を整えていても、取引先で十分な対策が取られておらず、予期せぬところからセキュリティが破られ、サイバー攻撃を受ける

このように不確実性に直面する現代では、いつ事業活動が苦境に立たされるか予測不能です。
そうした不確実な状況において、変化にも柔軟に対応できる持続可能な企業となるためには、SXへの取り組みが重要なのです。

3.SXに取り組むことで得られる3つの効果

SXについて検討する際、具体的にどのような良い効果を得られるのかは気になるところです。
そこで3章では、SXへの取り組みで得られる一般的な効果を、以下3点解説します。

SXに取り組むことで得られる一般的な3つの効果

・消費者や投資家からの企業イメージが向上する
・投資家からの投資が拡大する
・取引先への持続可能なサプライチェーンに対応する

3-1.消費者や投資家からの企業イメージが向上する

1つめの効果は消費者や投資家からの企業イメージの向上です。
なぜなら、環境問題・社会課題への対応に積極的な姿勢を見せることで、消費者や投資家に好印象を与えられるからです。

実際に消費者庁による「令和4年度第3回 消費生活意識調査」によると、「人や社会・環境に配慮した消費行動による持続可能(サステナブル)な消費形態」である「エシカル消費」について、「興味がある」と回答した人の割合は 45.5%となり、半数近くの消費者がエシカル消費に興味を持っていることがわかりました。

令和4年度第3回 消費生活意識調査の結果を表すグラフ

出典:消費者庁「令和4年度第3回 消費生活意識調査」

この結果から消費者はサステナビリティに対しての興味や意識が高くなっており、サステナビリティに取り組む企業に対して好印象を持ちやすい状況となっているといえるのです。

また投資家からはESGへの注目が高まっています。
そのため、SXに取り組む企業は投資家からの高い評価が得られる可能性が高いのです。

例えば、アパレル事業を展開するA社がSXに取り組んでいるケースを想像してみましょう。

【A社のSXへの取り組み内容】
・環境に優しい素材を使用したアパレル商品を製造する
・商品のリサイクルを開始し、廃棄物を削減する

【消費者・投資家の反応】
<消費者>この企業を環境保護や社会貢献に積極的なブランドと認識し、好感を抱くようになる
<投資家>持続可能なビジネスモデルに期待し、企業価値の向上を見込んでいる

このように、SXに取り組んで環境問題や社会課題に積極的に対応する姿勢は、企業ブランドのイメージを向上させる効果があるのです。

3-2.投資家からの投資が拡大する

2つめの効果は投資家からの投資が拡大することです。
SXに取り組むことで、経営リスク(不確実性)に備えていることをアピールでき、ESG投資家からの投資拡大に期待できます。

SXの重要性は「2-2.【理由2】「不確実性」の時代に突入しており、予想外のタイミングで事業活動が苦境に立たされる恐れがある」でもお伝えしたとおり、いまや投資家にも広く知られています。

現代は、「SXに取り組んでいない企業は経営リスクが高い」とみなされる時代になってきているのです。

というのも、世界では、以下のような「ビジネスの前提となる価値観」を激変させるような予想外の出来事が次々起こっています。

・新型コロナウイルス感染症によるパンデミック
・米中対立
・市場やサプライチェーン(※)の状況の大きな変化
・短期間での生成AIの大進化

こうした不確実性の中では、ESGに配慮しなければ、不測の事態に対処できず、経営リスクは高くなってしまい、ひいては投資家から投資してもらえなくなってしまうでしょう。

一方でSXへの取り組みは経営リスクを低減させる努力をしているとみなされ、投資家から評価してもらえる取り組みの1つになるのです。

2-1.【理由1】企業としての評価を得られなくなり、事業活動の継続が難しくなる」でご紹介した経済産業省の「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」で発表されたESG投資額(※)の推移を見てみると、年々投資額が拡大しています。

このようにSXに取り組むことで「投資家からの投資拡大に期待できる」のは大きな魅力のひとつといえるでしょう。

3-3.取引先への持続可能なサプライチェーンに対応する

3つめの効果は取引先への持続可能なサプライチェーンに対応することができます。
環境や社会的な要因に配慮したサプライチェーンを構築することで、長期的に安定した供給を確保し、事業の持続可能性を高めることができます。

