
「コミュニティマーケティングとはどんなもの?」
「我が社でコミュニティマーケティングに取り組みたいけれど、どうすればいい?」
このような疑問を持っている方もいるでしょう。
コミュニティマーケティングとは、企業が既存ユーザーのコミュニティをつくり、マーケティング活動に活かす手法です。
自社のブランドや製品に対して興味や愛着を持っているユーザー向けに、ユーザー同士が交流したり、企業とユーザーの関係性を深めたりする場を提供します。ユーザーが交流することで、ファンを育てることができますし、そこから顧客インサイトを掘り起こすことも可能です。
そこでこの記事では、コミュニティマーケティングを理解するうえで必要なポイントをまとめました。
◎コミュニティマーケティングとは |
最後まで読めば、コミュニティマーケティングに対する理解が深まるでしょう。
1.コミュニティマーケティングとは
コミュニティマーケティングは、2000年代に誕生した比較的新しいマーケティング手法です。
そのため、「どういうものかよくわからない」という人もいるのではないでしょうか。そこでまず、コミュニティマーケティングとは何か、ということからあらためて説明します。
1-1.コミュニティマーケティングとは?
コミュニティマーケティングとは、企業が既存ユーザーのコミュニティをつくり、マーケティング活動に活かす手法です。
例えば、Web上に自社製品のファン向けコミュニティサイトを立ち上げ、ユーザー同士で交流したり、製品の新しい使い方や改善要望などの提案ができる場を設けたりする例もありますし、オフラインで勉強会や交流イベントなどを開催したりするケースも見られます。
近年は、SNS上で同じ「#(ハッシュタグ)」をつけたユーザーがつながることも増えているようです。
企業側から一方的に情報を発信するのではなく、ユーザー同士が交流し、情報やナレッジを共有することで、その企業や製品の熱心なファンを育てることが目的です。
また、ユーザーと企業とのつながりも強化し、ユーザーの生の声を集めることで、顧客のニーズやインサイトも掴むことができます。
これはB to Cのビジネスに限ったものではありません。B to Bでコミュニティを形成することも可能です。
1-2.従来のコミュニティやマーケティングとの違い
ただ、「コミュニティを活用するマーケティング手法は、以前からあったのでは?」と感じた人もいるでしょう。
実際のところ、コミュニティマーケティングは従来のコミュニティやマーケティングと何が異なるのでしょうか?
従来のコミュニティを利用するマーケティングとの違い
【従来のコミュニティを利用するマーケティングと「コミュニティマーケティング」の違い】
従来のコミュニティを利用するマーケティング | ・コミュニティの主体は企業 |
コミュニティマーケティング | ・コミュニティの主体はユーザー |
以前から、企業がユーザーのためのコミュニティを形成する例はしばしばありました。
ただ、それらは企業が音頭をとってユーザーを集め、企業と個々のユーザーとの関係性を強化するためのものでした。
例えば、企業が製品のユーザー向けの勉強会などのイベントを開き、企業の担当者が使い方を教えたり、コミュニティサイトで企業側が情報発信したり、ユーザーの質問に答えたりするケースです。
この場合、目的は主に参加したユーザーに対して、製品の継続利用を促す、またはアップセルやクロスセルを実施することにあります。
つまり、「企業が主体となって形成したコミュニティ内のユーザーに対してアプローチするマーケティング」だったのです。
それに対して、昨今のコミュニティマーケティングでは、コミュニティの主体はあくまでユーザー自身です。
コミュニティサイトやイベントも、ユーザーの自主性を尊重して運営されるため、ユーザーの中でも特に「熱量の高いファン」が中心となり、お互いに交流することで、その熱量をさらに高めていきます。
その結果、ユーザーたちはコミュニティの枠を超えて、周囲の人にまで「この製品はいいよ!」「こんな使い方もできます!」と、その魅力を発信するようになり、新たなユーザーを増やしていきます。
ユーザーコミュニティ自体が、新規顧客開拓の新たなチャネルとなるわけです。
インフルエンサーマーケティングとの違い
【インフルエンサーマーケティングとコミュニティマーケティングの違い】
インフルエンサーマーケティング | ・企業がインフルエンサーに依頼して宣伝してもらう |
コミュニティマーケティング | ・ユーザーコミュニティのメンバーが自主的に製品のよさを広める |
また、似たような手法としてインフルエンサーマーケティングを思い浮かべた人もいるでしょう。
企業が、ターゲット層に影響力を持つインフルエンサーに依頼して、自社の製品やサービスを使ってもらい、SNSやYouTubeなどで発信してもらうという手法です。
この手法には、影響力の大きいインフルエンサーなら一度に数十万、数百万というフォロワーに情報が行き渡るというメリットがありますが、あくまで仕事として宣伝しているため、製品に対する愛着や熱量は高くない場合もあります。
その点コミュニティマーケティングは、そのコミュニティに参加するほど製品やサービスを気に入っている一般ユーザーが発信をするわけですから、レコメンドの熱量はインフルエンサーに比べてかなり高くなることが期待できます。
それに、ユーザーコミュニティはあくまでユーザーの自主的な集まりですので、インフルエンサーマーケティングと違って無報酬で動いてくれる点も、企業にとっても魅力でしょう。
1-3.なぜ今コミュニティマーケティングが注目されるのか
このような特徴を持つコミュニティマーケティングですが、その誕生は2000年代と考えられます。
インターネットの普及や、SNSの台頭によって、オンラインでのコミュニティ形成が容易になったこともあり、その効果は知られていましたが、近年また注目を集めるようになったのはなぜでしょうか?
