
「eKYCという言葉を聞くけれど、どんな意味?」
「我が社でも顧客からの申し込みの際に、eKYCでの本人確認を検討しているけれど、実際のところどうなんだろう」
そんな疑問を持っている人はいませんか?
「eKYC(イー・ケイ・ワイ・シー)」とは「electronic Know Your Customer」の略で、「オンライン上での本人確認」のことです。
銀行の口座開設やクレジットカードの申し込み、携帯電話回線の契約などの際には「本人確認」が求められますが、従来は紙の書類を郵送していたその手続きを、ペーパーレスですべてWEB上で完結できるように自動化したシステムやサービスを指します。
eKYCを導入することで、本人確認手続きを簡略化、スピード化、低コスト化することができるため、徐々に広まってきていて、今後ますます普及すると予想されているものです。
そこでこの記事では、eKYCについていま知っておくべきことをわかりやすく網羅しました。
まず最初に基礎知識として、
◎eKYCとは何か
◎eKYCの必要性
◎eKYCの利用場面
◎eKYCの種類
◎eKYCの4つの方法
をお伝えします。
その上で、実際に導入を考えている企業向けに、
◎eKYCのメリット・デメリット
◎eKYCが向いている企業
◎eKYC導入のポイント
◎eKYCの導入例
を解説していきます。
最後まで読めば、eKYCについていま知っておくべきことをひと通り理解できるはずです。この記事で、あなたの会社がeKYC導入を前向きに検討できるよう願っています。
目次
1.eKYCとは
「eKYC」は、最近注目されるようになった新しい言葉です。そこでまずは、この言葉をよく理解するために、意味や定義、なぜ注目されるのか、何に利用されるのかなどを深掘りしていきましょう。
1-1.eKYCとは何か?
eKYC(イー・ケイ・ワイ・シー)とは「electronic Know Your Customer」の略で、直訳すると「あなたの顧客を電子的に知ること」ですが、実際には「オンライン上での本人確認」を表わす言葉です。
この言葉が生まれる前、そもそも各種の手続きで必要になる「本人確認手続き」のことを「KYC」と略称していました。
金融機関など「特定事業者」(※この項の末尾参照)が顧客と取引する際に、その取引が犯罪に関連した資金の洗浄=マネーロンダリングなどに利用されることを防ぐため、顧客の氏名・住所・生年月日などによって本人確認をすることが法律で義務付けられています。
この法律を「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法・犯収法)」といいます。かつてはこの本人確認のためには、本人の顔写真付きの証明書や必要書類などを実際に窓口に提出したり、郵送したりする必要がありました。が、近年になって犯罪収益移転防止法が改正され、オンライン上での本人確認手続き=eKYCも法的に認められることとなったのです。
その方法は、以下の4つです。
1)本人確認書類の画像+本人の容貌の画像送信
2)ICチップ情報+顧客の容貌の画像送信
3)本人確認書類の画像またはICチップ情報+銀行などへの照会
4)本人確認書類の画像またはICチップ情報+顧客名義口座への少額振込
これについては、「2.eKYCの4つの方法」でくわしく説明します。
出典:金融庁「オンラインで完結する自然人の本人特定事項の確認方法の追加」
つまり、上記の4つの方法によってオンライン上で本人確認を行うのが「eKYC」です(2021年9月時点)。eKYCを導入すると、従来のKYCに比べて本人確認を含む各種手続きが簡略化、スピード化されるなどのメリットがあるため、今後はますます普及していくことが予想されます。
<参照・犯罪収益移転防止法における「特定事業者」> ◎金融機関等 |
1-2.eKYCの必要性
では、従来のKYCからeKYCへの移行が進むのはなぜでしょうか?
