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【事例あり】自治体フロントヤード改革の取り組み内容や実施する手順

「自治体フロントヤード改革とはどのような取り組みなの?具体的な内容が知りたい」
「自治体フロントヤード改革に取り組むべきか迷っている。取り組むメリットはあるの?」

市役所や地方自治体業務に携わっていると、耳にする機会が増えた「自治体フロントヤード改革」。
聞いたことはあるものの「具体的に何をするのか」「なぜ取り組んだほうがいいのか」分からない方も多いのではないでしょうか。

自治体フロントヤード改革とは、行政と住民のコミュニケーションやサービス提供の仕組みを根本的に変革し、効率的で利便性の高い行政サービスを目指す取り組みで地域住民を対象に「書かせない」「待たせない」「迷わせない」「行かせない」行政サービスの実現を目的にしています。

自治体フロントヤード改革の概要

自治体フロントヤード改革で実現できること

自治体フロントヤード改革は国をあげて注力している取り組みで、2026年度までに総合的なフロントヤード改革に取り組んでいる自治体数が300団体に増えることを目標にしています。

少子高齢化や地域格差が進む中で今自治体フロントヤード改革に取り組まないと、将来的に住民に安定した行政サービスを提供できなくなる可能性があります。

自治体フロントヤード改革に取り組まないことで起きること

今後も質を維持しながら行政サービスを提供するためにも、今自治体フロントヤード改革について理解し取り組むべきか判断することが大切です。

そこでこの記事では自治体フロントヤード改革の概要や取り組むメリット、手順など自治体フロントヤード改革に関する基礎知識を解説しています。

とくに、自治体で実践している好事例をまとめて解説しているので必見です。

◎自治体フロントヤード改革とは
◎自治体フロントヤード改革の取り組み事例
◎自治体フロントヤード改革で実現できること
◎自治体フロントヤード改革に取り組む5つのメリット
◎自治体フロントヤード改革に取り組むときの課題
◎自治体フロントヤード改革に取り組むときの手順
◎自治体フロントヤード改革に取り組むときの4つのポイント

この記事を最後まで読めば自治体フロントヤード改革とはどのようなものか理解でき、取り組むべきか判断できます。

住民満足度の高い行政サービスを提供するためにも、ぜひ参考にしてみてください。

目次 [非表示]

1.自治体フロントヤード改革とは

冒頭でも触れたように自治体フロントヤード改革とは、行政と住民のコミュニケーションやサービス提供の仕組みを根本的に変革し、効率的で利便性の高い行政サービスを目指す取り組みで住民を対象に「書かせない」「待たせない」「迷わせない」「行かせない」行政サービスの実現を目的にしています。

自治体フロントヤード改革の4つの目的

書かせない

行政サービスを利用するときの申請書、書類を記入する手間、負担を軽減する

待たせない

行政サービス提供までの待ち時間を短縮する

迷わせない

行政サービス利用時に手続きやフローで迷うことがない

行かせない

本庁舎・支所・出張所などに行けなくても行政サービスを利用できる

「フロントヤード」とは住民と自治体・行政の接点を指しており、窓口での受付業務や相談業務、住民が利用する空間など、住民と自治体・行政のあらゆる接点が対象です。

こういった接点にAI、デジタル技術の利活用をしていくことで、この4つの目的を実現することができます。

総務省は「自治体フロントヤード改革が目指す将来像」も公表しています。

総務省の「自治体フロントヤード改革が目指す将来像」の概要

自治体フロントヤード改革が目指す将来像の取り組み内容

具体例

マイナンバーカードの活用で住民の接点の多様化

マイナンバーカードの利活用シーンを拡大し、マイナンバーカード1枚で様々な行政手続きができる

データ対応の徹底

オムニチャネル化に伴いペーパーレス化を推進する

庁舎空間は単なる手続きの場所から多様な主体との協働の場へ

庁舎空間は手続きの場で留まるのではなく住民が集い交流できる場として活用する

出典:総務省「自治体フロントヤード改革に関する個別取組事例集」

この取り組みはあくまでも総務省が提示している未来像で、今後、2026年度までに総合的なフロントヤード改革に取り組んでいる自治体数を300団体に増やし、より一層自治体フロントヤード改革を推進していく見込みです。

しかし目的を達成するための取り組み内容は自治体により大きく異なります。

2.自治体フロントヤード改革の取り組み事例

自治体フロントヤード改革の概要が理解できたところで、各自治体ではどのような取り組みをしているのか具体例をご紹介します。

自治体フロントヤード改革のイメージが持てるようになるので、参考にしてみてください。

自治体名

取り組み内容

三重県志摩市

職員の聞き取り・アプリ活用で書かない窓口を導入

栃木県日光市(郵便局)