それには以下のような要因が考えられます。
・消費者の広告離れによって、新たなマーケティング手法が必要とされている |
消費者の広告離れによって、新たなマーケティング手法が必要とされている
まず、従来の広告手法が効力を失いつつあることです。
現在、日本で企業が広告にかける費用は、インターネット広告に多く割かれています。
株式会社電通広報局の調査レポート「2022年 日本の広告費」によると、2022年の日本の総広告費のうち、実に43.5%をインターネット広告費が占めたそうです。
ちなみに、マスコミ4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の広告費をすべて合わせても33.8%に過ぎません。
ただ、インターネット広告はスキップされる割合が高いのが難点です。
マーケティングリサーチ企業「ネオマーケティング」が20歳~69歳の男女1000人に聞いた「動画広告の接し方に関する調査」では、動画配信サービスに広告が挟まった際には、9割以上の人が「必ずスキップする」「スキップすることが多い」と答えていて、効率のいい広告手段とは言えなくなってきているのがわかります。
Q.動画配信サービスで動画広告を目にした際に、途中でスキップをしますか。
出典:ネオマーケティング「動画広告の接し方に関する調査」
その点コミュニティマーケティングは、ユーザー同士の交流やユーザーから周囲への口コミ宣伝という、より高いリーチが期待できる手法であるため、注目が集まったと考えられます。
人口減少への対策として、既存顧客のLTV(顧客生涯価値)を向上させたい
日本では、少子高齢化が叫ばれて久しく、人口は年々減少しています。
それにともなって、市場も縮小していくことでしょう。
そうなると、新規顧客の獲得にも限界があります。
そこで企業には、新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客をつなぎとめて優良顧客に育てることにも注力する必要が出てきました。
コミュニティマーケティングは、顧客のロイヤルティを高め、LTV(=顧客生涯価値/ひとりの顧客と企業が取引を初めてから終了するまでの間に、企業が得られるすべての利益の合計)を最大化することができる手法でもあります。
そのため、市場の縮小を見据えた施策として、取り組む企業が増えているというわけです。
1-4.コミュニティマーケティングが向いている企業・製品
あらゆる企業にとってコミュニティマーケティングが必要なのか、必ず効果が得られるのかと言えば、もちろんそうではありません。コミュニティマーケティングが適しているのは、主に以下のような企業や製品です。
・すでに熱心なファンがいる企業、製品 |
すでに熱心なファンがいる企業、製品
まず、その企業や製品に対してすでに熱心なファンがいる場合は、コミュニティマーケティングを実施しやすいと言えるでしょう。
そもそもコミュニティマーケティングは、熱量が高く、能動的に発信するユーザー層を集めることから始まります。
例えば、キユーピー株式会社の場合、主力商品のマヨネーズには、もともと「マヨラー」と呼ばれる熱狂的なファン層が存在していました。
そのため、2014年に「キユーピー マヨネーズ ファンクラブ」を開設したところ、マヨラーたちが次々とメンバー登録し、開設から9年目の2023年6月現在、参加メンバーは14万人近くにのぼり、1日平均約300件のコメントが投稿されるほど活発なコミュニティに成長しています。
この事例については、後ほど「2-1.カスタマーエンゲージメントの向上」で詳しく説明します。
最初から熱量の高いファン層がいるのであれば、そのユーザーたちに向けコミュニティサイトやイベントなど、交流・発信の場を設けることで、ユーザー同士が自主的に交流しあうことが期待できます。
利用し続けてもらうことに意味がある企業、製品
自社サービスを継続利用してほしい企業や、使い続けることに意味がある製品にも、コミュニティマーケティングは有効です。
ユーザーコミュニティの中では、その企業や製品のファン同士が交流し、「ここが好き」「こんないいところもある」と発見しあうことで、さらに熱量が高まっていきます。
その結果、既存ユーザーはその企業や製品への愛着が強まり、競合他社へ乗り換えるリスクを抑えることができるからです。
「月額定額で音楽聴き放題」や、「SaaS(=クラウド上のソフトウェアを月額定額で利用するサービス)」などに代表されるサブスクリプションサービスなどがいい例でしょう。
企業側は、これらのサブスクサービスを提供するとともに、ユーザーコミュニティを作ります。