eKYCの必要性、意義とは何なのでしょうか。
犯罪収益移転防止法による本人確認の義務化
それは、前述した「犯罪収益移転防止法」と深く関係しています。この法律は、金融機関の口座や各種取引が犯罪行為に利用されることを防ぐためのものです。
具体的にいえば、振り込め詐欺などの各種詐欺、暴力団による反社会的行為、脱税などの犯罪で得た資金の洗浄=マネーロンダリングに利用されたり、テロ組織などに資金供給する手段に使われたりしないよう、さまざまな規制を設けています。
そのひとつが「本人確認」の義務化です。前出の「特定事業者」は、契約の際にはかならず顧客の本人確認=KYCを行なわなければならなくなったのです。
本人確認手続の簡略化
しかしながら、これらの犯罪の手口は年々巧妙化しており、それに対応して従来のKYCも厳格化する方向に法改正が進んでいます。そうなると一般の顧客側からすれば、手続が煩雑で時間も手間もかかるようになってしまいます。
「急いで口座を開設する必要があるのに、手続が間に合わない」
「クレジットカードを作ろうと思ったけれど、手続がめんどうなので申し込むのをやめた」
といったケースも多く出てくるでしょう。そこで、本人確認の確実性を担保しつつ、手続き自体はより簡潔に行える方法としてeKYCを導入する事業者が出てきたというわけです。
それに加えて、キャッシュレス時代の到来でオンライン決済の機会が格段に増えている現状もあり、今後はeKYCを導入する事業者がますます増えていくことでしょう。
1-3.eKYCの利用場面
eKYCの必要性や今後の展開は理解してもらえたかと思います。
が、実際にeKYCの導入が考えられるのはどんな場面、どんなサービスでしょうか?それは具体的には、以下のようなケースです。
金融機関の口座開設
もっとも代表的な利用シーンは、銀行など金融機関の口座開設をインターネット上で行う場合です。
従来のKYCでは、インターネットバンキングの口座を開設する際にも、オンライン上だけでは手続きが完結できず、申し込み者は本人確認書類を提出し、転送不要郵便物を受け取る必要がありました。そのため、申し込みから口座開設まで1~2週間を要し、手間も時間もかかってしまっていたのです。
それが、eKYCの導入により、オンライン上のみで本人確認を完了できるようになります。実際に、三井住友銀行や北海道銀行、ソニー銀行などがeKYCの導入を始めていて、今後の導入を発表している銀行もあります。銀行以外にも、証券会社や仮想通貨取引所などでもeKYCの利用が進んでいるのが現状です。
クレジットカードの申し込み
クレジットカードの申し込みでも、eKYCは活用されます。これも従来は、「身分証明書などの本人確認書類を提出 → 転送不要郵便を受け取る」という段取りが必要でしたが、eKYCの導入で「スマホで簡単申し込み」も可能になりました。現在すでに導入済みなのは、クレディセゾン(セゾンカード)などです。
携帯電話の新規申し込み
また、携帯電話の新規契約においても、eKYCの導入が進んでいます。au、ドコモの「ahamo」、楽天モバイルなどでは、スマートフォンで身分証明書の写真と自分の顔写真を撮影して送信するという簡単な方法で本人確認を完結することができ、店舗に出向いて長時間待つ必要がなくなりました。
インターネットでのチケット購入
コンサートやイベントなどのチケット購入にも、eKYCは有用です。というのも、人気イベントではチケットの不正な転売が横行していて、主催者側はその対応に苦慮してきました。正規に購入した人だけが入場できるように、会場でさまざまな方法で本人確認を行う試みもなされています。
そこでeKYCを導入すれば、本人確認が確実かつ容易になります。たとえばインターネットでチケットを販売する際に、eKYCで本人確認を行い、当日の入場時には生体認証システムを利用して購入時のデータと照合するのです。
身分証明書と顔が事前に登録されたものと一致しない人は入場できず、不正を防止することができるというわけです。
シェアリングサービスの利用
近年、カーシェアリングやファッションシェアリングなど、商品を複数の会員で共有・リースするシェアリングサービスが浸透してきました。便利である反面、多数の人が安全に利用するためには、利用者の本人確認が必要で、ここでもeKYCの活用が想定されます。
運転免許証がICカード化されたため、それを利用すれば登録時にも利用時にも即座に本人確認ができ、スムーズな利用が可能になるでしょう。
以上で挙げた5つのケース以外にも、
・自治体での行政手続き
・オンライン決済
・SNSのアカウント登録
など、eKYCは今後さまざまなシーンでの利用が可能です。
1-4.eKYCの種類
現在、eKYCのシステムやサービスは複数の企業から提供されています。
それらは大きくわけて、
・ブラウザ型
・アプリ型
の2種類に分類することができるのです。
ではそれぞれどんな違いがあるのか、説明しておきましょう。
ブラウザ型
まず「ブラウザ型」は、企業の自社サイトや本人確認用サイトなどにアクセスした顧客が、ブラウザ上で本人確認手続きを行なうものです。
この場合、導入する企業側では、自社サイトとeKYCのシステムを連携しなければなりません。しかしながら、利用する顧客からすれば、サイトにアクセスするだけで利用できるので、手軽な方法だといえるでしょう。
アプリ型
一方のアプリ型は、eKYC用のアプリケーションを顧客がダウンロードして、アプリ内で本人確認手続きをするものです。企業側としては、自社サイトにアプリのダウンロードリンクを張っておくだけでよく、システムとの連携などを考える必要がないので、手軽に導入できるでしょう。
ただ、その分顧客側に「アプリをダウンロードする」という手間を課すことになります。「あまりいろいろなアプリをダウンロードしたくない」「ダウンロードなどは面倒くさい」と感じる人もいるので、その点には配慮が必要になります。
このように、それぞれ一長一短あるので、導入の際にはどちらが自社に合っているのか、自社のターゲット層にマッチするのかをよく考えてください。
2.eKYCの4つの方法
ここまでで、「eKYCとはどんなものか」についてはよく理解してもらえたかと思います。
では、実際にeKYCではどのように本人確認をするのでしょうか?