郵便局に行政事務を一部委託してリモート相談窓口を設置

北海道北見市

担当部署が異なる窓口を集約化する書かないワンストップ窓口を導入

福島県いわき市

遠隔地に住む住民が行政サービスを利用できる出張行政サービス「お出かけ市役所」を実施

埼玉県草加市

待ち時間の不満などを解消できるスマート窓口を導入

神奈川県川崎市

書かない窓口のシステムから得たデータを業務改善に活用

2-1.住民との接点の多様化事例:書かない窓口の設置

三重県志摩市では「書かない窓口」として、2つの取り組みをしています。

【三重県志摩市の書かない窓口の取り組み】

1.市役所職員が聞き取りをした内容をもとに申請書を作成する
2.アプリを活用して事前に申請内容を登録する

住民票・印鑑登録証明書交付申請書などの申請時には、住民が毎回申請書に個人情報を記入する手間が発生していましたが、「書かない窓口」では市役所職員が聞き取りをする、またはアプリを活用する方法でその手間を省いています。

アプリの活用では住民が専用アプリをダウンロードすると、事前に申請情報の登録ができ、申請内容の登録が完了するとQRコードが作成できるので、窓口でQRコードを提示し印字してもらう仕組みです。

印字された申請書内容を確認し署名するだけで証明書発行手続きが完了するため、窓口滞在時間の短縮につながりました。

この「書かない窓口」を導入した結果職員の年間約36,000件の手続きにかかる作業時間が1,950時間も削減できました。

参考:志摩市公式サイト「書かない窓口・しまナビ~志摩市公式アプリ~」

2-2.住民との接点の多様化事例:リモート相談窓口の設置

栃木県日光市では住民サービスの向上のため、郵便局にタブレット端末を設置し行政事務の一部委託を開始しました。

郵便局の職員では対応できない手続きや相談は、行政相談担当者がタブレット経由で対応します。
個人情報保護に配慮するために相談時には原則郵便局職員は同席せず、住民はヘッドセットを着用して話す仕組みになっています。

2022年度は郵便局で190件の事務があり、職員が遠隔地に出向き相談に乗る負担が軽減できました。

郵便局でのリモート相談は2024年に熊本県の七滝局と御船上野局でも始まり、少しずつ広がりを見せています。

参考:総務省「自治体フロントヤード改革に関する個別取組事例集」

2-3.住民との接点の多様化事例:担当部署が異なる業務を集約してワンストップで提供

北海道北見市では、担当部署が異なる窓口を集約化する「書かないワンストップ窓口」を導入しています。

従来は転居や出生など住民のライフイベントが発生すると、課やカウンターを移動しながら様々な手続きをする必要があり、カウンターごとに説明、申請書の提出を繰り返していました。これに対し住民・職員ともに無駄だと感じる業務があったそうです。

そこで、自治体が保有するデータを活用し、必要な手続きの自動判定ができるシステムを導入し、職員のスキルに左右されない判断をもとに、定型的な手続きを1つの窓口で行えるようにしました。

住民は印刷された書類の確認と署名のみで、何枚もの申請書を記入する負担を軽減できました。

【従来の窓口の課題】

・住民が複数の窓口を回る必要があり手続きに時間がかかる
・窓口を回るときに何度も申請書を記入する必要がある
・職員側も同じ説明を何度もする必要がある

【書かないワンストップ窓口で解消できたこと】

・住民が申請書を記入する必要がない
・住民がいくつもの窓口を回る必要がない
・職員が同じ説明をする必要がなく1つの窓口で完結できる
・職員向けのガイダンス機能により手続きのミスを減らせる

書かないワンストップ窓口の導入により、4人世帯で転校と児童手当、医療費助成手続きを含む市内転居手続きは従来は45分かかっていたのが10分で完了するようになりました。
庁内全体の業務削減時間は約3,375分にのぼり、業務効率化に大きく貢献しています。

参考:内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「書かないワンストップ窓口」

2-4.住民との接点の多様化事例:移動窓口で職員の移動時間を短縮

福島県いわき市では庁舎から離れた地域に住む住民にも行政サービスを提供できるように、出張行政サービス「お出かけ市役所」を実施しています。

地域の公民館や集会所に出向いてくれるマルチタスク車両で、マイナンバーカード登録の補助や行政手続きの相談などを行っており、車両内には本庁舎とオンラインでつながる機器が設置されているので、遠隔地であっても質の高い窓口サービスを受けることが可能です。

「お出かけ市役所」により職員が都度遠隔地を訪問する負担を軽減できたのはもちろん、遠隔地に住む住民からも「手軽にサービスが利用でき高齢者にとってありがたい」という声が届いています。