コミュニティ内で「最新情報」「おすすめの使い方」「意外な活用法」などを披露しあったり、新規ユーザーの質問にベテランユーザーが答えたりといった交流があれば、そのサービスから離脱するリスクを下げることができるでしょう。
新しい領域の企業、製品
さらに、まだ一般に普及していない新しい領域の製品、サービスを展開する企業にとっても、コミュニティマーケティングは意味を持ちます。前述したようにコミュニティマーケティングは、「既存ユーザーを通して新規ユーザーを獲得するチャネル」にもなり得るからです。
新しいものを世に浸透させるのは、なかなかハードルが高いものです。いくら広告を打っても、簡単に顧客を獲得できるものでもありません。
しかし、ユーザーコミュニティを立ち上げれば、そのユーザーが口火となって、新製品・新サービスのよさや効果的な利用法を広めてくれるでしょう。
実際に体験して、よさを実感しているユーザーの言葉は、人を動かします。
広告では興味を惹かれなかった人も、リアルなユーザーの意見を聞き、わからないことや不安なことについてコミュニティで説明してもらうことができれば、「自分も利用してみようかな」と踏み出せるかもしれません。
このような効果は、コミュニティマーケティングならではのものです。
新たな領域でビジネスを展開しようという企業は、この施策を検討してみてください。
2.【成功事例】コミュニティマーケティングで実現できる3つのこと
さて、ここまでで「コミュニティマーケティングとはどんなものか」がざっくり掴めたかと思います。
そこで2章では、コミュニティマーケティングで実現できることを、実際の成功事例とあわせて解説します。
・カスタマーエンゲージメントの向上: |
2-1.カスタマーエンゲージメントの向上
第一に、コミュニティマーケティングによって、その企業や製品と顧客とのカスタマーエンゲージメントを強化することができます。
ここまで何度か触れましたが、ユーザーコミュニティに集まるのは、「すでにその企業や製品に愛着を持っているファン」と「興味を持っていて、今後ファンになる可能性のある見込み顧客」です。
つまり、ポジティブな意識を持った人たちなのです。
ポジティブな意識の人たちが、ポジティブな意見を交換しあうことで、お互いに共感が生まれます。
「やっぱりこの製品いいよね!」「そんな利用法もあったのか、ますます気に入った!」といったように、その好意や愛着はより増幅、強化され、企業とユーザーとの絆を深めるのです。
いわゆる「エコーチェンバー」が良い方向に作用するとも言えるでしょう。
コミュニティマーケティングは、企業が働きかけなくとも顧客同士でカスタマーエンゲージメントを向上させあうことができる、非常に有効な施策と言えます。
【カスタマーエンゲージメントを向上させた事例】 ◎キユーピー株式会社(以下キユーピー):ファンを「マヨシェルジュ」に任命、絆を深める 国内のマヨネーズシェアNO.1を誇るキユーピーでは、マヨネーズ発売90周年にあたる2014年、「キユーピー マヨネーズ ファンクラブ」を開設しました。 1日平均で約300件ものコメントが書き込まれ、コミュニティサイト内のラウンジでは、ファンが自分でトピックを立てて仲間とおすすめレシピを教えあったり、新商品のアイディアを考えたりしています。 また、より意識の高いファン向けのアカデミーでは、マヨネーズに関する知識を学ぶことができ、ここでの卒業試験に合格すればマヨシェルジュとして認定されるという楽しい制度も特徴です。 マヨシェルジュは、ファンの中でも特に熱量の高い存在として、限定イベントやレシピ開発などにも参加できるため、メンバーのモチベーションは高まります。 それは数字にも表れていて、「令和3年度集計のマヨネーズの年間購入本数は、ファンクラブ会員の平均は9.4本で、マヨシェルジュは13.6本。 同年集計の総務省の家計調査による1世帯当たりのマヨネーズ・マヨネーズ風味調味料の消費量6.0本(※キユーピー マヨネーズの主力商品である450グラムで換算)と比べると、ファンクラブは約1.6倍、マヨシェルジュでは約2.3倍にあたる。」(産経ニュース「熱いファンとの出会いの場 「好き」深めるカギに迫る キユーピー」2022/9/30 より引用)とのことです。 マヨネーズは、もともとマヨラーという言葉があるほど熱狂的ファンが存在する調味料ですが、その中でも自社製品のファンをマヨシェルジュという名のもとにひとつにまとめ、エンゲージメントの強化に成功した事例だと言えるでしょう。 |
2-2.顧客インサイトの発掘
