「自治体のペーパーレス化はどのように進めればいい?」
「うちの市ではどんな業務がペーパーレス化できる? どのように進めればいい?」
都道府県や市区町村で働いていて、そのような疑問や悩みを持っている方も多いでしょう。
実際に、多くの自治体ではペーパーレス化に取り組んでいて、たとえば以下のような事例があります。
神奈川県 | 知事決裁を含めて全庁で電子決裁を推進、電子決裁率94.0%を達成 |
愛媛県西予市 | ICT活用によるペーパーレス化でコピー使用料半減、FAX代10分の1に |
自治体がペーパーレス化を行うことには、以下のようなメリットがあります。
・社会や国の要請に応えることができる |
少子高齢化が加速する中で、各自治体の職員数も減少しているため、業務の効率化が急務です。
また、コロナ禍の影響から、自治体にもテレワークや非接触に対応する必要が生じており、従来のような紙の書類に頼ったアナログなやり方が時代に合わなくなってきたという背景もあるでしょう。
そのため国も、「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」などを策定し、自治体に対して行政のペーパーレス化を推奨しているのです。
もしペーパーレス化をしなければ、国の方針に逆行することになるのはもちろん、限られた職員数で業務量に対応しきれなくなったり、DXを推進している民間企業と連携しづらくなったりと、さまざまな弊害が生じる恐れもあります。
そこでこの記事では、これからペーパーレス化に取り組もうという自治体職員の方に向けて、知っておいてほしい事柄をまとめました。
◎ペーパーレス化を実践した自治体の事例 |
最後まで読めば、他の自治体がどんなペーパーレス化を行っているのか、あなたの自治体では何をどうすればいいのかが分かるでしょう。
この記事で、あなたが適切な業務をスムーズにペーパーレス化できることを願っています。
1.ペーパーレス化を実践した自治体の事例
この記事を読んでいるみなさんは、「自治体でペーパーレス化って、何ができるのだろう?」「実際にどんなことをしているの?」と疑問に思っていることでしょう。
そこでまず、ペーパーレス化を実践して成果を挙げた自治体の事例をいくつか紹介します。
これらを見て、「自治体におけるペーパーレス化」とはどんなものか、具体的なイメージを持ってください。
そのうえで、次章以降からペーパーレス化の手順などについても説明していきます。
1-1.神奈川県:知事決裁を含めて全庁で電子決裁を推進、電⼦決裁率94.0%を達成
神奈川県庁では、在宅勤務など多様な働き⽅に対応するため、2018年に電⼦決裁機能を備えた⽂書システムを導入、全庁で文書の電子化、ペーパーレス化を推進しました。
導入に際しては、普及を促すために幹部職員が率先して電子決裁を行いました。
毎月20〜30件ある知事決裁も電子化した結果、全庁の電子決裁率が上がったそうです。
ただ、許認可事務に関しては、これまでの紙での申請の際にあわせて提出された大量の資料があり、それらをすべてスキャンしてデータ化するのは困難です。
そこで途中から、書類の一部に紙資料があっても電子決裁できる「併用決裁」という方式を採用しました。
その結果、電子決裁率は以下のように上昇し、2022年(令和4年)度には94%、本庁所属に限れば99%を超えるまでになったそうです。
出典:総務省「⾃治体DX推進参考事例集【3. 内部DX】」
1-2.愛媛県西予市:ICT活用によるペーパーレス化でコピー使用料半減、FAX代10分の1に
愛媛県西予市は人口3.6万人、人口減少と過疎化が進んでいました。
市の財政状況も厳しく、職員を削減する必要がある一方で、新たな市民サービスが求められることから業務の効率化が急務でした。
そこで、市のオフィスを改革するプロジェクト「Change せいよ!」を立ち上げました。
その取り組みは、以下のような幅広いものです。
・ツールの導入、情報の電子化→業務のスピードアップ、効率化 |
なかでもペーパーレス化については、デュアルモニタでの効率化や議会にもタブレットやPCを導入し、業務フロアも大きく変貌しました。
出典:総務省「⾃治体DX推進参考事例集【3. 内部DX】」
その結果、議会のコピー使用料は半減、FAX代は10分の1以下にまで削減することができました。
さらに、情報が電子化されたことで、職員の7割以上が「効率が上がった」と回答したそうです。
出典:総務省ホームページ「ICTを活用したペーパーレス化から働き方改革への取組み」
2.ペーパーレス化の効果
さまざまな自治体が、ペーパーレス化に取り組んでいることが分かりました。
しかし、そもそも自治体でペーパーレス化を推進することで、どのような効果・成果が期待できるのでしょうか?