参考:いわき市役所公式サイト「出張行政サービス「お出かけ市役所」」

2-5.住民との接点の多様化事例:スマート窓口の導入

埼玉県草加市では、市役所での手続き負担を軽減するためにスマート窓口を導入しています。
スマート窓口では下記の5つが実現でき、住民と職員の双方の手間を減らせます。

スマート窓口の項目

概要

来庁前に混雑状況が分かる

混雑予想カレンダーとリアルタイムでの窓口混雑状況の2つを公開し、できる限り混雑時を避けて来庁を検討できる

AIによる窓口案内を利用できる

庁舎内に設置されたパソコンではAIが目的の窓口案内をしてくれる

Webで待ち人数を確認できる

発券機で番号札を受け取るとスマートフォンなどから待ち人数の状況を確認できる

書かない窓口で受付時間を短縮できる

身分証を提示するだけで申請書を交付できる

窓口案内書を発行できる

複数の手続きがある場合は「窓口案内書」を発行して他の窓口を一括予約できる※

スマート窓口では住民が庁舎に来庁した際の「窓口が分からない」「待ち時間が長い」という負担を軽減するために、混雑状況・待ち時間の確認や手続きの流れの確認ができる点が特徴です。

職員にとっても住民に都度案内する手間を減らすことができ、業務効率化につながっています。

参考:草加市公式サイト「そうかスマート窓口について」

2-6.データ対応の徹底:ログデータ等を業務改善に活用

神奈川県川崎市では、書かない窓口のシステム(区役所フロントシステム)から得られたデータを業務改善に活用しています。

受付・審査・窓口などの各工程の受付件数や対応時間を収集し、収集したデータは自動集計、解析できるBIツールを活用し、各工程の現状を可視化することで、「時間のかかっている工程はどこか」「利用者の多い工程はどこか」などを分析し、迅速な改善につなげています。

短期間で業務改善を重ねることで、結果的に処理時間の減少を実現できています。

参考:総務省「地方公共団体における行政改革の取組」

3.自治体フロントヤード改革で実現できること

冒頭でも触れたように、自治体フロントヤード改革では住民に対して「書かせない」「待たせない」「迷わせない」「行かせない」の4つを実現することを目的にしています。

ここでは、4つの目的を軸に具体的にはどのようなことが実現できるのかご紹介します。
自治体フロントヤード改革での取り組み内容を決めるためにも、実現できることを把握しておきましょう。

自治体フロントヤード改革の4つの目的(実現できること)

書かせない

行政サービスを利用するときの申請書、書類を記入する手間、負担を軽減する

待たせない

行政サービス提供までの待ち時間を短縮する

迷わせない

行政サービス利用時に手続きやフローで迷うことがない

行かせない

本庁舎・支所・出張所などに行けなくても行政サービスを利用できる

3-1.書類を書く手間を省ける

「書かせない」では、「書かない窓口」の実現を目指します。

※従来の自治体業務には住民が書類や申請書を書く負担が大きく、必要な書類の受け取りに時間がかかる課題がありました。

とくに複数の手続きをする場合は1日に何枚もの書類、申請書を書く必要があり、住民に負担が大きいだけではなく、申請内容により書式や必要事項が異なることで修正が発生しやすく、職員も負担を感じる側面がありました。

そこで、書かない窓口では以下の2つの方法で、住民の書類を書く手間の削減を目指しています。

住民自身が記入

・事前にWebサイト、アプリ経由で情報を入力する
・マイナンバーカードの情報を活用する

職員が記入

・住民から情報の聞き取りをして代筆する
・自治体が保有しているデータを使用する

事例で触れた三重県志摩市のように、双方の方法を導入することも検討できます。
書かない窓口の導入が進むことで、住民負担の軽減や職員の業務効率化が実現できるでしょう。