前述したように、「犯罪収益移転防止法」で認められているeKYCの方法は現在(2021年9月時点)以下の4つです。
1)本人確認書類の画像+本人の容貌の画像送信
2)ICチップ情報+顧客の容貌の画像送信
3)本人確認書類の画像またはICチップ情報+銀行などへの照会
4)本人確認書類の画像またはICチップ情報+顧客名義口座への少額振込
この場合の「本人確認書類」とは、
・運転免許証
・マイナンバーカード
・パスポート
など、本人の顔写真付きの身分証明書類です。
また、どちらの画像も「なりすまし」を防ぐため、事前に撮影済みのものを送るのではなく、本人確認を求めている企業側が提供するアプリやソフトを使用して撮影しなければなりません。もちろん画像の加工などはできません。
それを踏まえて、それぞれの方法についてくわしく説明します。
2-1.本人確認書類の画像+本人の容貌の画像送信
まずひとつ目の方法は、顧客側で撮影した
◎本人確認書類の画像
◎本人の容貌の画像=顔写真
の2点をあわせて送信するものです。
これらは本人確認を求める企業によって、別々に撮影するケースと、本人が身分証を手に持って一緒に撮影するケースがありますので、顧客は企業側が求める方に従って撮影します。一般的には、別々に撮影するより一緒に撮影する方が、本人確認の確度が高まると考えられています。
この方法のメリット・デメリットとしては、以下のことが考えられます。
【メリット】
・免許証などと自分の顔の写真を撮影するだけなので、顧客にとっては手軽
【デメリット】
・撮影された写真のクオリティ(明るさや鮮明さなど)によっては、うまく本人確認できないケースがある
2-2.ICチップ情報+本人の容貌の画像送信
2つ目は、
◎本人確認書類に含まれるICチップ情報
◎本人の容貌の画像=顔写真
の2点をあわせて送信する方法です。
運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなどの身分証明書には、ICチップが組み込まれています。その中に、本人の氏名、生年月日、顔写真などのデータが記録されていますので、その情報を顧客側でスマホなどを使って読み取り、撮影した顔写真とともに送信します。
ただこの場合、送信されたICチップの情報が正しく本人のものであることを、何らかの方法で確認しなければなりません。これについては、ICチップ情報の真贋を判別するAPIなども開発されていますので、そういったものを利用することになるでしょう。
この方法のメリット・デメリットは以下です。
【メリット】
・本人確認書類を、暗証番号入力が必要なICチップ情報として送信するので、画像で送信するよりセキュリティが高い
【デメリット】
・顧客がICチップ情報を送信する際には暗証番号の入力が必要だが、それを覚えている人は少ないと思われるので、そこで顧客が申し込み手続きを離脱する恐れがある
2-3.本人確認書類の画像またはICチップ情報+銀行などへの照会
3つ目は、
◎本人確認書類の画像、またはICチップ情報のいずれかを送信
◎企業側が銀行やクレジットカード会社などに本人の顧客情報を照会
という、顧客側からの情報と企業側からの情報の合わせ技です。
1・2番目の方法が顧客側からの情報提供のみであるのに対して、この方法は企業側から情報を照会するという点が異なっています。金融機関やクレジットカード会社など、すでにこの顧客の本人確認を何らかの方法で済ませている企業がある場合に、その情報と、今回本人が提供した情報を照らし合わせて本人確認とする方法です。
この方法のメリット・デメリットは以下です。
【メリット】
・顧客側は、本人確認書類の画像かICチップ情報のいずれかひとつだけを送信するだけでよい
【デメリット】
・顧客が口座を持っている銀行が「API(ネットワークを通して外部とデータをやりとりするシステム)」を導入していないと、本人確認のための情報照会ができない
