コンタクトセンター(コールセンター)における「入電予測」とは、かかってくる電話の量を予測することをいいます。
かかってくる電話の量を予測することで、適切なオペレーターの人数を配置することができ、顧客を待たせないことによりCS(顧客満足度)向上にもつながります。
この入電予測を行うためのツールには「AIツール」と「表計算ソフト」の2種類がありますが、結論を言うと、精度やスピードを求めるのならばAIツールがおすすめです。
コンタクトセンターの入電予測のやり方 |
❶AIツール(おすすめ):精度の高い入電予測が可能 ❷表計算ソフト:簡易的な入電予測が可能 |
なぜならば、入電数に影響を与える要因は複数あるため、複雑に絡み合ったアルゴリズム(モデル)を試しながら効果検証を繰り返していくことが必要だからです。表計算ソフトではあくまで簡易的な入電予測しかできないため、精度を上げたいならばAIツールの活用をおすすめします。
そこでこの記事では、まずAIツールを使った入電予測のやり方をメインに解説していきます。
また、表計算ソフトを使った入電予測の方法については、3種類の関数を使った予測方法を紹介します。
コンタクトセンターの入電予測を検討している方の参考になるよう、記事の後半では、AIによる入電予測がおすすめのセンターの特徴や成功事例についても解説しています。
◎AIによる入電予測がおすすめのセンターの特徴 ◎AIを活用した入電予測の成功事例 |
「コンタクトセンターで精度の高い入電予測を行う方法を知りたい」「それにより人員配置やコスト適正化につなげたい」という企業の方は、ぜひこの記事を参考にしてください。
1.コンタクトセンター(コールセンター)の入電予測とは
まずは、コンタクトセンター(コールセンター)用語でよく使われる「入電予測」という言葉の意味を正確に理解していきましょう。
1-1.「入電予測」とは「かかってくる電話の量の予測」のこと
入電予測とは、入電(インバウンド=受信するコール)の量を予測すること、つまり「どのくらい電話がかかってくるか」を予測することをいいます。この手法は「コール予測」「forecast」「呼量予測」などと呼ばれることもあります。
発信するコール数はコンタクトセンター側(発信者側)で調整できますが、受信するコール数は調整ができません。そのため「今日はどのくらい電話がかかってくるか」「どの時間帯にどのくらい電話がかかってくるか」を予測する必要があるのです。
この予測を行う具体的な方法は後述しますが、基本的には過去のデータを基に分析して、その中にある法則性を見つけることで予測を立てられます。
1-2.入電予測は人員配置計画やコスト適正化につながる
入電予測の精度を上げることは、コンタクトセンター(コールセンター)の運営を左右する重要な要素です。これは、人員配置計画やコストの適正化にかかわるためです。
入電予測の精度を上げると、予測したコール数に応じて過不足なく人員配置を行うことが可能になります。もしコール数に対して人員が少なすぎれば顧客を待たせてしまいますし、人員が多すぎると不必要な人件費がかさんでしまうでしょう。
日や時間によって増減する入電数を適切に予測することで、人員配置計画を適切に立てられるだけでなく、コストの適正化につなげることも可能になるのです。特に、AIツールを用いた入電予測では、管理者の工数を大幅に削減することが期待できます。
2.入電予測できる2種類のツール(AIツール・表計算ソフト)
コンタクトセンター(コールセンター)で入電予測を行う場合に使われているツールには、以下の2種類があります。
①AIツール(精度の高い入電予測が可能) |
それぞれについて、苦手意識がある方にもわかりやすく解説していきます。
2-1.AIツール(精度の高い入電予測が可能)
入電予測を行うツールとして最もおすすめなのが、「需要予測」できるタイプのAI(人工知能)サービスです。
AIを活用したツールがおすすめの理由としては、表計算ソフトを使った入電予測よりも精度が高い入電予測を、スピーディーに実行できるからです。
従来のような表計算ソフトを使った入電予測では、入電数に影響を与えている要因がどれかを考えながら、トライアンドエラーで予測精度を上げるために途方もない時間がかかっていました。