書類を書く手間を省ける効果

住民

・手続きにかかる時間を短縮でき行政サービスが利用しやすくなる
・障がいなどで書類を書くことが難しい状況でも気兼ねなく行政サービスを利用できる

自治体職員

・1件当たりの対応時間を短縮できる
・限られた職員で行政サービスを提供できる

3-2.手続きの待ち時間を短縮できる

「待たせない」では、行政サービスを受けるときの待ち時間短縮を目指します。

市役所に行き「混雑していて手続きが進まない」「簡単な手続きに数時間かかってしまった」など、待ち時間に関する不満を感じたことがある方は多いでしょう。

この状況を改善するために、自治体フロントヤード改革ではデジタル技術を活用しながら、以下のような取り組みをします。

待ち時間を短縮するアイデア

概要

事前予約の導入

Webやスマートフォンから行政サービスの事前予約を行い待ち時間が発生しないようにする

リアルタイムでの混雑状況・待ち時間の共有

市役所などの混雑状況をリアルタイムで共有して住民が待ち時間の状況を事前把握できるようにする

キャッシュレス決済の導入

キャッシュレス決済ができる機器を導入して会計時の待ち時間を短縮する

窓口受付時間の拡張

行政サービスの窓口受付時間を拡張し住民の利用時間を分散させる

このように、待たせない行政サービスが定着すれば、住民が足を運びやすい状況を実現できるでしょう。
また、住民だけでなく、自治体の職員の負担の軽減にもつながります。

手続きの待ち時間を短縮できる効果

住民

・住民のタイミングで行政サービスを活用しやすくなる
・待ち時間の長さに対する不満を解消できる

自治体職員

・待ち時間に関する案内にかかる手間や負担を軽減できる
・業務量の調整がしやすくなる

3-3.利用方法で迷うことを減らす

「迷わせない」では、住民が迷うことなく行政サービスを利用できる環境を目指します。

自治体フロントヤード改革では従来の動線や手続き方法が複雑で、住民が利用しにくい状況を根本的に変革していくので、以下のように住民が迷わない仕組みづくりを実現できます。

住民の迷いを減らすアイデア

概要

総合窓口や案内の多様化

パソコンやタブレットを設置やチャットボットの活用、職員による案内など多様な方法を取り入れて住民が利用しやすい環境を作る

窓口のワンストップ化

1つの窓口のみで複数の手続きができるようにすることで、住民が手続きで迷うことを減らす

障がい者・外国人対応

誰もが平等に行政サービスを活用できるように、障がい者や外国人対応ができる環境を整える

北海道北見市の事例でもあったように、様々な行政サービスをワンストップで提供できる仕組みを構築できれば、住民が庁舎内を移動する必要がなくなります。

また、住民が迷ったときに利用する総合窓口に複数の方法を用意できれば、職員の対応が難しいときでも住民が自己解決を図れるでしょう。

利用方法で迷うことを減らす効果

住民

・住民が効率よく行政サービスを利用できる
・行政サービスを利用する負担感や不安を軽減できる

自治体職員

・1人当たりの行政サービス利用時間を短縮できる
・「利用方法が分からない」「どこで手続きすればいいのか分からない」などの問い合わせ対応を減らせる

3-4.自治体の窓口に行く手間を削減する

「行かせない」では、住民、職員の双方が自治体の窓口に出向く負担の軽減を目指します。

現状は地域によって以下のような課題があり、住民の誰もが手軽に行政サービスを利用できる状況ではありません。

【自治体の地域差による課題】

・本庁舎・支所・出張所から離れた遠隔地に住む住民が多数いて行政サービスを手軽に利用できない
・高齢者が多い地域で市役所に出向くことの負担が大きい
・平日に本庁舎・支所・出張所に行けない住民が多い

そこで、リモート相談や移動窓口などを活用して、住民が移動しなくても行政サービスを利用できる環境づくりを行います。

移動の負担を軽減するアイデア

概要

リモート窓口

郵便局などにリモート窓口を設置し、市役所まで来庁できない住民に行政サービスを提供する

移動窓口

自治体の車両で地域を訪問して住まいの地域で行政相談などを受けられる仕組みを作る

電話・Webでの受付

電話やwebで申請を行い最寄りの受け取り窓口で受け取る

福島県いわき市の事例のように移動窓口を導入すると、遠隔地に住む住民も行政サービスを受けやすくなります。

また、栃木県日光市のように郵便局で行政相談ができると、市役所まで行けない住民も近くの郵便局で行政サービスを利用することができるようになります。

このように、自治体の窓口に行く手間を削減できれば、地域や年齢による行政サービス利用の差を軽減できます。

自治体の窓口に行く手間を削減する効果

住民

・どの地域に住んでいても平等に行政サービスを受けられる
・高齢や障がいなどで来庁が難しくても行政サービスが利用しやすくなる

自治体職員

・職員が住民の住まいまで足を運ぶ手間を軽減できる
・行政サービスの満足度を向上できる

4.自治体フロントヤード改革に取り組む5つのメリット

自治体フロントヤード改革の具体的な取り組み内容が把握できたところで、自治体フロントヤード改革に取り組むメリットをご紹介します。

住民と自治体それぞれにどのようなメリットがあるのか、チェックしてみてください。

自治体フロントヤード改革に取り組むメリット

住民のメリット

・行政サービスが利用しやすくなる
・質の高いサービスが受けられるようになる

自治体のメリット

・業務効率化ができる
・地域活性化につながる
・少子高齢化でも持続可能なサービスを提供できる

4-1.住民側のメリット:行政サービスが利用しやすくなる

1つ目は、住民にとって行政サービスが利用しやすくなるところです。
現在は以下のような課題を抱えており、自治体によっては住民がいつでも手軽に行政サービスを利用できるとは言い難い状況です。