<取り組み例>

●温室効果ガスを削減する
 太陽光パネルを設置・発電し、再生エネルギーの利用にシフトする
 食品廃棄物の一部を肥料として再利用し、資源循環を行う
●従業員などの人権問題に配慮する
 強制労働や過剰な残業、ハラスメント、労働環境の改善

企業がサプライチェーン全体にわたり持続可能な取り組みを行うことで、取引先との関係性において、信頼関係が強化されるでしょう。

4.SXに取り組む際の2つの課題

SXへの取り組みを検討する際、マイナス面もあわせて知っておくことで、事前に「自社の場合はどのようにSXに取り組むべきなのか」を考えておくことができます。
そこで4章では、SXに取り組む際に発生する2つの課題と対策を解説します。

SXに取り組む際の2つの課題

・投資家から理解を得にくいケースがある
・人的・時間的コストがかかる

それぞれ見ていきましょう。

4-1.投資家から理解を得にくいケースがある

1つめの課題は、SXへの取り組みについて、投資家から理解を得にくいケースがあることです。

投資家の中ではESG投資が広がってはいるものの、SXは長期的に取り組むものであるため、短期的な利益・業績には結びつかないケースも多く、投資家の理解を得られないケースもあるのです。

経済産業省も「『サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会』中間取りまとめ(2020年8月公表)」の中で、以下のようにSXへの取り組みについて、投資家の理解を得られにくいテーマがあることが記載されています。

【投資家の理解を得られにくいテーマ】
◆多角化経営(※)や、複数事業におけるポートフォリオマネジメント(※)の在り方
◆新規事業創出やイノベーションに対する「種植え(※)」に関する取組
◆経済的価値と社会的価値の両立(※)に向けた取り組み

※多角化経営:SXの取り組みとして、新しい市場に挑戦すること
※ポートフォリオマネジメント:自社の持っている経営資源をSXのために最適に分配すること
※種植え:SXの取り組みとしての新規事業の計画・実施
※経済的価値と社会的価値の両立:企業が持続可能な経営を行うことで、同時に経済的な利益を追求しつつ、社会や環境への貢献も果たすこと

以上の3つのテーマは、「不確実性の高まり」「社会のサステナビリティの要請の高まり」を踏まえた、中長期的に企業価値を向上させていく取り組みであり、短期的に利益・業績に結びつくような取り組みではありません。

こうしたSXへの取り組みを投資家に理解してもらえないと、企業はSXのための資金調達に苦労する可能性があります。
そのため、以下を実施することが重要になります。

企業は投資家との対話の機会を積極的に設け、「投資家のメリット」「方針」を説明する

「どのように投資家との対話を深めていけばいいのか」については、「6.SXに取り組む際の3つのポイント」で詳しく解説します。

4-2.人的・時間的コストがかかる

2つめの課題は、人的・時間的コストがかかることです。

SXは企業全体で取り組むものであるため、以下のプロセスを全社的に進めようと思うと、人的・時間的コストがかかります。

企業全体でSXに取り組む際に必要なプロセス

・SXへの取り組みに対する企業の方向性、存在意義の明確化
・SXを踏まえた、戦略プランを策定する(長期経営計画など)
・マテリアリティ(重要課題)の策定
・ガバナンスの整備
・研修の実施
 (社員にサステナビリティの重要性を理解し、SXの方針に沿った業務を進めるための研修)
・業務プロセスやシステムの見直し
 (サステナブルなプロセス・システムに変更する)
・取り組み進捗の定期的なモニタリングと改善
・SX施策の成果のデータ収集、報告書作成

このようにSX実現に向けて人的・時間的コストがかかると、特に人手・予算が限られる中小企業は、SXに取り組みにくくなってしまいます。

そのためSXの取り組み内容を考える前に、以下のポイントを考えておくと限られた時間・リソース・予算の中でSXに取り組める体制が整いやすくなるでしょう。

限られた時間・人的リソース・予算でSXへ取り組むためのポイント

◆外部リソースを活用する

・SX推進支援を行うコンサルティングサービスなどを活用し、時間・リソースの不足を補強する
・NGOやNPOと協力し、リソースを補強する

◆DX化を進めて効率化を図り、時間・リソース・費用の余裕を生み出す

・社内のDX化を進め、業務効率化を進めて、SXへ取り組むための時間・リソースの余裕を生み出す

◆パートナーシップを形成しておく

・他の企業や団体と協力して時間・リソースを共有しあう

5.SX取り組み事例

企業がSXにどのように取り組んでいるのかを知ることで、取り組みに対する解像度をさらに上げることができます。そこで5章では私たちトランスコスモスでのSX取り組み事例をご紹介します。