第二に、ユーザーコミュニティからは、顧客インサイトを見つけ出すことも可能です。
従来であれば、顧客インサイトを知りたい企業は、ユーザー向けに大々的なアンケートを行ってそれを分析するなど、かなりの時間とコストがかかっていました。
その点コミュニティマーケティングを行えば、コミュニティの中で常にユーザーの生の声、本音の意見が交わされているため、それを分析すればスピーディにインサイトを掴めます。
しかも、ここで得られる意見は、その企業や製品について熟知している熱量の高いファンの声です。
広く一般の消費者に聞き取ったアンケートでは得られない、核心をついた意見も多いでしょう。
企業はその中から、「自社や自社製品の何がユーザーを『ファン化』させるのか」のヒントを見つけられるはずです。
また、改善点や、新製品、新サービスのアイディアを見つけることもできるのです。
【顧客インサイトを発掘できた事例】 ◎株式会社アテニア(以下アテニア):化粧品を「選ぶストレス」という本音に気づき、プロモーションに活用 化粧品メーカーアテニアでは、2015年に「アテニアファンコミュニティ」を開設しました。 サイト内には、メイクの情報、アテニア製品に関する質問、お肌の悩みなどさまざまな話題を自由に語り合えるおしゃべりカフェや、アテニア製品それぞれを使ったメンバーがレビューを投稿するおためしサロンなどのコーナーがあり、20万人以上のメンバーが登録しています。(2023年6月現在) まだ製品を使い始めたばかりの人に、ベテランユーザーがそのよさを熱量高く伝えることで、ユーザーをファン化する効果なども出ていますが、投稿の中からユーザーの本音を知ることができるのも大きな成果となっているようです。 例えば、スキンケア製品を選ぶ際に、従来は「シミ・シワ対策」「美白」など悩みに合ったものを自分で選ぶのが一般的でした。 ただ、コミュニティ内のメンバーの本音から、「複数の悩みを持っている場合、どれを選べばいいのかわからない」というストレスを抱えていることがわかったそうです。 それを踏まえて、美白とシワ改善どちらもケアする基礎化粧品シリーズ ドレススノーのプロモーションでは、「美白か、シワ改善か。私は、選ばない。」というコピーを打ち出しました。 コミュニティの中から顧客インサイトを掘り起こし、プロモーションにうまく活かした好例でしょう。 |
2-3.LTVの最大化
ここまで何度か触れましたが、コミュニティマーケティングでは、LTV(=顧客生涯価値)の最大化も実現できます。
ユーザーコミュニティを形成することで、ユーザーをファン化し、エンゲージメントを高めます。さらにそのユーザーを、他社に乗り換えることなくずっと自社のファンとして囲い込むことができるわけです。
コミュニティマーケティングにおいては、ユーザーは受け身で情報を待つだけでなく、能動的に参加して自分からも情報を発信するため、ユーザーと企業の間には、単なる商取引関係を超えて、共に企業や商品の魅力を広めていくパートナーのような意識が芽生えるのです。
こうなると、その企業や製品は、コミュニティメンバーにとって「他人事」ではなく「自分事」になります。
自分がその製品やサービスを使い続けるのはもちろん、まわりに紹介して新規顧客の開拓にも貢献する、リファラルも期待できるでしょう。
【LTVを最大化できた事例】 ◎ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社:4タイプの製品のファンをひとつのコミュニティに集め、クロスセルを達成 ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社では、1996年からスープブランド じっくりコトコトを展開していますが、そのブランド力向上とさらなるファン獲得を目指して、2017年に「じっくりコトコト ファンコミュニティ」※を開設しました。 じっくりコトコトシリーズは、スープといっても「箱(粉末)」「カップ(粉末)」「缶(液体)」「パウチ(液体)」の4タイプがあります。それぞれ、顧客層や市場、競合相手などが異なるため、以前は4タイプ別々に営業戦略を練っていたそうです。 その為、コミュニティサイトもターゲットごとに分けるかどうかという議論がありましたが、個別の商品のファンを「じっくりコトコト」というブランドのファンに育てようという目標のもとに、あえてひとつのコミュニティにまとめることを選択しました。 コミュニティ内では、各製品のレビューやアレンジレシピを投稿できたり、「ほっとひと息したくなった出来事」をつぶやくコーナーがあったりと、じっくりコトコト シリーズの愛用者ならどこかに気軽に書き込みたくなる雰囲気が作られています。 