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コンタクトセンターにおける最重要戦略とは?AI導入率と成果も解説

2020年以降、世界的な出来事がコンタクトセンターを取り巻く状況を一変させました。コロナ禍の緊急対策として多くの企業が導入した在宅勤務制度は、オペレーターが「どこで働くか」の常識を変えました。生成AIの進歩は、オペレーターが「どのように働くか」を変えました。そして米国での「大量離職」現象※は、オペレーターが「なぜ働くか」までも変えました。

本記事では、今後2年間のコンタクトセンターにおける最重要戦略やAI導入率とその成果、CX向上への道筋などを解説します。自社にとっての最適な道筋を見極めるために、ぜひご一読ください。
※「大量離職」(Great Resignation)とは、米国においてコロナ禍をきっかけに多くの労働者が自発的に職を辞めた社会現象を指します。通勤や対面コミュニケーションが前提ではなくなったことで、柔軟な働き方やワークライフバランスを重視する傾向が強まったといわれています。

コロナ禍が始まって以来、より効率的で効果的なサービスを提供することへのニーズが高まり、それにより人材・オペレーション・チャネル・テクノロジーの各分野において、長年前提とされてきた「常識」が覆されつつあります。
また、多様化する顧客の行動・嗜好も、コンタクトセンターの状況に変化をもたらしています。ソーシャルメディアでの問い合わせをはじめとしたチャネルに対する嗜好の変化は、顧客が企業と「どこで」つながるかに影響します。「オンラインで24時間すぐにアクセスできるセルフサービスを設置してほしい」という顧客の要望は、顧客が企業と「どのように」つながるかに影響します。そして、つながった後の顧客体験(CX)の期待値の高まりは、企業・ブランドの顧客やファンになる理由、すなわち「なぜ」つながるかに影響します。
顧客・ユーザーは、企業と「どこで」「どのように」「なぜ」つながるのか?めまぐるしい変化を続けるこの時代において、コンタクトセンター運営の効率を改善・維持しながらも、顧客・ユーザーおよび従業員体験(EX)の向上に努めることが極めて重要です。さらに、企業が一人ひとりの顧客と向き合い、顧客インサイトを把握し、顧客が「この企業は私のことをわかっている」と思ってもらえる、そういう関係性を作ることが求められています。

デロイト トーマツ グループは、世界各国のコンタクトセンターを対象に、現在の課題への対応指針と、今後数年間のビジネス動向をまとめた「2023 グローバルコンタクトセンターサーベイ」を20238月に公開しました。この調査はデロイトが2013年以降隔年で行っており、2019年度より日本企業も対象として調査しています。今回は202211月から20232月にかけて、世界の多様な業界のコンタクトセンター幹部を対象に、急速なAI・予測分析テクノロジーの進歩などコンタクトセンターが直面する様々な変化に対して、将来の方向性に関する考察を得ることを目的としています。

2-1.今後2年間のコンタクトセンターの重要戦略

1:今後2年間のコンタクトセンターの重要戦略(出典:デロイト トーマツ グループ

日本企業が最も重視していることは「顧客体験(CX)向上」(63%)で、2位以下を大きく離しています。2位は「収益貢献・クロスセル/アップセル」(17%)3位は「業務効率向上・コスト削減」(15%)4位は「従業員体験(EX)向上」(5%)でした。CXを重要視する傾向が強まっている一方、CXを向上させるというテーマにおいて「オペレーター=人」への投資に対する考え方については、日本と海外では大きく異なります。

2:現在投資強化中・投資予定の重要領域(出典:デロイト トーマツ グループ

日本企業の場合、CX向上を目指す上で顧客自らが解決できるよう「セルフサービスの拡大」(38%)、「コンタクトセンターのインフラ刷新」(31%)、「提供チャネルの拡大/見直し」(14%)への投資に重点を置いています。
海外企業では、日本企業の上位2項目で同様の投資傾向が見られるものの、全くの別軸で「オペレーター支援機能の導入」への投資を広げており、人材の観点からもCXを向上させるというアプローチに取り組んでいます。CX高度化を実現するには、顧客ニーズに精通し、ブランドボイスや企業価値との整合性を保ちながら、顧客ニーズに対応できる経験豊富で満足度の高いオペレーターが必要だと理解しているからです。一方、「オペレーター支援機能の導入」を重要指標と回答した日本企業は2%で最下位となっています。
海外企業は、「オペレーター=人」にも投資を拡大させており、日本の人口縮小も鑑みると、CX向上に寄与する顧客属性・用件を見極め、オペレーター支援領域にも投資していく必要がありそうです。