AI需要予測サービスならば、過去の入電数データを分析して複数の「予測モデル」を作ることができ、モデルを切り替えながら検証が可能です。詳しいやり方については、次の3章で解説するので、ぜひご覧ください。
2-2.表計算ソフト(小規模かつ入電パターンが決まっている現場向け)
エクセルやGoogleシートなどの表計算ソフトを使うことでも、簡単な入電予測は可能です。
具体的には、以下のような方法を用いて、過去の入電数データを基に、いつどのくらい入電数が来そうかを予測していく方法が一般的です。
◎過去の平均値で予測する方法 |
ただし、分析の精度が低いことや、入電予測に途方もない時間がかかることなどから、正確な入電予測を行いたい現場にはおすすめしていません。
3.【入電予測のやり方①】AIツールを活用して入電予測する場合
ここからは、AI需要予測ツールを活用して入電予測をする方法について解説していきます。
AIを活用した需要予測ツールにはいくつか種類がありますが、ここでは、DataRobot社が開発したAIプラットフォーム「DataRobot」を使ってご説明します。
DataRobotは予測AIと生成AIの開発・運用管理を一元化するプラットフォームですが、機械学習の自動化機能も提供しているプラットフォームです。AI需要予測としての利用も可能です。
3-1.ステップ1:過去のデータをAIに投入する
AIを活用して入電予測する場合の最初のステップとして、入電数の増減に関わる過去のデータをAIに投入します。
例えば、過去2年分の日付と地域別気温、一日の入電数、そして「その日が長期休暇だったかどうか」というデータをまとめたエクセルデータを用意します。
エクセルデータのファイルを、DataRobotの画面にアップロードして読み込ませることで投入が可能です。
3-2.ステップ2:予測する値などを設定してデータ解析を行う
過去データのアップロードが完了すると、DataRobotに投入した情報が読み込まれます。
あとは、予測するターゲットに「一日の呼量(入電数)」を指定し、時間軸認識モデルを選択し、「時系列モデリングの作成」を選択します。
「どの未来の値を予測したいですか。」という欄に予測したい日数を指定し、「開始」ボタンをクリックします。すると、過去データを基に予測モデルの作成が実行されます。
解析が終わると、投入した過去データのどの要素が呼量(入電数)に影響を与えたかを「有用性」の欄で確認できるようになります。
上記のデモでは、「週番号」の有用性が高くなっており、何週目かが入電数に影響を与えている度合いが高いことが分かりますね。
DataRobotはこのような解析を繰り返しながら、どのモデルを使うと入電予測の精度が高くなるのかを自動的に探し出してくれます。
3-3.ステップ3:AIが提示した予測モデルの詳細を確認する
全ての計算処理が終わると、リーダーボード画面に、精度の高い順に14パターンほどの予測モデルが表示されます。それぞれの予測モデルの詳細を確認し、どの予測モデルを採用して入電予測を行うか決定しましょう。
予測モデルをクリックすると、以下のように「何が入電数に影響を与えているのか」を確認することも可能です。
このデモでは、以下のデータが入電数に大きな影響を与えていることが画面から分かります。
・一日の呼量(過去の入電数の実績) |
さらに、以下のように、予測モデルを使った入電数予測と実際の入電数の乖離(かいり)具合を確認することもできます。
3-4.ステップ4:将来の入電数を予測する
最後に、予測用のエクセルファイルをDataRobotに読み込ませて、入電予測を行います。予測用のファイルは、予測したい値を空欄にしたものを用意してください。
予測用ファイルをアップロードしたら、「予測を計算」のボタンを押すことで、入電予測の処理が行われます。
処理が終わったら、以下のように予測した入電数データをダウンロードできます。以下のファイルでは「Prediction」の欄が、AIが予測した入電数となります。
これで、AIによるコンタクトセンター(コールセンター)の入電予測は完了です。
これらのステップについて姉妹サイトtransplusでは動画で解説しています。是非こちらも参考にしてください。
参考記事:DataRobot活用動画 ~需要予測~
4.【入電予測のやり方②】表計算ソフトを使って入電予測する場合
ここからは、エクセルやGoogleスプレッドシートなど「表計算ソフト」を使用した入電予測のやり方を解説していきます。