2-4.本人確認書類の画像またはICチップ情報+顧客名義口座への少額振込
4つ目は、
◎本人確認書類の画像、またはICチップ情報のいずれか
◎企業側が顧客名義の口座に少額の振込をした際の振込記録の画像
の2点をあわせて送信する方法です。本人確認書類かそのICチップ情報を送信するのは他の方法と同様ですが、異なるのは「少額振込の記録」を求めることです。
これは、顧客側がすでに本人確認が済んでいる本人名義の預貯金口座を企業側に伝え、企業側がその口座に少額を振り込みます。それを受けて顧客側は、その振込の記録(インターネットバンキングの画面など)を画像化して企業側に送信します。つまり、確かに本人名義の口座であると証明することで、本人確認とするわけです。
この方法のメリット・デメリットは以下です。
【メリット】
・顧客側は顔写真を撮影する必要がないので、自撮りが苦手な人でも利用できる
【デメリット】
・他の方法に比べて手続が煩雑である
以上4つが、犯罪収益移転防止法では認められている4つのeKYC方法です。
が、実際には3・4番目の方法は手間がかかるなど実現しにくいため、現在導入されているのは1・2番目の方法がメインとなっています。
3.eKYCのメリット
さて、eKYCではどのように本人確認を行なうのか、その方法はわかりました。
ですが、そもそもeKYCを導入することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
この点をあらためて考察しておきましょう。
3-1.利用者のメリット
まず、本人確認にeKYCを利用する人=顧客側のメリットは、主に以下の2点です。
手続が簡単
従来のKYCでは、本人確認書類のコピーをとったり、必要書類を窓口に持参する、または郵送することが必要だったりと、顧客側には煩雑な作業が求められていました。
それがeKYCになると、ペーパーレスでスマートフォンやPC上の操作だけで本人確認ができるため、手続が格段に簡単になります。「クレジットカードを作りたいけれど、手続が面倒なのでなかなか申し込めない」という人や、「忙しくて窓口に行く時間がとれない」という人にとっては、eKYCによってそのハードルが下がり、手軽に利用できるようになるでしょう。
手続にかかる時間が節約できる
同様に、書類を揃える時間、窓口に出向く時間、結果が出るまで待つ時間など、本人確認の手続きにかかる時間も大幅に短縮されます。
eKYCであれば、スマホで写真を1~2点撮影して送信するだけですから、早ければ数分で手続きが終わってしまいます。「なるべく早く手続を終えて、クレジットカードやサービスを利用したい」という人にとっては、非常に便利だといえます。
3-2.企業のメリット
次に、企業側のメリットを考えてみると、以下の3点が挙げられます。
申し込みの離脱を減らせる
繰り返しになりますが、従来のKYCでは本人確認に手間と時間がかかります。
そのため、「クレジットカードを作ろうと思ったけれど、本人確認書類など必要書類を揃えたり送ったりするのが面倒で断念した」「すぐに銀行口座を開きたいのに、窓口に行って手続きをする時間がとれない」などの理由で、申し込み自体をやめてしまう人もしばしば出てしまうのが難点でした。
その点eKYCであれば、スマホやPCさえあればその場で短時間の間に申し込みを完了することができます。「面倒だからやめた」「時間がなくてできない」「タイミングが合わない」といった離脱原因を排除して、申す込み数の増加につなげることも可能なのです。
実際に、株式会社ショーケースがオンライン本人確認(eKYC)の利用状況についてアンケートを行なった結果、「今後オンライン本人確認が増えてきた場合、積極的に活用したいと思いますか?」という質問に対して、90%もの人が「積極的に活用したい」「サービスによっては活用したい」と回答しています。