それは主に以下の4点です。
・社会や国の要請に応えることができる |
2-1.社会や国の要請に応えることができる
第一に、ペーパーレス化は時代の流れであり、国の方針でもありますので、これを推進することで社会のニーズに沿った自治体運営が可能になります。
そもそもペーパーレス化が求められるようになったのには、以下のようないくつかの背景がありました。
・総務省が2020年12月に「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定、重点取組事項として「自治体の情報システムの標準化・共通化」「マイナンバーカードの普及促進」「行政手続のオンライン化」「AI・RPAの利用推進」「テレワークの推進」「セキュリティ対策の徹底」を挙げたため、ペーパーレス化が必須になった ・自治体の職員が減少、人手不足が常態化しているため、業務の自動化、効率化が急務になった 出典:令和5年版 厚生労働白書-つながり・支え合いのある地域共生社会- ・「森友学園問題」に関係して2017年に公文書改ざんが発覚したことを受け、国が行政文書の電子化、自動化に取り組み始めた ・2019年からのコロナ禍で、テレワーク、非接触が推進されるようになり、自治体の窓口業務も紙の書類のやりとりではなく電子化が求められるようになった ・SDGsへの意識が高まり、紙資源の削減が求められるようになった |
このような総合的な社会の動きに応えるには、ペーパーレス化が不可欠なのです。
2-2.業務を効率化できる
また、ペーパーレス化の最大の効果のひとつとして「業務の効率化」が挙げられます。
自治体では従来、大量の紙の書類が必要でした。
住民や所管する事業所などの情報管理、さまざまな届出の受理、証明書の発行、各種契約書の取り交わしなど、多くの業務が紙上で行われていたのです。
これらをデジタル化することで、まず情報の共有、検索が簡単にできるようになります。
また、ペーパーレス化は「脱ハンコ」にもつながります。
これまで業務上で何らかの決裁を受けるためには、稟議書をいくつもの部署に回して押印をもらう必要がありました。
一方、書類が電子化されれば、多くの押印は必要なくなります。
「電子決裁システム」などを利用して、システム上で簡単に決裁を受けることができるようになり、業務を迅速化することもできるはずです。
2-3.働き方改革を推進できる
前項とも関連しますが、国は「働き方改革」を推進しています。
2018年に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(=働き方改革関連法)が制定され、「時間外労働の上限規制」「年次有給休暇の確実な取得」などが義務付けられました。
ただ、少子高齢化による働き手不足などの問題があり、多くの自治体ではこれらの改革を実施するにあたって現行の業務工数を大幅に削減しなければならないでしょう。
ペーパーレス化を推進すれば、紙の書類の作成や管理に関わる多くの業務が自動化できるため、労働時間の大幅な削減が期待できます。
また、書類が電子化されればテレワークでも共有、作業できるため、自由な働き方も可能です。
このように、ペーパーレス化は労働時間の適正化や多様な働き方につながり、働き方改革を実現できるというわけです。
2-4.住民の利便性が向上する
もうひとつ、自治体の住民視点での効果として、「利便性の向上」が挙げられます。
これまで住民が自治体で何か手続きをするためには、わざわざ平日の夕方までの間に役所へ足を運ばなければならず、「平日は仕事」という人にとっては非常に不便を強いられるものでした。
しかし、書類をペーパーレス化=電子化することで、現在ではコンビニなどで夜間や休日でも住民票の写し、印鑑登録証明書、戸籍証明書などを取得できるようになっています。
また、各種税金も電子決済サービスでの納付が可能になるなど、自治体サービスの利便性はペーパーレス化、電子化によって格段に向上しつつあるといえるでしょう。
3.自治体でペーパーレス化が可能なものの主な例
では、実際に自治体でペーパーレス化を推進する場合、どんなもの・業務が対象になるでしょうか?