その結果、コミュニティ開設から1年後には、クロスセル効果が出てきたといいます。 「コミュニティオープンから4カ月経った時点では月当たり1.9カテゴリーの「じっくりコトコト」を飲まれていたユーザーが、その5カ月後には2.1カテゴリーをお飲みいただいていることがわかりました。0.2は大差ないように思われるかもしれませんが、統計的には有意な差といえます。」(ダイヤモンド・オンライン「「じっくりコトコト」の商品ファンが集うコミュニティサイトが創出する“気づき”とは?」2018/7/3 より引用) 個別の製品のファンをコミュニティ内でブランドファンに育て、LTVを拡大できた例です。 |
3.コミュニティマーケティングのメリット
コミュニティマーケティングで何ができるのかについて、より具体的に「企業にとってどんなメリットがあるのか?」についても解説します。メリットは、主に以下の4点です。
・企業とユーザーとの距離が近づく |
3-1.企業とユーザーとの距離が近づく
1つ目のメリットは、企業とユーザーの距離が近くなることです。
従来から、企業とユーザーとのタッチポイントは、実店舗や公式サイト、SNSなどさまざまな形でありました。
しかし、これらとユーザーコミュニティとの大きな違いは、「多数のユーザーのさまざまな本音を、リアルタイムで聞くことができる」という点です。
もし企業側が顧客に意見を求めたければ、アンケートやグループインタビューなどを設けなくても、コミュニティの中に質問を投げかければ、短期間で多くの回答が得られるでしょう。
コミュニティ内では、企業とユーザーの距離は物理的にも時間的にも縮まるのです。
また、ユーザー側も、企業に何か言いたいことがあれば、従来はコンタクトセンター(コールセンター)に電話したり、公式サイトからメールしたりしなければなりませんでした。
それが、コミュニティサイトにチャット感覚で書き込みできるようになることで、より気軽に言いたいことを伝えられるはずです。
3-2.ユーザーのロイヤルティが高まる
2つ目のメリットは、ユーザーの企業に対する愛着や信頼を高めることができます。
その結果として、ロイヤルティの高いユーザーを育てることにつながるでしょう。
そのようなユーザーは、企業にとっては非常に貴重な存在です。
ロイヤルティが高ければ、他社製品に乗り換えることもありません。
また、ひとつの製品だけでなく、他の製品を購入してくれるクロスセルや、より高額な製品も購入してくれるアップセルも期待できます。
その結果、顧客単価がアップするというわけです。
3-3.新規顧客獲得のチャネルが広がる
さらに3つ目のメリットとして、ユーザーコミュニティは、新規顧客を獲得する新たなチャネルにもなり得ます。というのも、コミュニティのメンバー自身が、まわりの人に「この製品はいいよ!」と口コミなどで宣伝してくれるからです。
さらに、「この製品に興味はあるけれど、まだ使ったことがない」という人に対して、コミュニティが受け皿となり、「ちょっと覗いてみよう」とコミュニティに入ってきた人=見込み顧客に対して、既存のメンバーが質問に答えたり、おすすめをしたりしてくれるでしょう。
言い換えれば、コミュニティメンバー自身が新規顧客獲得のチャネルになるわけです。
3-4.ユーザーサポートのコストが軽減される
最後に見逃せないメリットとして、ユーザーサポートのコスト削減が挙げられます。
なぜなら、ユーザーコミュニティ内では、既存メンバーが他のメンバーの質問に回答したり、アドバイスをしたりといったカスタマーサポートの役割を担うからです。
これは、「2-3.LTVの最大化」で前途したように、コミュニティのメンバーにとってその企業や製品のことは「自分事」になっているからに他なりません。自分がよく知っていることについて、「教えてほしい」と言われれば、くわしく教えたくなるのが人間の心理でしょう。
ユーザーコミュニティの中では、これが自然に働くのです。
もちろん、これによってコンタクトセンター(=コールセンター)がまったく不要になるわけではありませんが、問い合わせを減らす効果は期待でき、問い合わせ対応の人件費削減にも期待できるでしょう。
4.コミュニティマーケティングの4つの方法
ここまでで、「なかなか有効性が高い施策なので、自社でも取り組んでみたい」と考えた人も多いでしょう。
そこで4章からは、コミュニティマーケティングの具体的な手法について説明していきます。
ひと口にコミュニティマーケティングといっても、「コミュニティサイトを開設する」だけではありません。