Q. 今後オンライン本人確認が増えてきた場合、積極的に活用したいと思いますか?
「顔認証のオンライン本人確認(eKYC)の利用24%|今後もオンラインを積極活用」
本人確認を簡略化できる
また、従来のKYCでは本人確認書類や申込書などを紙で提出する必要があったため、その整理や照合に大変な手間と時間がかかります。
それがeKYCでは、提出書類はすべてデジタルデータ化されるため、整理も照合も自動化することができます。中にはAIで本人照合ができるシステムなどもあるため、本人確認作業全体を効率化、簡略化することができるのです。
コストが削減できる
さらに、従来のKYCでは本人確認は「本人確認書類を提出→転送不要郵便物を受け取る」という流れで行っていました。
そうなると、
・郵送代
・書類の作成、保管費用
・人件費
などさまざまな費用が発生します。
が、eKYCになると、郵送代は必要ありませんし、ペーパーレスなので書類管理の費用も発生しません。本人確認データの整理と判定を自動化すれば、人件費も大幅に節約できる可能性もあり、大幅なコスト削減につながります。
4.eKYCのデメリット
とはいえ、eKYCにも欠点はあります。
主に想定されるデメリットは、以下のようなものです。
4-1.利用者のデメリット
まず利用者側には、主に以下の2点がデメリットとなるでしょう。
運転免許証がなければ利用できないケースがある
実は現在のところeKYCを導入している企業では、本人確認書類としてマイナンバーカードやパスポートを受け付けていないケースがあります。
その場合は、基本的には運転免許証を用いるしかなく、免許を持っていない人の場合は申し込み自体ができない恐れもあるのです。こちらは、徐々にアップデートされている部分なので、今後対応が広がる可能性は高いです。
専用アプリなどが必要な場合がある
また、前述しましたが「アプリ型」のeKYCでは、利用者側が本人確認専用のアプリをダウンロードを求められる場合があります。
一度しか使わないアプリをわざわざダウンロードする手間を、利用者側が負わなければならず、その時点で「やはり面倒だから申し込みをやめる」という人も出てくるでしょう。
4-2.企業のデメリット
それに対して、企業側のデメリットとしては以下の3点が考えられます。
導入コストがかかる
まず、eKYCには専用のシステムやサービスが必要で、それを導入するには当然ながらコストがかかります。
・eKYCシステム利用費
・本人確認/認証実施のサービス利用費
特に本人確認/認証実施のサービス利用費は要件によっては大きく変動する部分です。利用者への即時利用ニーズを満たそうとすればするほど、提出内容の即時チェックが求められるので、24時間365日の体制で運用が必要になります。
かといって、安さを重視して導入しても、eKYCの利用者メリットである即時利用が出来なくなり、サービス利用意欲が減少する可能性もあります。
従来のKYCで必要だった人件費や郵送代が節約できるかわりに、導入コストが発生するわけですから、コストと品質のバランスで導入検討するのが良いでしょう。
精度が低い場合がある
また、eKYCのシステムやサービスによっては、顔認証の精度が低いものもあるのが実情です。
顔認証の精度が低いと本人確認が正確にできなかったり、時間がかかってしまったりする場合があり、そうすると、eKYCを導入する意味はなくなってしまかもしれません。
eKYCのシステム導入の際には、顔認証の精度が高いものを選択するようにしましょう。
誰もが利用できるわけではない
そして、そもそもeKYCには、スマートフォンやPCなどのデジタルデバイスと通信環境が必要です。それらを持たない人には、eKYCの利用はできません。
あるいは環境は整っていても、「インターネットはよくわからない」「パソコンが苦手」などの理由で、eKYCをうまく利用できない人もいるはずです。
万人が利用できるものではないと諦めるか、eKYC以外の本人確認の方法を用意しておく必要があるでしょう。
5.eKYCが向いている企業
このように、メリット・デメリットのあるeKYCですが、ではこれを導入すべきなのはどんな企業でしょうか?
