
eKYCとは、オンライン上での本人確認を行う技術です。金融機関への申込やオンラインサービスの利用に際し、eKYCを導入する企業が増加しています。本人確認のハードルを下げ、サービス提供までの時間短縮ができれば、顧客獲得につながります。
- 利用者のメリット:手間がかからない、サービス利用開始までが早いことが挙げられる。
- 導入企業のメリット:顧客の離脱を抑制、業務効率化、コスト削減につながる。
- eKYC導入を進めるべき企業:申込時の離脱を防ぎたい、本人確認業務が負担になっている企業におすすめ。
- 導入時の注意点:自社に適した導入チャネル、本人確認の方式、カスタマイズ性を考慮して選ぶ。
「eKYCの導入を検討しているが、実際どうなのだろう?」
といった疑問をお持ちではありませんか?
eKYC(イー・ケイ・ワイ・シー)とは、「electronic Know Your Customer」の略で、「オンライン上で本人確認を行う技術」です。

従来の対面や郵送による書類のやり取りに対し、eKYCではすべての手続きをオンライン上で完結可能です
このシステムは、簡便に本人確認ができるため、以下のような分野での活用が広がっています。今後もこの流れは加速すると考えられています。

そのため、本人確認が必要な業種ではeKYCの導入を前向きに検討すべきです。
しかし、導入にあたってはeKYCについての知識が不可欠です。
知識が不十分なまま導入すると、システムをうまく活用できず、コストに見合った効果を得られなかったり、逆に手間が増えてしまったりする可能性があります。
本記事では、eKYCの基礎知識について解説します。
本記事を通じて、eKYCとはどんな仕組みなのかを理解できるでしょう。また、具体的な活用方法や導入に適した企業の特徴も把握できるため、自社に導入すべきかどうかの判断がしやすくなります。
eKYCの拡大の波に乗り遅れず、顧客獲得の機会を確実に掴むために、ぜひ最後までお読みください。
1.eKYCとは

eKYC(イー・ケイ・ワイ・シー)とは「electronic Know Your Customer」の略で、「オンライン上で本人確認を行う技術」を指します。
まずは、eKYCとは何かを理解するために必要な以下の内容について解説します。
・eKYCと従来の本人確認(KYC)との違い |
1-1.eKYCと従来の本人確認(KYC)との違い
もともと、銀行口座の開設やクレジットカードの発行などの手続きに必要な本人確認は「KYC(Know Your Customer)」と呼ばれ、従来は店頭などで、対面で行われてきました。
eKYCは、2018年に犯罪収益移転防止法が改正されたことで、オンライン上での本人確認が認められました。
【eKYCと従来の本人確認(KYC)の違い】
eKYC | 従来の本人確認(KYC) | |
本人確認書類 | デジタルデータ | 紙媒体 |
書類提出方法 | オンライン | 対面・郵送 |
本人確認方法 | 本人画像・ICチップ情報確認 | 対面での容貌確認 |
手続きに要する時間 | 数分~数時間で完了 | 数日~数週間かかることがある |
手続き可能な時間帯 | 24時間いつでも利用可能 | 窓口の営業時間や郵送時間の制約を受ける |
セキュリティ | 複数のデジタル技術を活用し、偽造や不正行為の検出能力を高めている | 偽造書類の見逃しやヒューマンエラーが発生するリスクがある |
犯罪収益移転防止法とは、金融機関などの「特定事業者」が顧客と取引する際に、その取引が犯罪に関連した資金の洗浄(マネーロンダリング)に利用されるのを防ぐための法律です。この法律により、顧客の氏名・住所・生年月日などを用いて本人確認を行うことが義務付けられています。
1-2.eKYCの仕組み
前述の犯罪収益移転防止法で認められたeKYCには、いくつかの方法があります。
その中で現在主流になっているのは、「写真付き本人確認書類の画像」と「セルフィー(自撮り画像)」を用いる方法です。以下のような仕組みで進められます。