それも含めていくつか有効な方法がありますので、主なものを紹介しましょう。
・コミュニティサイトを運営する |
4-1.コミュニティサイトを運営する
まずは、コミュニティサイトの運営です。企業が、自社のブランドや製品のファンコミュニティサイトをWeb上に構築して、ユーザーの交流の場として提供します。
コミュニティサイト自体を会員登録したメンバー限定で公開するケースもあれば、誰でも参加できるオープンなサイトにする場合や、一部を公開して一部をメンバー限定にする場合など、公開範囲はさまざまです。
また、サイトの形態も多様で、以下のようなものがあります。
コンテンツ投稿型 | ユーザーが製品の活用法や提案などを自由に投稿し、ユーザー同士で交流 |
課題解決型 | ユーザーが製品に対する疑問を投稿し、他のユーザーが回答 |
もし、ファンづくりに力点をおくのであれば、コンテンツ投稿型でベテランファンが新規ファンを育てることを目指すという方法が考えられます。
あるいは、ユーザーサポートの機能を重視するなら、誰でも参加できる課題解決型サイトにして、FAQの機能を持たせることも可能です。
4-2.ライブ動画を配信する
ライブ動画の配信によっても、ユーザーコミュニティを形成することができます。
配信中にユーザーからのコメントを受け付けることで、企業とユーザー、あるいはユーザーとユーザーがコミュニケーションをとるという方法です。
ユーザーは、配信の間だけリアルタイムで交流できるという特別感もあり、高い熱量で参加します。
そこで交流を深め、ユーザーの疑問や課題を解決することを目的にするのもいいですし、ライブ動画ならではの効果的な施策も実施できます。
それは、ライブコマースと呼ばれる手法です。
配信中に、商品やサービスに関してコメントをやりとりする中で、購買意欲が高まった参加者は、ECサイトで実際にその商品を購入できるというしくみを構築します。
この方法は、コミュニティマーケティングの中でも、コミュニケーション強化だけでなく直接的な売り上げ増も期待できるものとして、注目されているものです。
4-3.既存のSNSでハッシュタグを活用する
コミュニティサイトやライブ配信は、新たにコミュニティを作り上げる必要がありますが、もっと手軽に、既存のコミュニティをマーケティングに活用することもできます。
X(旧Twitter)やInstagramなどのSNS上で、「#(=ハッシュタグ)」によってユーザー同志を結びつけるという方法です。
例えば、SNSを利用しているユーザーに、「# ◯◯(商品名)」や「# ◯◯(商品名)の美味しいレシピ」といったハッシュタグで投稿してくれるよう呼びかけます。
すると、個々のユーザーがさまざまな投稿するだけでなく、他の人の投稿をリツイートしたりシェアで拡散したり、「いいね」やフォローをしあったりすることで、コミュニティが形成されていきます。
企業側は、ハッシュタグ検索すればユーザーの声をほぼリアルタイムで集めることができるので、ユーザーがいま現在抱えている課題を知り、顧客インサイトを分析することが可能です。
もしユーザー投稿の中からバズるものが出れば、コミュニティ外の人たちにも興味を持ってもらうことができるでしょう。
4-4.オフラインイベントを開催する
上記3つの方法は、オンライン上にコミュニティを築くものでしたが、もちろんオフラインのコミュニティも効果があります。例えば、イベントの開催です。
従来の、製品を直接販売するためのイベントではなく、あくまでもユーザー同士の交流や、企業とユーザーとのつながり強化を目的とするのが、オフラインにおけるコミュニティマーケティングのポイントで、具体的にはファンイベントや、新商品発表会、体験会などが考えられるでしょう。
あるいは、コミュニティサイトが盛り上がり、ユーザーが自発的にイベントを開催するケースもあります。
イベントの告知にSNSを利用したり、開催の様子をハッシュタグ付きで拡散したりライブ配信したりと、他の方法と組み合わせるのもいいでしょう。
イベントの認知度が高まり、新たなユーザーの流入も期待できます。
5.コミュニティマーケティングを実施する5ステップ
ここまで読んで、「我が社でもコミュニティマーケティングを実施してみたいが、何をどうすればいいのかわからない」という人もいるかと思います。
そこで5章では、実際にコミュニティマーケティングをどう進めるか、5つのステップで説明していきましょう。
ステップ1:目的を明確化する |
5-1.ステップ1:目的を明確化する
まず、「何のためにコミュニティを作るのか」、その目的をはっきりさせましょう。