それは主に以下のようなものです。
・紙資料の電子化 |
3-1.紙資料の電子化
1つ目は、これまで紙で作成・管理していた各種資料を電子化することです。
たとえば会議の資料、業務マニュアル、庁内での回覧書類などは、紙の文書ではなくデータ化して共有するといいでしょう。
資料をペーパーレス化することで、それまでかかっていた紙やインク、印刷などのコストが削減でき、ファイリングの手間もかかりません。
膨大な資料を保管するスペースも不要になり、内容の修正や更新も簡単です。
また、各種資料がオンラインで共有できるようになれば、庁舎にいなくてもテレワークで業務が可能になり、多様な働き方に対応することも可能でしょう。
3-2.電子契約
2つ目は、契約書の電子化です。
自治体では、日々さまざまな契約が結ばれています。
民間事業者に業務を委託したり、公共工事を発注したりする際には、紙の契約書を取り交わしてそれを保管しているはずです。
これを紙ではなくPDFなどの電子データで作成、電子契約システムを使ってインターネット上で契約の手続きをして、データで保管することができます。
こうすることで、大量な紙の契約書を管理する手間や場所が不要になりますし、何より契約書にいくつもの押印をもらったり、わざわざ対面で契約書を交わしたりしなくてもよくなり、契約業務を迅速化することができるでしょう。
3-3.申請・承認
また、庁内での各種の申請・承認も紙の書類を使わず電子化できます。
申請書を提出したり、稟議を回したりといった作業は、ワークフローシステムを活用すれば簡単にペーパーレス化が可能です。
【ワークフローシステムの例:トランスコスモス「ServiceNow」】
出典:トランスコスモス「ServiceNowサービス紹介動画~ワークフローのデジタル化を支援~」
システム上で各種申請を行い、担当者が順番に内容を確認、同じくシステム上で承認するだけです。
各種申請・承認を効率化できるのはもちろん、「いまどこまで申請が通っているのか」をひと目で確認することもできるため、業務の進捗管理やタスク管理もしやすくなるでしょう。
3-4.勤怠管理
さらに、勤怠管理もペーパーレス化しやすいもののひとつです。
勤怠の管理を、タイムカードや出勤簿といった紙の書類で行っている自治体もあるでしょうが、これをシステム上で行うことができます。
出退勤の際にシステムを立ち上げてボタンをクリックするだけで、正確な時間が記録されるため、記録ミスや不正も起こりにくいでしょう。
就業時間の集計もシステム内で簡単にできますし、残業、休日出勤、有給休暇などの申請も可能です。
これにより、労務管理の業務を大幅に削減することができるでしょう。
4.自治体でのペーパーレスの進め方
このように、自治体のさまざまな業務についてペーパーレス化が可能ですが、では実際にはどのようにして紙から電子に移行すればいいのでしょうか?
その大きな流れは以下のとおりです。
1)紙で行っている業務を洗い出す |
4-1.紙で行っている業務を洗い出す
最初のステップは、現在紙で行っている業務をすべて洗い出すところから始めましょう。
庁内の全部署それぞれに、どんな業務でどのような紙の書類を用いているかをリスト化します。
たとえば、以下のようなものが上がってくるでしょう。
・各種申請 |
ここでは、小さなものも漏らさずピックアップしてください。
システム導入の際に、意外な業務もペーパーレス化、効率化できることに気付くかもしれません。
4-2.電子化できるもの・できないものを仕分けする
リスト化できたら、その中でどれが電子化できるか、できないかを仕分けしていきましょう。
技術的には多くの業務が電子化できるはずですので、それよりも「業務の内容やフロー的にペーパーレス化しても問題ないか」という視点で検討してください。
たとえば、「電子化できるシステムはあるが、高齢の住民を対象とした申請業務なので、完全にペーパーレスにしてしまうと対応できない住民が多い」というケースもあるでしょうし、中には「法的に紙の書類が求められるので、ペーパーレス化できない」ということも考えられます。
また、最初はペーパーレス化によって広く大きな効果が得られるものから取り組むといいでしょう。
勤怠管理や承認申請などは、システムの操作も難しくないので、比較的取り入れやすいかもしれません。
この判断を適切に行うには、実際にその業務に携わっている職員の意見が欠かせません。
ペーパーレス化を推進するプロジェクトのメンバーなどだけで仕分けせずに、かならず現場の声を聞きましょう。
4-3.導入するシステム、ツールを選定する
どの業務をペーパーレス化するかが決まったら、いよいよそのためのシステムやツールを選びます。
たとえば、以下のようなシステム、ツールが導入候補になるでしょう。
・ワークフローシステム:各種申請や稟議などをシステム上で行う |
とくに、国が自治体に推奨しているのはRPAの導入です。