なお、表計算ソフトを使用した入電予測は、AI予測ほど精度の高い結果を得ることが難しいため、あくまで参考程度の活用に留めておくと良いでしょう。ここでは、Googleスプレッドシートでのやり方を解説していきます。
4-1.AVERAGE関数による入電予測のやり方(過去の入電数の平均値)
まず、過去の入電数の平均値を基に入電予測を行う方法のやり方を説明します。平均値を取る入電予測は、あまり精度が高くはありませんが、外部要因の影響などが少ない現場などでは参考程度にはなるでしょう。
たとえば、ここのところ入電数が順調に増えているコンタクトセンターがあったとします。この場合、直近3カ月などの平均値を取ることで、だいたいの入電数を予測することができます。
平均値を取るための関数は「AVERAGE関数」を使い、以下の構文をエクセルに記入することで入電予測が可能です。
AVERAGE関数の構文 |
2023年1月の入電数を予測する場合、C15セルに「=AVERAGE(C12:C14)」と入力することで、直近3カ月の平均値を算出することができます。
4-2.GROWTH関数による入電予測のやり方(入電数が伸びている場合)
入電数が順調に伸びている場合には、これまでの入電数の伸び具合から将来値を予測できるGROWTH関数を使って、入電予測が可能です。
GROWTH関数の構文 |
まず、過去の入電数データをまとめたGoogleスプレッドシートを用意して、予測した入電数を表示させたいセルを選択した後に、GROWTH関数の構文を入力します。
ここでは、「既知データ_y」に入電数の推移(C3:C14)、「既知データ_x」に月(B3:B14)、「新規データ_x」に2024年1月(B15セル)を指定します。
=GROWTH(C3:C14,B3:B14,B15) |
これまでの入電数の伸びを加味すると、2024年1月の入電数は1786件程度と予測できます。
4-3.FORECAST関数・TREND関数による入電予測のやり方(回帰分析)
入電件数と連動する要因がある場合には、「回帰分析」という方法で入電予測をすることが可能です。例えば、顧客数やユーザー数の推移、売上高の推移などが入電件数と連動するケースで、回帰分析が有効です。
要因が1つのケース(単回帰分析)では「FORECAST関数」を、要因が複数あるケース(重回帰分析)では「TREND関数」を使って入電予測が可能です。
ここでは、入電数が会員数と連動するケースについて、FORECAST関数を使った入電予測の例を示します。
FORECAST関数の構文 |
まず、過去の入電数と会員数データをまとめたGoogleスプレッドシートを用意します。2024年1月の会員数の予測値は出ており、それを基に2024年1月の入電数を予測します。
=FORECAST(x, データ_y, データ_x)
ここでは、「x」に2014年1月の会員数(D15セル)を、「データ_y」に入電数の推移(C3:C14)、「既知データ_x」に会員数の推移(D3:D14)を指定します。
=FORECAST(D15, C3:C14, D3:D14) |
会員数との相関関係から、2024年1月の入電数は1638件程度と予測できました。
このように、表計算ソフトでは関数を柔軟に使い分けてコンタクトセンター(コールセンター)の入電予測を行います。
5.AIによる入電予測がおすすめのコンタクトセンター(コールセンター)3つのケース
3章では「AIによる入電予測」のやり方を、4章では「表計算ソフト」を使った入電予測のやり方をそれぞれ解説してきました。しかしながら、高い精度で入電予測を行いたい場合には、表計算ソフトを使った入電予測には限界があることを認識する必要があるでしょう。
特に、以下のような状況や特徴を持つコンタクトセンター(コールセンター)では、AIを活用した入電予測の利用を推奨します。
◎入電数の増減に影響する要因が複数あるケース |
それぞれについて、AIの活用がどのように効果的であるかを、詳しく解説していきます。
5-1.入電数の増減に影響する要因が複数あるケース
入電数の増減に影響する要因が複数あるケースでは、AIを活用した入電予測がおすすめです。
なぜならば、どの要因がどれくらい入電数に影響しているかを人の手で分析するのは困難だからです。