・自社商品について、ユーザーの要望や評価など本音が知りたい |
この目的が曖昧だと、コミュニティ運営の方針も定まりませんし、ユーザーも何を投稿すればいいのか迷ってしまい、コミュニティが活性化されない恐れがありますので、注意してください。
5-2.ステップ2:社内の理解を得る
次に、社内全体の理解を得てください。
というのも、「6-1.コミュニティの形成、定着には時間をかける」で後述しますが、コミュニティマーケティングは成果が出るまで時間のかかる取り組みです。
そのため、途中で社内から「何の効果があるのかわからない」「やめても構わないのではないか」といった意見が入り、コミュニティを閉鎖せざるを得なくなるかもしれません。
実際に、開設から数年で閉鎖してしまうコミュニティもしばしばあります。
そのような、無理解からのプロジェクト中断が起こらないよう、事前に社内で「コミュニティマーケティングとは何か」「自社では何のために行うか」「どんなメリットがあるか」をよく説明し、成果が出るまで一定期間かかることにも納得してもらいましょう。
5-3.ステップ3:コミュニティの作成方法を決める
社内の理解が得られたら、いよいよコミュニティ作成に向けて動きます。
まずすべきことは、コミュニティの作成方法を決めることです。
「4.コミュニティマーケティングの4つの方法」にもある通り、コミュニティの作成にはいくつかの方法があります。それらの中から、自社にはどれが適しているかを決めましょう。
特に、コミュニティサイトを作るのと既存のSNSを活用するのとでは、コストや手間にも違いがあります。
以下の比較表で検討してください。
方法 | メリット | デメリット | 向いている企業 |
コミュニティサイト | ・メンバー数、投稿数などが把握しやすく分析しやすい | ・自社専用サイトを開設するためコストがかかる | ・効果が出るまでの期間と費用をかけられる企業 |
SNS | ・熱心なファンだけでなく、ユーザー歴が浅い人の意見も得られる | ・投稿数やコミュニティメンバー数などを把握しづらく分析が難しい | ・予算はないがとりあえずコミュニティマーケティングを始めたい企業 |
5-4.ステップ4:運用ルールを作成、共有する
また、コミュニティを適切に運用するためのルールやポリシーを明文化することが必要です。
・コミュニティの目的、ポリシー |
これらの運用ルールを決める際には、既存のコミュニティのガイドラインなどを参考にして検討してください。
5-5.ステップ5:コミュニティを立ち上げる
ここまで事前準備が整ったら、いよいよコミュニティの立ち上げです。
既存のSNSを使うのであれば、公式アカウントを開設し、こまめに投稿、フォロワーを増やしましょう。
また、「#◯◯(製品名・ブランド名)」「#◯◯のアレンジレシピ」などハッシュタグを拡散したり、関連コメントに「いいね」やリツイートするなども、コミュニティ形成に効果的です。
コミュニティサイトを構築する場合は、自社で立ち上げるのか、外部に委託するのかによって立ち上げプロセスは異なります。
くわしくは、以下の関連記事「コミュニティサイトとは|初心者にまず押さえて欲しい基礎知識」で解説していますので、そちらを読んでみてください。
6.コミュニティマーケティングの注意点
6章ではコミュニティマーケティングを行う上での注意点を説明します。
それは以下の6点です。
・コミュニティの形成、定着には時間をかける |
6-1.コミュニティの形成、定着には時間をかける
コミュニティマーケティングにおいて、コミュニティがメンバー主導で活発に機能するようになるまでには、ある程度の時間がかかることを折り込んでおく必要があります。
そもそもコミュニティにある程度の人が集まるだけでも数週間〜何ヶ月かはかかるでしょう。
それからメンバーがコミュニティに慣れて、少しずつ投稿や発信をするようになり、その人たちの間に交流が芽生えます。そうしたことからも、少なくとも半年、長ければ数年単位のプロジェクトになるものとして取り組んでください。
ただ受け身で傍観していたメンバーが、「このコミュニティの主役は自分たちだ」と自覚して、能動的にコミュニティ運営に関わる人が出てくると、施策も軌道に乗ったと言えるでしょう。
さらに、ユーザーが熱心なファンになり、ロイヤルティの高い優良顧客に育つまで、企業は決して焦らず急かさず、長期的な計画のもとに進めなければなりません。
6-2.コミュニティマネージャーを慎重に選定する