始めに、ユーザーはブラウザまたはアプリを使用して手続きの利用登録を行います。
次に、写真付き本人確認書類の画像をアップロードします。利用可能な本人確認書類には、以下のようなものがあります。
・運転免許証 |
ユーザーは、顔貌が分かるセルフィー(自撮り画像)を撮影します。リアルタイムでの認証のため、撮影にはeKYCシステムを利用する必要があります。ユーザーが保有するフォルダ内の画像を使用できません。
その後、企業側では、提出された本人確認書類とセルフィーの照合を行います。顔認識技術を活用し、書類の画像とリアルタイムで撮影された顔画像が一致するかどうかを確認します。
以上の照合作業が完了し、内容に問題がなければ、本人確認が完了します。
【「特定事業者」とは】
犯罪収益移転防止法(犯収法)では、本人確認などの義務がある事業者を「特定事業者」と定めています。これらの事業者は、顧客との一定の取引を行う際に取引時確認と呼ばれる確認を実施し、法令で定められた義務を果たさなければなりません。
具体的な特定事業者は以下の通りです。
・金融機関
・ファイナンスリース事業者
・クレジットカード事業者
・宅地建物取引業者
・宝石・貴金属等取扱事業者
・郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者、電話転送サービス事業者
・弁護士・弁護士法人
・司法書士・司法書士法人
・行政書士・行政書士法人
・公認会計士・監査法人
・税理士・税理士法人
2.eKYCの3つの魅力
ここまでの解説から、eKYCの魅力は以下の3つにまとめられます。

eKYCでは、数分から数時間で本人確認が完了します。従来の本人確認が数週間かかることと比較すると、格段に短い時間で手続きを行えます。
ユーザーにとっては、スマートフォンで必要な項目を入力し、写真を撮るだけで手続きが完了します。紙書類を準備したり郵送したりする手間がなく、どこにも出向く必要がありません。
企業側も、書類の受付と照合がデジタル技術によって自動化されるため、本人確認業務が大幅に省力化されます。
さらにeKYCには、セキュリティが高いという特徴もあります。eKYCでは、以下のようなセキュリティ対策が講じられています。
・データの暗号化:データの盗難や改ざんリスクを軽減 |
このように、eKYCは安全かつ簡便な本人確認方法であると言えます。
3.eKYC利用のメリット

さまざまな場面で簡便に本人確認ができるeKYCは、利用者と企業の双方にメリットをもたらします。
【eKYCのメリット】
利用者 | ・手間がかからない |
企業 | ・顧客の離脱を減らせる |
これらのメリットに大きな魅力を感じるという場合には、導入する価値があるかもしれません。自社への導入可否を判断するためにも、確認しておきましょう。
3-1.利用者のメリット
eKYCの利用者にとってのメリットは、以下の通りです。
手間がかからない
利用者にとって、手続きが簡便であることは大きなメリットです。
従来のKYCでは、本人確認書類のコピーをとったり、必要書類を窓口に持参または郵送したりする必要する必要があり、煩雑な作業が求められていましたが、eKYCではこれらが全て省略できます。
たとえば、「手続きが面倒で申し込めない」という人や、「忙しくて窓口に行く時間がない」という人にとって、eKYCは格段にハードルを下げるでしょう。
その結果、気になるサービスを手軽に利用できるようになります。
サービス利用開始までが早い
サービス利用開始までの時間が短縮されることも、利用者にとって嬉しいポイントです。
eKYCでは、従来の本人確認に伴う書類を揃える時間や窓口に出向く時間、結果が出るまで待つ時間が不要になり、早ければ数分でサービス利用手続きが完了します。
たとえば、ローンや携帯電話回線の契約など、早急に手続きを終えたい人にとっては大きな助けとなります。
3-2.企業のメリット
eKYCの企業にとってのメリットは以下の通りです。
顧客の離脱を減らせる
企業にとって最も大きなメリットは、顧客の離脱を減らせる点です。
「面倒だからやめた」「時間がなくてできない」「タイミングが合わない」といった離脱原因を排除できます。
eKYCを導入することで、スマートフォンやパソコンさえあれば短時間で申し込みを完了できます。顧客の離脱を防ぐことで契約獲得の機会損失を防ぎ、企業の売上に直結するメリットをもたらします。
業務を効率化できる
eKYCを導入することで、業務を効率化できるというメリットがあります。本人確認に関連する業務を自動化することができるからです。
従来のKYCでは、本人確認書類や申込書が紙で提出され、その整理や照合は人が行わざるを得ず、大変な手間と時間がかかっていました。しかし、eKYCでは、すべての提出書類がデジタルデータ化されるため、整理や照合も自動化できます
もちろん人によるチェックや統制は必要ですが、大部分を自動化することで、本人確認業務にかかる時間と手間が大幅に軽減されます。
コスト削減につながる
eKYCの導入は、コスト削減にもつながります。
従来の「紙の本人確認書類受け取り→確認→転送不要郵便物の発送」といったプロセスで発生していた以下のコストが不要になります。
・書類の作成・保管費用 |
ペーパーレスに伴うコスト削減に加え、本人確認業務の自動化による人件費の削減も見逃せないメリットです。
4.eKYC利用のデメリット