それは、
◎本人確認業務が大きな負担になり、他業務を圧迫している企業
◎本人確認業務にかかる人件費が膨大で、採算のバランスが悪い企業
などです。というのも、eKYCの導入で実現できるのは、主に、
・本人確認業務のスリム化
・本人確認業務にかかるコスト削減
の2点だからです。本人確認業務を自動化することにより、簡略化、効率化することが目的なので、それを目指したい企業であれば、さっそく導入を検討してみるといいでしょう。
6.eKYC導入のポイント
ここまで読んで、「自社にはeKYCが必要だと思うので、ぜひ導入したい」と考えた人もいるのではないでしょうか。その場合は、以下の2点に注意して導入してください。
6-1.自社に適した種類を選ぶ
「1-4.eKYCの種類」で、eKYCには「ブラウザ型」と「アプリ型」の2種があると説明しました。eKYCを導入する際には、まずこのどちらが自社に合っているかをよく考えましょう。
ブラウザ型は、導入の際にシステム連携が必要ですが、顧客側の負担やストレスは少なくて済みます。アプリ型の方は、導入は比較的容易ですが、顧客側にはアプリをダウンロードするという負担が生じます。
自社のサービスや商品、ターゲット層などを踏まえて、どちらがより利用しやすいか判断してください。
6-2.自社に合わせてカスタマイズできるものを選ぶ
eKYCのサービスやシステムはさまざまなものがありますが、その中に、かならずしも自社が求める機能をすべて備えたものがあるとは限りません。各社によって、本人確認のプロセスは異なるからです。
そこで、企業側の希望に合わせてサービスやシステムをカスタマイズしてくれるものを選ぶといいでしょう。導入前に、自社の本人確認業務をフロー化し、どこまでそれに合わせてくれるのか、eKYCサービスを提供する企業に相談してみてください。
・参考フロー
なお、トランスコスモスでは、eKYCサービスの運用部分を提供しており、既に100万件を超える本人確認/認証サービスを弊社コンタクトセンター内で実施しております。eKYCツールに関しては、別途協業会社を紹介することも可能ですので、ご興味のある方は以下よりご連絡ください。
7.eKYCの導入例
このように、メリットの多いeKYCは、すでに導入している企業も増えています。そのうちのいくつかをご紹介しましょう。
7-1.ソニー銀行
ソニー銀行株式会社では、2021年4月から個人口座開設にオンライン本人確認サービス「Polarify eKYC」を導入しました。
このサービスは、
・高精度の顔認証エンジンを搭載し、より安全性が高く便利な本人認証が可能
・独自の実在性チェック機能で、別人へのなりすましを自動検知
・スマートフォンアプリ、ブラウザの両方に対応
など、eKYCの利便性と安全性を高めたものです。これにより、「本人確認書類の画像+本人の容貌の画像送信」をすれば、最短即日で口座の開設ができるようになりました。
出典:「ソニー銀行株式会社にオンライン本人確認サービス「Polarify eKYC」を導入」
7-2.ソフマップ
株式会社ソフマップは2021年8月、買取総合アプリ「ラクウル」でeKYC「本人確認書類の画像+本人の容貌の画像送信」を開始しました。
今まで「ラクウル」のユーザーは、スマホで査定・郵送で買取してもらったものの買取代金を、
・預金口座の振込(手数料250円)
・ビック買取マネー(ポイント)
でのみ受け取っていました。
が、「本人確認書類の画像+本人の容貌の画像送信」で本人確認をしたユーザーは、上記2つの方法に加えて、
・お店で現金受取(手数料無料)
という方法も選択することができるようになりました。
eKYCというセキュリティの高い本人確認方法を導入することで、手数料を引かれない買取価格全額を現金で受け取れるというユーザーにとってお得なサービスが実現しました。
◆買取総合アプリ「ラクウル」
まとめ
いかがでしたか?
eKYCについて、知りたかったこと、知っておいた方がいいことについて、少しでも理解が深まったのであれば幸いです。
ではあらためて、記事の要点をまとめてみましょう。
◎「eKYC」とは「オンライン上での本人確認」
◎eKYCの利用場面は、
・金融機関の口座開設
・クレジットカードの申し込み
・携帯電話の新規申し込み
・インターネットでのチケット購入
・シェアリングサービスの利用 など
◎eKYCの4つの方法は、
1)本人確認書類の画像+本人の容貌の画像送信
2)ICチップ情報+顧客の容貌の画像送信
3)本人確認書類の画像またはICチップ情報+銀行などへの照会
4)本人確認書類の画像またはICチップ情報+顧客名義口座への少額振込
◎eKYCが向いているのは、
・本人確認業務をスリム化したい企業
・人件費を節約したい企業
◎eKYC導入のポイントは、
・自社に適した種類を選ぶ
・自社に合わせてカスタマイズできるものを選ぶ
以上を踏まえて、あなたの会社がeKYC導入に前向きに取り組めるよう願っています。