この記事では、代表的な2つの事例をご紹介します。
1つはGHG(温室効果ガス)排出量データ収集・算定を自動化するサービス、1つは人的資本の健康経営優良法人2024(大規模法人部門)に認定されたトランスコスモスの取り組みについてご紹介します。

5-1.GHG(温室効果ガス)排出量データ収集・算定を自動化するサービス

トランスコスモスは、お客様企業がGHG排出量を算定するために必要なデータを自動的に収集し、算定するサービスを2023年より提供しています。

このサービスを導入することで、データの収集と分析にかかる作業時間を大幅に削減し、正確性を向上させ、タイムリーな分析環境を整えることに貢献することができます。

GHG排出量算定における課題

トランスコスモス社内でデータを使用した実証実験に成功し、担当者の作業時間を97%削減しました。

従来のGHG排出量算定のためのデータ収集業務では、各拠点で過去の電気料金請求書を基に電力プランや電力使用量をExcelに転記し、経理担当者にシステムからデータの抽出を依頼し、算定担当者がデータの整理や係数との関連付けを行っていました。

しかし、このサービスでは、既に経理や調達の業務で蓄積されているデータを直接クラウドシステムに連携させることで、データ収集と算定の作業時間を削減します。

当社GHG排出量算定ソリューションのスキーム

生成されたデータは、主要なBIツールや各種のGHG排出量算定ツールと連携することができます。また、システムからの自動連携により、前月のデータは翌月の数営業日以内に確認できるようになり、月ごとのタイムリーな排出量の確認や分析が可能になります。

2023年5月に開始されたHCMアナリティクスの導入により、人的資本開示に関連するデータと組み合わせて、既存のBIツールに反映させることもできます。

5-2.健康経営課題についての取り組み

続いて人的資本の課題の一つである健康経営の取り組みについて紹介します。
トランスコスモスではサステナビリティ基本方針に基づき従業員の健康を重要な経営課題と捉え、健康経営宣言を制定しています。

People & Technologyが事業の原点であり、「従業員は無限の可能性を秘めた最大の資産」であると考え、従業員の健康増進活動においては人事部門、統括産業医など専門的な産業保健スタッフ、事業所の衛生管理者、労働組合、健康保険組合が連携し、推進してきました。

自社のサステナビリティ基本方針にもとづいて、以下を重要な健康経営課題として捉え、様々な取り組みを実施しています。

【健康経営で解決したい経営課題】

トランスコスモスで働く全ての従業員とその家族が健康を維持・増進し、従業員が心身ともに最高のコンディションで業務に邁進できる状態の実現

【トランスコスモスの健康経営への取り組み(一部)】

◆こころとからだの健康サポート
トランスコスモス健康保険組合と連携し、健康相談窓口を設置。相談窓口は、専門家(看護師、保健師、助産師、管理栄養士、医師等)が24時間・年中無休で対応しており、病気や身体の不調、メンタルヘルスに関することだけではなく、育児や介護に関する相談にも対応しています。

また、女性に配慮した女性専用の窓口も設置しており、無料で相談することができます。

◆生産性向上に向けた時間外労働の削減
センターや事業所別に異なる勤務形態に対しては、多様かつ柔軟なシフト勤務を取り入れています。また営業部門など外出が多い業務についてはフレックスタイム制、モバイルワークを導入しています。

さらに場所や時間にとらわれない働き方を推進するため、複数の職場でテレワークを実施しています。

◆運動支援
リモートワーク従業員を対象に社員自身の健康への意識改善としてウォーキングイベントなども実施しています。

他にも、目標消費カロリーからセレクトされた運動コースや気軽に取り組みやすい運動コースなどもアプリ内にて閲覧ができるコンテンツを展開しています。

こうした取り組みなどが評価され、経済産業省と日本健康会議が共同で選定する「健康経営優良法人認定制度」において、2024年3月に「健康経営優良法人2024」(大規模法人部門)に認定されました。

このように社会のサステナビリティを向上させると共に、持続的に自社の稼ぐ力を向上させています。

6.SXに取り組む際の3つのポイント

それでは具体的に、SX実現に向けてどのように取り組めば良いのでしょうか。
6章では社会に対してだけでなく、企業にとってもビジネスメリットを得られるようなSXに取り組むポイントを以下3つ解説します。