【現在の行政サービスの課題】

・本庁舎・支所・出張所まで遠い地域があり利用ハードルが高い住民がいる
・常に混雑している状況で待ち時間が長い
・書類や申請書などが統一されておらず手続きが複雑化している
・窓口が複数あり手続きによってはたらい回しになる

行政サービスは住民にとって、必要なときに手軽に使える存在でなければなりません。

自治体フロントヤード改革の目的である「書かせない」「待たせない」「迷わせない」「行かせない」が実現すれば、現状よりも行政サービスが利用しやすくなるでしょう。

実際に移動窓口を利用した住民からは「市役所が身近な存在になった」という声や、書かない窓口では「手続きが楽になった」という声があがっており、自治体フロントヤード改革によって手軽に行政サービスが使用できるようになるのは、大きなメリットだといえるでしょう。

4-2.住民側のメリット:質の高いサービスが受けられるようになる

2つ目は、住民が質の高いサービスを受けられるようになることです。
今までは限られた職員で行政サービスを提供していたため、各手続において手厚いサポート、支援が難しい場面もありました。

自治体フロントヤード改革に取り組みデジタルと人を融合させた施策を実践することで、適切な人材配置ができるようになるでしょう。

たとえば、ワンストップ窓口を導入すると、今まで職員が必要だった工程を省略できます。
その分ワンストップ窓口を増やす、サポートが必要な住民の支援に当たるなどの人材配置をするとサービスの質が向上します。

また、神奈川県川崎市の事例のように業務のデータを収集、分析し、人材配置を改善すれば、住民が困っているときに手を差し伸べやすくなるでしょう。

自治体フロントヤード改革では「人」の力だけでは実現が難しかった部分に、AIやデジタルの力をすることで、限られた人員でも人にしかできない役割に注力しやすくなり、提供できるサービスの品質向上が目指せます。

4-3.自治体側のメリット:業務効率化ができる

3つ目は、自治体側の業務効率化が実現できるところです。

今までの行政手続きのオンライン化は、住民と自治体の接点を複数用意するマルチチャネル化が中心でした。

住民との接点は増えるもののチャネル同士の融合ができない、チャネルに応じた対応が必要などの課題があり業務効率化にはつながらないケースがありました。

自治体フロントヤード改革は全チャネルを一つのサービスとして融合していく考え方なので、住民の利便性向上と職員の業務効率化の両立が実現可能です。

たとえば、窓口のデジタル化のみで終わるのではなく、ワンストップ窓口やリモート相談窓口など様々な形態の窓口サービスに落とし込むことで、職員の負担を軽減し業務効率化につながっていきます。

業務効率化の例

ワンストップ窓口

定型的な手続きを1つの窓口で完結できる
例:北海道北見市では、従来45分かかっていた市内転居手続きを10分に短縮できた

リモート相談窓口

職員が住民の住まいに出向く必要がなくリモートで行政相談を実施する
例:栃木県日光市の事例では職員が遠隔地に出向き相談に乗る負担を軽減できた

人材不足の中、継続的な業務効率化を目指せる点は大きなメリットだといえるでしょう。

4-4.自治体側のメリット:地域活性化につながる

4つ目は、地域の活性化につながるところです。
従来の庁舎は住民が行政手続きをする場としての役割が強かったので、手続専用カウンターや記入台などが中心でした。

しかし、自治体フロントヤード改革では住民の利便性の向上だけでなく、庁舎空間を手続きの場所から多様な協働の場へ移行させることも目標としています。

【自治体フロントヤード改革での新たな庁舎空間活用例】

・住民の交流スペースや作業スペースを広く設ける
・住民がチャレンジできる場として住民によるカフェやレンタルスペースを設ける
・住民がイベントを主催、実施できる多目的スペースを設ける

自治体フロントヤード改革を推進することで、住民同氏の交流やチャレンジ、地域イベントが開催可能なスペースができれば、庁舎に住民が集まるようになり、今までにない賑わいや活気を感じられるようになるでしょう。