「RPA(=Robotic Process Automation)」は、人間がPCで行う単純作業や反復作業をロボットに覚えさせ、自動的に行えるようにするシステムで、データ入力や書類のデータ化などを自動化することができます。
自治体の業務の中では、以下のようなものがRPAによって電子化、自動化できます。
・税金など各種申告書の入力 |
総務省では、「自治体におけるRPA導入ガイドブック」を公開して導入を推進していますので、ぜひ参考にしてみてください。
自治体をペーパーレス化するなら トランスコスモスではペーパーレス化の支援、各種文書のデータ化などさまざまなサービスを提供しています。 |
4-4.システムやツールを導入、周知する
採用するシステムを決めたら、実際に導入します。
この際に欠かせないのが、紙の書類のデータ化です。
ペーパーレス化が実現したあとは、文書は最初からデータとして作成、保管されますが、それ以前の紙の文書は人力でデータ化しなければなりません。
データ化するには、紙をそのままスキャンして、画像から文字を読み取ってテキストデータ化するツールなどを用いる方法がありますが、それでも膨大な工数がかかります。
それが難しい場合は、文書電子化サービスを行っている民間企業が多数ありますので、それらを利用するといいでしょう。
また、書類のデータ化と並行して、庁内にシステムの利活用について周知することも重要です。
ペーパーレス化は、現場の職員にとっては大きな変化です。
システムの使い方を教えるだけでなく、なぜ必要なのか、これを導入することでどんな効果があるのか、どれくらい業務が効率化されるのかといった必要性も理解してもらうよう働きかけましょう。
それが浸透すれば、システムの活用がよりスムーズに進むはずです。
5.ペーパーレス化の失敗パターンと注意点
ここまで、自治体でペーパーレス化を進める方法について説明しましたが、中には「せっかくシステムを導入したのに、期待したようなペーパーレス化が進まない」という自治体もあるようです。
そこで最後に、ペーパーレス化の際に陥りがちな失敗例のパターンと、それを避けるための注意点についても説明しておきましょう。
5-1.ITリテラシーが追いつかない職員がいる
自治体はこれまで紙の書類を扱う場面が多く、IT化もなかなか進まないと言われており、デジタルスキルやITリテラシーが十分に身についていない職員もいるようです。
そのような状況でペーパーレス化を進めると、変化についていけずに取り残される人が出てしまうでしょう。
これを防ぐには、たとえば以下のような対策が必要です。
・最初はボタンをクリックするだけの勤怠管理システムなど、簡単なものから導入して徐々に慣らしていく など |
5-2.電子化を受け入れられず抵抗する職員がいる
前項とも関係しますが、そもそも「デジタルに苦手意識がある」「変化を嫌う」などの心理的要因から、ペーパーレス化や電子化自体に抵抗感を感じて受け入れられないという人もいるでしょう。
せっかくシステムを導入しようとしても、反対する人や協力的でない人がいれば十分な活用はできません。
そのような人には、ペーパーレス化の必要性をじっくり説明して理解を得てください。
「国の方針だから」としかたなく受け入れてもらう手もありますが、できれば心から賛同して協力を得られるのがベストです。
そこで、「どんな効果があるのか」「どの程度効率化されるのか」を具体的に説明すると、理解してもらえる確率が高まるはずです。
また実際にシステムを試してみるデモンストレーションや体験会などを行うものいいでしょう。
「1.ペーパーレス化を実践した自治体の事例」で紹介した実際の例などを伝えてみてください。
5-3.実作業のために電子化した書類を印刷してしまう
また、よくありがちなのが、いったんペーパーレス化した書類を、利用する際に印刷してしまうケースです。
たとえば、「いままで紙で見ていた書類をPC画面で見るのに慣れない、やはり紙で見たい」「ふたつの書類を並べて見たい」「書き込みをしたい」などの理由で、実作業に際していちいち印刷してしまうのです。
これではペーパーレス化の意味がありません。
視認性の悪さをカバーするには、PCのモニターを大きいものにする、デュアルディスプレイにして複数の書類を並べて見られるようにするなどの工夫も必要でしょう。
まとめ
いかがでしたか?
自治体のペーパーレス化について、知りたかったことが分かったかと思います。
ではあらためて、記事の要点をまとめましょう。
◎ペーパーレス化を実践した自治体の事例は、
神奈川県 | 知事決裁を含めて全庁で電子決裁を推進、電⼦決裁率94.0%を達成 |
愛媛県西予市 | ICT活用によるペーパーレス化でコピー使用料半減、FAX代10分の1に |
◎ペーパーレス化の効果は、
・社会や国の要請に応えることができる |
◎自治体でペーパーレス化が可能なものの主な例は、
・紙資料の電子化 |
◎自治体でのペーパーレスの進め方は、
1)紙で行っている業務を洗い出す |
これらを踏まえて、あなたの自治体が無事にペーパーレス化に取り組めるよう願っています。