【ビジネスチャンス・投資を呼び込める】SXに取り組む際の3つのポイント

・「社会のサステナビリティ」を踏まえた目指す姿を明確化する
・「目指す姿」にもとづいて戦略を構築する
・KPI・ガバナンスの設定と投資家との対話を深める

それぞれ詳しく見ていきましょう。

6-1.「社会のサステナビリティ」を踏まえた目指す姿を明確化する

1つめのポイントは社会のサステナビリティを踏まえた目指す姿を明確化することです。
企業として目指す姿(=ゴール)を明確にすることで、自社の取り組みの方向性・軸を定めることができます。

そのため、まずは社会のサステナビリティに対して、以下のように検討し、目指す姿を設定します。

目指す姿を設定するための3ステップ

(1)社会へ価値提供をするにあたって大切にしたい自社の価値観を決める

【例】企業活動を通じて地球環境を守る

(2)明確化した価値観から考えられる「対処するべき社会の重要課題」を特定する

【例】温室効果ガスの削減、太陽光・風力発電などの再生可能エネルギーへの移行

(3)自社の「価値観」「重要課題」から「目指す姿」を設定する
「どのように社会に価値を提供していくのか、それによってどのように長期的な価値向上を達成するのか」といった「目指す姿」を設定する

【例】「カーボンニュートラル企業」を目指して、温室効果ガスの排出をゼロにし、持続可能なエネルギー利用を実現する企業となる

このように、まずはSXの取り組みに向けた企業のゴールを考えましょう。

6-2.「目指す姿」にもとづいて長期的な企業価値を創り出す戦略を考える

2つめのポイントは目指す姿にもとづき『長期的に持続する企業価値』を創り出すための戦略を考えることです。なぜなら、目標を達成するためには、戦略が必須であるからです。

例えば「カーボンニュートラル企業を目指して、温室効果ガスの排出をゼロにし、持続可能なエネルギー利用を実現する企業となる」と目指す姿を設定した場合、

・どうやって温室効果ガスの排出をゼロにするのか
・持続可能なエネルギーとして、どの再生エネルギーへの移行が、企業や社会にとって良いのか
・再生可能エネルギーはどうやって移行するのか
・どのようなスケジュールで進めるのか

といったように、目標達成のために戦略として考えることは多岐にわたります。
そのため、理想を語るだけでなく、「いかに達成するのか?」を考えることが重要なのです。

目指す姿を達成するための戦略は、経済産業省の「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」によると、短期、中期、長期別に組み立てることが重要であると伝えられています。

長期的な「目指す姿」を設定するだけでは、ゴールまでの行動が見えづらく、具体性に欠けてしまう可能性があるためです。

そのため「目指す姿」の達成に必要な行動・取り組みを、「短期」「中期」「長期」に分解して設定し、より具体的なタスク・スケジュールを組めるようにしておくとよいでしょう。

「長期」の戦略を組み立てる際には、以下の2つを実施します。

長期戦略を立てる際に行うこと

◆目指す姿の実現に向けて、基盤となるビジネスモデルを構築する
◆リスクと機会(チャンス)の分析を行う
(1)「目指す姿」に向けた取り組みが、環境や社会に与える影響を分析し、リスクと機会(ビジネスチャンス・競争優位性)をリストアップ
(2)各リスクと機会(チャンス)が事業に与える影響の大きさや、発生確率を評価する
(3)リスクを最小化し、機会(チャンス)を最大化するための具体的な施策を決定する

長期戦略を組み立てたら、以下のような取り組みを長期、中期、短期に応じて推進していきましょう。

【長期、中期、短期で推進していくべきこと】

事業ポートフォリオ戦略

複数の事業の組み合わせによって、より大きな付加価値を創造し、相乗効果を得て成長していく戦略を立てる

DX推進

デジタル技術を活用してビジネスモデルやプロセス、商品・サービスを確信して競争優位性を高めるように取り組む

イノベーション実現のための組織的なプロセスと
支援体制の確立・推進

SXの戦略、取り組みを進めるための組織的なプロセスと、支援体制の確立・推進を行う

人的資本への投資・人材戦略

人材を資源ではなく「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげていく

知的財産を含む
無形資産投資戦略

知識・技術や人的資本といった、「無形:見えない資産」への投資を行う

6-3.KPI・ガバナンスの設定と投資家との対話を深める

3つめのポイントは、KPI・ガバナンスの設定と投資家との対話を深めることです。

KPIとは、目標達成のためのプロセスにおいて、達成の度合いを定量的に評価できる指標です。
目標を数値化(KPI)することで、目標に対する進捗をモニタリングでき、必要に応じて戦略の調整ができるようになります。