eKYCには多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。
【eKYCのデメリット】
利用者 | ・端末操作時のエラーやトラブルが発生する場合がある |
企業 | ・認証精度が低いシステムもある |
自社での対策が可能かどうか把握しておくことは、導入の可否を判断する材料になります。
4-1.利用者のデメリット
eKYCの利用者にとってのデメリットは、以下の通りです。
端末操作時のエラーやトラブルが発生する場合がある
利用者のデメリットとして、端末操作時のエラーやトラブルの発生が挙げられます。
操作する端末や環境によって、認証されずエラーが発生したりトラブルが発生したりする恐れがあります。
専用アプリが必要な場合がある
eKYCの利用には、専用アプリが必要な場合があるというデメリットも存在します。
eKYCの形態にはブラウザ型とアプリ型があり、アプリ型の場合、利用者はアプリをダウンロードする必要があります。一度しか使わないアプリをわざわざダウンロードする手間が発生するため、その時点で「面倒だから申し込みをやめる」といった人も出てくる可能性があります。
4-2.企業のデメリット
eKYCの企業にとってのデメリットは、以下の通りです。
認証精度が低いシステムもある
一部のeKYCシステムでは、顔認証の精度が低いことがあります。
本人確認が正確にできなかったり、時間がかかってしまったりする場合があります。
その結果、郵送による本人確認を余儀なくされることもあり、利用者にストレスを与える可能性があります。
eKYCのシステム導入する際は、顔認証の精度が高いものを選ぶことが重要です。
端末の操作に不慣れな顧客から敬遠される
端末の操作に不慣れな顧客から敬遠されることが考えられます。
eKYCを利用するためには、スマートフォンやパソコンなどが必要です。機器の操作が不慣れな顧客にとって、手続きが負担になり離脱する可能性があります。
5.eKYCの導入を進めるべき企業

ここまででeKYCのメリットやデメリットなどを具体的に解説してきました。この章では、eKYCを導入すべき企業とはどんな企業なのかについて見ていきましょう。

5-1.申込時の離脱を防ぎたい企業
eKYC導入が最もおすすめの企業は、申込時の離脱を防ぎたい企業です。
前述のように、eKYCの最大のメリットは申し込みの手間が省けるという点です。
逆に言えば、eKYCを導入していない企業は申し込み時に手間がかかってしまうため、離脱されてしまう可能性が高いということになります。
どの企業もeKYCを導入していなかったときには問題にならなかったかもしれませんが、近年は多くの企業がeKYCを導入しています。その分、eKYCを導入していない企業の申し込みはユーザーから敬遠されてしまう可能性が高いのです。
申込時の離脱を防ぎたいのであれば、eKYCの導入をおすすめします。
5-2.本人確認業務が負担になっている企業
本人確認業務が負担になっている企業も、eKYCの導入がおすすめです。
ここでいう負担とは「手間」と「コスト」両方の面を指します。
本人確認作業を手作業で行う場合、それなりに手間がかかります。その分リソースが必要となり、人件費も余計にかかってしまいます。
eKYCを導入するとそうした多くの作業を自動化することができます。業務をスリム化し、コストも削減できるのは大きなメリットといえるでしょう。
本人確認業務が大きな負担になっている、という場合にはeKYCが問題解決のカギになるかもしれません。
6.本人確認が重要なビジネスならeKYCの導入の前向きな検討がおすすめ