ひいては庁舎を起点に地域活性化が進み地域の魅力が増すことも考えられます。

4-5.自治体側のメリット:少子高齢化でも持続可能なサービスを提供できる

5つ目は、少子高齢化が進んでも持続可能なサービスを提供できるところです。
日本では少子高齢化が課題になっており、今後も加速していくと考えられています。

少子高齢化が加速すると行政サービスを提供する職員の数も減るため、今のうちから限られた職員で必要な行政サービスを提供できる状態を整えておく必要があります。

自治体フロントヤード改革ではAIやデジタル技術を活用し、人の手に頼らなくても可能な業務は自動化することができます。

【自治体フロントヤード改革による自動化の例】

・来庁した住民の案内
・予約番号発行
・事前予約業務
・データ分析業務

また、窓口業務をサポートするシステムを導入すれば、歴の浅い職員であっても品質を保ちやすくなるでしょう。

このように、自治体フロントヤード改革では、限られた職員でも持続可能なサービス提供を目指せるようになります。

5.自治体フロントヤード改革に取り組むときの課題

自治体フロントヤード改革はまだ本格的に開始したばかりの取り組みなので、様々な課題が残っています。

ここでは、自治体フロントヤード改革に取り組むときの課題をご紹介します。
どのような点に留意して推進するべきか理解するためにも、参考にしてみてください。

自治体フロントヤード改革に取り組むときの課題

1.地域住民の理解と協力が必要になる
2.デジタルツールを使う技術やセキュリティ対策が必要になる
3.コストがかかる

5-1.地域住民の理解と協力が必要になる

自治体フロントヤード改革は自治体業務全体を変革するものなので、住民の協力や理解が必要です。

書かない窓口でマイナンバーカードの提示が必要な場合、抵抗のある住民に理解を求めることや、オンライン相談やWeb予約などは、デジタルデバイスに慣れていない住民をフォローしたりすることも必要でしょう。

また、新しいシステムを導入するときには、一時的にサービスの利用が不便に感じることも考えられます。
事前に住民に周知をして、トラブルを回避する工夫も欠かせません。

自治体フロントヤード改革は、利用者である住民の理解と協力が必要です。
自治体側の都合や意思だけで進めないで、住民の理解を得ながら推進する姿勢を忘れないようにしましょう。

5-2.デジタルツールを使う技術やセキュリティ対策が必要になる

自治体フロントヤード改革では、デジタルツールやAIなどの技術を活用していきます。
今まで使用して来なかったデジタルツールを導入するには「技術・知識」と「セキュリティ」の壁があります。

技術・知識の壁

デジタルツールやAIなどを適切に使う知識・技術が必要

セキュリティの壁

情報漏えいやウイルス感染などインターネット環境ならではのインシデントに対する対策が必要

技術・知識の壁は、デジタルツールやAIなどを適切に使うための知識・技術習得を指します。
適切な使い方を知らずに導入すると、自治体に定着せず「新しいツールを導入した」段階で止まるでしょう。

自治体フロントヤード改革を推進するためにも、導入したいツール、技術に応じた適切な知識を身につける必要があります。

セキュリティの壁は、インターネット環境ならではのインシデントに対する対策を指します。
アナログ業務と同じ感覚でデータを扱うと、個人情報の漏えいや持ち出しなどのトラブルにつながります。

デジタルツールを導入する前に研修などを実施し、セキュリティ対策を実践できる状況にしておきましょう。

自治体フロントヤード改革は政府と自治体が力を入れて取り組み始めたばかりなので、現時点では総合的な改革のノウハウが不足している状況です。

調査研究を重ねながら進めている段階だからこそ、新しい情報をキャッチしつつリスクを避けながら推進していく必要があるでしょう。

5-3.コストがかかる

自治体フロントヤード改革は行政と住民のコミュニケーションやサービス提供の仕組みを根本的に変革しなければならないため、コストがかかります。

個別の取り組みに留まるのではなく「書かせない」「待たせない」「迷わせない」「行かせない」の全ての実現を目指すためです。

導入を行う際はどうしてもコストが課題になりやすいため、中長期的な視点で計画的に考えるといいでしょう。

タイミングによっては国の補助金を活用できる可能性があるので、チェックしてみるのも1つの方法です。

6.自治体フロントヤード改革に取り組むときの手順

自治体フロントヤード改革に取り組むときの手順

ここからは、自治体フロントヤード改革に取り組むときの手順をご紹介します。
実際にどのように進めればいいのかイメージを持つためにも参考にしてみてください。

6-1.現状を把握する

まずは、自治体の住民課を中心に住民と自治体の接点の現状を把握しましょう。
現状把握には、下記のような方法を活用するとどこに課題があるのか理解しやすいです。

【現状把握する方法】

・住民にアンケートを実施する
・職員に課題になっている部分をヒアリングする
・窓口利用体験調査を実施する

たとえば、住民にアンケートを実施して「待機時間が長い」「手続きが難しい」などの声が多ければ「待たせない」「迷わせない」の部分に課題があると考えられます。

自治体フロントヤード改革は効率的で利便性の高い行政サービスを目指すことを目的にしているので、住民目線でどのような課題があるのか把握することが大切です。

6-2.ゴールを設定する

現状把握を踏まえて、自治体フロントヤード改革で実現したいゴールを設定します。

3.自治体フロントヤード改革で実現できること」でも触れたように、自治体フロントヤード改革は住民の利便性の向上を目的にしています。

それぞれの目的ごとにゴールを設定し、どのようなことが実現できそうか検討しましょう。
ゴールを設定するときは、住民課や首長を含む幹部層が窓口のゴールについて合意していることが重要です。