また投資家は透明性の高い企業を好みます。
そのため、ガバナンスを設定することで、企業の運営が透明化され、投資家から信頼感を得ることができます。

さらに投資家と「長期的な企業価値の向上に投資すること」にまつわる対話を深めておくことで、

・投資家との信頼関係を強化する
・企業の長期戦略を投資家が理解し、共感する

といったことが可能となり、安定した投資を期待できるようになるのです。

そのため、KPI・ガバナンスの設定、そして投資家との対話を深めるという取り組みは行うようにしましょう。

KPIの設定、ガバナンスの設定、投資家との対話を深める際のポイントは、以下を参考にして検討することをおすすめします。

【KPIの設定の際のポイント】
・「KPIを長期間にわたってどうやって達成するのか」という見通しを示す
・その見通しが、長期的な企業の価値創造にどのようにつながるのかを示す
→投資家との対話を深められるため。

【ガバナンスの設定の際のポイント】
・なぜそのようなガバナンスの仕組みを構築しているのか
・それがどのように、自社固有の価値創造ストーリー(※)に位置づけられ、機能するのかを明らかにする。

※価値創造ストーリー
今後のビジネスチャンスや、将来さらされるリスクへの認識・対応をふまえて、投資家などのステークホルダーに対して自社の持続的成長を説得するためのストーリーのこと。

【投資家との対話を深める際のポイント】
投資家に開示する情報が定型化されないよう、「自社が持続的成長をしていくシナリオ」に根ざして開示をしていくことが重要
そうすることで、投資家との建設的な対話を行うことができる。

このようにして、ビジネスチャンス・投資を呼び込めるように取り組み、SXを実現させていきましょう。

またこの記事で解説してきた以外にもSDGコンパスというSDGsに取り組む世界中の企業に活用されているツールを活用する方法もあります。
自社にあった方法で取り組みをしてみてはいかがでしょうか。

SXの実践についてはトランスコスモスにご相談ください

事業と企業活動を通じた社会課題の解決

トランスコスモスでは公共・自治体での業務改善や、大規模な建築現場への工程管理ツール導入による効率化など、生活者やお取引先の課題解決(Well-being向上)に貢献する事業を展開しています。

さらにコンタクトセンター(コールセンター)事業を通じた人権課題への取り組みとして、カスタマーハラスメント対策も推進しています。
トランスコスモス、trans-DX for Support活用でカスタマーハラスメント対策を推進

SXの実践について検討中の場合、ぜひ一度、トランスコスモスにご相談ください。

まとめ

本記事では、SXに関する基礎知識や取り組む効果・課題、取り組み事例をご紹介しました。
最後にこの記事の内容をまとめます。

◆SXとは
「社会のサステナビリティ」「企業のサステナビリティ」の両立を行うこと

◆企業を持続的に経営するには「SX」へ取り組むことが重要

(1)企業としての評価を得られなくなり、事業活動の継続が難しくなる
(2)「不確実性」の時代に突入しており、予想外のタイミングで事業活動が苦境に立たされる

◆SXに取り組むことで得られる3つの効果

・消費者や投資家からの企業イメージが向上する
・投資家からの投資が拡大する
・取引先への持続可能なサプライチェーンに対応する

◆SXに取り組む際の2つの課題

・投資家から理解を得にくいケースがある
・人的・時間的コストがかかる

◆【ビジネスチャンス・投資を呼び込める】SXに取り組む際の3つのポイント

・「社会のサステナビリティ」を踏まえた目指す姿を明確化する
・「目指す姿」にもとづいて戦略を構築する
・KPI・ガバナンスの設定と投資家との対話を深める

SXの基礎知識を確認し、SXの取り組みのヒントにしましょう。

トランスコスモスは3,000社を超えるお客様企業のオペレーションを支援してきた実績と、顧客コミュニケーションの
ノウハウを活かして、CX向上や売上拡大・コスト最適化を支援します。お気軽にお問い合わせください。
トランスコスモスは3,000社を超えるお客様企業のオペレーションを支援してきた実績と、顧客コミュニケーションのノウハウを活かして、CX向上や売上拡大・コスト最適化を支援します。お気軽にお問い合わせください。