2-2.日本企業の2年後の電話削減目標

受付チャネルの構成については、グローバル全体の傾向としてマルチチャネル化、とりわけ電話からデジタルチャネルへのシフトを進めています。特に、コロナ禍を経てセルフサービスの導入が拡大しています。

図3:受付チャネル構成比(出典:デロイト トーマツ グループ

前回調査(2021)と比べると、問い合わせ全体に占める電話チャネルの割合は日本58%(前回比▲20pt)、海外57%(前回比▲5pt)と、いずれも60%弱の水準まで低下。今後も各企業はデジタルチャネルシフトに精力的に取り組む計画ですが、海外企業では直近の電話チャネルの縮小スピードが計画値を下回っていること(計画差+7pt)から、日本企業における今後のデジタルチャネルシフトも同様に減速するリスクがあると考えられます。
今後のチャネルシフトを加速するためには、利便性やエフォートレスといった従来的な価値だけでなく、デジタルチャネルでも機械的・画一的ではない顧客体験を提供する必要があるでしょう。

2-3.国内コンタクトセンターにおけるAI導入率

図4:テクノロジーの導入状況(出典:デロイト トーマツ グループ

国内コンタクトセンターにおけるAI導入済み企業の割合は日本49%、海外44と、ともに2年前と比較して大きく伸びています。しかし、AIの主要用途であるチャットボット・ボイスボットについて、約半数のコンタクトセンターが「十分な効果を発揮できていない」と回答。生産性の向上に加え、顧客との関係構築や新たな顧客体験の提供など、AI活用への期待は高まっているものの、使い方の巧拙が課題になっています。成果を創出するためには、「高い価値を生むユースケースの選定」「KPI設定と評価」「業務変革」「テクノロジーと人材の融合」「チェンジマネジメント」という5つのアクションが重要です。これらを着実に実行することで、AIによる価値を実現し、成果を創出することができるようになるでしょう。

▶▶生成AIは顧客サービスをどのように変えるのか?

3-1.オペレーターのエンゲージメントがより良い顧客体験(CX)を実現する

多くの企業が顧客体験(CX)は依然として戦略上の最優先事項であると回答しています。優れた顧客体験(CX)を実現するには、経験豊富なオペレーターが、ブランドボイスや企業価値との整合性を保ちながら、いかに顧客ニーズに対応できるかにかかっています。優秀な人材を獲得するための採用コストは高額になりやすく、経験豊富なオペレーターを確保し、勤続年数を長くすることは、コスト削減にも一役買っているのです。
多くのコンタクトセンターでは、このような課題を解決するために複数の施策を実施しています。業界を問わず、オペレーターにリモートワークをさせる場合でも、企業のカルチャーが失われないように留意する企業が増加しています。デロイト トーマツ グループの今回の調査によると、「在宅勤務制度を導入している」企業では、従業員同士の交流を図るためのプログラムを提供していると回答しました。調査対象企業の75%が企業のカルチャーを維持し、スタッフとリーダーとの関係を強化するために、何らかの対面イベントや活動を定期的に開催していると回答しました。また、53%が新入社員研修を対面で行い、40%が懇親会などの対面イベントを開催していると回答しています。

3-2.クラウド移行で業務変革のチャンスをつかむ

図5:勢いを増すクラウドへの移行(出典:デロイト トーマツ グループ

今日のコンタクトセンターでは、オペレーションを分散することと、効率性・一貫性のある顧客体験(CX)を提要することをテクノロジーの最優先事項に据え、投資の対象としています。コンタクトセンターのテクノロジーについて、デロイト トーマツ グループの今回の調査で、半数以上の企業がクラウドベースのソリューションを既に採用済み、または2025年までに採用する予定であると回答しています。クラウドへ移行することで、コスト削減と同時により高度な機能、より高い拡張性、優れた顧客体験(CX)を実現できます。