6-3.工程表を作成する

ゴールが設定できたら自治体フロントヤード改革を推進するための体制を整え、取り組むべきことをリスト化します。

たとえば、住民の負担を軽減する出張行政サービスを提供するためには、車両や設備の準備、職員の教育が必要です。

必要な対応を書き出してどのタイミングで取り組むのか工程表に落とし込むと、効率よく進められるでしょう。

6-4.窓口業務の改善策を検討する

自治体フロントヤード改革の全体像が把握できたところで、自治体フロントヤード改革の核となる窓口業務の改善策を検討しましょう。

窓口業務の改善案を検討するときには、下記の2つがポイントです。

項目

概要

KPIを検討する

「書かせない」「待たせない」「迷わせない」「行かせない」窓口を実現するために、具体的なKPIを検討する
<例>
・書かせない:対応時間を1人当たり5分短縮
・待たせない:行政サービス提供時の混雑状況を10%軽減する
・迷わせない:住民からの「利用しにくい」という声を20%減らす
・行かせない:出張行政サービスを毎月4回以上実施する

ソリューションを検討する

実現したいKPIを踏まえて導入するべきソリューションを検討する
<例>
・BIツール:様々なデータを分析、可視化するツール
・予約システム:行政サービス利用の予約ができるシステム
・アプリ:混雑状況確認や個人情報の事前入力ができるアプリ
・ビデオ通話ツール:遠隔地でリアルタイムで相談をするためのツール

KPIを設定するときは、現状の課題を踏まえより良い行政サービスを提供できるような指標を決めるといいでしょう。

たとえば「書かせない」窓口では対応時間を1人当たり5分短縮するなど具体的に決めておくと効果測定しやすいです。

KPIが決まったら、導入するべきソリューションを検討します。

たとえば、アプリや予約システムは住民が利用するため、手軽に活用できないと定着しにくくなります。
住民の目線で簡単に利用できそうか考えながら、導入するべきソリューションを選んでみましょう。

ノウハウがなく進め方に迷う場合は、デジタル庁が実施している「窓口BPRアドバイザー派遣事業」を活用することも可能です。

7.自治体フロントヤード改革に取り組むときの4つのポイント

最後に、自治体フロントヤード改革に取り組むときのポイントをご紹介します。

自治体フロントヤード改革を価値のある取り組みにするためにも、どのような点に着目するべきか確認しておきましょう。

自治体フロントヤード改革に取り組むときのポイント

1.国の制度を活用する
2.窓口利用体験調査を実施しカスタマージャーニーマップを作成する
3.優先的に取り組む業務を決める
4.住民とメリットを共有しながら進める

7-1.国の制度を活用する

自治体フロントヤード改革を推進したいけれど、知識やノウハウ不足が課題となっている場合は下記のような国の制度を活用できます。

活用できる制度

概要

窓口BPRアドバイザー制度

自治体窓口DXに精通した地方自治体職員等がアドバイザーとなり地方自治体窓口BPRの自走を目的としたノウハウを提供する

地域情報化アドバイザー制度

地方公共団体に豊富な実績を持つ地域情報化アドバイザーが情報通信技術やデータ利活用の助言を行う

窓口BPRアドバイザー制度では、「書かない窓口はどのように実現すればいいのか分からない」など、自治体フロントヤード改革を推進するうえでの課題を相談することが可能です。

地域情報化アドバイザー制度は、自治体フロントヤード改革を推進するためのソリューション選定やデータ活用などに豊富な実績を持つアドバイザーの意見を参考にできます。

このように、国の制度を活用することで専門的な知識が必要な領域をカバーしながら、フロントヤード改革を進めることができます。

7-2.窓口利用体験調査を実施しカスタマージャーニーマップを作成する

自治体フロントヤード改革は、自治体と住民との接点を住民目線で変革することが重要です。

そのため、窓口利用体験調査(職員が住民になりきってサービスを体験する調査)を実施して、どの部分に課題があるのか明確にしましょう。

「1件の手続きに時間がかかり過ぎている」と感じた場合には手続きの簡略化やペーパーレス化などの解決策を検討できます。

そのうえでカスタマージャーニーマップを作成し、行政サービスを利用する一連の流れの中でどこに課題があるのかを可視化していきます。

7-3.優先的に取り組む業務を決める

自治体フロントヤード改革は全ての変革を同時進行することが難しく、住民との間に混乱が起きる可能性があります。

たとえば、書かせない窓口と待たせない窓口、迷わせない窓口全てを同時進行すると、導入開始時に住民からの問い合わせが集中し、職員の負担が大きいだけでなく、トラブルが起こりやすくなるでしょう。