前述したように、コミュニティはユーザーが主体ですが、だからといって、ユーザーに任せきりではうまく回っていきません。そこにはやはり、企業側の運営担当者=コミュニティマネージャーが必要です。
コミュニティマネージャーは、コミュニティの運営やユーザー対応、SNSの運用、さらにコミュニティと社内の各部署との橋渡しなど、多岐にわたる管理業務を担わなければなりません。
そのため、コミュニケーション能力、マネジメント力、トラブル対応力はもちろん、ユーザーに適切なトピックや提案などを提供し続けて、コミュニティの動きを活性化させるスキルなども求められます。
これらをこなすことができる人材を慎重に見極めた上で、選定する必要があるでしょう。
場合によっては、コミュニティマネージャーは他業務との兼任になる可能性もあるでしょうが、可能であれば、専任の人材をアサインするほうがよいでしょう。
6-3.コミュニティ運用のルールやポリシーを作成、共有する
また、ユーザー手動のコミュニティを円滑に運営するためには、あらかじめ運用ルールやポリシーを作成し、ユーザー間に徹底することも必須です。
ユーザーコミュニティといえども、企業が運営の責任を担っているものですから、自由気ままにどう利用しても構わない、というわけにはいきません。
「5-4.ステップ4:運用ルールを作成、共有する」で説明したように、企業のポリシーに反することや、コンプライアンス違反に当たることが起きないよう、ルールを決めておきましょう。
具体的には、コミュニティの運用ポリシー、ユーザー向けの利用ガイドライン、禁止事項などが必要です。
6-4.コミュニティメンバーの自主性を育てる
コミュニティを有用なものにするには、メンバーが主体的・能動的にコミュニティ運営に参加する必要があります。そのためには、企業側でメンバーの自主性を育てる工夫をしましょう。
以下のような施策が有効です。
・ユーザーの課題やニーズを汲み取り、それに応えるイベントや企画を用意する |
6-5.コミュニティ内で広告・宣伝や商品販売をしない
コミュニティ内で商品の宣伝をしたり、販売をしたりといったことをしてしまうと、その場は「ファンのコミュニティ」ではなく、「企業の商取引の場」になってしまいます。
ユーザーも、「自分たちのためではなく、結局ものを売りつけるためにコミュニティを作ったのだ」と感じ、気持ちが離れてしまう恐れもあります。
マーケティング活動である以上、最終的には企業もメリットを得てこその施策です。
が、基本はあくまで「ユーザーのため」「ユーザー同士の、またはユーザーと企業の交流のため」であることを意識しましょう。
6-6.KPIの設定には工夫が必要
繰り返しますが、コミュニティマーケティングはマーケティング施策です。
そのため、KPIを設定してその達成を目指さなければなりません。
ただ、コミュニティ運営は、売り上げやPVといった定量的なKPIでは測れない部分が大きいものです。
ユーザーの熱量、盛り上がり、意識の変化といった、数値化しづらい定性的な要素こそ重要になります。
たとえば、以下のようなKPIを設定することで、成果を見える化する工夫をしましょう。
・コミュニティサイトの登録者数 |
まとめ
いかがでしたか?
コミュニティマーケティングとはどんなものか、どうすれば実践できるのかがわかったかと思います。
ではあらためて、記事の要点をまとめましょう。
◎コミュニティマーケティングとは、「企業が既存ユーザーのコミュニティをつくり、マーケティング活動に活かす手法」
◎従来の「コミュニティ」「マーケティング」との違いは以下
従来のコミュニティを利用するマーケティング | ・コミュニティの主体は企業 |
コミュニティマーケティング | ・コミュニティの主体はユーザー |
◎コミュニティマーケティングが向いている企業・製品は、
・すでに熱心なファンがいる企業、製品 |
◎【成功事例】コミュニティマーケティングで実現できることは、
・カスタマーエンゲージメントの向上 |
◎コミュニティマーケティングのメリットは、
・企業とユーザーとの距離が近づく |
◎コミュニティマーケティングの方法は、
・コミュニティサイトを運営する |
◎コミュニティマーケティングを実施する5ステップは、
ステップ1:目的を明確化する |
◎コミュニティマーケティングの注意点は、
・コミュニティの形成、定着には時間をかける |
この記事を踏まえて、あなたの会社がコミュニティマーケティングを成功させられるよう願っています。
注:本記事内におけるネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標又はサービスマークです。