例えば、季節や月ごとの増減だけでなく、イベントの有無、当日の気温なども入電数に影響を与えるというケースでは、どの要因が大きいのかを検証するのが難しくなってきます。これらを人の手で検証するには膨大な労力がかかるケースが多いでしょう。
AIを活用した入電予測では、影響度合いの大きさを分析するのもAIが行ってくれるため、簡単に予測モデルを作成でき、入電予測に反映ができます。
5-2.入電予測に莫大な工数がかかっているケース
入電予測に莫大な工数をかけている現場も、AIを活用した入電予測がおすすめです。人の手だけで入電予測の精度を上げようとすると、途方もない工数がかかるのが実情です。
大規模なコンタクトセンター(コールセンター)や入電数に与える要因がたくさんあるセンターでは、入電予測に毎月150時間以上かかるようなケースも存在します。
入電予測の精度を上げるために多くの時間を割いているケースでは、AIの力を借りるのが得策です。
5-3.入電予測の精度を上げたいケース
入電予測は行っているものの精度が低くて予測値と実際の入電数の乖離(かいり)がある、というケースも、AIを活用した入電予測がおすすめです。
AIを活用した入電予測では、分析モデルを試しながら、入電予測の精度を上げていくことができるからです。一般的に学習データが増えれば、精度が上がることが多いです。
特に、いくつもの要因が複雑に組み合わさって入電数に影響を与えているようなケースでは、AIを活用する方法が向いていますよ。
6.AIを活用した入電予測の成功事例(家電メーカーの例)
ここからは、AI(人工知能)を活用して精度の高い入電予測を行っているコンタクトセンター(コールセンター)の事例を紹介します。
白物家電を販売している某大手家電メーカー様のコールセンターでは、冷蔵庫やエアコンなどを取り扱っているため、気温によって入電量の増減が多いという課題を持っていました。
特に白物家電のサポートセンター特有の夏季繁忙期対策として、なるべく精度の高い入電予測を行い、「コールセンターのシフトを最適化したい」という要望がありました。
出典:トランスコスモス
そこで、AIを活用した入電予測を導入しました。過去の入電履歴と天気予報などのオープンデータを教師データとして機械学習させ、予測モデルを構築しました。
これにより入電予測をおこなったところ、ベテランの人間の予測よりも精度の高い入電予測を実現(予測誤差を10pt改善)。
時間帯別に必要なオペレーターの席数をAIに算出してもらい、最終的な判断とシフト編成を担当者が行うという運用が可能となったのです。
コンタクトセンターの入電予測についてご興味がある方は |
ここまで解説したように、精度の高い入電予測を行うのであればAIツールの活用がおすすめです。なかでも、AIの知識がなくても簡単に操作できるDataRobotは、多くのコンタクトセンター(コールセンター)での導入実績があります。 DataRobotを使えば、入電予測だけでなく、獲得件数の予測、退職予防、解約防止、DMの送付先予測などさまざまなシーンにも活用できます。 ※DataRobotについての詳しい説明は以下の記事もご覧ください。 トランスコスモスのDataRobot導入支援サービスでは、コンタクトセンター(コールセンター)の課題や目的に合わせた導入やサポートを行っています。 データの準備から運用まで一貫した導入サポートを受けたい場合には、ぜひお気軽にご相談ください。 |
まとめ
いかがでしたか?コンタクトセンター(コールセンター)における入電予測のやり方をイメージでき、AIツールの活用で、さらに精度の高い入電予測が可能であることが理解できたと思います。
後に、要点を簡単にまとめておきます。
◎コンタクトセンターの入電予測とは、かかってくる電話の量を予測すること
◎入電予測できる2種類のツール
・AIツール(精度の高い入電予測が可能) |
◎AIツールを使った入電予測のやり方
・ステップ1:過去のデータをAIに投入する |
◎表計算ソフトを使った入電予測のやり方
・AVERAGE関数による入電予測のやり方(過去の入電数の平均値) |
◎AIによる入電予測がおすすめのコンタクトセンター(コールセンター)
・入電数の増減に影響する要因が複数あるケース |
今回の記事を参考に、ぜひコンタクトセンター(コールセンター)の人員配置をより適正に行ってみてください。