そこで、現状を把握したうえで、優先的に取り組む業務を決めて計画的に進めることが重要です。
書かせない窓口から取り組む場合は一部の窓口から導入を開始し、住民の反応を見ながら拡大していくとトラブルを回避できるでしょう。

7-4.住民とメリットを共有しながら進める

自治体フロントヤード改革は、自治体の職員だけでは推進できません。

行政サービスを利用する住民の理解がないと、ソリューションを導入したところで定着しないからです。

自治体の職員と住民間でメリットや目指す姿を共有しながら、スムーズに導入できる状況を作りましょう。

たとえば、書かせない窓口を導入するときに「住民の負担が増えるのでは?」「デジタルツールに慣れていないから不安」など住民から後ろ向きな声があがる可能性もあります。

書かせない窓口のメリットや目的を事前に共有しておけば住民の意識も変わり、混乱なく導入しやすくなるでしょう。

【書かせない窓口導入前の住民へのサポート例】

・書かせない窓口を導入するメリットをポスター、ホームページなどで伝える
・書かせない窓口の利用方法を動画などで事前共有する
・書かせない窓口導入時にサポートを行うことを事前に共有して安心してもらう

このように、自治体フロントヤード改革は自治体の職員側のみで推進するのではなく、住民を巻き込みながら進めていくことが重要です。

トランスコスモスでは、自治体業務のDX化、デジタルを活用した非対面化の促進など自治体フロントヤード改革を推進するためのサービスを提供しています。

課題抽出から戦略立案、システム開発・導入、運用までの一貫した支援が可能です。
自治体フロントヤード改革は、住民と職員の双方にとって価値のある取り組みです。

「どのように進めればいいのか分からない」「ソリューションに悩んでいる」など、自治体フロントヤード改革の推進に課題を感じている場合は、お気軽にお問い合わせください。

まとめ

この記事では、自治体フロントヤード改革の概要や事例、取り組むメリットなど自治体フロントヤード改革の基礎知識をまとめて解説しました。

最後にこの記事の内容を簡単に振り返ってみましょう。

〇自治体フロントヤード改革とは行政と住民のコミュニケーションやサービス提供の仕組みを根本的に変革し、効率的で利便性の高い行政サービスを目指す取り組みのこと

〇自治体フロントヤード改革で実現できることは下記のとおり

自治体フロントヤード改革の4つの目的(実現できること)

書かせない

行政サービスを利用するときの申請書、書類を記入する手間、負担を軽減する

待たせない

行政サービス提供までの待ち時間を短縮する

迷わせない

行政サービス利用時に手続きやフローで迷うことがない

行かせない

本庁舎・支所・出張所などに行けなくても行政サービスを利用できる

〇自治体フロントヤード改革に取り組むメリットは下記のとおり

自治体フロントヤード改革に取り組む5つのメリット

住民のメリット

・行政サービスが利用しやすくなる
・質の高いサービスが受けられるようになる

自治体のメリット

・業務効率化ができる
・地域活性化につながる
・少子高齢化でも持続可能なサービスを提供できる

〇自治体フロントヤード改革の課題は下記の3つ

1.地域住民の理解と協力が必要になる
2.デジタルツールを使う技術やセキュリティ対策が必要になる
3.コストがかかる

〇自治体フロントヤード改革に取り組むときの手順は下記のとおり

1.現状を把握する
2.ゴールを設定する
3.工程表を作成する
4.窓口業務の改善策を検討する

〇自治体フロントヤード改革に取り組むときのポイントは下記のとおり

1.国の制度を活用する
2.窓口利用体験調査を実施しカスタマージャーニーマップを作成する
3.優先的に取り組む業務を決める
4.住民とメリットを共有しながら進める

自治体フロントヤード改革は、ステークホルダーの巻き込みが成否を決めると言っても過言ではありません。自治体の職員が住民目線で窓口の課題把握、自治体フロントヤード改革の目的を明確にしておくことが重要です。

そのときに住民の利便性向上だけでなく、職員にとってもメリットがあることが理解できれば、窓口部門の職員は自分のこととして捉えやすくなり積極的に関与してくれます。

また、プロジェクトが立ち上がった後に頻繁に意見交換ができる場があると、組織文化や機運の醸成にも繋がります。

旗振り役の部門がステークホルダーの意見を吸い上げ、首長や幹部層までコミットし進めることも重要です。庁内一体となって進めることができればフロントヤード改革は成功し、住民と職員の双方にとって価値のある取り組みになるでしょう。

トランスコスモスは3,000社を超えるお客様企業のオペレーションを支援してきた実績と、顧客コミュニケーションの
ノウハウを活かして、CX向上や売上拡大・コスト最適化を支援します。お気軽にお問い合わせください。
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