そのため、本人確認が重要なビジネスならeKYCの導入の前向きな検討をおすすめします。無視できない社会の流れとして、eKYCの市場規模はどんどん拡大しているからです。
株式会社矢野経済研究所の調査によると、2023年度の国内eKYC市場規模(事業者売上高ベース)は、前年度比130.0 %の89億9,300万円であり、今後も右肩上がりに伸びていくと予想されています。
参考:株式会社矢野経済研究所「eKYC/当人認証ソリューション市場に関する調査」
その理由としては、以下のようなことが挙げられます。
・本人確認の厳格化 |
犯罪やトラブルの多様化によって厳重な本人確認が求められる場面が増え、それをいかに簡便にこなしていくかという中で、オンライン化のニーズは高まっています。
近年流行した感染症の影響で、非対面・非接触の手続きが重宝されるようになったという側面も然りです。
ユーザーのニーズだけではなく、eKYC活用の環境面も整ってきているため、ここで一度自社への導入可否をしっかりと検討してみてはいかがでしょうか。
7.eKYCを導入する際の注意点

ここまで読んで、「自社にはeKYCが必要だと思うので、ぜひ導入したい」と考えた人もいるのではないでしょうか。その場合は、以下の2点に注意してください。

7-1.自社に適した種類を選ぶ
eKYCは自社に適した種類を選ぶようにしましょう。
ここでいう種類とは、「ブラウザ型かアプリ型か」「認証方法はどれか」という点です。
適切な種類を選ぶことが、導入目的の達成度や成果の向上につながるからです。
もし、導入の最大の目的が、利用者の利便性を上げて申込時の離脱を防ぐというものであれば、アプリダウンロードの必要ないブラウザ型がおすすめです。
利便性を上げる為にeKYCを導入しようと思っていても、アプリのダウンロードというひと手間が発生すると最大の目的が阻害されてしまう可能性があるためです。
また、犯収法によって定められているeKYCの認証方法は、4つあります。
・「ホ方式」:本人確認書類の撮影+容貌撮影(2027年4月に犯収法では廃止予定) |
自社の目的にはどの種類が合っているのかじっくり考えて導入を検討しましょう。
7-2.自社に合わせてカスタマイズできるものを選ぶ
eKYCの導入を考えるのであれば、自社に合わせてカスタマイズできるものを選ぶことをおすすめします。
eKYCのサービスやシステムはさまざまなものがありますが、その中に、必ずしも自社が求める機能をすべて備えたものがあるとは限りません。各社によって、本人確認のプロセスは異なるからです。
もっともおすすめなのは、企業側の希望に合わせてサービスやシステムをカスタマイズしてくれるものを選ぶことです。
導入前に、自社の本人確認業務をフロー化し、eKYCサービスを提供する企業に相談してみてください。
eKYCの導入をお考えであればトランスコスモスにご相談ください |
eKYCの導入をお考えであれば、まずトランスコスモスにご相談ください。 トランスコスモスではeKYCサービスの運用部分を提供しており、既に100万件を超える本人確認/認証サービスを弊社コンタクトセンター(コールセンター)内で実施しています。 eKYCツールに関しては、別途協業会社を紹介することも可能ですので、ご興味のある方は以下よりお気軽にご連絡ください。 |
まとめ
本記事では、eKYCに関する基礎知識を解説しました。以下に要点をまとめます。
eKYC(electronic Know Your Customer)とは、オンライン上での本人確認を行う技術のことです。
従来の本人確認(KYC)と比較すると、以下のような魅力があります。

eKYCのメリット・デメリットは、以下のとおりです。
【利用者のメリット】 【企業のメリット】 【利用者のデメリット】 【企業のデメリット】 |
以下のような企業は、eKYCの導入を進めるべきだといえます。
・申込時の離脱を防ぎたい企業 |
eKYCは本人確認を格段に簡便にしてくれるシステムであり、近年はユーザーニーズ・市場規模共に拡大の一途を辿っています。
顧客獲得の強力な一手になる可能性も高いため、ぜひ導入を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