3-3.AI投資の価値を引き出す

顧客対応とオペレーター支援の自動化を目的に、コンタクトセンターがAI投資を優先する傾向が強まっています。デロイト トーマツ グループの今回の調査によると、その中でも顧客対応チャットボットが最も採り入れられており、74%もの企業が同機能を試験導入または本格導入している段階にあります。ところが、AI投資が拡大し続けているにも関わらず、多くのコンタクトセンターにおいて、なかなか成果を挙げられずにいます。たとえば、顧客対応チャットボットを本格導入した企業のうち、期待した効果を得られていると回答したのは3社に1に過ぎません。
このようにAI投資がなかなか成果を挙げられずにいるのは、AIとチャネル戦略が断絶していることに起因します。これまでチャットボットをはじめとするAIを限定的に用いた、新たなサービスチャネルを多くの企業がこぞって導入してきました。しかし、競合他社に遅れを取らないよう急ぐあまり、導入後の効果測定や分析による評価や改善が疎かになりがちでした。結果として、そのチャネルにおけるチューニングが進まず、顧客の信頼できる品質にならなかった可能性があります。
このような事態に陥らないためには、どのようなツールをリリースするかだけでなく、どのようなタイミングでリリースするかにも着目し、他チャネルを含めた全体設計を考えることが重要です。そして、AI機能を有するチャネルでは、対象の問い合わせ内容に特化した顧客インサイトの分析を行い、チューニングを続けることで、AIの学習・精度向上が進み、より良い顧客体験(CX)の提供につながります。顧客にとって企業側の相手が人間かAIか見分けられなくなり、必要な解決策をAIから簡単かつ迅速に得られるようになれば、AI投資の成果として一気に回収され始めるでしょう。

3-4.一貫した顧客体験(CX)の実現で顧客ロイヤルティを向上させる

これまで多くの企業は、複数チャネルのあらゆるサービスをサポートすることで、一貫した顧客体験(CX)を提供しようと試みてきました。しかし、デロイト トーマツ グループの今回の調査によると、複数チャネルでサービス提供している組織の40%はチャネルが孤立しており、チャネル間のやり取りをほとんど、あるいは全く見ることができないと回答しています。複数のサービスチャネルを提供するコンタクトセンターのうち、次のオペレーターやシステムにデータや履歴を提供し、チャネル間で顧客をシームレスに移行できているのはわずか7%でした。チャネルが増えるにつれ、組織やシステムのサイロ化による課題も増えています。
ほとんどのコンタクトセンターでは、顧客を効果的なセルフサービスソリューションに誘導したいと考えています。10社のうち9社が今後2年間にセルフサービス機能の追加投資を行い、会話型IVR、対話型FAQ、バーチャルオペレーター、チャットボットに顧客を誘導することを目標としています。チャネルが急増する中で、テクノロジーへの投資で価値を得るには前述のような課題はありますが、セルフサービスとオペレーターの有効利用がより迅速なソリューションとより良い顧客体験(CX)を提供し、顧客ロイヤルティを向上させます。

カスタマーサービスが直面するチャンスと課題はかつてないほど複雑であり、急速な進化を続けています。コロナ禍に始まり、大量離職、地政学的リスク(紛争や米中関係など)、持続的なインフレといった世界情勢は、コンタクトセンターの運営モデル、人材確保、人件費に影響を与え続けています。また、急速に進化するAIは、サービス自動化の可能性を大きく膨らませています。
このような環境の中で、コンタクトセンターは人材の採用と維持、チャネルの拡大、テクノロジーの導入など、効果的な戦略を見つけて実行する必要があります。持続可能で効果的、かつ効率的なコンタクトセンターの運営については、お気軽にトランスコスモスにご相談ください。

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